これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
それは、突然の出来事だった。
「ん……?」
スコードロンのリーダー、ダインが、目の前に広がる荒野の奥から、光るものが接近して来るのを見つけた。
パッと見てダインは、「敵だ」と認識する。
それもそのはず。なぜならその光るものは、自分たちから正面に、敵からしたら背後から、こちらに接近してきているからだ。
「お……奥に、敵の増援!」
ダインは、仲間達に叫ぶ。
スコードロンメンバー達はまた、焦り出した。
「な……!?」「嘘だろ……!?」
ビッグ・ボスのあのとぼけた会話による努力虚しく、また焦りや不安の雰囲気がスコードロンメンバー達を包む。
だが、そんな不安はやはりまた、ビッグ・ボスの一言によってあっさりと掻き消された。
「大丈夫。あれは味方だ」
「そうなのか!?」
「ああ、俺が呼んでおいた」
「よ、良かった……」
ダインがホッとし、スコードロンメンバー達もホッとする。
だがビッグ・ボスは、そんな
「おいおい、まだ気を抜くなよ?今からが本番だ」
「……!」
即座にその場がピリッと張り詰める。
流石はシノンを有するスコードロン。こういう雰囲気だけは作れるのだ。
そして、その光るものがだんだん姿を表す。
すると出てきたのは、ヘッドライトをつけた三輪バギーだった。
「バ、バギー……?」
ダインが、あからさまに呆れる。
こんな広々した視界の利く荒野で、あんな体を晒す乗り物に乗っているからだ。
だがビッグ・ボスは、そんなダインの思いなどはつゆ知らず、平然と言葉を返す。
同時に、スコードロンメンバー達に準備を促した。
「おい、動くぞ。準備だ」
「……ん?ああ、でも、動くって……どう?」
「撤退だ。死にたいのか?」
「いっ……いや、そんな訳じゃない」
そういってダインは、準備を始める。
それにつられて、固まっていた周りのメンバー達も、着々と準備を始めた。
そんな中、ビッグ・ボスは目の前の敵を警戒し続ける。
そして……
「出来たか?」
「ああ。今終わった」
「……よし」
ビッグ・ボスが、ダインの返事を皮切りに、行動を指示した。
「全員、俺が敵に向かっていったら、思いっきり走って逃げろ。俺とあのバギーで食い止める。一か八かの賭けになるが、他に方法はない。……覚悟を決めろ。やるぞ」
「わ……分かった」
ダインが覚悟を決め、こくりと頷く。
するとビッグ・ボスが、急に腰のあたりをゴソゴソと弄り出した。
ダインは、何をしているのか分からずにビッグ・ボスを見つめる。
「それと、これを持っててくれ」
するとビッグ・ボスは、ダインに通信アイテムを渡した。
「これであんたに指示を出す。あんたも、何かあったら言ってくれ」
「おう……」
それを受け取ったダインが、すこし心配気味に返事を返した。
ビッグ・ボスがそんなダインの顔を覗き込んで、質問する。
「……?何か問題が?」
「いや……その々…」
「……?」
「あ……あんたは、どうするんだ?俺たちを逃がしてくれるのはありがたいが、それはあんたを囮に……!」
そういって、ダインは申し訳なさそうにビッグ・ボスを見る。
通信アイテムは、どんな距離でも装備したプレイヤー同士が通信、会話できるアイテムだ。
たとえ叫んでも、小声で話しても、相手には普通の大きさで聞こえるようになっている。
非常に便利であるアイテムだが、その便利な機能が、返ってダインに不安を宿らせていた。
その、ダインが抱えている不安。それは、通信アイテムはどんな距離でも声が届く。つまりビッグ・ボスがそんなアイテムを自分に渡したということは、彼と自分が遠く離れることを意味しているのではないか。
つまり、ビッグ・ボスはこのままここに留まって、逃げている自分達のためにただひたすら戦うつもりなのではないか?という事だ。
いくら彼でも、一つのスコードロンに一人で敵うわけがない。
それをわかっておきながら自分達だけ逃げるのは、少し……いやかなり申し訳なく、自分達のせいで彼のアイテムが奪われてしまうのではないかという不安が、そこにはあった。
だが、そんな不安はビッグ・ボス、彼自身によって振り払われた。
「なんだ、そんな事か」
「え……」
「大丈夫だ。俺は死なない。あんな連中などには殺られない」
ダインはそんなビッグ・ボスの明言に、すこし感銘を受ける。
そして、そんな感情に流されるまま、また質問した。
だが、ビッグ・ボスにその質問はあっさり跳ね返される。
「そ……そうか……。あんたは、凄いな。一体何者なんだ?なあ、せめて名前だけでも……」
「それは出来ない。そうすれば、あんたのこのゲームの、GGOでの人生が蝕まれる。」
「な……!?なぜ?」
「言ったろ?俺は、単なる傭兵まがいのプレイヤーだと」
「傭兵……」
「そう。俺が普段、介入しているのは、このGGO世界からかき集めた
「……」
ダインが、黙りこくる。
ビッグ・ボスが、自分の知らない、もっと過酷なところに身を置いている人だと感じたからだ。
そんなダインを見たビッグ・ボスは、敵がいる方の方角を見つつ、まるで、ダインの事を励ますようにポツリと呟く。
「だが……それでも、あんたが俺の正体を知りたいと思ったら……」
「……!」
「いいだろう。ここから生きて帰ったら、俺の事を調べてもいい。だがそれは、こちらの世界に足を踏み入れることになりかねない。その覚悟を決めれるなら、許そう」
「……!」
その呟きは、しっかりとダインに届く。
同時に……シノンにも届いた。
二人の目が、先程までとは違った色になる。
それをしっかりと右目で見たビッグ・ボスは、ふいとメンバー達に背を向けた。
その後、後ろ越しにあるホルスターからサイレンサー付きデザートイーグルを取り出し、最後に一言、スコードロンメンバー達に言葉を発して、敵の方向へと消えていった。
「さあ、行け」
と。
✣
ドスドスドスドス……
ビッグ・ボスの、重々しい足音が、荒野の土と共に跳ねる。
そして……
「な……!おま……!どっから……!」
バシュン!
バタッ……
敵スコードロンのSCAR-H持ちの一人が、頭を撃ち抜かれて死んだ。
「ああっ……!」
その時、隣にいた同じSCAR-H持ちのもう一人に見つかる。だが、彼が銃を構えた時にはもう遅かった。
ドサッ!
「ぐはっ!」
彼の視界は、世界を反転して映し出す。そして背中からいきなり走ってきた痛みとともに暗闇になっていった。
「……二人」
消えゆく視界の中、耳に聞こえてくる威厳ある低い声。
その声が完全に聞こえなくなった時、彼のHPバーが全損した。
「……いい投げだな、ボス」
SCAR-H持ち二人を、一人はヘッドショット、一人はCQCの投げで仕留め、即座に障害物に隠れたビッグ・ボスは、そこから3m先にある障害物に隠れるプレイヤー、三輪バギーに乗ってきた店主……ここではオセロットに、賞賛を送られていた。
「……基本の投げだ。大したことない」
「ふふ……謙虚だな」
ビッグ・ボスは、そんな賞賛を一言で振り払う。
オセロットは、そんなボスをチラりとみて、いつものタスクを見る目で少し微笑んだ。
ビッグ・ボスは、そんなオセロットの目に気づいたのだろう。
慌てて質問を投げかけた。
オセロットは、すぐに目の色を変え、質問に答える。
「オ……オセロット!敵は?」
「……黒ローブ 1、P90が1、SCAR-Hが1だ」
「ん……?SCAR-Hは分かるが、黒ローブはどうやったんだ?」
「ああ、三輪バギーで轢いた」
「……」
しれっと恐ろしいことを答えるオセロット。
ビッグ・ボスは、その恐ろしい三輪バギーを探し、視界に捉えた。
……なるほど、確かに壁に突っ込んでいる。バギーと壁の間には、黒ローブの姿があった。
顔にタイヤの溝の形の被弾エフェクトが煌めいている。盛大に轢かれたのが想像できた。
「……見なかったことにしよう」
「ありがと」
ビッグ・ボスは、ふいっと視線を逸らし、オセロットが苦笑で答えた。
そしてまた、銃弾が飛んでくる。
だがもう、その弾は彼らに当たる気配など全くなかった。
「奴ら……怯えてるな」
「ああ。黒ローブも攻勢に出ない。ローブの凹凸からして、おそらくスナイパーライフル持ちだろう。三輪バギーで突っ込んで気を引いてなかったら、シノンさん達撃たれてたな」
「ああ」
オセロットが自らの行動を自賛し、ビッグ・ボスが相槌ちを打つ。
そして……
「よし、あとの三人は俺が殺ろう。ボスは、三輪バギーを持ってきてくれ。まだ動くはずだ」
「わかった」
オセロットが、残った三人の処理を引き受ける。
ビッグ・ボスは、現状壁にめり込んだ三輪バギーを取りに、匍匐で30m先の現場へと動き出す。
そしてそのビッグ・ボスの動きに気づいてSCAR-H持ちとP90持ちが反応し、そちらへ銃口を向けた瞬間。
バンバンバン!
キン!
テンポよく、そして素早く、オセロットのSAAの発砲音が響いた。
同時に、その音の中の一つだけ、金属の棒に弾が当たる音がする。
そしてその直後……
「ぐっ……!」「あっ……!」「ぎぅ!」
バタバタバタ…
三人の、三者三様の呻き声が聞こえ、倒れる音がする。
そして今、やっと、この戦いに決着がついたのだった。
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