これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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お待たせしました。

今回は長め&難しめです。
きちんと頭を整理してから読んでください。

(すみません。笑)

それと、もうそろそろ、あの黒の剣士くんが現れます。
乞うご期待!(∩´。•ω•)⊃ドゾー


Episode21 何故この場所に 〜Why in this place〜

「なるほど……ね……」

「……」

 

店主とシノンが、お互いの過去を話し出してから約30分。

二人の間には、重たい空気が流れていた。

 

「確かに、店主さんと私の過去って……」

「……似てるでしょ?」

「うん……」

 

お互いに思うことがあり、話が途切れ途切れになる。

シノンはシノンで自分の過去と重なる彼らの過去を考え、店主は店主で昔の出来事を思い返し、黙りこくる。

そしてついにお互いが黙り合う……そう思った矢先、シノンが話の最初に自ら投げかけた、とある質問について思い出した。

 

「なぜ、彼らはこの世界にいるのか」である。

 

「あ……!」

「……?」

「今思い出したわ、店主さん。じゃあ何で、今この世界にいるの?SAOで辛い過去を経験したのは分かったけど、それとこれとは……」

「ああ、そうだったね。その事も話さなくちゃいけなかった。ごめんごめん」

 

店主は思い出したように目を見開いて、また話し出す。

 

「あのねシノンさん、唐突に言うけど、ビッグ・ボスはね、一度、SAOで仲間を失ったんだ」

「え……!?」

 

シノンが信じられないという風な目をして店主を見る。

SAO時代に仲間を失うという事は、即ち死んだという事だ。

ビッグ・ボスは、SAO時代に、一人仲間を殺されている……そういう事になる。

それを唐突に話されたら、誰だって驚くだろう。

店主は、それを分かっていたかのように、すぐに経緯を話し出した。

シノンはそれに聞き入る。

 

「とある任務中でね、敵の罠に嵌って、仲間の一人を失ったんだ。彼さ、命を奪うのに躊躇いを感じちゃって、敵を逃がしちゃったんだって。そしたら、まんまとその敵の仲間に罠を仕掛けられて……」

「仲間が殺られた……と」

「うん。そういう事さ」

「……」

「彼はそれ以来、すごく冷徹になってしまって……まあ、その名残が今のビッグ・ボスの性格なんだけど」

「へぇ……」

 

シノンは内心で納得する。

あのビッグ・ボスが醸し出している、歴戦の兵士のような威厳は、ここから来ているのか……と。

そして同時に、衝撃も感じた。

彼は、ビッグ・ボスは、守りたくても守りきれなかった経験があるのか……と。

だがシノンはやはり、その辛さは自分には分からない。

想像は出来る。だが恐らく、実際はもっと辛いのだろう。

その現状が、シノンをむず痒い気持ちにさせた。

 

店主も、そんなシノンの心の動きを察しているのか、少し間を置いて、話を続けた。

 

「……でね、それから半年後ぐらいかな。やっと、SAOが攻略され、僕らはリアルに帰ってきたんだ」

「……」

「ま、最初はゆっくり過ごしてたよ?といっても、俺が向こうにいる間に世話になった病院やそこらの方々へのお礼とか、家の片付けとか手続きとか実際はバタバタだったけどね。……でも、それでもリアルの世界で生活できるのが夢のようだった」

「……」

「それから、また2ヵ月後。この時、僕らがこの世界に来るきっかけとなったある出来事が起こるんだ」

「……!」

 

店主が、今までの懐かしそうな目を引っ込めて、ぐっとなにか決意のようなものがこもった目をする。

 

「ごめんね、またとある事件の話になるんだけど……シノンさんさ、この事件知ってる?『ALO事件』」

「……」

「あっはは、やっぱり知らないかな?」

「なんとなくだけど……なにかサーバーに不正があって、元々の運営が捕まって、今新しい運営がどうの……って言うあの妖精ゲーム?」

「そうそう。なんだ、知ってるじゃない。で、そのALO事件ってさ、もう少し詳しく話すと、そのSAO事件から帰ってくるプレイヤー達の一部を途中で捕まえて、強引にALOのサーバーに留めて、とある研究者の研究に勝手に使ってた……って話なんだ」

「な……!?」

「もちろん、そんなことは許されるはずがない。やっとSAOから出られると思ったら今度は訳の分からない研究者に捕まってまた違う世界に閉じ込められるなんて、有り得ない」

「うん……」

「まあ、その事件と僕らは直接の関係はないんだけど……それで唯一、リアルで今までとは大きく変わった事がある。それは、」

「……!」

「政府の見解……さ」

「へ?」

 

シノンが呆気に取られる。

また何か、とんでもない事を言うのかと身構えていたのに出てきた言葉は割とどうでも良さげな言葉だったからだ。

 

「え、ちょ、どういう事?政府の見解?そんなの、SAO事件で充分……」

「違うよ、そうじゃないんだ。シノンさん。今、リアルのあなたは、頭に何をつけている?」

「え……そりゃ、アミュスフィアだけど…」

「そう。()()()()を謳い文句に売り出し、今ナーヴギアに変わって流通している機械。アミュスフィア。でもそれは、本当に()()()()かい?ALOだって、アミュスフィアを使ってダイブするゲームだ。そんなゲームで事件が起きたら、政府のお偉いさんがたはこう思うとは思わないかい?『本当にアミュスフィアは安全なのか。というより、仮想世界は安全なのか』とね」

「そ……そんな……!だ、だって、そのALO事件……?とやらの被害者って、SAOの人達でしょ!?それなら、その人達が付けているのって、ナーヴギアなんじゃ……!」

「……それを、政府のお偉いさんがたが理解出来ると思う?」

「……!」

「ナーヴギアかアミュスフィアかじゃない。実際に事件が二度も起きたVRMMORPG自体、危ない物、危険因子として見られるのは目に見えていないかい?」

「……!!」

「実際、シノンさんの周りの人には絶対いるはずだ。『VRMMORPGをやるなんて、有り得ない』っていう人」

「……!!!」

 

シノンはだんだん焦りすら覚える。

確かに、今でもそういう人は多い。一部のお年寄りなどに限っては、VRMMORPGは未だに命をかけてやるゲームのことだと思い込んでいる人もいる。

それを政府が見逃す訳が無い。

 

「そ、そんな……」

「いつか、VRMMORPGが規制されるかもしれない。下手すれば禁止にも。……でもね、今やVRMMORPGは日本の経済に大きく貢献している、下手すれば世界の…ね。言わば「世界的大ブーム」なんだ。特に若者にさ。想像してみて欲しい。とある世界的大ヒット商品の販売を、一つの国が禁止して、その危険性を世界に発信し出したとする。その影響で次々に周りの国がその販売を禁止したら……その商品の価値は大きく変動し、経済的大混乱に陥る。なんたって大ヒット商品だからね。今まで飛ぶように売れていたわけだ。それをいきなり止められたらと考えると、そう難しい話じゃないはずだ。そしてもし、本当にそうなれば、その影響がどんな形で現れるか分からない。恐慌?戦争?どうなるのか全くもって知るよしがないんだ」

「……」

「だから、VRMMORPGを潰す訳にはいかないんだ。特に最初の事件が起きた日本ではね。今でも世界のあちこちの国はVRMMORPGを禁止しようとしている。でもまだ、日本が禁止してないから何とかなっている……そんな状態なんだよ。その状態を普通として戻すために立ち上げられたのが、政府の「仮想課」という部署なんだけど……」

 

ー仮想課

SAO事件をきっかけに設立された、主にバーチャル世界を監視する部署。

SAO事件発生当時は、その解決に尽力した部署である。

 

「その部署はまず、何をすると思う?」

「……?」

「もちろんALO事件のあとの話さ。二度も事件を起こしてしまったVRMMORPGを禁止の危機から救うには、どうしたらいいと思う?」

「……その政府のお偉いさんがたにきちんと説明するとか?」

「う〜ん、それをやったとして、なんになるんだい?」

「……!?」

「いいかい?シノンさん、今この時代の「国」とはね、政治をする政府と、その国に絶対不可欠な国民の、調和が重要なんだ。その一つの手が「民主主義」なんだけど、その民主主義に乗っ取れば、どんな言論の訴えも許される」

「……なにが言いたいの?」

「ふふ……つまりはこういうこと。さっきさ、お年寄りがどうのって話したじゃない?」

「……ええ」

「そのお年寄りの大半って、大体息子か孫がSAOの被害者だと思わない?」

「……!」

「それに、SAOによって命の危険がほぼ無い現代社会に馴染めなくなってしまった人達もいる。そんな人がその息子や孫だった場合、どんな結論に至るか」

「まさか……!」

「そう。『VRMMORPGを、全面的に禁止しろ』だとか、そういう類の訴えが、多数起きる事になる」

「そういう事……ね」

「でも……その、トラウマを抱えてしまった人には申し訳無いけど、さっき言ったみたいに今やVRMMORPGは現代の経済において潰すわけには行かない。だから……」

「仮想課ができたと……そういう事ね?」

「そう。この仮想課が何とかVRMMORPGでの事件を未然に防いで、この事案自体を風化させる。それが目的なんだ。リアルの世界には、もっと注目すべきニュースが転がっている。そっちに目がいけば、そのうちVRMMORPGが危険因子だなんて思わなくなる。もちろん、風化するまでずっとVRMMORPG内での事件を防げれば……の話だけどね」

「なるほど……。でも、それじゃあ政府のお偉いさんがたは納得しないんじゃ……?」

「ふふ、なら、VRMMORPGを潰して日本の経済を、いや、世界の経済を混乱に叩き落とすかい?」

「い……いや……!!」

「そうなれば、下手すれば……」

「わ、分かったわ!なんでもないわ!気にしないで!」

「ふふ、かわいいなぁ」

「〜!」

 

さらっと店主が恐ろしい事を口にする。

シノンは慌てて自分の意見を撤回し、恥じらいで赤くなった顔を伏せた。

店主はそんなシノンを、「若いなぁ」と言わんばかりに微笑みながら見ていた。

 

でも確かに、店主の言っている事は間違いない。

SAO事件によってVRMMORPGが疑問視され、アミュスフィアによって沈静化した。だが今度は、ALO事件によってそのアミュスフィアすらまた疑問視され始めている。それをまた戻すには、それしか方法がない。

それが失敗すれば、待っているのはVRMMORPGの禁止だ。

その影響が、現実にどんな影響を及ぼすかなど、学生のシノンにはまだ分からない。

 

 

そしてついに二人は、その話の終わりを迎えるのだった。

 

「……で、その仮想課の人達が目をつけたのがSAO経験者。特に攻略組と呼ばれる人達に声をかけて、今じゃ無数にあるVRMMORPGの中でから事件の起こる確率の高いものを抽出して、その人達に監視をさせてる」

「あ……!」

「で、このいかにもそんな事件がおこりそうな雰囲気満載のこの「ガンゲイル・オンライン」に、僕らが来て、裏世界を監視している訳さ。このゲームは、法律的にもグレーゾーンだからね」

「……!」

 

シノンの中で、疑問の糸どころかその他疑問まで全て吹っ飛んだように解決し、清々しい気持ちすら芽生える。

話し終えた店主はコーヒー……的な何かの最後の一を飲み干して、そそくさと立ち上がり、カウンターの反対側に迂回した。

そしてまた、いつもの構図に、店主が立ち、シノンが座った構図に戻る。そして、こうシノンに呟いて、店の奥に消えていった。

 

「僕も彼も、もうVRMMORPGが関係したせいで人が死ぬのは見たくない。だから今、ここにいる。シノンさんにも、是非協力を仰ぎたい。でも無理にとは言わない。だからあともう一度だけよく考えてみて、答えを聞かせて?僕は……いや、僕らはずっと、待ってるから」

「……」

「いつか言ったよね、『どちらの選択にも利益不利益平等にある。そのどちらを取るのかは、シノンさん次第。さあ、どうする?』って。この言葉を今一度、シノンさんに送るよ。……またね」

 

と。




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