これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
タモンがゆっくりと、闘技場の真ん中へ戻ってくる。
ユージーンは、それを待ち受けるかのように両手剣を構えてタモンを見据える。
「初めて見たかもしれん」
「……んお?」
サクヤが相変わらず目を見開き、そう呟いた。
アリシャがそれに気づき、顔を覗き込む。
すると、サクヤがそんな彼女に気づいて言葉を付け足した。
「あ、ああ……その」
「?」
「ユージーンがあれほどまで警戒している様子を見るのは、何気に初めてだなと思ってな」
「ああ……なるほど」
サクヤの言葉を聞いて、アリシャも納得して闘技場に向き直った。
ズシ
「……さあ」
そしてその瞬間、タモンが元の位置まで戻ってきて、歩みを止めた。
「こっから、だぁね」
「!!」
そう呟いて笑うタモンの顔は、少し怖くなっている。
底知れない強さと、それを覆い隠すかのような笑み。
「くっ……!!」
ユージーンは、ALOで初めて真剣に警戒した。
今だかつてこんなやつと相対したことはない。
怖い。
素直に言えば、その感情一色だった。
「……ほら、ね」
「……タスク?」
すると、そんなユージーンを見て、タスクが微笑んで呟いた。
それが耳に入ったキリト。
不思議そうにこちらを見つめるキリトに、タスクは笑って答える。
「見てのとおり、彼に
「!!」
「持っていれば……内なる高揚に打ちひしがれるはずだから」
「あ……!!」
「獣を持たざる者は勝てません。絶対に」
そう言ってタスクは、闘技場に向き直って面白そうに笑う。
それに対しキリトは、厳しい目付きでタスクを見続けている。
そしてタスクを見つめる人がもう一人。
こちらは少し不安げな目付き。
そう、
✣
先に動いたのは、タモンであった。
ユージーンもそれに反応し、前に出る。
「はぁっ……!!」
「おおおおお!!!!」
一息で距離を詰めるタモンに対し、響く怒号と共に迎え撃つユージーン。
ユージーン、今度は中段横薙ぎの構え。
対してタモンは。
「なっ!?」
ビュン!!
まっすぐ構えていた薙刀を、そのまま
否、投げたというより、
一切振れることなく、ただただまっすぐ、ユージーンに向かって飛んでいく。
「小癪なっ……!!」
バキィ!!
ユージーンは、それを見切って斜め上に弾き斬る。
薙刀がユージーンの後ろに飛んでいく。
観客は騒然として、行く末を見守っていた。
普通ならここで落胆の声が上がるだろう。
武器をみすみす捨てるなんて、みすみす勝敗を譲るようなものだからだ。
しかし今回に限っては違った。
それは彼、タモンなら何かしてくれるはずだという、根拠の無い確信があったから。
……そしてそれは、現実となる。
ゴッ
「がっ……!!」
「がら空きだ……ユージーン」
斜め上に斬り上げたことにより、ガラ空きになった脇腹に、回し蹴りが入った。
ユージーンはふらつくが、そこは彼。
懐に入り切った彼に、待ってましたと言わんばかりに剣を振り下ろした。
しかし。
キュン!!
「なっ!?」
ゴキ!!
「がっ……あっ……!?」
タモンにそれは通用しなかった。
彼は蹴りを入れた右足を下げると同時に。
体をコマのように回転させて、軸足になっていた左足で、ユージーンの振り下ろそうとしていた剣を持つ手の手首を横に蹴り飛ばしたのだ。
一瞬浮いた体から出たとは思えない、鋭く速い一撃。
ユージーンは剣こそ離さなかったものの、明後日の方向に向いた剣を慌てて構え直さざるを得なくなった。
タモンもタモンで、体を回すために後ろに倒した体がそのまま地面に落ちて倒れる。
「!!」
「おおおおおあああ!!」
すると、その隙を付いてユージーンがとどめを刺すかのように剣を下に向けて飛びかかった。
「ちぃっ、流石。キレだけはすごいね」
「!?」
バチン!! ザクッ!!
タモンは悪態を着くと、降りてきた剣を横から叩く。
刃の横腹を叩いたので、タモンにダメージは入らない。
対し、横から叩かれた剣はそのまま軌道を変えられ、タモンの顔のすぐ隣の地面に突き刺さった。
「くっ……!!」
ガシッ
「そがっ……!!」
すると、間髪入れずにタモンがその剣を握る手の手首を掴んだ。
そして。
「さあ、今度は君の番だ」
「!?」
「耐えられる……かな」
そう言って笑うと。
ヴン!! ドゴォ!!
「がっ……はぁ……っ!?」
ユージーンの重たい体が、
✣
「あ……あれは……っ!?」
一方観客席。
たった今繰り出されたタモンの技に、意外にもアスナが反応していた。
「アスナ……? 知ってるのか?」
キリトの問いに、アスナは頷きで肯定を返す。
「た、多分だけど、あれは……!!」
「……!!」
「
聞いた事のない技名を聞いて、キリトは頭に「?」が浮かぶ。
リズたちを始め、サクヤやユウキらもそんな感じ。
……しかし。
「……ふふ」
「あ……」
タスクが笑ってアスナを見つめた。
アスナは、冷や汗のようなものを滲ませつつその視線に返す。
するとタスクが一言。
「……正解です」
と呟いて、微笑んだ。
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