これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

26 / 189
Episode25 クワイエット 〜Quiet〜

「やあ、いらっしゃい、シノンさん」

「こ、こんに……いや、おはようございます……?」

「はは、休日は混乱するよね。さ、座って座って」

 

そう言って店主に出迎えられたのは、シノンだ。

いつも通り休日の朝を起きて、いつも通りGGOにログインし、いつも通り店主の店へとやって来た。

 

開店してすぐなのに、店主はシノンを暖かく出迎え、シノンはいつものカウンターに座る。

するとシノンは、少し違和感を感じた。

 

「……あれ?」

「ん?」

 

店主は、すっとシノンの方を向く。

するとシノンは、その違和感の正体に気づいた。

 

「そういえば、ボス……は?」

「ああ、よく気づいたね、シノンさん。」

 

ニコッと笑い、シノンを褒める店主。

だがシノンからしてみれば、あたりまえだった。

 

なぜならシノンは店主から、「最初の週はビッグ・ボスと訓練してもらう」と言われていたからだ。

 

なのに、早速彼が不在。

理由がわからないでは無いが、いささか不満なのも事実である。

 

だがその理由は、シノンが想像していたのとは違った。

 

「あのね、シノンさん。彼は今、射撃場にいるんだ」

「え……?」

「ちょっとムシャクシャすることがあってね……そっとしておいてあげて」

「は、はあ、そうなんですか。」

「……そんなに驚いたかい?」

「い、いえ……」

 

へえ、彼にもそんな事があるのか、とシノンは内心ビックリしていた。

あの冷徹な彼が……と。

 

だがその感情は、とあることに気づいたせいで、すぐ消えた。

 

「あ、そっか、タスク君が……ってことですよね?」

「そういうこと。やっぱり分かってなかったね?」

「す、すみません……」

「はは、気にしないで」

 

ここで、話が一旦切れる。

 

こういう時、お互い……少なくともシノンは、気まずくなるものだ。

お互いがお互いを見あって、話のネタが無いばっかりに黙り合う。

 

だがそんな静寂は、すぐに破られた。

 

バタン!

「……お、彼女ですか、その『新人』ってのは」

 

いきなり、店の扉が開く。

そして奥から入ってきたのは、一人の男プレイヤーだった。

 

藍色の迷彩服に、その上に着た黒を下地に白いラインが少し入った防弾ベスト。

そしてさらに追加されて体に取り付けられた防弾アームポーチや、ウエストポーチ、ホルスター。それらにも何故か、少し、白いラインが見える。

そしてグローブに関しては、真っ白だ。

 

頭には、軍用セミフェイスヘルメットを被り、顔にはバラクラバと呼ばれる目出し帽をして、目だけが鋭く見えていた。

そのヘルメットの上に上がっている、付属の防弾で半円の強化プラスチック製のフェイスガードが、また何とも雰囲気を醸し出している。

 

そして、一番目を引いたのは彼の背中。

彼は背中に、「防弾シールド」を背負っていた。

 

まさに、『特殊部隊員』。

この言葉以外適切な言葉はない。

 

そんなプレイヤーの質問に、店主はささっと答える。

 

「あ!やあ、いらっしゃい。よく来たね。……そう、彼女が、新人のシノンさん。でもまあ、知ってるよね」

「そりゃあ……だって、彼女はGGOのトップスナイパーとして有名だし……ま、それは表世界での話ですけどね」

 

ー「表世界」

この言葉が、シノンにグサリとささる。

今まで自分がいた世界はそこで、自分はそこでは上の方だった。

ま、正直そんな、上か下かはどうでも良いのだが。

でも、そんな自分の実力が、この世界でどれだけ通用するのか、分からない。

それがとてつもなく怖かった。

 

そんな思いが、顔に出たのだろう。

その「特殊部隊員」のようなプレイヤーが、ドスドスと装備品の重たさを示すかのような重たい足音をならしながらやってきて、シノンの横の席に座り、やさしく話しかけてきた。

 

「やあ、シノンさん」

「こ……こんにちは」

「ふふっ……会えて嬉しいよ。これからよろしくね」

「は……はい」

 

シノンはすこし焦りながら、そのプレイヤーと挨拶を交わす。

 

「新人ですか?」と聞きながら入ってきた時点でそうかと思っていたが、彼もやはりビッグ・ボスと同じ、裏世界プレイヤーだった。

 

そんな彼は、自己紹介をする。

 

「俺の名前はウェーガン。コードネームは「ラクス」。は?って思うかもだけど、これはチェコ語で「医者」って意味」

「「医者」……?」

「そう。俺は主に、戦場での救援を担当してるんだ。この盾も、その仕事の為」

「ああ、なるほど」

「まあ、それだけじゃあないんだけどね。爆弾系も俺かな。何でも吹っ飛ばせるよ?」

「へ、へえ……」

 

苦笑いで対応しつつ、そういうことか、と、シノンは納得する。

彼はいわゆる、「衛生兵」や、「看護兵」だ。

主に瀕死の仲間の救助を担当する、「戦場の医者」。

ところどころに白が入っているのも、それが所以だろう。

 

その割には重装備な気がするのは、彼が最後に漏らした爆弾とかを扱う役割だからなのなもしれない。

それを考えれば、彼は「工兵」の役割を兼ねていることになる。

 

シノンは、流石に役割を混ぜすぎだと思うが、なんせここは裏世界だ。

気にしていたら負けなのかもしれない、と考え直す。

 

そしてそんな彼が、ふうと一息つき、手からグローブを取ろうとしたその時、いきなり店主が、ラクスに質問した。

 

「……あれ?ラクスさん、彼は?」

「え?ああ、あいつですか。あいつはもうすぐ……」

 

ラクスが一瞬考えて、返事をする。

すると、その返事を遮るようにまた店の扉が空いた。

 

バタン!

「……こんちわ」

 

その奥から入ってきた男プレイヤー。

その彼も、これまた独特な雰囲気を持った装備だった。

 

まず目を引くのは、鉄の塊と見違えるようなヘルメット。

目のラインに細い横溝が一本引かれているだけで、あとは全部鉄だ。

 

そして服装は、まあ普通の迷彩服に、防弾チョッキを被せた普通の装備。

……に見えているだけだった。

実際に横から見てみると、その防弾チョッキはものすごく分厚く、ラクスが来ているものの約2倍くらいの厚さがあった。

 

それに加え、彼もまた、背中に何かを背負っていた。

今度は盾ではなく、何か鉄パイプをまとめたようなもの。

 

それも重なって、そのプレイヤーは相当ずんぐりむっくりだった。

 

「な……!?」

「……」

 

驚くほどの重装備に驚きを隠せないシノンを、ヘルメットで隠れて見えない目で横目に見つつ、そのプレイヤーもカウンターに座る。

 

そして背中に背負っている鉄パイプの塊を下におろすと、そのままそこで固まった。

 

「ぷっ……!」「ふふっ……!」

 

すると、店主とラクスが吹き出す。

シノンだけが、何が起こったのか分からなかった。

 

そんな思惑が顔に現れたのだろう。

店主が、種明かしをするように笑いをこらえながらシノンに訳を話す。

 

「ふっ……ご、ごめんね……シノンさん……!あ、ふふっ……あのね、彼緊張しているみたいで……!」

「緊張……?」

 

ますます訳が分からない。

すると今度はラクスが、シノンに訳をはなした。

 

「その……あいつさ、女の子がね、苦手なんだ」

「は、はあ、そうですか」

「まあ、だんだん慣れていくからさ。暖かい目で見てやってよ」

「わ……分かりました」

 

シノンがコクリと疑問気味に頷く。

するとラクスが、取ってつけたように彼の紹介をしてくれた。

 

「ああ、そう、彼の名前はアレク。コードネームは、「カチューシャ」。これは、あいつの得意な武器が戦車に似てるから付けられた、とある国の昔の戦車の名前」

「へえ……そうなんですね」

「すごいよ?マジで。ほんとに戦車だから!」

「あは、あはは……」

 

シノンはあの時見た、分厚い防弾チョッキや背中にしょった鉄パイプの塊を思い出し、苦笑いをした。

 

とあの装備がどうなるのかは分からないが、今でも十分戦車だった。

 

その時、ラクスが、急に店主にとある質問をする。

 

「……あ、そういえば店主さん。彼女の……シノンさんのコードネームって決まってるんですか?」

「あ……そういえば決めなきゃね。ふふ、忘れてたよ」

「やっぱり……」

 

店主が苦笑いで頭を掻き、ラクスが笑う。

だが、その話の本人であるシノンは、何の話なのかさっぱりだった。

 

するとやはり、ラクスが説明してくれる。

 

「あ、えーとね、コードネームってのは、仕事中とかに使う、プレイヤーネームとは違うもうひとつの……実名を数に含めれば三つ目の名前のこと。なんせこっちの世界じゃ、プレイヤーネームは個人情報ばりに機密事項だからね」

「そうなんですか……」

「ふふ、シノンさんには、少し新鮮というか、不思議かな?」

「はは……まあ、少し」

 

シノンは、少し笑って頷く。

 

確かに、名前を複数持つのは少し新鮮だった。

既に今、実名とは違った名前を持っているが、またそれとは別の話。

 

すると今度は店主が、シノンに質問した。

 

「シノンさんは、何かこれがいいっての、あるかい?」

「え……?」

「別に、特に決まりがある訳では無いからね。好きな名前で良いんだ」

「そう言われても……」

 

シノンはうーんと考え込む。

 

実際、プレイヤーネームをつけた時は、適当に自分の名前に「ン」を付けただけだから、そこまで深い意味は無い。

 

そんな自分の経験を回想しつつ、考え込むシノンの横で、いきなりラクスと店主が一緒に考え出した。

 

「スナイパーだから……「目」とか、「影」とか、「静」って感じかな?」

「お、いいねえ」

「【ゴッド・アイ】、【イーグル】、【シャドー】……」

 

ブツブツと名前を言っていく。

シノンはもう、自分で考えるのは諦めて、その言われているコードネーム候補の中から好きなのを選ぶことにした。

 

そしてその中で、シノンが唯反応する候補が出てくる。

シノンはとっさにラクスを止めた。

 

「……ット】」

「あ……!」

「……ん?どうかした?」

「その、それがいいです」

「え?それって?」

「今言ってた……【ク……?」

「ああ、【クワイエット】?」

「そう!それです!それがいい!それにします!」

「お、決まったねぇ。シノンさん」

 

やっと微かに聞こえた自分のお気に入り候補を確認し、それに決めたシノン。

 

そんなシノンは、自分のコードネームに正直、すごくしっくり来ていた。

【クワイエット】……何故かしっかり腑に落ちてきて、どこかかっこよく、そしてまた何か綺麗に感じたその言葉を、シノンは心の中で繰り返す。

 

そんな俗に言う「満足」という感情が無意識に現れているシノンを見て、店主がポツリとラクスに呟いた。

 

「……ふふ、似たもの同士だね」

「まあ……でも、そんな事言ったら店主さんだって……」

「僕は偶然そのキャラと僕のキャラがかぶっただけさ!」

「はいはい、そうですか。」

 

ははは、と、笑いあう店主とラクス。

満足そうにニコニコしながら座るシノン。

何故か未だ固まっているカチューシャ。

 

そんな平和な光景が、店内に広がっていた。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、感想欄である方にお知らせしたように、新キャラが某「虹〇S」のなんのオペレーターを組み合わせたのか、紹介したいと思います。

プレイヤーネーム…ウェーガン
コードネーム…ラクス
【ドク】【フューズ】【テルミット】

プレイヤーネーム…アレク
コードネーム…カチューシャ
【タチャンカ】【ルーク】【モンターニュ】

です!

「なんのことだよ」と思うかもしれませんが、この先に彼らが活躍した時にまたそれらしき表記をしようと思います。

「いやそうじゃなくて」という方は、一度「虹6S」と調べてみてください。

丸投げで申し訳ないですが、よろしくお願いします。

では。

【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!

【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!

【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。

【感想】
下のボタンをタップ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。