これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode51 幕引き 〜Curtain〜

「いやぁ、二人ともお疲れ様!」

「は、はあ……ありがとう……ございます?」

「おい……シノンがこまってるぞ」

 

そんな会話が聞こえる、都内のとある高級レストラン。

 

対面式の6人がけの席で片方に菊岡が、それに対してもう片方に詩乃と和人が並んで座り、向かい合っている。

 

菊岡はいつものように微笑んで、まずは……と言わんばかりの前置きを繰り出していた。

 

「君たちはよく頑張ってくれた。本当にありがとう」

「い……いえ、私は何も……」

 

そんな、菊岡の優しい言葉に謙遜する詩乃。

 

そこには、「ただ仕事をしただけ」という、自制心があった。

あるいは、ボスなら……という、どこか憧れのような感情からかもしれない。

 

「なーに言ってるんだ。シノンがいなきゃ、あいつは倒せなかった」

「そ、そんな……」

 

そんな彼女を見て、今度は和人が声を掛ける。

 

ただ、その言葉は単なる気遣いからだけではなかった。

 

あの時、近接戦闘に発展し、膠着していたあの瞬間。

もしシノンからの、あの「援護」なければ、死銃の懐に斬り込めなかった。

それに、心強い味方でいてくれた「彼ら」の元へ、()()()()()()()導いてくれたのも、詩乃だ。

 

そこから、どこか「感謝」に似た感情が、今でも和人には常にある。

 

「……そ、そんなことよりも!」

「?」

 

すると詩乃は、気恥しい気持ちからか、雰囲気を変えようと話を変える。

 

「し……!新川君は……いえ、恭二君は、どうなるんですか?」

「……!」

「やっぱり、少年院……とか?」

 

勢いよく切り出したはいいものの、話の内容からか、みるみるその勢いは衰え、詩乃は一転してどこか恐る恐る菊岡に聞く。

すると菊岡は、すこし考えるような仕草を見せ、ゆっくりと息を吐く。

 

その後で、ゆっくりと話し出した。

 

「そう……だね。おそらく恭二君達……いや、新川兄弟は、()()少年院に収容される可能性が高いと思うよ」

()()……少年院?」

 

そんな菊岡の答えに、少し疑問を持つ詩乃。

 

何故、単なる「少年院」ならともかく、「()()少年院」なのか。

確かに、あの少年……()()()()()の少年に、過剰と言えるほどボコボコにはされていたが、あの後あの少年は、

 

「なーんてね。……やだなぁ!殺すわけないじゃないですか!失神させただけですよ!」

 

なんて言って、

 

「そいじゃーまたね!シノンさん!キリトくん!」

 

……とか言いながら、颯爽と窓から消えていった。

 

そもそもあの少年はいったい誰なのかも気になる。

まあ……あらかた予想はついているが。

 

とにかく、そんなことよりも、流石に自分が殺っておいて死体を置いていくわけがないし、だいたい、あんな簡単に人を殺れる人間などそういない。

 

そんな様々な疑問と思考が詩乃の顔に現れたのか、菊岡はまた、話し出す。

 

「そう。恭二君の兄、昌一君は、取り調べに対して、「死銃事件はゲームだ」なんて言ってるし……まあ、「医療」というよりは「矯正」かな」

「……」

「彼らは二人とも、()()というものを持っていないわけだし……ね?そういう意味での、矯せ……」

「それは……違うと思います」

「い?ん?……というと?」

 

その時、詩乃が、いきなり菊岡の話途中に言葉を挟む。

 

「恭二君……彼はきっと、GGOの中だけが真の現実と決めていたんだと思います」

「ほう……」

「私に襲いかかってきたあの時、恭二君は、「ゼクシード」ってプレイヤーにすべてを壊された……なんて言ってましたし……」

「なるほど……ね」

 

そう言って、俯く詩乃。

信頼していた友達に、殺されそうになった恐怖が蘇る。

 

そんな彼女を見て、その感情を察したのか、菊岡と和人がまた声をかけようとしたその時。

 

「まあ……」「詩乃……」

「だから!!」

「「!」」

「だから……!その……、私は、恭二君に会って、自分が今まで何を考えてきたか、今何を考えているのか話そうと思います」

「……!」

 

さっきの表情とはとは一転、明確な意思を持って、真っ直ぐな眼差しではっきりとそう口にする詩乃。

 

そんな彼女の眼差しは、どこか「あの彼」に似ていた。

 

「……ふふ、詩乃……いえ、シノンさん」

「はい……?」

 

そんな眼差しを受け、ふっと息をつき、微笑んで詩乃を見る菊岡。

 

「あなたは強い人だ。是非、そうしてください」

「……!ありがとうございます」

「手配は済み次第、連絡するから、少し時間をもらうよ?」

「はい……!よろしくお願いします」

 

そこまで話して、今度は詩乃がふっと息をつき、気が抜けたのか、表情が柔らかくなる。

 

すると、そんな顔を見て、菊岡が冗談交じりで不意に()()()()を呟いた。

 

「……ふふ、流石、()()に認められただけはあるね」

「あっ……!」

「え……?今、なんて……!!」

 

すると今度は、キリトが口を挟む。

 

そして先程の詩乃のように、恐る恐る、菊岡に質問した。

 

「今言った、()()って、まさか……?」

「……そうだよ?ビッグ・ボスたちさ」

「な……!ってかどういう事だ!?」

「その……!ごっ……!ごめん!キリト……!言おうと思ってたんだけど……その……!」

「……なるほどね。そういうことかよ……!!」

 

呆れたようにため息をつく和人。

 

実は彼は、前々から疑問だったのだ。

 

「なぜ、()()()()をしでかしたのにも関わらず、シノンはずっと、助けてくれたのか」

 

……が。

 

死銃と戦う傍ら、むしろ戦っている時だからこそ、その疑問は時間が経つにつれ、和人の胸の中で膨れ上がっていた。

それと同時に、内心で、ただやさしさだけではない()()が、シノンにはあると……。

そしてそれが、シノンが自分を助けてくれている動機であると、踏んでいたのだ。

 

そして今、その()()が、()()によるものだと理解し、納得する。

というより、ストンと腑に落ちた。

 

そこから和人は、詳しくは追求しなかった。

詳しくは知らなくとも、それだけ分かれば十分だからだ。

 

その代わり、

 

「どおりでやたら強いなと思ったよ……」

「そ、それは!私の実力よ!」

 

そんな、あえて「ふざけた事」を和人は抜かす。

それを聞いて、詩乃はきっ!と和人を睨む。

 

「はは、若々しくて、仲がいいねえ、おふたりさんは」

 

そんな彼らを見て、菊岡はまた微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

……こうして、死銃事件は幕を下ろしたのである。

 

 

「……さて、そろそろ、時間だね」

「「……!」」

 

その後しばらく食事を交えつつ雑談を交わし、楽しい時間を過ごした三人。

 

その時間の終わりを菊岡がつけ、立ち上がった時。

 

「あ……そうだ」

「……?」

「忘れてたよ。和人くん」

「俺……か?俺になにか?」

 

これもまた菊岡が、どこか()()()()()()何かを思い出す。

 

そして、スーツの中に手を入れ、何やらごそごそと動かして、

 

「そう。君に、さ」

 

そう言って、1枚の丁寧に折り畳まれた紙を出した。

 

「……!なんだ?それは」

 

当然のごとく、和人は疑問に思う。

 

すると菊岡は、少し目を細め笑うと、まさかと思うようなことをさらりと口にした。

 

「伝言……だ」

「伝言……?」

「そう。君に宛てた、()()からの伝言」

「……!!」

 

和人は唖然とする。

ついでに言えば、詩乃もぽかんとしている。

 

()()と言えば、そう。ビッグ・ボス達だ。

 

詩乃でさえ、彼らが伝言をしてくるなど全く思ってなかったのだ。

和人なんて、もってのほかである。

 

「読んでも……いいかい?」

 

するとそんな彼らへ、菊岡はそう尋ねる。

 

二人は、はっと我に返ると、

 

「あ……!ああ。読んでくれ……」

 

その二人のうち、もちろん、宛てられた本人である和人が、菊岡を促す。

 

そして、菊岡のものではない、()()()()()()調()の言葉が、菊岡の口から淡々と、和人達二人に向かって放たれた。

 

「ゴホン!……では……

『やあ!キリトくん。お疲れ様。そしてありがとう。君は立派に役目を果たしてくれた。心より感謝する。

 

……さて。短いけれど前置きはこのくらいにして、さっさと本題に入ろう。

今回、菊岡さんに、こんな伝言をお願いした理由は、きっと分かっているよね。

そう。当然、「君が、僕らの一員になるのかどうか。」さ。

 

今きっと君の隣に座っているであろうシノンさん、つまり詩乃さんは、知ってると思うけど、既に僕らの仲間として、活動してくれている。

彼女もまた、「君を守る」という仕事をしっかりと果たしてくれた。

 

まあ……お世話になっちゃってた部分もあったけど、それはお互い様としよう。

 

……君の()()()()()()()も、含めてね。

 

えっとそれで、話を戻して……

君が僕らの一員になってくれれば、もちろん嬉しい。

大きな戦力になり得るし、なにより心強いからね。

 

……でもね、君はもう居場所がある。

アスナさんたちのところさ。

 

だから、無理にとは言わない。

 

君が、君自身のことを考えて、君のために決断を下してほしい。

 

僕らはどちらでも構わないよ。

いつでもいいし、いつまでも待ってるから、返事をちょうだいね。

 

それと、こんなこと言ってるけど、君はもう既に僕らの「仲間」であることは変わりない。

 

もし「一員」にならなくても、いつでもいらっしゃい。

 

僕らはいつでも歓迎しよう。

 

 

 

リボル、コードネーム:オセロットより。

 

また会おう!』

……以上だ。」

 

菊岡の、伝言の朗読が終わり、場の空気がしん……と静まり返る。

 

そして、

 

「……分かった。確かに受け取ったよ」

 

和人がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

……そしてこの()()も、幕を下ろしたのである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やーっと死銃編が終わった?
まだだ、まだ終わらんよ!!!(`✧ω✧´)ピカァ

もー少し、(てか結構、)続きます!
お楽しみに!

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