これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode22 現実 〜Reality〜

「店主さん……?店主さん……!ねえ!」

「……?」

「ほら起きて!精神世界で寝るとか、どうやったら出来るんですかねぇ!?店主さんがログアウトしたら、この店どうするんですか!?まだ営業時間内でしょう!」

「う〜ん……」

「シノンさんはどうなったんですか!店主さんはどうするつもりなんですか!ねえ起きて!」

「う〜ん、はっ!」

 

店主がいきなり飛び起きる。

シノンに声をかけて店の奥に入り、椅子に座ってから、居眠りしてしまっていたようだ。

質問の嵐を吹かせていたタスクも流石に驚く。

 

店主はそんな事などつゆ知らず、ごしごしと目をこすった。

タスクは不機嫌そうに、店主に質問を続ける。

店主はその質問に、ポツポツと答えていく。

 

「はぁ……で、店主さん。シノンさんの話、結局どうなったんです?」

「……?」

「だから、シノンさんはどうなったんですか?」

「……あ、ああ、その事ね。うん、大丈夫。きちんと話したよ」

 

そこまで話して、タスクはほっとする。

一応話せたのであれば、なにか進展があると期待できるからだ。

だが、その進展は思わぬ形で進んでいた。

 

「そうですか……で、結果は……?」

「うん……その事なんだけど、タスクくん。ごめんね」

「……?」

「君の過去を、彼女に話した」

「な……!?」

「そしてその上で、もう一度考えてみて……と、時間を与えた」

「……」

「彼女も僕らと似た過去の持ち主だったんだ。それも、リアルでの……ね」

「……というと?」

「ふふ、それはタスクくん自身が直接聞いてみるといいよ。シノンさんはきっと答えてくれる」

「……」

「でも、少しだけ、教えてあげられることがある」

「……?」

「彼女は、僕らよりずっと強いよ」

「……!?」

「彼女は、護りたいものを護るために人を殺した。でも僕らはそうじゃない。護りたいものも護れずに、その後で人を殺した。それも何人とね。……まあ、詳しくはシノンさんに聞いてみて」

 

タスクはすこし不満げながらも頷く。

 

彼女が自分と似た過去を……。

すこし嬉しい反面、不安な気持ちもあった。

これからどうなって、どんな風に話が進むのか分からないからだ。

 

あの時見た、仲間の死。

光の粒になって消えた、仲間の体。

そして何より、自分のミスで失われた、大切な命。

そしてその後自分が犯した、贖罪としての殺人。

でもそれは、決して許されるものではない。

 

「っ……!」

 

タスクは急に店主に背を向け、左手を動かし、ログアウトして消える。

その小さな背中を、店主はしかと見届けていた。

 

「わかるよ、その気持ち」

 

店主は静かに、もうそこにはいない一人の少年に声をかけた。

もちろんその声は、誰にも聞かれることのなく、空間に消える。

 

「……さてと」

 

そして店主は立ち上がり、店の奥に入って試射場を見る。

気配がないからなんとなく分かっていたが、ダイン達はもう既に帰っていた。

タスクからの報告がないのから考えて、恐らく正体を知らずに帰ったのだろう。

 

「……正しい判断だったかもね。ダインさん」

 

店主は何かを予感させるように、ポツリと呟く。

そしてふいっと試射場に背中を向けて、自らもログアウトボタンを押した。

 

店主が消えると同時に、店内の照明もすべて落ちる。

扉にかかった「closed」の看板の周りだけが、少しだけ明かりを放っていた。

 

 

「……っ」

 

仮想世界から戻ってきたタスクが目をうっすらと開ける。

 

「はぁ……」

 

そしてそのリアルのタスク、内嶺 祐(うちみね たすく)は、がっと勢いよくフードつきのパーカーをとって着ると、スマホとイヤホン片手に走り出した。

 

どだだだと階段を降り、だだだーっと廊下を駆け抜ける。

そして玄関を靴を履きつつ蹴り開けると、真っ先に目的地へ走り出した。

 

「まぁたタスクったら……あれ?」

 

おたまを持ったタスクの母親が廊下を見た時には、もうそこにはいなかった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

タスクが淡々と路地を走る。

 

今は夜の9時。それに天候は雨。

どう考えたってフードつきのパーカーだけで外出する状況じゃない。

 

だがタスクは、そんな事などどうでもよかった。

 

「……っ!」

 

タスクはひたすら走る。

そしていつの間にかついたのは、とある墓場の一角。

 

「……」

ドスッ

 

するとタスクはいきなり一つの墓の前で膝をついた。

雨で濡れた地面から、ズボンに水が登る。

そして下を向き……

 

涙を流した。

 

ビッグ・ボスという、()()()()()()()で隠していた感情が、涙となって現れる。

 

「ごめん……!ごめんな……!」

 

そう、それは、「後悔」と「哀愁」。

あの時、敵を逃がさなければ。

あの時、光になって消えた、親友。

 

あの時、あの光景、あの時間、あの気持ち、あの場所。

 

すべてがくっきりと思い出せる。

そしてそれをしてしまう、自分だけが帰ってきてしまった()()の世界。

 

そしてその記憶は、頭に食いついて離れることは無かった。

 

バシャッ……バシャッ……

 

その時、後ろから足音が聞こえる。

タスクは、はっと後ろを見る。

 

そしてそこには、迷彩柄の長ズボンに黄土色の半袖シャツを着た男がいた。

 

……彼の名は待宮 多門(まちみや たもん)

プレイヤーネーム、「リボル」。

二つ名は、「オセロット」、あるいは、

 

「店主」……だ。

 

「店……タモンさん……!」

「いると思ったよ、タスクくん」

 

そう呟く店主……もといタモン。

タスクはすぐに視線を墓石に戻した。

 

「アユムくん……もう1年だね」

「はい……」

 

そう呟いたタモンは、タスクの背中をさすり、同時に墓石にも手を添えた。

 

そして呟くのである。

 

「すまなかったね……」

 

と。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やっと、彼らの本名を出すことが出来ました。
といっても、物凄いセンスのなさが露呈しているだけなのですが。

こうして報告してはいますが、気にしないでいただけると幸いです。

では。

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