これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode40 菊岡 〜Chrysheight〜

「んー、もうBOB始まってるかなー?」

「まだ……じゃないですか?あとちょっとですけど」

 

そんな雑談をしながら、妖精なのになぜか歩いている、ケットシーのタスクと店主。

 

そんな彼らは、いつの間にか菊岡に示されたあの「座標」の位置へと歩いてきていた。

 

「あっ!ここです!」

「え?ここかい?これまたたいそうな……」

 

そう言って、二人はそこで上を見上げる。

 

するとそこには、大きな「建物」があった。

窓を見ると、中にわいわいと多種多様な妖精が賑わいを見せている。

 

「まさか、こんな所で話すんじゃないだろうね……?」

「たぶん、そのまさかだと思いますけどね」

 

店主が、冗談めかして苦笑いする。

 

そう、そこは、いわゆる「酒場」だった。

「VRMMOに来てまで酒かよ!」と思うかもしれないが、よく考えてみれば、そこにしかない酒だってあるかもしれないのだ。酒場だってあってもおかしくない。

それに、VRMMOなら飲食物の感触はすべて擬似的なものだ。

未成年が飲んでもなんら問題がないため、少し背伸びしたいお年頃の青年達に向けても、需要は割とあるのかもしれない。

 

かといって、タスクはもちろん、店主も酒はあまり好まないから、別に酒自体は問題ではない。

 

店主が苦笑いする理由であるその「問題」。それはつまり、「機密保護」のためである。

 

菊岡に、()()()()()使()()()渡されるほどの情報だ。

そこそこの機密があると言っているようなものなのだ。

そしてその指定場所がこの「酒場」と来た。

 

本当に大丈夫なのか、と心配にならない方がおかしい。

 

「全く……あの人は何を考えているのやらね」

「え?」

 

そう呟きながら、店主はその酒場の扉に手をかける。

タスクはもちろん戸惑った。

 

「は、入るんですか?」

「もちろん」

「時間がいつかは知りませんけど、外に入れるなら外にいた方が……」

「それもそうだけど、正直時間はもうすぐだし、それに……ほら?」

 

店主がニコニコしながら扉の方へと視線を向ける。

するとそこには、扉を中から開けた一人の若い青年の妖精が立っていた。

 

「旦那ら、なんで店の前でずっと突っ立ってるんすか?入って入って!飲みましょうや!」

「ね?」

「ね?じゃないですよ!」

「ほらほら!飲みまっせ!」

「あ、あの……その……!」

パタン

 

タスクの言い分など全く耳に入れず、その妖精に店に連れ込まれる二人。

 

結局、二人はその喧騒に、飲み込まれるしかなかった。

 

 

「う、うう〜……っ」

 

それから、10分後。

 

その酒場のカウンターには、突っ伏したタスクと、ニコニコ笑ってコップ片手にマスターと談笑する店主がいた。

 

「あら〜!お宅らGGOから来たの!?いいねぇ、私も一度行こうかな!」

「いや〜!マスターも銃の感覚が病みつきになっちゃうかも!」

「いいね〜!」

「なんなら私の店に来てくれれば銃一丁タダで差し上げますよ?」

「ほぉんとに?てか店開いてんの!?なんだ、同業者じゃないか!」

「しまったバレた〜!」

 

店主は、さらりとセールスを混ぜこみつつ話を繰り広げる。

一見はただの客だろうが、その会話を続けると同時に、店主はしっかりと確認していた。

 

それは、「現在の時刻」と、「酒場内のプレイヤーの構成」である。

 

時刻はたった今、指定時刻になった状態。

タスクも突っ伏しながらとは言え、その事は分かっているらしく、腕の隙間から周りをチラチラと見ている。

 

酒場のプレイヤー構成は、現状は問題ない。

皆視線はカウンターの反対側にあるステージに向いているし、武器を隠す時に変わる体の角度や重心をその場にいるプレイヤー全員を逐一確認しても、特に怪しい者はいない。

 

つまり、ここではある程度までは問題ないということだ。

そこまで確認し、店主はマスターとの話を切ろうとする。

……が、その必要は無かった。

 

「さて、じゃあ……」

「マスター。僕にも一杯貰えるかな?」

「……!?」

 

いきなり飛んできた声の方向に、驚きを伴って店主が首を回す。

するとそこには、「あの情報」通りの、「プレイヤー」がいた。

 

背が高く、メガネをしていて、髪が青い妖精。

彼の目は、明らかにこちらを意識していた。

 

そして店主が、いくらそのプレイヤーが情報通りとはいえ、警戒の目を向けたその瞬間。

 

()()()()()()()()を伴って、そのプレイヤーから、言葉が飛んできた。

 

「やあ!タモンさん?それにタスク君。お久しぶりだね。僕の名前は、クリスハイト。()()()()()()では」

「……!!」

 

タスクもその話し声に反応し、即座に顔を上げる。

 

そして二人は言われずとも理解した。

 

彼の名は、

 

「菊岡だよ」

「「……!」




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