これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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第三章 死銃 〜The death gun〜
Episode24 事件 〜Incident〜


「タスク君!」

「ん?」

 

バタン!

 

シノンが正式に仲間に、ガンゲイルビジョハシリバ……ゲフン。になってから数日後。

今日は土日の休日だからと、開店の一足先に、しかも店主よりもはやく店主の店に来ていたタスクは、慌てて飛び込んできた店主に目を丸くしていた。

 

飛び込んできた本人である店主は、大慌てである。

 

「なんです!?どうしたんです!?店主さん!」

「……タスク君!慌てないで聞いてほしい。まだ不確定だ、不確定だけど……!」

「聞く!?不確定!?何の話ですか!」

「だから、不確定な話だけど、落ち着いて聞いてほしい」

「わ……分かりましたから、まず店主さんが落ち着いて下さい!」

「あ、そ、そうだね、ふ、ふううう……」

 

タスクになだめられ、店主がゆっくり息を吐く。

タスクが店主を自分の隣の席に座らせ、そしてきちんと落ち着いたところで、タスクから話を切り出した。

 

「よし、ならまず、何の話ですか?」

「うん……あのさ、タスク君は、ゼクシードってプレイヤー、知ってるかい?」

「ゼクシード?あの情報工作で成り上がった彼ですか?」

「そうそう。彼についてなんだけど、この音声を聞いてほしい」

「……?」

 

そういって、店主は音声のみの再生用のウィンドウを開く。

そしてその再生ボタンを押した。

するとそこから、機械によって変音された音声が聞こえてきた。

 

『ゼクシード!偽りの勝利者よ。今こそ真なる力による裁きを受けるがいい!』

ズダァン!

 

そしてその短いセリフの後に聞こえてくる一発の発砲音。

そこで音声は消えていた。

 

店主はそのウィンドウを閉まって、再びタスクに向き合う。

そしてまた、話し出した。

 

「まず、この音声の録音日から、ゼクシードはこのゲームにログインしてない」

「え……?」

「この音声の録音場所は、とあるGGO内の酒場。ここでとあるプレイヤーが、その時やっていた生放送のネット番組に出演中のゼクシードに対して発砲した」

「対して……?ディスプレイにですか?」

「そう。そして、この銃の発砲音。この発砲音の主は、自らを死銃(デス・ガン)と名乗った。で、その直後、()()()()()ゼクシードが急に苦しみ出して倒れて、アミュスフィアの安全装置により強制ログアウト。で、それ以来彼はログインなし。ネットの掲示板サイトには、「失踪をしたかっただけ」とかその他色々言われてるけど……」

「……」

「何か不穏な感じがしない?」

「確かに。発砲音からして、銃は恐らくトカレフTT-33でしょう。ハッキング……によるものではないですね。トカレフはデータ的にもそんなもんに使うようなものじゃない」

「……だとしたら?」

「事件……ですかね」

「やっぱりタスク君もそう思う?」

「……はい」

「だよね……まだ正確なのはあれだけど、彼は撃たれた直後、苦しみながら倒れた。」

「苦しみながら?」

「そう。普通じゃありえないよね」

「……」

 

そう。この世界では、意外に苦しむという概念がない。

と言っても、一概にないとは言えないが、大体はHPバーが全損した時にはすぐに光の粒子になって消えるから、ほんの一瞬の話だ。

 

たとえナイフで斬られても、しびれのような痛みがあるだけ。

その痛みだって、ずっと続くわけではなく、それも一瞬の話だ。

 

だとすれば、どういう事か。

 

ゼクシードは、()()()()()()()()()()()()()()()、という事だ。

そしてそれを裏付けるかのように、その後作動したアミュスフィアの安全装置。

そしてその後に一切されない、GGOへのログイン。

 

どう考えてもおかしい。

だから店主は、不確定ながらも、タスクに、そして関節的にだがビッグ・ボスに報告したのだ。

 

「……ついに来たね。タスク君」

「……はい」

 

二人は、覚悟を決めたような目をして机を睨む。

だが、二人はすぐにその視線を元に戻した。

 

「さて、その前にまず、普通の仕事だよ。まだ本当にそうなのか決まったわけじゃないからね」

 

そう言って、店主は店を開く準備を始める。

だが、彼らにはもう、既にわかっていた。

 

これから、彼らは彼らの「本当の仕事」を、しなければならないということに。

そしてそれは、少しだけ形を変えて、的中することになる。

 

とある、一通のメッセージによって。

 

 

開店してから約10分と言ったところだろうか。

今は早朝。やはり最初はお客が来ないため、しん……と静まり返った店内で、二人が佇んでいた時。

 

いきなり、一通のメッセージがやって来た。

その差出人の名前には、「仮想課 菊岡」と書いてある。

 

二人は顔を見合わせた。

なぜならその「菊岡」という仮想課の人物こそ、二人をこの世界に送り込んだ本人だからである。

 

想像には難くなかった。ゼクシードの件についてだろう。

 

そう考えて、二人は揃いも揃って顔を戻し、ウィンドウの「開く」ボタンを押す。

するとそこには、こう書かれていた。

 

『やあ!二人とも、お元気ですか?タスクくんはもちろんのこと、タモンさんもね!急に申し訳ないが、二人に通達することがあって連絡したんだ。心して読んでおくように』

 

二人の目が、文の上から下へと写ってゆく。

 

『君たちは知っているかも知れないが、今、とある事件が発生している。概要は……、トッププレイヤー、ゼクシードの死亡事件』

「死亡……!」「これは……!」

 

タスクと店主がそろって息を呑む。

まさかとは思っていたが、そのまさかが的中した瞬間だからだ。

 

これはますます、自分たちの出番かと、意気込む。

だがまだ、文章は続いていた。

 

『君らはまだ犯行手口も犯人の手がかりも、何も掴めてないと思う。僕ら仮想課も、まだ掴めてないのが現状だ。そもそも犯行なのかもわからない。だから今、解決に向けて努力しているところなんだけど……、一つ、お願いがあるんだ』

「「……!」」

 

ついに来る、と二人は覚悟する。

そしてその文面は、衝撃的な言葉が並べられていた。

 

 

『この事件に、君たちからは手を出さないでほしい』

「何……!?」「え……!?」

 

 

タスクと店主は揃って疑問を口にした。

こういう事態のために、自分たちはここにいるんじゃないのか、と疑問がよぎる。

 

だが文章は、その下に続いていた。

 

『ただし、だからと言って、一切この事件に関わるなとは言わないよ。実は、もうすぐそちらに一人、こちらからプレイヤーを送り込む。彼には、君たちに会いたければ会え、と言っておく。もし接触したら、手助けするかどうかの判断は君たちに委ねるつもりだ』

 

「意味がわからない」と言わんばかりに二人の眉間にシワがよる。

そしてその文章は、まだまだ続いていく。

 

『これは君たちのための措置なんだ。彼は最近見つけた、偶然解決に当たってくれそうなプレイヤーさ。実力もある。まぁ、君たちほどでは……無いけどね。そのお陰で、君たちの力を借りなくて済んでいる。本来なら君たちの仕事だが、この事件の解決後が困るだろう?だから、ご理解願いたい。

……ただし、もう一度書いておくが、彼には君たちの事をほんの少しだけ、話してある。彼がもし、君たちの所にやって来たら、その時は協力してもらって構わないよ。もちろん、断ってもね。

でも、くれぐれも言っておくが、「これから」の事を考えて行動してほしい。

 

……それともし、こういうのはあまりよろしく無いかもしれんが、この事件解決のために君たちが、あるいは君たちの仲間の命が失われたら、元も子もないんだ。辛いと思うが、耐えてくれ。

 

 

幸運を、タスクくん。タモンさん』

 

ぐっ……と、タスクと店主が衝動を堪える。

そして文章は、ここで終わっていた。

 

確かに、この文章に書いてあることは間違いではない。

 

なぜなら、この二人の仕事はこの事件が終わった後でも続くからだ。

それを見越して考えた場合、ここで命を張って表に出るのは危険すぎる。

だがそんな事言ったら、彼らがここにいる意味が無いのではないかと思うだろう。

なんてったって人の命が既に一つ失われているのだ。

特に彼ら二人に関しては、このことは、はいそうですかと黙っているわけにはいかない。

だが、この世界に彼らがいるかいないかで、仮想課にとっては、その先の解決の対応がガラリと変わるのだ。

 

確かに、()()()()彼らの出番だろう。

でも、その後のことを考えた時、代わりにやってくれる人がいれば、そちらに任せるのが道理だった。

 

ー「()()()()のために」

 

そんな言葉のせいか、やはり彼らの中にはモヤモヤが残るのは、当然だった。

 

「っ……!」

 

タスクはその文章を読み終わると、左手のウィンドウを操作し、メインウェポンであるM82A1とサブウェポンのデザートイーグル+サイレンサーだけ取り出して、すぐにかけ出して、射撃場に入っていった。

 

その小さな背中に、店主はポツリと声をかける。

 

「……辛いよなぁ」

 

と。

 

でもその呟きは、やはり、空間に消えてなくなった。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、二つ、予告させていただきます。

一つ目は、〔次回、新キャラを出します!〕
このキャラは、MGSのものでも、GGOのものでもありません。
かと言って、オリジナルでもありません(なんやねん)
イメージとしては、今流行りのFPSゲーム、「虹〇S」のキャラ数人を掛け合わせたようなキャラにする予定です。

二つ目は、〔設定集を出します!〕
こちらは、本当にぱっと思いついたことです。時期は、まだ未定です。
ここから、(恐らく)話が複雑化してきますし、新キャラもちょくちょく出てきます。
そんな中で、読者の皆様の脳内混乱を防ぐための措置として、勝手に出させていただきます。
ご理解をよろしくお願いします。

乞うご期待!(と言っていいのか!?怖い…カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ)

では。

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