これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode30 二人 〜Two persons〜

『ビッグ・ボス』

 

それは、死銃の特定・捕縛を菊岡に頼まれたキリトが、この世界にやって来て真っ先に探そうとした人物。

 

菊岡の話では、彼は相当な実力者で、裏世界で恐れられているそうだ。

いつも、眼帯と鼻と口だけをカバーするタイプのガスマスクをつけ、恐ろしい手際で任務をこなす、凄腕のプレイヤー。

誰も素顔を見たことがなければ、使う武器すら分からない。

 

まさに、『プロフェッショナル』

 

彼は、この言葉そのものだ。と、教えられた。

 

だからキリトは、まず真っ先に彼を探そうと決意したのだ。

得体の知れない敵に一人で立ち向かう勇気は、SAOでつけたつもりでも、「今度こそ死ぬかもしれない」という恐怖が彼を襲ったからだ。

 

キリトは菊岡に、実に様々な質問をした。

 

彼はどこにいるのか。彼のリアルは分からないのか。

 

でも菊岡は、その質問に対して、()()すべて、こう答えた。

 

「今は、答えられない」

 

そしてその答えは、キリトには同時にこうとも答えたように聞こえたのだ。

 

「知っているが、教えられない」

 

と。

 

キリトは、その答えに落胆し、相当な葛藤を抱えそうになる。

 

ビッグ・ボス探しを優先するか、否か。

ビッグ・ボスの協力を得られれば、相当な優位性(アドバンテージ)を得られる事になる。

……が、だからと言ってビッグ・ボス捜索に明け暮れていては、時間が無い。

その間にも人の命が失われるかもしれないからだ。

 

そんなキリトの悩みが膨れに膨れ上がったその時に、菊岡は唯一、やっと手がかりを教えてくれたのだ。

 

「……実は、彼、ビッグ・ボスともう一人、こちらから派遣しているプレイヤーがいる。彼は今、ビッグ・ボスの支援を担当しているから、まずはそこから辿ればいい。彼の名は……」

「……!」

 

「『オセロット』。日本語で、『山猫』だ」

 

と。

 

 

「な、なぜその名前を……!」

 

話は戻り、キリトと店主との間で未だ続いている「ビッグ・ボス」についての会話。

 

店主はいつもの笑顔を引っ込めて真剣に、キリトはあからさまな警戒心を目に宿らせて、会話を続けていた。

 

「……なに、簡単な話さ。詳しくは言えないけど、僕は君を知っているからだよ」

「……」

「僕は、君の助けになりたいんだ。僕は決して敵じゃない」

 

そんな店主の発言に、釘を刺していくキリト。

 

「敵じゃない……?ならなぜ、ビッグ・ボスの名前を知っているんですか?彼は裏世界のプレイヤーでしょう?不自然じゃないですか」

「……」

「……?」

 

するとその時、いきなり、店主が黙り込む。

キリトがそれにつられて口を閉じると、店主がニヤリと笑って反論した。

 

「……ふふ、キリト君。その言葉、そっくりそのまま返す」

「……!」

「なぜ君は、コンバート初日にして、そのことを知っているんだい?」

「……!!」

「もっと言えば、彼は仕事のスタイル上、足繁くこの店通っている常連のプレイヤーですら名前を知らない。有名なのは、あくまで裏世界での話さ。なのに……何故?」

「そ……それは……!」

「……ふふ、こんな状況は、普通じゃありえない話だ。君は、何故かコンバートしたてなのに、裏世界の情報を持っている」

「……!」

「どう考えたっておかしい。でもそれは、()()のプレイヤーの話ならだけどね……」

 

店主は意味ありげに呟いた後、キリトをじっ……と見つめる。

キリトは、その視線に何もすることが出来なかった。

 

簡単にどんどん見透かされてそうになっていくキリトの事情。

店主の反論に対する驚きで、いつの間にか掻き消えた店主への警戒心。

 

どんどん話が進むにつれ、自分の事をどんどん知られているようで、キリト少し怖くなる。

 

ーもし、彼が死銃だったら……?

 

そう思うと、キリトは何も喋れなくなった。

 

……が、その話は突如として、店主の話へと移り変わった。

他の誰でもない、店主自身によって。

 

そしてそれが、この世界に来る前のある話と繋がる事になる。

 

「……でもね、キリト君。確かに君が言ったことは、僕自身にも当てはまる」

「は、はい。まあ……?」

「僕は君から見たら単なる小さな店の店主だ。それなのに、僕も彼の事を知っている……おかしいとは思わないかい?」

「ですよね……だから、その……」

「そうでしょう?どう考えたっておかしいよね。表世界のプレイヤー達はほとんど知らない裏世界の彼を、こんな小さな店の店主が知っている。でも、かと言って、僕が表世界のプレイヤーである証拠はない……という事は?」

 

店主が、キリトを試すような目をしてさ質問を投げかける。

キリトは、その視線を受けつつも考えた。

 

自分は、コンバート初日にして、裏世界の事を知っている。

なぜなら、自分は()()のプレイヤーとしてこの世界に来た訳では無いから。

 

店主は、小さな店の店主にして、裏世界の事を知っている。

だが何故、知っているのかは分からない。

 

この二つの姿を重ねた時、一つの答えが導き出た。

 

「あっ……!」

「ん?分かったかな?」

「まさかとは思いますが……」

「ふふ、いいよ、言ってごらん?」

「……店主さんも、僕と同じ、()()じゃないプレイヤー……ってことですか?」

 

その答えを聞いた時、店主が大きく息をついた。

まるで、「やっとか」というような、深い息を。

 

そしてやっと、キリトの探していた答えが、そこに現れた。

店主の、言葉となって。

 

「そう、その通りだよ。正解だ」

「……!」

「いいかい?キリト君。僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ」

「えっ……!?」

「君はきっと教えられているはずだ。ビッグ・ボスを支える、()()()()()()()()()()を。君を送り込んだ、菊岡さんから……ね」

「菊岡……!?って、まさか……!?」

「ふふ、分かってくれたかな?」

「……!!」

 

「そうさ。僕の名前はリボル。コードネームは、「オセロット」。ビッグ・ボスの支援担当だ。菊岡さんから聞いているよ。ようこそ、キリト君。歓迎しよう。」

 

「オセロット……!」

 

キリトは、信じられないと言うような顔をして店主を見る。

この人が、店主が、あの人物なのか。と。

 

もし本当にそうなら、キリトは相当の幸運に恵まれた事になる。

偶然声をかけたシノンに、偶然連れられてきたこの店で、偶然ビッグ・ボスへの第一歩をふみだせたからだ。

 

キリトが喜び反面、驚きを隠せずに呆気に取られていたのは、言うまでもないだろう。

 

 

そしてそれから、数分後。

 

さっきまでピンピンに張り詰めていた空気はもうそこにはなく、お互いに打ち解けあった二人が、そこで談笑していた。

 

話の内容は、もちろんビッグ・ボスについてだ。

 

「彼はね、武装を解くととても可愛いんだ。キリト君はシノンさんと同じくらいの背丈だから……。少し君より小さいくらいかな」

「そこまでですか!?」

「うん。顔も中性的で、とっても素直だよ」

「へぇ……なんか、想像できませんね」

「そりゃそうさ。だって、それが目的だからね」

「ああ、なるほど……!」

 

そういって、二人は笑い合う。

もちろん、店主はカウンターに立って、キリトは向かいに座る……という、あのいつもの構図でだ。

 

時折冗談を交えながら和やかに進んでいく二人の会話。

そんな中で、キリトがふと呟いた。

 

「ところで……ビッグ・ボスは今、どこにいるんです?」

「え……?ふ」

「?」

 

そんな呟き聞いた店主は、キリトを見つつ微笑む。

キリトはなぜ店主がそんな行動を取ったのかわからず、ただタジタジしてしまう。

 

そんな雰囲気が嫌で、キリトが店主に別の質問をした。

 

「なにか変なこと言いました?」

「いやぁ?そんなことは無いよ」

「え、じゃあ……」

「……あのね、キリト君」

「はい」

 

「彼は今、君の後ろさ」

 

「え!?」

 

キリトは、そんな店主の言葉につられて、後ろを向く。

するとそこには……

 

なんと、「彼」が、そこにいた。

 

 

 

「よう、あんたがキリトか。待たせたな」




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