これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode144 青龍 〜Chinron〜

その日、タスクは朝早くから、ALOの中にいた。

 

ALOと現実の時間は違う。

しかしALOも朝時のようで、薄いキリが立ち込めていた。

 

「……はぁっ!!」

 

息を吸い、吐くと同時に木に蹴りを打ち込む。

バキィ!! と音を立て、木の表面がまた凹む。

 

「っ……!!」

ゴッ、ガッ、バギッ……

 

タスクは続いて木に拳を3発打ち込んだ。

右中段、左アッパー、右フック。

 

木はどんどん皮が剥がれ、タスクの手足は最早真っ赤になっていた。

 

「……ふぅ」

 

すると。

タスクが一息ついて、木から少し距離をとる。

 

「……っ」

 

そして木を睨むと……

 

バギィッ!!!!!

メリメリメリ……ドシン。

 

()()使()()()()()()()()()()()

 

 

「タ……タス……ク」

 

見てしまった。

最初に出た感想はこれだった。

 

水色の髪に長いしっぽ。

背中に携えるは弓、可愛い猫耳。

 

そう、シノンである。

 

彼女は今、とんでもないものを見てしまった。

タスクが、()()使()()()()()()()()()()()のである。

 

「タス……ク……っ!!」

 

斬り倒した木の奥に見える俯いたタスクが、ゆっくりと顔を上げる。

 

その顔は……

あの時、キリトとの決闘の時に見せた顔。

 

殺気に溢れたあの顔であった。

 

「……っ!!」

 

シノンは思わず口をつぐみ、硬直してしまう。

 

今朝目を覚ましてから、ふと携帯を見ると、タスクから《今日は一足先に入ってます》と連絡が来ていた。

 

普段は用事の少し前からしか入らない彼が珍しい。

そう思って、詩乃も軽い朝食を済ませた後、急いでログインしてきたのだ。

 

フレンドであるが故、簡単に彼の居場所は分かる。

ケット・シー領内の深い森の中にある円形の空き地。

 

そこの真ん中に佇む木のすぐ側に、彼を示す赤点が光っていた。

 

ならば、と思い来てみれば。

恐ろしい……おそらく、見てはいけないものを見てしまった。

 

「……」

「……あ、シノンさん」

「あっ……」

 

しかし。

タスクがすぐに彼女を見つけ、笑顔を向ける。

 

シノンは慌てて笑顔を返した。

 

「は、早いのね」

「あー、はは。まあ」

 

心做しか、2人の会話がいつもよりぎこちない。

 

「……」

「……」

 

そしてついに、お互い黙り込んでしまった。

タスクもシノンもお互い気まずそう。

 

しかし、すぐにタスクがシノンに問いかける。

 

「……見ましたか?」

「っ……!!」

「あーその顔は、はは、見ちゃいましたか」

 

その問いにどう答えればいいか分からないと言わんばかりのシノンの顔に、タスクは笑って察した。

 

「ご……ごめんなさい。つい気がせいて……」

「いえ、いいんですよ。見るなとは言ってませんから」

 

シノンがそんな笑顔に慌てて弁明する。

しかしタスクは、気にしないでと手を振って、倒れた木に目をやった。

 

そんな彼につられて、シノンもその木に目を落とす。

 

そんじょそこらの細木ではない。

そこそこしっかり根を張った、抱えたら向こう側で手に触れれない程度の周囲を誇る一本。

 

こんなの、剣や斧でやったってせいぜい5〜8回はダメージを与えないと切り倒すなんて無理だ。

 

タスク、それを格闘技で、しかも一発で……!?

 

シノンはそう思い至り、今更ながら思わず目を丸くする。

 

「……あれはですね」

「……?」

 

すると、タスクが木に目を向けたまま口を開く。

シノンはタスクの方に目を向けた。

 

「裏血盟騎士団の奥義、『青龍』」

「お、奥義……!!」

「奥義はこれや『発勁』以外にも割と数多くありますが、これはその中でも4本の指に入る代物です。なので当時は禁忌技とされていました」

「きっ……禁忌……!?」

 

昨日のあの……

シノンはそう回想して、背筋が凍る。

 

昨日の話の時点では『発勁』のレベルを想定していたが、これはそんなもんではない。

 

()()()4()に入るレベルの、禁忌とされた技……。

 

「『青龍』で……4……」

「あ、気づきました?」

 

シノンの思考と共に漏れた呟きに、タスクが面白そうに反応する。

 

「あ、う、うん……ひょっとして」

「そうです。残りの3つは『白虎』、『玄武』、『朱雀』です」

「やっぱり……!!」

「よくご存知でしたね」

 

にっこりと笑うタスクに、シノンはえへへと笑みを返した。

 

青龍、白虎、玄武、朱雀。

かの有名な、中国の四神である。

 

東西南北の各方角に、季節と共に守護神として君臨するとされる神々。

 

「『青龍』は僕が。『朱雀』は姉さんが。『玄武』は今は亡き裏血盟騎士団のとあるメンバーが、それぞれ個々の奥の奥の手として開発、いつでも使えるようにと鍛錬していました」

「……それで、『白虎』は……?」

「……もう、わかるでしょう」

 

ああ、なるほど。

シノンは確信を持って、少し笑う。

 

「店主さん……ね」

「あたり」

 

ふるふる、と首を振るタスク。

やれやれと言わんばかりの顔である。

 

「この4つの禁忌技は、それぞれ()()()()()()()()()()を持たせるべく作られています」

「……」

 

 

 

 

「僕の『青龍』は、これで相手の首をちぎります」

 

 

 

 

「ひっ!?」

 

タスクの笑顔からでた物騒なワードに、思わず跳ね上がるシノン。

 

「っはは、やだなぁ、まだしたことはありませんよ」

「いやいやそうじゃなくて!!」

「……ふふ。分かったでしょ」

「え……」

 

すると、不意に悲しげな顔になったタスク。

シノンはそんな彼に少し驚く。

 

そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕らが僕らのしてきたことを誇りたくない理由が」

 

「……!!」

 

そう言った彼の表情は、見たことないくらいやつれていた。

 

 

 

 

 

 

 

準決勝まであと2時間である。




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