これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode147 投げ技か決め技か 〜Throw or submission〜

ビーッ、という開始のブザーが鳴ると共に。

 

「動いた!!」

 

最初に動いたのはタスクだった。

 

右上段回し蹴り、店主は少し身体をのけぞらせて避ける。

 

続いて回転し、軸だった左脚で後ろ蹴り。

後ろ()()ではない、()()()()だ、

 

タスクの背中に隠れた脚が、まっすぐ店主のみぞおちに突き刺さる。

 

ゴッ

「ぐ……」

 

店主はあえてそれを受ける。

後ろに5m吹っ飛ばされて、倒れることなく着地した。

 

「い、いける……?」

 

アスナがそう言って、キリトを見る。

対してキリトは、相変わらず厳しい顔のままだ。

 

「いや、あれは、店主がわざと後ろに飛んだんだ」

「え……?」

「衝撃と同じ速度で同じ方向に移動すれば、実質0になる」

「な……!?」

 

そんな馬鹿な。

アスナも一瞬にして厳しい顔に戻る。

 

武器や魔法を使う戦いと違って、肉弾戦の場合はそんなことができてしまうのか。

 

自分の経験外の、異様な戦いにアスナは緊迫した。

 

グン!!

「っ……」

 

またタスクが仕掛ける。

 

右中段回し蹴り。

 

キュン!!

「っ!! ……と」

 

……と見せかけた、右上段回し。

 

体に当たるギリギリまで中段のコースを辿りつつ、最後に上段に跳ね上がる裏血盟流御用達の蹴り技。

 

もちろん店主は反応する。

 

ガッ!!

「ふん」

 

飛んできたタスクの右脚を左腕で受ける。

 

それを分かっていたと言わんばかりに、タスクは続いて左脚にスイッチ。

右脚が下がりきる前に、左脚が上段回しのコースに入る。

 

しかし次の瞬間。

 

ボゴッ

「んぐっ!?」

 

タスクの脇腹に、店主の左手が触れた。

 

「発勁……!!」

 

思わずリズが呟く。

 

宙に浮いたタスクは横にふっ飛ばされ、10mは吹き飛んだ。

 

ダンッ……グッ!!

「ちぃ……!!」

 

すぐに着地すると、また店主との距離を詰めるタスク。

 

「ど、どうして……」

「ん?」

 

それを見たシウネーが、ゆうきの太ももに手を置いて問う。

 

「どうして、タスクさんはあんなにすぐに近づくの? 一旦離れれば……」

 

すると、ユウキは険しい顔をして答えた。

 

「シウネー、あの人達はね、モンスターと戦って強いわけじゃないんだ」

「……?」

()()()。いわゆる対人戦に特化した人達なんだよ」

「え……」

「モンスターは一定距離離れると仕切り直せるよ、でも人は違う。特に店主さん、あの人に関してはね」

「……」

「ほら、そもそもタスクくんよりリーチがある。タスク君の脚が届かなくても、店主さんの足は十分に届く」

「……!!」

「それにすごく離れりゃ、ああなるよ。ユージーンの時見たく……」

「あっ……!!」

 

薙刀をまっすぐ撃ち出す例のアレ。

リアルな光景がシウネーの脳裏にフラッシュバックする。

 

「つまり……」

「うん。タスク君は極度に接近しないと勝ち目がないんだ。皮肉だけどね」

「……!!」

 

だからって、あんな……!!

 

シウネーはやっと、タスクの立ち位置を把握する。

キリトやユウキが、厳しい顔をしている理由を理解した。

 

中距離は店主しかリーチが届かない。

遠距離はそもそも格闘戦にならず、油断すれば店主の薙刀が飛んできて畳み掛けられる。

 

そして近距離は発勁の危険がある。

 

「正直、よくやるよ」

「……?」

 

絶句するシウネーに、ユウキは笑ってそう言う。

 

「剣持っててもああいうのとはやりたくないね。タスクくんはガツガツ入るけど、僕は……正直やだ」

「ユウキ……」

 

ユウキがそんなこと言うなんて。

シウネーはまた闘技場の方へ向き直った。

 

そこには、距離詰めては離されて、距離は詰めては離されてを繰り返すタスクがいる。

 

ギッ……

「……!!」

 

いつの間にか、シウネーはタスクを応援していた。

 

 

《ははーん、さてはやる気だな?》

 

店主は距離を置いたタスクをみやりつつ、ニヤリと笑った。

 

ここまでお互い一度も武器を抜いていない上、仕掛けてくるのは蹴り技のみ。

 

タスクはもともと拳が得意ではない。

パンチ、フック、アッパーなど、拳を使った技は、基礎的なものでさえ最低限しか修練していないのだ。

 

なぜならタスクの戦闘スタイルは刀と格闘。

手は刀で埋まってしまうから、修練する意味がそもそもないわけだ。

 

その代わりに練習したのは()()()()()()

隙を着いて相手を転がすか、武器を使う部位をへし折って封ずるか。

 

《問題はどっちで来るか。このまま武器戦闘に持ち込んでもいいけど……》

 

店主は相変わらず笑みを保ったまま、ゆっくりと体勢を落とす。

 

……すると。

 

「はっ………!?」

 

見ていたユウキは思わず声を上げた。

店主も笑みが消えて、驚きの顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タスクも応じて体勢を下げ、手を着いたのだ。

それはまるで、()()()()()()()()()




※作者注※
submission (サブミッション)は、本来「降参」という意味なんだそうです。
関節技を決められて、地面や相手の身体をパンパンと叩く仕草、あれです。

しかし、日本の格闘技界隈では、それも含めて関節技(サブミッション)となっている……らしいです。

ちなみに作者は空手勢です。
関節技とか無縁すぎ……(´・ω・`)ユルシテ

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