これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode50 最終局面 〜Last phase〜

「くしゅん!……っ!」

 

東京都。カラスが寂しく鳴き、1日の終わりを告げる時刻。

 

そんな大都市のとあるアパートで、シノン、もとい朝田詩乃は、冷えきった部屋で、くしゃみに促されるように目を覚ました。

 

正確には、()()()()()

 

「……はあ」

 

ため息をつき、ゆっくりと起き上がった彼女は、頭についているアミュスフィアを外す。

 

すると、電気をつけていない、暗い部屋の中を、自宅なのにも関わらず恐る恐る見回した。

 

電気をつけ、リビングはもちろん、簡易設置型のクローゼット、ベッドの下、台所に、その横にある風呂場を、まるで証拠を探す刑事のように見回す。

 

「馬鹿みたい……!」

 

そんな自分の仕草に、こんな言葉が漏れる。

 

結局、というよりはもちろん、そんな「捜索」も甲斐なく、詩乃の部屋の中には何も、誰も、なんの証拠もなかった。

 

「はぁ……!!」

 

そして、心底安心したかのように、大きく息をついて詩乃は座り込む。

 

「……」

 

床を見つめると、自然に頭の中で蘇る。

死銃の恐ろしい犯行方法と、その対象が自分である事実。

 

そしてそれを、淡々と話す、あの「少年」の姿。

 

その記憶が鮮明にあるからか、「犯人が自分の部屋にまだいるかもしれない」なんていう、変な不安がよぎってこんなことをしてみたが、何も異変はなかった。

 

「……さて……と」

 

そして詩乃は、ゆっくりと立ち上がる。

()()()()()へと、戻るために。

 

するとその時。

 

ピンポーン

「……!?」

 

突然、「来客」を告げるインターホンが鳴った。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

一人の少年が、すっかり日の落ちた夜の住宅街を走る。

 

黒いジャンバーに、黒色のズボン。

 

いつか言われた、「黒の剣士」。

そんな異名、そのままな服装で。

 

「私の名前は、朝田詩乃。住所は……」

「え!?」

 

必死に走る中、ついさっき、()()()()()()()()()が、頭の中で、リピート再生されているかのように、何回も聞こえてくる。

 

「やっぱりダメだ!いかなきゃ!」

 

回想を振り切るかのように、首を振るその少年。

 

「住所は、アスナが持ってきていたのと同じだった!菊岡の呼ぶ警察だって、間に合うかわからない!やっぱり……!」

 

そして、そんな状況判断とその整理をするかのように呟く少年、キリト、もとい桐ヶ谷和人は、走り続けた。

 

「来なくて……大丈夫よ」

 

一刻も早く、そんなことを言っていた、でも助けを待っているであろう「あの彼女」のために。

 

そんな感情からか、その背中はどこか、焦りという感情が滲み出ていた。

 

「頼む……!間に合え!」

 

そんな、呟きもまた然り。

 

 

目標(ターゲット)が入ってから、約5分たった。まだ行かないのか?》

「ああ……シノンはそんなヤワじゃない」

 

未だ屋根に座り続けるボスは、そんな声を右耳のイヤホンに送る。

 

《……ボス。いくらなんでも……》

「わかってる」

《じゃあなぜ?》

「今にわかる」

《……?》

 

オセロットが困り果てている様子が、マイクに集音される、ため息と環境音から聞いて取れる。

 

……が、次の瞬間。

 

《あっ……!》

「……な?」

 

ガタッ!という、オセロットがせまい車内で立ち上がったとしか思えない環境音がする。

 

そして、

 

《なるほど……。わかった、了解だ。幸運を》

「ああ」

 

そういって、オセロットは通信を切った。

 

 

 

 

そんなまさにその時、シノンのアパートに、キリトが到着したのだった。

 

 

「朝田さん!朝田サン!アサダサン!」

 

押し倒し、上に被さった上で、まるで呪文のように彼女の名前を唱える新川の狂気の沙汰に、詩乃は恐怖を覚える。

 

 

やっぱり。

 

 

そう言わんばかりに、詩乃は「あの彼」との会話を思い出す。

 

死銃の仲間が、自分の部屋にいるかもしれない。

あの戦闘中、無防備に寝ている自分を殺そうとしているのかもしれない。

 

そしてその死銃の仲間は、たとえBOBが終わって、現実に帰ってきても詩乃の部屋にいるかもしれない。

 

そんな予測を立てて、部屋の中を捜索してみたが、誰もいなかった。

 

そりゃそうだ。

死銃に殺られてもないのに、ましてや現実に帰ってきたのに、いるわけがないのだ。

 

そこで気を抜いたがために。

 

「知り合いだ」、そんな先入観のせいで、その「死銃の仲間」を、おそらく()()招き入れてしまった。

 

全く、なんの疑いもせず。

 

「や、やめ……て……!!」

 

あまりの恐怖に、そして後悔に、そう言って詩乃がゆっくり目を閉じる。

 

するとその時。

 

バリィン!

ガチャッ!

「「シノンから離れろ!」」

 

()()()()()が、一方は玄関のドアから、もう一方は、玄関の反対側にあるガラス窓から、飛び込んできた。

 

「え……?」

ゴッ!

 

詩乃がその音にビクッとした時。

 

新川の顔が、玄関のドアからはいってきた、()()少年に膝蹴りされる。

 

ガッ!

 

そして新川がよろけた瞬間、窓から入ってきた、()()()()()の少年に、後ろ膝を蹴られて倒された。

 

「がはっ……!」

バタン!

「……」

「ぐ……うぁぁぁ!」

 

すぐさま、倒れた新川が、立ち上がりざまに眼帯マスクの少年に殴り掛かる。

 

……が。

 

ドカッ!

「がはっ!」

 

まるで大人と子供のように、新川が窓側へと投げ飛ばされた。

 

それも、殴りかかってきた右手を掴み、背負うようにして、軽々と。

 

「……!」

 

その洗練された動きに、詩乃は目を見開く。

 

するとその時。

 

「け……怪我はないか?」

 

詩乃の後ろから、やさしい声が聞こえてきた。

 

「あ、あなた……!」

 

咄嗟に振り返った詩乃はその時、その少年の雰囲気から、何かに気づく。

BOBで共闘した、あの面影とその少年がぼんやりと重なり、一致する。

 

「まさか……!」

「……!」

「キ……キリト!?」

「お、おう……」

 

その結果、あまりの驚きに、思わず名前を叫んでしまった。

 

それもそのはず。

シノン、つまり詩乃は、向こうの世界で「こなくてもいい」と言ったのだ。

 

なのになぜ……と、詩乃は一瞬思考する。

 

するとその時……

 

「僕の……」

「……!」

「僕の朝田さんに触るなぁ!」

「あっ……!」

 

新川が、よろよろと立ち上がって絶叫し、さっき新川を投げ飛ばした少年に殴りかかった。

 

それを、絶叫につられて振り返って見た詩乃は、完全に思考が止まり、絶句する。

 

……が。

 

「……シノンを頼む。キリト」

「え?お、おう」

「……?」

 

その殴りかかられかけてている少年は、ふいっと振り返り、和人に余裕綽々に声をかけた。

 

なぜか和人は、予想もしていなかったらしく、少し慌て気味に返事をしたが。

 

詩乃は、少なからずそんな対応に疑問を持つ。

 

全く同じタイミングで飛び込んできたくせに、何故そんな疑問形なのか。

 

それに、なぜその声をかけるのがこのタイミングなのか。

本来なら、まずは防御が先決のはずだ。

 

だが、そんなことを考える暇などなかった。

 

「……ふん」

ドスドスッ!

「がっ……!?」

「せいっ!」

バキッ!!

 

その少年が、あっさりと新川の攻撃を避け、右横腹、左胸、そして右頬を殴打したからだ。

 

そんな()()()コンビネーションアタックをもろとも受けた新川は、為す術もなく倒れ込む。

 

「……」

「ぐっ……!クソがぁ……!」

 

そして新川は、倒れたそのまま、黙って見下ろしているその少年を見上げた。

 

「だいたい……!誰だおまえ!!」

「単なる……傭兵まがいの学生だが?」

「傭兵ィ……?はぁ!?意味わかんねーよ!!」

 

傭兵まがいという言葉に、詩乃ははっと息をのむ。

そんなことを言うのは、「あの彼」しかないからだ。

 

だが、そんな詩乃など目に入らず、詩乃の思考を打ち消すかのように、新川は、じれったくなったのか発狂しだす。

 

「ううう……ああああ!!!殺してやる!お前ら全員、殺してやるううううう!!!」

「殺す?」

「そうだよ……お前なんか、お前なんかなぁ!」

「はぁ……いいか?よく聞けクソ野郎」

「な!?……っ!!」

 

その少年が、発狂する新川に口を挟み、ギロりと睨む。

新川は、あまりの眼力に怯んで絶句する。

 

するとその少年は、倒れた新川を指さし、

 

 

 

 

 

「お前に、俺は、殺せない」

 

 

 

 

 

そう、言い放った。

 

「な……なに!?なんだと!?もう一度……!」

 

新川は、怯みつつも抵抗する。

……が、その少年はまた口を挟んで、

 

「それにな?」

「な……!」

「後ろの彼女は()()()()じゃない」

「……!」

「あの二人は、()()()()()()狙撃手(スナイパー)剣士(ナイト)なんでね」

「な……!」

「そんな簡単に、やすやすと手を出してもらっては……」

「……!」

「困る」

「ぐ……!」

 

そしてまた、ギロりと睨んだのであろう。

新川は、相変わらず倒れ込んだまま、怯む。

 

その場に沈黙が訪れた、その時。

 

「ね、ねえ、あなた……!」

 

突然、詩乃が、後ろからその少年に声をかけた。

 

その少年はもちろん、新川も、ピクリとその声に反応する。

 

「も、もしかして……!」

「うわぁぁぁぁぁあ!」

 

そして、詩乃が問いかけようとした時。

 

新川が、隙を狙ったかのように、立ち上がってまたその少年に殴りかかった。

 

今度は、手に何か、「白いもの」を持って。

 

「あっ……!!」

「おい……!!」

 

それに気づいたのか、詩乃と和人が声を上げる。

 

……が。

 

「甘い」

バシン

「な……!!??」

グイッ……ギリッ!

「が……!!がはっ……!」

 

その白いものは、その少年の体にあたる直前に叩き落され、そしてそのまま、流れるように新川は、その手を掴んで羽交締めを決められた。

 

「ぐ……!!」

「……それがおまえの「黒星」か」

「……!!う、うるさい……!」

 

羽交締めをしながら、淡々と質問するその少年。

もちろんのこと、新川は何も答える気などないようだった。

 

すると、その少年はひとつため息をついて……

 

「はあ……分かった」

「……!」

「今すぐ、知っていることをすべて、」

「……!!」

 

「吐け」

 

「……!」

 

羽交締めをしながら、新川に尋問し始めた。

 

詩乃と和人は、その()()姿()を、見守るしかない。

 

「仲間は……どこだ?」

「お前になんか……!お前になんか、教えるものか!」

 

新川の、必死の抵抗が部屋に響く。

そして、そんな声を境に、沈黙が訪れる。

 

「吐かないんだな」

「お、お前なんかに……」

「……」

ギチ…

「ぐっ!」

 

声がすると言っても、この程度。

 

そしてその後、約5分たち……

 

「そうか。分かった」

「……?」

 

その少年の、一際大きな、そして半ば諦めの感情が混じった声が沈黙を破る。

 

 

 

「残念だ」

 

 

 

そしてその少年がそう呟いたその直後。

 

ギチギチギチ!

「ングッ……!!」

 

今度はある意味「グロい」音が、部屋に響く。

 

「これが、()()()()()()というものだ」

「ア……アガ……!!」

()()()()()()で懺悔するといい」

「や……!やめ……ろ……!!」

 

その少年はそれでも、淡々と声を出す。

 

そんな音と状況に耐えかねず、詩乃が声を上げようとしたその時。

 

「も、もうやめ……!!」

バタン!

 

()()()()()新川が、音を立てて倒れた。

 

詩乃は、それを見て恐怖する。

和人も例外ではなく、その光景を凝視していた。

 

二人の脳裏に、さっきの少年の言葉が蘇る。

 

『これが、()()()()()()というものだ』

()()()()()()で懺悔するといい』

 

そして、無力に倒れる新川。

ピクリとも動かないその体。

 

 

 

…………『殺した』。

 

 

 

詩乃と和人はそう悟り、息をのみ硬直する。

 

目の前の光景を凝視し、動かなかった。

正確には、「()()()()()()」。

 

目の前に()()()、「人間の命」。

 

和人は「あの時」の、()()()()()、光の粒子を、

詩乃は「あの時」の、()()()()()()、紅の液体を、

 

それぞれ瞬時に思い出し、完全に思考が停止していた。

 

「「っ………!!!」」

 

姿勢すら変えず、視線も逸らさず、二人は倒れた新川を凝視し続ける。

 

……が、するとその時。

 

 

 

「なーんて……ね?」

 

 

 

さっきとは一転。

小さい子供のようなトーンの、そして「あの彼」のによく似た、()()()な声が、部屋に響いた。

 

「「へ?」」

 

虚をつかれた二人の、マヌケな声も、その後に。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

ついに!始まりましたね!アニメGGO!
え?間に合わなかった?
ナンノハナシカナ-(;・3・)~♪ 

ちなみに、死銃編はまだちょーっとだけ、続きますよ!

ではまた!よろしくお願いします。

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