これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
『ビッグ・ボス』
それは、死銃の特定・捕縛を菊岡に頼まれたキリトが、この世界にやって来て真っ先に探そうとした人物。
菊岡の話では、彼は相当な実力者で、裏世界で恐れられているそうだ。
いつも、眼帯と鼻と口だけをカバーするタイプのガスマスクをつけ、恐ろしい手際で任務をこなす、凄腕のプレイヤー。
誰も素顔を見たことがなければ、使う武器すら分からない。
まさに、『プロフェッショナル』
彼は、この言葉そのものだ。と、教えられた。
だからキリトは、まず真っ先に彼を探そうと決意したのだ。
得体の知れない敵に一人で立ち向かう勇気は、SAOでつけたつもりでも、「今度こそ死ぬかもしれない」という恐怖が彼を襲ったからだ。
キリトは菊岡に、実に様々な質問をした。
彼はどこにいるのか。彼のリアルは分からないのか。
でも菊岡は、その質問に対して、
「今は、答えられない」
そしてその答えは、キリトには同時にこうとも答えたように聞こえたのだ。
「知っているが、教えられない」
と。
キリトは、その答えに落胆し、相当な葛藤を抱えそうになる。
ビッグ・ボス探しを優先するか、否か。
ビッグ・ボスの協力を得られれば、相当な
……が、だからと言ってビッグ・ボス捜索に明け暮れていては、時間が無い。
その間にも人の命が失われるかもしれないからだ。
そんなキリトの悩みが膨れに膨れ上がったその時に、菊岡は唯一、やっと手がかりを教えてくれたのだ。
「……実は、彼、ビッグ・ボスともう一人、こちらから派遣しているプレイヤーがいる。彼は今、ビッグ・ボスの支援を担当しているから、まずはそこから辿ればいい。彼の名は……」
「……!」
「『オセロット』。日本語で、『山猫』だ」
と。
✣
「な、なぜその名前を……!」
話は戻り、キリトと店主との間で未だ続いている「ビッグ・ボス」についての会話。
店主はいつもの笑顔を引っ込めて真剣に、キリトはあからさまな警戒心を目に宿らせて、会話を続けていた。
「……なに、簡単な話さ。詳しくは言えないけど、僕は君を知っているからだよ」
「……」
「僕は、君の助けになりたいんだ。僕は決して敵じゃない」
そんな店主の発言に、釘を刺していくキリト。
「敵じゃない……?ならなぜ、ビッグ・ボスの名前を知っているんですか?彼は裏世界のプレイヤーでしょう?不自然じゃないですか」
「……」
「……?」
するとその時、いきなり、店主が黙り込む。
キリトがそれにつられて口を閉じると、店主がニヤリと笑って反論した。
「……ふふ、キリト君。その言葉、そっくりそのまま返す」
「……!」
「なぜ君は、コンバート初日にして、そのことを知っているんだい?」
「……!!」
「もっと言えば、彼は仕事のスタイル上、足繁くこの店通っている常連のプレイヤーですら名前を知らない。有名なのは、あくまで裏世界での話さ。なのに……何故?」
「そ……それは……!」
「……ふふ、こんな状況は、普通じゃありえない話だ。君は、何故かコンバートしたてなのに、裏世界の情報を持っている」
「……!」
「どう考えたっておかしい。でもそれは、
店主は意味ありげに呟いた後、キリトをじっ……と見つめる。
キリトは、その視線に何もすることが出来なかった。
簡単にどんどん見透かされてそうになっていくキリトの事情。
店主の反論に対する驚きで、いつの間にか掻き消えた店主への警戒心。
どんどん話が進むにつれ、自分の事をどんどん知られているようで、キリト少し怖くなる。
ーもし、彼が死銃だったら……?
そう思うと、キリトは何も喋れなくなった。
……が、その話は突如として、店主の話へと移り変わった。
他の誰でもない、店主自身によって。
そしてそれが、この世界に来る前のある話と繋がる事になる。
「……でもね、キリト君。確かに君が言ったことは、僕自身にも当てはまる」
「は、はい。まあ……?」
「僕は君から見たら単なる小さな店の店主だ。それなのに、僕も彼の事を知っている……おかしいとは思わないかい?」
「ですよね……だから、その……」
「そうでしょう?どう考えたっておかしいよね。表世界のプレイヤー達はほとんど知らない裏世界の彼を、こんな小さな店の店主が知っている。でも、かと言って、僕が表世界のプレイヤーである証拠はない……という事は?」
店主が、キリトを試すような目をしてさ質問を投げかける。
キリトは、その視線を受けつつも考えた。
自分は、コンバート初日にして、裏世界の事を知っている。
なぜなら、自分は
店主は、小さな店の店主にして、裏世界の事を知っている。
だが何故、知っているのかは分からない。
この二つの姿を重ねた時、一つの答えが導き出た。
「あっ……!」
「ん?分かったかな?」
「まさかとは思いますが……」
「ふふ、いいよ、言ってごらん?」
「……店主さんも、僕と同じ、
その答えを聞いた時、店主が大きく息をついた。
まるで、「やっとか」というような、深い息を。
そしてやっと、キリトの探していた答えが、そこに現れた。
店主の、言葉となって。
「そう、その通りだよ。正解だ」
「……!」
「いいかい?キリト君。僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ」
「えっ……!?」
「君はきっと教えられているはずだ。ビッグ・ボスを支える、
「菊岡……!?って、まさか……!?」
「ふふ、分かってくれたかな?」
「……!!」
「そうさ。僕の名前はリボル。コードネームは、「オセロット」。ビッグ・ボスの支援担当だ。菊岡さんから聞いているよ。ようこそ、キリト君。歓迎しよう。」
「オセロット……!」
キリトは、信じられないと言うような顔をして店主を見る。
この人が、店主が、あの人物なのか。と。
もし本当にそうなら、キリトは相当の幸運に恵まれた事になる。
偶然声をかけたシノンに、偶然連れられてきたこの店で、偶然ビッグ・ボスへの第一歩をふみだせたからだ。
キリトが喜び反面、驚きを隠せずに呆気に取られていたのは、言うまでもないだろう。
✣
そしてそれから、数分後。
さっきまでピンピンに張り詰めていた空気はもうそこにはなく、お互いに打ち解けあった二人が、そこで談笑していた。
話の内容は、もちろんビッグ・ボスについてだ。
「彼はね、武装を解くととても可愛いんだ。キリト君はシノンさんと同じくらいの背丈だから……。少し君より小さいくらいかな」
「そこまでですか!?」
「うん。顔も中性的で、とっても素直だよ」
「へぇ……なんか、想像できませんね」
「そりゃそうさ。だって、それが目的だからね」
「ああ、なるほど……!」
そういって、二人は笑い合う。
もちろん、店主はカウンターに立って、キリトは向かいに座る……という、あのいつもの構図でだ。
時折冗談を交えながら和やかに進んでいく二人の会話。
そんな中で、キリトがふと呟いた。
「ところで……ビッグ・ボスは今、どこにいるんです?」
「え……?ふ」
「?」
そんな呟き聞いた店主は、キリトを見つつ微笑む。
キリトはなぜ店主がそんな行動を取ったのかわからず、ただタジタジしてしまう。
そんな雰囲気が嫌で、キリトが店主に別の質問をした。
「なにか変なこと言いました?」
「いやぁ?そんなことは無いよ」
「え、じゃあ……」
「……あのね、キリト君」
「はい」
「彼は今、君の後ろさ」
「え!?」
キリトは、そんな店主の言葉につられて、後ろを向く。
するとそこには……
なんと、「彼」が、そこにいた。
「よう、あんたがキリトか。待たせたな」
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