これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「んー、もうBOB始まってるかなー?」
「まだ……じゃないですか?あとちょっとですけど」
そんな雑談をしながら、妖精なのになぜか歩いている、ケットシーのタスクと店主。
そんな彼らは、いつの間にか菊岡に示されたあの「座標」の位置へと歩いてきていた。
「あっ!ここです!」
「え?ここかい?これまたたいそうな……」
そう言って、二人はそこで上を見上げる。
するとそこには、大きな「建物」があった。
窓を見ると、中にわいわいと多種多様な妖精が賑わいを見せている。
「まさか、こんな所で話すんじゃないだろうね……?」
「たぶん、そのまさかだと思いますけどね」
店主が、冗談めかして苦笑いする。
そう、そこは、いわゆる「酒場」だった。
「VRMMOに来てまで酒かよ!」と思うかもしれないが、よく考えてみれば、そこにしかない酒だってあるかもしれないのだ。酒場だってあってもおかしくない。
それに、VRMMOなら飲食物の感触はすべて擬似的なものだ。
未成年が飲んでもなんら問題がないため、少し背伸びしたいお年頃の青年達に向けても、需要は割とあるのかもしれない。
かといって、タスクはもちろん、店主も酒はあまり好まないから、別に酒自体は問題ではない。
店主が苦笑いする理由であるその「問題」。それはつまり、「機密保護」のためである。
菊岡に、
そこそこの機密があると言っているようなものなのだ。
そしてその指定場所がこの「酒場」と来た。
本当に大丈夫なのか、と心配にならない方がおかしい。
「全く……あの人は何を考えているのやらね」
「え?」
そう呟きながら、店主はその酒場の扉に手をかける。
タスクはもちろん戸惑った。
「は、入るんですか?」
「もちろん」
「時間がいつかは知りませんけど、外に入れるなら外にいた方が……」
「それもそうだけど、正直時間はもうすぐだし、それに……ほら?」
店主がニコニコしながら扉の方へと視線を向ける。
するとそこには、扉を中から開けた一人の若い青年の妖精が立っていた。
「旦那ら、なんで店の前でずっと突っ立ってるんすか?入って入って!飲みましょうや!」
「ね?」
「ね?じゃないですよ!」
「ほらほら!飲みまっせ!」
「あ、あの……その……!」
パタン
タスクの言い分など全く耳に入れず、その妖精に店に連れ込まれる二人。
結局、二人はその喧騒に、飲み込まれるしかなかった。
✣
「う、うう〜……っ」
それから、10分後。
その酒場のカウンターには、突っ伏したタスクと、ニコニコ笑ってコップ片手にマスターと談笑する店主がいた。
「あら〜!お宅らGGOから来たの!?いいねぇ、私も一度行こうかな!」
「いや〜!マスターも銃の感覚が病みつきになっちゃうかも!」
「いいね〜!」
「なんなら私の店に来てくれれば銃一丁タダで差し上げますよ?」
「ほぉんとに?てか店開いてんの!?なんだ、同業者じゃないか!」
「しまったバレた〜!」
店主は、さらりとセールスを混ぜこみつつ話を繰り広げる。
一見はただの客だろうが、その会話を続けると同時に、店主はしっかりと確認していた。
それは、「現在の時刻」と、「酒場内のプレイヤーの構成」である。
時刻はたった今、指定時刻になった状態。
タスクも突っ伏しながらとは言え、その事は分かっているらしく、腕の隙間から周りをチラチラと見ている。
酒場のプレイヤー構成は、現状は問題ない。
皆視線はカウンターの反対側にあるステージに向いているし、武器を隠す時に変わる体の角度や重心をその場にいるプレイヤー全員を逐一確認しても、特に怪しい者はいない。
つまり、ここではある程度までは問題ないということだ。
そこまで確認し、店主はマスターとの話を切ろうとする。
……が、その必要は無かった。
「さて、じゃあ……」
「マスター。僕にも一杯貰えるかな?」
「……!?」
いきなり飛んできた声の方向に、驚きを伴って店主が首を回す。
するとそこには、「あの情報」通りの、「プレイヤー」がいた。
背が高く、メガネをしていて、髪が青い妖精。
彼の目は、明らかにこちらを意識していた。
そして店主が、いくらそのプレイヤーが情報通りとはいえ、警戒の目を向けたその瞬間。
「やあ!タモンさん?それにタスク君。お久しぶりだね。僕の名前は、クリスハイト。
「……!!」
タスクもその話し声に反応し、即座に顔を上げる。
そして二人は言われずとも理解した。
彼の名は、
「菊岡だよ」
「「……!」
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