これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode4 決意 〜Determination〜

「引き金は引きたくないんだよなぁ……」

 

タスクは、ポツリと呟く。

その内容は、いかにシノンを制圧するかだ。

 

タスクは女性に対し、あまり引き金は引きたくない。もっといえば、弾が当たるコースに銃口すら向けたくない。

 

それは男性の本能的なものだと言われればそれまでだが、こんな世界に身を置いているとしても、女性は女性だ。

せめて異性に対してぐらい、生物的でなければ、この仕事で正気を保ってられないのだ。

 

これは、この仕事をやる上で意外に重要なことだ。

まあ……気の狂った方々は容赦しないらしいが、そんな非人間じみた事をしても、周りから人が引いていくだけだ。後はなんにも残らない。

だからやっぱり、タスクは気が向かない。

 

別に、だからと言ってこの仕事を放棄する訳では無いし、殺らねばならない時は容赦するつもりはない。

だが、今はこちらが一方的に待ち伏せ、頭を撃ち抜こうとしているのだ。

ついてるものがついてる方ならわかるだろう。少し引け目を感じるよね?

 

とまあ、こんな感じの葛藤が、タスクの中に渦巻いていた。

 

「……!でもまてよ?」

 

その時、タスクは、ある可能性について思いついた。

 

「PK依頼って事は、別に依頼主はなにかアイテム欲している訳では無い。おそらく依頼主がモンスターを狩って、帰るまでの時間が欲しいんだろう。……てことは、銃口を適当に当たらないコースに向けて外しておけばそれはそれでいいんじゃ……?」

 

タスクは、警戒そっちのけで思案する。

それもそうだ。タスクの仕事上、葛藤ほど面倒なものはない。

だが……

 

「いや、ダメだな。彼女の経験と性格じゃ、おそらくすぐに時間稼ぎがバレて逆上し、報復心を増させてしまう。それだけはなんとしても避けたい。」

 

う〜んと考え込むタスク。

 

「どうしようか……できれば当たるコースの銃口は向けたくない。もっといえば、引き金すら引きたくない。かと言って、適当に相手をしてどうにかなる相手でもない……なら、あれしかないか。」

 

そしてタスクは、やっと結論づけた。

その結論は……

 

「CQC」による、近接戦闘制圧での制圧だ。

 

こうすればシノンに当たるコースの銃口を向けることもないし、生半可な相手をしているようにも見えない。

なんてったってスナイパー戦だ。そんな戦闘で、まさか近接攻撃をしてくるとは思わないだろう。

 

ちなみに「CQC」とは、「近接戦闘」の事だ。

これは、ステルスで仕事をしだした時、敵に発見された場合の対処法として習得したスキルの一つだ。

タスクはこのスキルをこれでもかと言うくらいかちあげていた。

 

つまり、例えタスクを発見しても、その発見した距離が10m以内なら、武器を取り出す前に絞め落とされるという事だ。

これを習得した時、めちゃくちゃ役に立ったのを覚えている。

 

これでシノンを制圧すれば手を抜いたとは思われないし、きっちり時間を稼ぐことも出来る。

タスクは、「これだ!」と言わんばかりに拳を握りしめた。

 

まあでも、少なからず牽制で引き金を引かねばならないが、そこは仕事だからとぐっと我慢する。

だが、絶対にシノンに当たるコースに銃口を向けない。これは、自分の中の約束として、胸の中にしまった。

 

 

それから時は経ち、今、日の出である。

結局決意を決めたあの夜にシノンは現れず、粘り強く待つしかなかった。

 

ちなみに、この仕事の期限は今日である。

今日中にシノンを仕留め……いや捕まえなければ、仕事は失敗だ。

 

そんなプレッシャーも重なって、タスクは非常に苛立っていた。

 

「どんだけ待てばいいんだこれ……」

 

タスクは時間を確認する。リアルの時間は午前1時。そして月曜日だ。

学校に行かねばならない日である。

まだ午前1時なら大丈夫だ、と思われるかもしれない。だが、スナイパー対スナイパー戦は、意外に長引くことが多々ある。

それによって学校を遅刻するなんて、分が悪い。

 

だからタスクは、いい区切りがついた今のタイミングでログアウトしてしまおうと考えた。

 

タスクはとりあえず、店主へとメッセージを送った。

予想していたのか、返信は早い。

 

『1度現実へ帰投する。仕事は学校から帰投した時に再開する』

『了解。ちなみに、シノンも学生という情報がある。なるべく早く帰ってきて、再開した方が有利だ。どうするにせよ、今はシノンもログインしている可能性は低い』

『了解。じゃ』

 

そう言ってタスクは、左手で空中に浮かぶディスプレイを出す。

そして、その中にある「Logout」の所を押した。

 

 

「ただいま」

 

タスクは、ゆっくりと目を開ける。目の前にはリアルの自宅の玄関…ではなく、いつものSBCグロッケンの光景が広がっていた。

今、午後4時。学校から帰ってきた直後である。

いち早く仕事に戻るため、帰ってきてすぐログインしたのだ。

 

「さ〜てと。行きますかぁ」

 

そう言って、タスクは走り出す。

これでも、ステータスの一つ、AGI(俊敏性)は、バカ高くしてある。

並大抵のプレイヤーでは追いつけない。

よって、すぐに街から出て、荒野フィールドが迫ってきた。

同時に左手でウィンドウを開き、いつもの眼帯とマスク、そしてバトルドレスを選んだ。

一瞬でタスクの服が変わる。そして、いつもなら手で付けるマスクと眼帯も、今日はゲームシステムに任せ、自動でつけてもらった。

 

「よし」

 

タスクは、パパッと自分の体と顔に手を当て、きちんと装備されているか確認する。

そしてまたウィンドウを開き、今度は「ウェポン」のところを選んだ。

 

「ほいほいっと」

 

タスクは、慣れた手つきで武器を選択し、ウィンドウを閉じる。

すると、まず「M82A3」が出てくる。それを、ぱっと受け取ってすぐに左の背中に回す。そしてそれは、バトルドレスに内蔵されたベルトに固定された。

 

そして次に「デザートイーグル+サイレンサー」が出てくる。

これは、サブウェポンとして仕事の時に愛用しているハンドガンだ。

といってもこの銃、ハンドガンとは名ばかりで、誰でも聞いたことがあるだろう、「AK-47 カラシニコフ」と、威力がほぼ同じなのだ。

一部では、「ハンドキャノン」とも言われているらしい。

故に、少し大きめで反動もでかい。しかもサイレンサーをつければ相当物騒に見える。

が、タスク自身このカスタムが一番しっくりきていた。なぜなら、威力が高いということは、同時に射程も伸びるということだ。

つまり、わざわざメインウェポンを使わなくても約100m周囲はサイレンサーによる消音効果も加わって、簡単にステルス制圧できてしまう。

これもCQC同様、手に入れた時すごい役に立った。

タスクはのこれを、すぐに右後ろ腰のホルスターにしまう。

 

その次に、仕事に必要な小物類がホイホイ出てくる。

グレネード、双眼鏡、通信アイテム、交換用マガジン、空マガジン、クレイモア、C4、折りたたまれたダンボール。

タスクは、そんな細々としたものを全て正確にキャッチし、バトルドレスの至る所にあるポケット、ベルト、バックに詰めていった。

 

とまあ、タスクはこんな装備を全力疾走しながら装着し終えた。

背中の左側には長いスナイパーライフル。右後ろ腰には大きなハンドガン、そしてバトルドレスの様々なところに大小の膨らみがある。

どう考えても、物騒極まりない装備である。

まあ、仕事自体他のプレイヤーとは天と地ほどの物騒さがあるのだが。

 

そしてタスクがあらかじめ決めておいた位置に着いた時。

遂に、シノン対タスクの戦闘が始まった。




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