これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

35 / 189
Episode34 ウインク ~Wink~

「……熱源を検知。人の形よ。場所は、目標(ターゲット)背後2mあたり。オセロットに指示を要求して」

「……了解」

 

ここは、総督府の地下にある、BOB参加者待機エリアの個室の中。

とある男女二人組のプレイヤーが、照明を落としたその部屋でしゃがみ、女の方が何か腕についた画面のようなものを触っていた。

 

男の方は、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったいかにも「暗殺者(アサシン)」と言った感じのキャラクター。

女の方は、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、これまた目だけが見えるマスクをし、軍用セミフェイスヘルメットを被ったキャラクターだ。

そのヘルメットの下から、短く切った金髪が見て取れるが、遠くから見たらわからないくらいにしか見えていない。

 

そんな彼らは今、とある「仕事」のために、この部屋にいた。

 

「……どう?」

「返信が来た。『了解、帰投せよ』としか書いてないけど…いいのか?」

「いいわけない。だって、シノ……いえ、クワイエットのリアルがもろバレしてるのよ?」

「うん、だよね」

「でも、きっとオセロットも何かあるんでしょ。さっさと帰るわよ」

「……うん。じゃあ……熱源の方は?」

「あのクソ機械ドクロは知らないわよ。それは彼の……キリトくんとやらの仕事。彼の周りなら、監視のクワイエットに任せればいいの」

「そうだね……了解。オセロットには、『()()()()回収後、帰投する』でいい?」

「うん、いいんじゃない?ってか、いちいち私の指示を要求しないでくれる?」

「だってリーダーはおまえだし……」

「うるさいわね?はやくして」

「り……了解」

 

そんな少し「友達」とは違ったニュアンスを含めた会話を交わしたふたりは、また、別々の作業に移る。

 

そのニュアンスは、「仕事」だからなのか、それともまた別のものなのか。

 

そんな彼らが、今、仕事を終えようとしていた。

 

 

ピコンピコン!

 

エレベーターが指定された階に着いたことを知らせる音を鳴らし、扉を開ける。

 

中から出てきたのは、シノンとキリトだ。

同時に、BOB参加プレイヤーからの、恐ろしい視線を受ける。

 

「……」

「……!」

 

もう慣れた、と言わんばかりにしれっとしているシノンと、初めて来た上、シノンのすぐそばにいる故に、周りからの視線を集め、ビクリと怯えるキリト。

 

「……」

コツコツ……

「ああっ……待って……!」

 

そんな視線や、震えるキリトなどつゆ知らず、シノンは真っ直ぐ待機エリアの中にある個室へと歩き出した。

キリトは慌ててそれを追う。

 

参加者達も、さすがにシノンを知らない者はいない。

シノンはもちろんそんなこと承知の上であり、ビクビクと震えるキリトを後ろに、熱い、または違った視線を浴び続けながら歩いていく。

 

するとその時。

 

「……!?」

「……?」

 

シノンが()()()()()()()どのすれ違いざまに、いきなり立ち止まって後ろを向いた。

キリトもそれにつられて後ろを向く。

 

するとそこには、二人のプレイヤーが、エレベーターに向かって歩いている後ろ姿があった。

 

「どうか……しましたか?」

 

キリトが、そんな彼らの背中を見つつ、シノンに問いかける。

 

もちろん、キリトは彼らに会ったことはない。

それもそのはず、このゲームにコンバートしてきたのは今日なのだ。

 

シノンなら、そこそこの人脈があってもおかしくない。

なんてったってあの店主らの人脈ですら持っていた彼女だ。実際のところはそこそこ以上かも知れない。

だが、問題なのは、そのシノンですら会ったことのないプレイヤーを見るような目をしているのだ。

 

知り合いならその場で話せばいいし、知り合いでなければそもそも振り返らない。

なのに、いきなり振り返ったと思えば、その背中を明らかに驚いた目で凝視している。

 

どう考えても、辻褄が合わない。

だからキリトは疑問に思って質問したのだ。

 

するとシノンからは、キリトですら驚く答えが帰ってきた。

 

「あの……、先頭の女性プレイヤー……私にウインクして行ったんだけど……!?」

「え……?ウインク……!?」

 

キリトは、少し嫌な気配を覚える。

 

知らない相手から、いきなりされるウインク。

その行動は、SAOで少なからず身についた、「挑発」に対する感覚に引っかかった。

 

「なにか……怪しいですね」

「う……うん……」

 

お互いがお互いの仕事を持っている以上、あんな事をされたら放っておくのは少々怖い。

……が、彼らはもう、エレベーターで上の階に上がっていた。

 

キリトもシノンも、どこか引っかかるやな予感を押しのけつつ、仕事を続行せざるを得ない。

 

ただ、二人の思惑だけは、同じだった。

 

《彼女がもし死銃だとしたら、きちんとマークしておかなければならない》

 

という、思惑が。

 

そんな思惑から、キリトは死銃を捕まえる為、シノンはキリトを守る為に、「マークすべき」という共通の警戒意識が二人に芽生える。

 

だがその思惑は、二人とも、胸の奥にしまった。

お互いがお互いに、気づかれないように。

 

 

「ふぅ……とりあえずは、任務完了ってとこだね……」

「う……うん……」

 

ところ変わって、エレベーター内部である。

任務の完了に安堵の表情を見せているのは、()()彼らだ。

 

今回の任務で()()()()を使い、シノンにウインクをかました女性プレイヤーと、フードを目深くかぶった男性プレイヤー。

 

彼らもまた、裏世界のプレイヤーである。

 

そんな彼らのこなしたこの任務が、後に死銃事件の解決に多大な功績を及ぼすことを、彼らはおろか、シノンやキリト、はたまた店主やタスクまで、まだ知らない。




【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!

【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!

【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。

【感想】
下のボタンをタップ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。