これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「どうしてもここに……来たかったんですよ」
そう言ってしゃがむタスクをぼんやり眺めつつ、シノンは心臓の高鳴りを何とかして収めんとしていた。
「……シノンさん?」
「えぇっ……ああ、うん」
すると、あまりに緊迫した顔をしていたのか、タスクが振り返って少し笑いかけてくる。
シノンは、そんな彼にむりやり笑顔を返しつつ、拳を握りしめて鼓動の高鳴りが収まるのを待った。
「どっ……どうして……ここ……に」
「……?」
すると、シノンが震えた声でタスクにそう問いかける。
それに対しタスクは、より一層微笑んでそんな彼女に振り返った。
「そ、そんなに緊張しなくても」
「そそっ、そうなんだけど。なんか……」
タスクのあっけらかんとした顔に、シノンは焦りを隠せない。
するとタスクも逆に諦めたのか、またふふふと笑ってシノンを見た。
「明日」
「……!!」
「ユウキさんと戦う以前に、
「ええ……そっ、そうね……」
タスクの真っ直ぐな瞳に、なおさら緊張して声が震えるシノン。
しかしタスクは、すぐにまた剣へ目線を戻した。
「おそらくその時」
「……!!」
そして次の瞬間。
雰囲気が少し重たく変わるのを、シノンは機敏に察する。
タスクはそうして一言。
「
「す、すべ……て」
そう言って笑ったタスクは、少しだけ声が震えていた。
「店主……、いや、タモンさん。あの人もまた、
「あ……!!」
「タチ悪いですよね。極端に悪くいえば、僕がユウキくんのために全力を出さなきゃいけない所に、わざわざ滑りこんできたんですよ」
「……!!」
「わかるんですよ。
「ね、狙って……!!」
タスクの少し沈んだ笑顔に、シノンは戦慄を覚える。
獣は、戦いを欲し、強きを求め、強者を破る。
そしてそれに最高の欲求を示す、文字通りケダモノ。
店主の中にもそんな獣がいるんだとしたら。
タスクが全力でやらざるを得ない状況があるなら、そこに飛び込むのは最早必然ともとれる。
「彼は……強いです。普段はあんなんですが……いや、だからこそなんですよ」
「……!!」
タスクは、俯いて少し震えている。
シノンは、そんな彼を意外と思い、思わず見つめてしまう。
「普段があんなんだから、
「
「……!!」
聞き慣れない、というより。
聞いたことがない単語がポンポン出てきて、シノンは思わず聞き返す。
タスクはそれに、そのままだと言わんばかりに頷いて返した。
「なんなら店主さんは……もう既に1つ出してます」
「あ……は、はっ……えーと……」
「発勁です」
「そ、そうそれ……!! あれも……?」
「ええ。あれは店主さんが編み出して、店主さんしか使えない……。裏血盟騎士団の奥義です」
「なっ……!?」
そんな代物だったのか、あれは。
シノンはそう言わんばかりに、目を見開いてタスクを見る。
「あれを……店主さんは、あの奥義を、あんな大衆の前で、しかも番狂わせで使ったんです。あれはもはや、宣言に他ならないですよ」
「宣言……」
「ええ。『僕は君に、技を惜しまず使うよ』、とまあ、こんな感じの……」
「っ……!!」
そう言って、また剣に向き直るタスク。
そんな彼の言わんとしていることは、シノンに容易に理解できた。
同時に、
「姉さん……僕は明日」
「……!!」
タスクがしゃがんで、剣を撫でる。
そして目が鋭くなったその時。
「
そう言って、その剣の柄を強く握りしめた。
まるで……罪悪感に苛まれているようだ。
シノンはそんな感想を、心の内に抱いていた。
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