これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode38 ロングマガジン 〜Long magazine〜

「なんなのよ、あいつ!」

 

BOB予選の次の日。

 

本戦開始の少し前からログインし、店主の店にやってきたシノンは、早速怒りを顕にしていた。

 

「ま、まあまあ。あれはあれでなかなか……」

「店主さん!そこは口出さない方が……!」

 

店主がなだめに入るも、余計な事を口走りそうになってタスクに止められる。

 

そう、シノンは今、自分の仕事である、「キリトの監視・援護」の対象、キリトに対し、憤慨しているのだ。

 

理由は、多々ある。

 

シノンの話によれば、

・裸を見た

・性別を偽った

・情報交換という名の一方的なシノンからの情報提供

・試合中に後ろ腰にタッチ

などなど、店主やタスクが聞いても苦笑いな苦行をぽんぽんとしているらしい。

 

もちろん、あのキリトが。

 

店主やタスクに関しては、一番下の「試合中に後ろ腰にタッチ」は、昨日ラクス達と完全に生中継ディスプレイを通して見てしまっているので、容認せざるを得ない。

 

これについては、その光景が映った瞬間、タスクに対して店主達全員から気まずい目線が送られてきたという、弊害も発生しているため、タスクにとっても許せない(訳では無いのだがとりあえずそういう名目な)のである。

 

「あいつ!絶対に敗北を告げる弾丸の味を味あわせてやる!」

「ま、待って!それは仕事が……!」

「店主さん……!」

 

怒りのあまり、仕事すら放棄して復讐に燃えるシノン。

そんな彼女に、店主が止めに入るが、タスクがまた押し止める。

 

そんな光景が、ひたすら続いていた。

 

 

「ふぅ……」

「お……落ち着いた……かい?」

 

それから、約10分後。

 

シノンは、やっと怒りが収まっていた。

背後には、心底疲れたような、またどこかほっとした表情のタスクと店主が机に突っ伏している。

 

「はぁ……はぁ……シノンさん、怒ると怖いね……ってか、怒りっぽいのかな?」

「また……!店主さんが余計なこと言うから……!」

「何か言いました?」

「「いえ何も」」

 

シノンがくるりと振り返り、そんな店主たちを心配そうに見るが、彼らは本心を話さない。

 

理由は明白。本心を話してしまえば、またシノンの怒りが再燃するからだ。

 

「そっ……そうだ!シノンさん!もうすぐ本戦だよ?」

 

そしてその再燃しかねない話題を無理矢理曲げるかのように、店主が話を変える。

 

シノンは、そんな店主の声を聞き、はたと時計を見ると、こくりと頷いて俯いた。

 

「「……?」」

 

そしてシノンは、先程の怒り狂った表情とはうって変わった、どこか儚げな顔をして、深呼吸を繰り返す。

 

そんなシノンを見たタスクと店主は、ふとその仕草の意味に気づくと、顔を見合わせて微笑んだ。

 

「ふふ……なんだ、やっぱり緊張してるじゃないか」

「ま、初の単独仕事ですしね」

 

タスクは、分かりきっていたように笑う。

 

「誰だって怖いですよ。なんてったって、()()()()()()()()()()()()()……」

「そうだよ……ね。SAO時代のタスク君そっくりだ」

「な……!!」

 

店主の悪戯な笑みを恨めしく見るタスク。

だが店主は、そんなタスクの視線などつゆ知らず、いきなり左手を操作しだした。

 

「……?」

 

タスクは、先程までの視線を引っ込め、今度は純粋な疑問の目を店主に向ける。

すると、店主の手に、あの()()()()()()()が現れた。

 

「それって……!」

「そう。シノンさんの、G18のやつ」

「……!ふふ」

 

店主の意図を察したタスクは、自らも左手を操作し始める。

 

そして、すべてゲームシステムに任せ、椅子に座ったまま、()()()()()()

 

 

「シノン?」

「……!?」

 

いきなり聞こえてきた、そして()()()()()低い声に、シノンは飛び上がるように反応した。

そしてその声の主を、瞬時に視界に収める。

 

そう、もちろんそこには、ビッグ・ボスがいた。

 

いつものガスマスクに眼帯をつけ、ゴツゴツしいスーツを身にまとった、あのビッグ・ボスが。

 

「ボス!?」

「……なんだ、いちゃダメか?」

「い、いやそんなことは無いけど……!」

 

シノンはおろおろとして、いきなり現れたビッグ・ボスにどう反応すればいいか分からない。

 

そんなシノンを見たビッグ・ボスは、シノンの隣のカウンター席に座ると、おもむろに左手を操作し、ストレージからあるものを取り出す。

 

それを見たシノンは、驚きの目をしてボスとそれを交互に見た。

 

「え……!?それって……?」

「ロングマガジンだ。G18の。オセロットに預けたまんまだったろ?」

「ま、まぁ……」

「今回はこれを使え。弾は俺の奢りだ。全部満タンにしてある」

「奢りって……!?」

「マガジン内のスプリングもチューニング済みだよ?給弾が良くなるはず」

「店主さんまで……!」

 

いきなり飛んできた二人の優しさに、シノンは緊張が解れていくのを感じる。

 

それが顔に出たのか、ビッグ・ボスと店主も内心でほっとした。

 

「BOBの本戦は、いつものフィールドと違う。牽制用にばら撒いた所で戦況は変わらない。逃げると言っても限界があるし、接敵時の危険性が上がるだけだ。だからこれは、()()()()()()()()()()()()()使え」

「ボス……!」

 

ビッグ・ボスが、ロングマガジンを手渡しながらそんな説明を重ねてくる。

店主も、それを微笑みながら見守っていた。

 

そして、シノンの顔がいつも通りの、なんの気負いもない顔に戻った時。

 

「シノンさん、時間だ」

「……!」

 

ついに、BOB本戦に向かう時がやって来た。

シノンは、すっとカウンターから立ち上がり、店の出口へと歩いていく。

 

そして、その扉に手をかけた時。

 

「シノン!」

「!」

 

 

 

「楽しんでこい!幸運を祈る!」

 

 

 

「……!ええ、もちろん!」

 

ボスの激励とともに、死銃との決着の場へと送り出された。

 

 

 

そして、そんなシノンの背中が見えなくなった時。

 

「……さて、僕らも行こうか」

「ああ。」

 

店主とタスクが互いに頷き、左手のウィンドウから、二人同時に()()()()()を押し、二人が光の粒になって消えた。

 

 

BOB本戦開始まで、あと少しである。




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