これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode150 店主は何者か 〜What kind of person is the owner?〜

ヴォン!!

 

店主の薙刀がうなる。

大きく横にひと薙ぎすると、後ろにまわして振りかぶる。

 

ビュン!! ゴォ

 

垂直に地面を叩く。

もちろんそこにタスクはいない。

 

「逃がさない……よ!!」

キュン!!

 

続いて薙刀をタスクに一刺し。

前に出る店主の勢いを乗せた、鋭い一撃。

 

すると。

 

「入った!!」

 

キリトが前屈む。

 

タスクが店主の一刺しをスレスレですり抜け、店主の懐に入った。

腕は折れているし、脚は薙刀の突きの構えで体重が乗り、蹴りは出そうにない。

 

正面上段切りを構えるタスク。

 

しかし次の瞬間。

 

キュン!! バゴッ!!

「なっ!?」

 

店主の空中を突いた薙刀が斜め上に上がったかと思うと、柄をスライドさせてタスクの前に通し、そのまま柄でタスクを叩いた。

 

上段切りを構えていたタスクは当然前方はがら空きである。

もろに食らってまた吹っ飛ぶ。

 

そしてすかさず店主が一撃……と見せかけて。

 

ガッ

「ちぃ……」

 

タスクの刀が薙刀を叩く。

 

「ほんっとに……ハラハラするわ」

「は、はいぃ……」

 

リズとシリカはもうずっとこんな調子だ。

 

キュン!!

「っと」

 

タスクが刀を店主の顔へ刺し込む。

店主は即座に反応、こめかみに若干の切り傷が入る。

 

すると次の瞬間。

 

 

 

 

 

バキィ!!

「がっ……」

 

 

 

 

 

タスクの頭に、店主の回し蹴りが入った。

 

「逃がさない……よ」

ドッ、ゴッ

 

店主はそれでも止まらない。

即座に薙刀を投げ捨てると、体勢が大きく乱れたタスクの顔面にアッパー、その勢いそのまま同じところに膝蹴りをかます。

 

タスクの顔の左下はもはや原型がない。

ぐちゃぐちゃにひしゃげ、ポリゴンがボロボロと落ち、キャラクターの綺麗な輪郭はもはや見る影もない。

 

かろうじて厳しい目つきが認識できる。

口はもはや見てとれなかった。

 

「ヒッ……!?」

「シリカちゃん……!!」

 

シリカはもはや見てられなかった。

アスナの袖をぎゅっと握って目を瞑る。

 

アスナも本音、ゾクゾクと鳥肌が止まらなかった。

 

仮想世界で、こんなにも全身全霊で戦える人がいるなんて。

恐怖心がだんだん露わになってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんのっ……バカっ……!!」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

すると、後ろから()()()()()()()()()()()()()()()

アスナは思わず振り向く。

 

そこには、手をぎゅっと握りしめ、目を真っ赤に腫らしたシノンが。

 

「ど、どうしたのシノノン!?」

 

アスナは慌てる。

するとその時。

 

 

 

 

 

 

 

「タスクくん、今シノンさんの剣、守ったんだよ」

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

ユウキの落ち着いた声が、アスナの体を止めた。

 

アスナはふと闘技場の方へ目を戻してみる。

するとどうだ、タスクはいつまにか刀をしまっていた。

 

「店主さんの顔を突いた時……、避けてすぐそばを掠めた刀に、店主さんは()()()()()()

「え……そ、それって……」

 

キリトの落ち着いた声がアスナに事実を気づかせる。

 

発勁。

しかも刀の側面に向けてということは、すなわち。

 

「店主……さん」

「あ……あの人、今、刀を折ろうとしたの……!?」

 

リズがアスナに先行して呟く。

当然、アスナも同じ結論に達している。

 

店主が、あの刀がタスクにとってかけがえの無いものであるということを知っているかは定かでは無い。

しかし、どんな形、経緯にせよ、店主は今、あのタスクとの戦闘中に()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「あぁ……あ……!!」

 

シリカが震えてアスナの袖を持つ。

アスナもシリカの背中に手を回すが、内心ではゾクゾクしている。

 

「はぁ……はぁ……」

「……………」

 

顔が半分潰れたタスクの息は荒い。

店主は笑ってタスクを見つめている。

 

折れた腕はもう時期治る。

試合の制限時間ももうそろそろ、まもなくやってくる。

 

《最後だ……》

 

店主はそう、内心で独りごちた。

 

おそらく、人生最初で最後。

タスクとの、本気でやり合う一戦。

 

 

 

 

 

 

《なぁ……君は……許してくれるかい?》

 

 

 

 

 

 

すると店主は、空を見上げて一段と笑った。

 

もう何も聞こえない。感じない。

観客の声援も、タスクの殺気も、自らの体の感覚も。

 

はるか彼方にぽつりと浮かぶかの城。

それを取り囲む青い空。

 

いつも彼が主役だった。

彼が任務を遂行し、彼が陰の表に立った。

 

彼が主人公なら、僕はどんな役なんだろうか。

 

小さな店の店主? 食いっぱぐれた哀れな男? それとも……

 

 

 

 

 

 

 

婚約者をかの城で失った、哀れな………

 

 

 

 

 

 

 

 

「出しましょう、全て」

「っは……………!?」

 

するとその時。

タスクの声が、店主の思考を遮った。

 

店主がはっと我に返る。

 

「もう……いいでしょう」

「………!?」

 

彼の言わんとしていることが分かる。

頭ではなく、心が反応している。

 

押さえつけてきた、心が。

 

 

 

 

 

 

 

 

《…………行きなさい2人とも。ここはそのためにあるのよ》

 

 

 

 

 

 

 

 

微かにあの人の声が聞こえ……た。

 

「ひっ……!?」

「っ……!!」

「う……わっ……!?」

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

目をアスナは瞑り、キリトは見開いて、ユウキは口まで開けて、その時を迎えた。

 

「獣」と「獣」の、結末を。




お久しぶりです、駆巡 艤宗です。

5月入って急に忙しくなりまして、こんな遅くなってしまいました。
本当にすみません……そのうち怒られそう。カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ

そしていよいよこの戦いも終わりを迎えます。
何やら意味深なシーンが出てきましたね。

乞うご期待!!

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