これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「うわぁぁ!?」
とある店の射撃場への入口から、素っ頓狂な声が上がる。
「なんだよ」
その直後、低い声がそれを制した。
「はあ……はあ……あ、あんたか……良かった……」
その素っ頓狂な声の主、ダインが、段々落ち着きを取り戻していく。
ビッグ・ボスはその一部始終を見て、率直な質問をダインに投げかけた。
「なんだよ……俺がなんかしたか?」
「い……いや、まさか、こんな目の前にあんたがいるなんて……」
「俺がシノンでも、驚いたか?」
「う……!」
痛い所を突かれたダインは、言葉に詰まる。
ビッグ・ボスは、やっぱり……と言わんばかりにダインを見た。
ただし、その目は決して睨むようなものではなく、あくまで穏やかだ。
「はは、別に怒ってはない。幾度となくそんな反応は受けてきた」
「そう……なのか?」
「ああ。だから気にするな」
「お……おう」
そういって、ビッグ・ボスがダイン達の手元に視線を送る。
「……クリス ヴェクターか。なかなかいいもんを持ってきたな」
「え……ああ、これは、店主がオススメしてくれたんだ」
「あの商売脳め……!」
「え?」
「いや、なんでもない」
「そう……か」
「んなことより……なあ、あんたら、ここに撃ちに来たんだろ?早く並べよ」
「あ……!」
ビッグ・ボスは話を切り、自分がいる一番目のレンジの左から、ダイン達から見て右に並ぶ2〜10番までのレンジを左の親指で示す。
ダイン達は、思い出したようにいそいそと並びだした。
「……」
ビッグ・ボスは、そんな彼らを黙って眺める。
そして……
タン!タン!
(一部の人種に対してのみ)耳に心地よい発砲音が響く。
ビッグ・ボスはそれを聞きながら、ダイン達を相変わらず眺めていた。
「なるほど……な」
ビッグ・ボスは、ポツリと呟く。
ダイン達は、室内で反響している発砲音のせいで、ったくその呟きは聞こえていなかった。
ズタタタタタ!
その内、誰かがフル・オート、つまり連射を始める。
それによって、ただでさえ静かなビッグ・ボスの移動は、全く気づかれなかった。
✣
「違う、顔は傾けるな」
クリス ヴェクターの試射に夢中になっていたダインの背後から、いきなりビッグ・ボスの声が聞こえる。
ダインは、驚きのあまり思いっきり振り返った。
「うわぁっ!?」
同時にダインの手に、トン、と、何かに止められたような感触がする。
「おいバカ!射線を考えろ!」
そして、ビッグ・ボスからの叱責が飛んできた。
手元を見れば、危うくビッグ・ボスの方に向きかけていたクリス ヴェクターが、ビッグ・ボス、彼自身の手で抑えられていた。
ダインは慌てて、クリス ヴェクターの射線を、つまり銃口の向きを、先程まで向けていた的に向け直す。
そしてやはり、ビッグ・ボスの静かなお叱りと指導を受けた。
「……まず、トリガーに指をかけるな」
「……お、おう」
「で、レンジに入っている時は銃口の向きをどんな時でも的のある方向にに向けろ。持ち運ぶ時はは下に。銃口管理だ」
「……!」
「それと、セーフティーだ。安全装置。それをかけとけ」
「な、なんで?」
「……安全第一の為だ。そんなことも分からないのか?」
「でも……」
「ゲームでもリアルでも関係ない。リアルのサバイバルゲームでも、安全装置はかける。たとえ人が死ななくても、銃は銃だ」
「……分かった」
「もっと言えば、マガジンも外せ。理由は……わかるな?」
「お…おう」
ビッグ・ボスの指示を受け、ダインがいそいそと手順をこなす。
トリガーから指を外し、銃口を改めて的に向け直し、安全装置をかけて、最後にマガジンを外す。
「本来なら、マガジンは最初だ。いいな?」
「分かった。ありがとう」
「構わん。むしろ出来てもらわないと困る」
「……すまなかった」
ビッグ・ボスが壁にもたれかかってダインを見る。
ダインは、明らかに反省していた。
「ま、構わんさ。このゲームのプレイヤーは、出来てない奴らばっかりだ。今からでも遅くない」
「分かった。気をつけるよ」
「よし」
ビッグ・ボスは目を変えて、優しい目でダインを見る。
そして、うてと言わんばかりに視線を一瞬だけ的に向け、顎をふいっとふると、その視線をまたダインに戻した。
ダインは、その指示を理解し、またクリス ヴェクターを構える。
そしてその斜め後ろに、ビッグ・ボスが立った。
「もう少し前へ」
「……」
「銃を体にもっと寄せろ」
「……!」
「肩の力を抜いて、肘を落とせ」
「……!!」
「顔を傾けるなよ…?真っ直ぐ、的を見るんだ」
「……!!!」
「よし、射て」
タン!
斜め後ろからやってくるビッグ・ボスの指示に素直に従い、狙いを定めたダインが射った弾は、見事、的の真ん中に命中した。
「よし。いいセンスだ」
「……!」
ダインは、自分自身の射撃に驚く。
同時に、ピタリと他のスコードロンメンバー達の射撃も止んだ。
「あれ……あの的……ダインのだよな?」
「リーダー?あれリーダーが射ったのか?」
ダインに質問を投げだすメンバー達。
だがその質問の答えは、ダインの背後にたつビッグ・ボスを見た時、全て解決した。
「あ……」「なるほど……ね」
その質問の嵐も、また止む。
「……なんだ?」
ビッグ・ボスが、そんなスコードロンメンバー達に質問を返した。
メンバー達は、まさか、
「いやあ、あなたが指導したのであれば、ダインが命中させれるはずだ!」
などと、答えるような人は流石にいない。
その代わり、スコードロンメンバーの誰かが思い出したように別の答えを恐る恐る答えた。
「そういえば、俺たちって、『この人に呼ばれたんだった!』と思って……」
「気づくのが遅い」
「う……!」
ビッグ・ボスは、今更本来の目的を思い出す、そんな間抜けな彼らの答えに、一言釘を刺した。
だがもちろん、ビッグ・ボスは本当の事を分かっていた。
上手く誤魔化せたなどとホッとしているスコードロンメンバー達を見て、少しニヤける。
それでも、ビッグ・ボスはすぐにニヤけた顔を引っ込めて微笑んだ。
スコードロンメンバー達はその笑顔を見て、威厳とはまた違った圧力を感じたのは、言うまでもない。
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