これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode31 高揚 〜Elevation〜

「ふぅ……」

 

時は戻って、キリトがシノンに連れられて店に来た数分後の時。

 

荒野に一人、溜息をつきつつ寝そべって、スナイパーライフルを構えていたプレイヤーに、一通のメッセージが入ってきた。

差出人は、「オセロット」。宛先に書かれたプレイヤー名は、

 

「ビッグ・ボス」だ。

 

そんな寝そべっているプレイヤーことビッグ・ボスは、構えていたいつものM82A3に安全装置(セーフティ)を掛け、メッセージを開く。

 

「オセロット?なにか動きでもあったのか?」

 

ビッグ・ボスは、そんな呟きを漏らしながらそのメッセージを見る。

するとそこには、こう書かれていた。

 

代理人(カットアウト)接触(コンタクト)。今からすぐ来れるか?ボスの位置は分かってるから、来るなら到着時間に合わせて会話誘導する。仕事は、放棄してもらって構わない。僕が何とか取り繕っておく。とにかく、来れるなら敵の追撃を気にしつつ、危険区域(ホットゾーン)を離脱、至急こちらに来てくれ』

「何……!?」

 

ビッグ・ボスはもちろんの事、目を見張る。

代理人(カットアウト)。つまりそれは、あの時菊岡からのメッセージに書いてあった、「送り込まれたプレイヤー」の事だ。

 

もちろん、ビッグ・ボスは即座に立ち上がり、こうしてはいられんとばかりにを右手にM82A3引っ掴んで走り出す。

 

そして左手のウィンドウに短く、

 

『すぐ行く』

 

とだけ打ち込み、即座にオセロットに送った。

 

それと同時に、右手のM82A3を背中に回し、ベルトに固定して、常人ならざる速度で走りだす。

 

そんな彼の背中には、いつもにはない「高揚」という感情が、微かにあった。

 

 

ドスドスドス!

 

重く低い音が、武器や装備の重たさを示すかのように荒野に響く。

丘を越え、平地を走り抜け、偶然遭遇したプレイヤーを有無を言わさず投げ飛ばし、SBCグロッケンへ、あの店へと走っていく。

 

そして、あのメッセージを受け取ってから数十分後。

 

「つ、ついた!……っとと!」

 

荒野を恐ろしい速度で止まらず駆け抜け、その間にタスクにもどった彼は、店主の店の前にやって来た。

 

スピードが出すぎたせいか、店の扉を少し通り過ぎてしまう。

 

「はぁ……はぁ……よし」

 

そんなタスクは一息ついて、腰を落とし、そしてゆっくりと、()()で店の中に入っていった。

 

 

「っ……!」

 

一方こちらは、店主とキリトの会話が終わるのを待つべく、ひたすら棚を見ていたシノンだ。

 

シノンは今、口に手を抑え、必死に驚きの反射で出てくる声を押し殺していた。

 

原因は、いきなり棚の影から現れたタスク。

腰を落として、無音でいきなりやってきた彼を見たからだ。

 

「……ー!」

「しーっ!」

「……!!」

 

そのタスクは、必死に口に人差し指を当てる。

シノンは、その指示をなんとか従おうと、必死に声を押し殺した。

 

そしてやっと、声が収まった時。

 

そのまま!棚をみててください!

りょ……了解っ……!

 

タスクから、小声で指示が出される。

シノンはその指示にこれまた小声で答え、従って、また棚を見るフリをした。

 

……のだが、シノンはふと、タスクの動きからとあることを思い出す。

そして、そのせいか、そそくさと奥へ進もうとするタスクを小声で呼び止めた。

 

ちょっと!ねぇ!

なんですか!?

あんた何しようとしてるのよ!

え!?いや、その……

またなんか企んでたわね!?

うっ……!

まさか、背後からなにかするつもり?

そ、そんなことは……

はぁ……どうせそうでしょ。やったらただじゃおかないからね!

わ……分かりましたよ……

 

厳しい目で追求するシノンに、がっかりそうにそう答えたタスクはそれからさらに奥へと進んでいく。

シノンは、そんな彼の後ろ姿を心配気に横目に見つつ、彼に与えられた「仕事」を、淡々とこなした。

 

ほらやっぱり。まったく……

 

タスクが過ぎ去った後で、小さく悪態をついたシノンは、自分の予測が間違ってなかったことを確信する。

 

あの時、シノンが思い出したのは、あのダンボール事件だ。

あの時もおそらく、店主と話している時に隠れて近づいて、自分を罠にはめたのだ。忘れるわけがない。

 

だから、彼がまた、ましてや(なぜか)なんの関わりもない初心者プレイヤーにそんな事をしないようにと釘を刺したのだ。

 

ダンボールだけは、やめてよね……

 

そうシノンは呟いて、「仕事」に戻った。

 

 

ふぅ……

 

シノンと一悶着した後も慎重に進み、遂にカウンター机に対して直角に置かれた棚の後ろまで来ていたタスクは一旦、小さく一息ついた。

 

ここから、なんとか上手くキリトの視界に入らず、なおかつ足音や気配を消して、後ろに回り込まねばならない。

 

そう考えると、ここが最後の休息ポイントだった。

 

……さて、どうしようかな

 

難しい状況を打破すべく、タスクが思考を巡らせたその時。

とある妙案が、彼の頭に浮かび上がってきた。

 

ダンボールはダメって言われたし……。あっ……!それだ!

 

タスクは、もちろん小声で呟いた後、その思いついたアイデアを実行すべくとあるアイテムをウィンドウを操作し、実体化する。

そのアイテムとは、タスクの体がすっぽり入るような……

 

「ダンボール」だった。

 

タスクは、恐らくシノンが想定していたであろう「ダンボールの奇襲」を逆手に取って、自らが被ることを思いついたのだ。

 

よし……いける!

 

ダンボールを被り、確信をポツリと呟いて、タスクはゆっくりと歩き出す。

 

キリトの視界の右端をギリギリかすめて直進、壁まで行ってゆっくりと右に90°方向転換し、キリトを右前に見る。

そしてそのままゆっくりと前進して、キリトの後ろを横切り、少し離れてその場で止まった。

 

そしてその後で、タスクがダンボールの中でビッグ・ボスとなり、ダンボールから這い出てキリトの背後に立つ。

 

それを一部始終キリトの背後に見ていた店主が、ビッグ・ボスが何もしようとしないのを察して、あの言葉を口にした。

 

「彼は今、君の後ろさ」

 

……と。

 

店主は、

 

「どうせシノンに何か言われたのだろうなぁ……タスク君」

 

とも察したのだが、口には出さなかった。




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