これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「いやぁ、二人ともお疲れ様!」
「は、はあ……ありがとう……ございます?」
「おい……シノンがこまってるぞ」
そんな会話が聞こえる、都内のとある高級レストラン。
対面式の6人がけの席で片方に菊岡が、それに対してもう片方に詩乃と和人が並んで座り、向かい合っている。
菊岡はいつものように微笑んで、まずは……と言わんばかりの前置きを繰り出していた。
「君たちはよく頑張ってくれた。本当にありがとう」
「い……いえ、私は何も……」
そんな、菊岡の優しい言葉に謙遜する詩乃。
そこには、「ただ仕事をしただけ」という、自制心があった。
あるいは、ボスなら……という、どこか憧れのような感情からかもしれない。
「なーに言ってるんだ。シノンがいなきゃ、あいつは倒せなかった」
「そ、そんな……」
そんな彼女を見て、今度は和人が声を掛ける。
ただ、その言葉は単なる気遣いからだけではなかった。
あの時、近接戦闘に発展し、膠着していたあの瞬間。
もしシノンからの、あの「援護」なければ、死銃の懐に斬り込めなかった。
それに、心強い味方でいてくれた「彼ら」の元へ、
そこから、どこか「感謝」に似た感情が、今でも和人には常にある。
「……そ、そんなことよりも!」
「?」
すると詩乃は、気恥しい気持ちからか、雰囲気を変えようと話を変える。
「し……!新川君は……いえ、恭二君は、どうなるんですか?」
「……!」
「やっぱり、少年院……とか?」
勢いよく切り出したはいいものの、話の内容からか、みるみるその勢いは衰え、詩乃は一転してどこか恐る恐る菊岡に聞く。
すると菊岡は、すこし考えるような仕草を見せ、ゆっくりと息を吐く。
その後で、ゆっくりと話し出した。
「そう……だね。おそらく恭二君達……いや、新川兄弟は、
「
そんな菊岡の答えに、少し疑問を持つ詩乃。
何故、単なる「少年院」ならともかく、「
確かに、あの少年……
「なーんてね。……やだなぁ!殺すわけないじゃないですか!失神させただけですよ!」
なんて言って、
「そいじゃーまたね!シノンさん!キリトくん!」
……とか言いながら、颯爽と窓から消えていった。
そもそもあの少年はいったい誰なのかも気になる。
まあ……あらかた予想はついているが。
とにかく、そんなことよりも、流石に自分が殺っておいて死体を置いていくわけがないし、だいたい、あんな簡単に人を殺れる人間などそういない。
そんな様々な疑問と思考が詩乃の顔に現れたのか、菊岡はまた、話し出す。
「そう。恭二君の兄、昌一君は、取り調べに対して、「死銃事件はゲームだ」なんて言ってるし……まあ、「医療」というよりは「矯正」かな」
「……」
「彼らは二人とも、
「それは……違うと思います」
「い?ん?……というと?」
その時、詩乃が、いきなり菊岡の話途中に言葉を挟む。
「恭二君……彼はきっと、GGOの中だけが真の現実と決めていたんだと思います」
「ほう……」
「私に襲いかかってきたあの時、恭二君は、「ゼクシード」ってプレイヤーにすべてを壊された……なんて言ってましたし……」
「なるほど……ね」
そう言って、俯く詩乃。
信頼していた友達に、殺されそうになった恐怖が蘇る。
そんな彼女を見て、その感情を察したのか、菊岡と和人がまた声をかけようとしたその時。
「まあ……」「詩乃……」
「だから!!」
「「!」」
「だから……!その……、私は、恭二君に会って、自分が今まで何を考えてきたか、今何を考えているのか話そうと思います」
「……!」
さっきの表情とはとは一転、明確な意思を持って、真っ直ぐな眼差しではっきりとそう口にする詩乃。
そんな彼女の眼差しは、どこか「あの彼」に似ていた。
「……ふふ、詩乃……いえ、シノンさん」
「はい……?」
そんな眼差しを受け、ふっと息をつき、微笑んで詩乃を見る菊岡。
「あなたは強い人だ。是非、そうしてください」
「……!ありがとうございます」
「手配は済み次第、連絡するから、少し時間をもらうよ?」
「はい……!よろしくお願いします」
そこまで話して、今度は詩乃がふっと息をつき、気が抜けたのか、表情が柔らかくなる。
すると、そんな顔を見て、菊岡が冗談交じりで不意に
「……ふふ、流石、
「あっ……!」
「え……?今、なんて……!!」
すると今度は、キリトが口を挟む。
そして先程の詩乃のように、恐る恐る、菊岡に質問した。
「今言った、
「……そうだよ?ビッグ・ボスたちさ」
「な……!ってかどういう事だ!?」
「その……!ごっ……!ごめん!キリト……!言おうと思ってたんだけど……その……!」
「……なるほどね。そういうことかよ……!!」
呆れたようにため息をつく和人。
実は彼は、前々から疑問だったのだ。
「なぜ、
……が。
死銃と戦う傍ら、むしろ戦っている時だからこそ、その疑問は時間が経つにつれ、和人の胸の中で膨れ上がっていた。
それと同時に、内心で、ただやさしさだけではない
そしてそれが、シノンが自分を助けてくれている動機であると、踏んでいたのだ。
そして今、その
というより、ストンと腑に落ちた。
そこから和人は、詳しくは追求しなかった。
詳しくは知らなくとも、それだけ分かれば十分だからだ。
その代わり、
「どおりでやたら強いなと思ったよ……」
「そ、それは!私の実力よ!」
そんな、あえて「ふざけた事」を和人は抜かす。
それを聞いて、詩乃はきっ!と和人を睨む。
「はは、若々しくて、仲がいいねえ、おふたりさんは」
そんな彼らを見て、菊岡はまた微笑む。
……こうして、死銃事件は幕を下ろしたのである。
✣
「……さて、そろそろ、時間だね」
「「……!」」
その後しばらく食事を交えつつ雑談を交わし、楽しい時間を過ごした三人。
その時間の終わりを菊岡がつけ、立ち上がった時。
「あ……そうだ」
「……?」
「忘れてたよ。和人くん」
「俺……か?俺になにか?」
これもまた菊岡が、どこか
そして、スーツの中に手を入れ、何やらごそごそと動かして、
「そう。君に、さ」
そう言って、1枚の丁寧に折り畳まれた紙を出した。
「……!なんだ?それは」
当然のごとく、和人は疑問に思う。
すると菊岡は、少し目を細め笑うと、まさかと思うようなことをさらりと口にした。
「伝言……だ」
「伝言……?」
「そう。君に宛てた、
「……!!」
和人は唖然とする。
ついでに言えば、詩乃もぽかんとしている。
詩乃でさえ、彼らが伝言をしてくるなど全く思ってなかったのだ。
和人なんて、もってのほかである。
「読んでも……いいかい?」
するとそんな彼らへ、菊岡はそう尋ねる。
二人は、はっと我に返ると、
「あ……!ああ。読んでくれ……」
その二人のうち、もちろん、宛てられた本人である和人が、菊岡を促す。
そして、菊岡のものではない、
「ゴホン!……では……
『やあ!キリトくん。お疲れ様。そしてありがとう。君は立派に役目を果たしてくれた。心より感謝する。
……さて。短いけれど前置きはこのくらいにして、さっさと本題に入ろう。
今回、菊岡さんに、こんな伝言をお願いした理由は、きっと分かっているよね。
そう。当然、「君が、僕らの一員になるのかどうか。」さ。
今きっと君の隣に座っているであろうシノンさん、つまり詩乃さんは、知ってると思うけど、既に僕らの仲間として、活動してくれている。
彼女もまた、「君を守る」という仕事をしっかりと果たしてくれた。
まあ……お世話になっちゃってた部分もあったけど、それはお互い様としよう。
……君の
えっとそれで、話を戻して……
君が僕らの一員になってくれれば、もちろん嬉しい。
大きな戦力になり得るし、なにより心強いからね。
……でもね、君はもう居場所がある。
アスナさんたちのところさ。
だから、無理にとは言わない。
君が、君自身のことを考えて、君のために決断を下してほしい。
僕らはどちらでも構わないよ。
いつでもいいし、いつまでも待ってるから、返事をちょうだいね。
それと、こんなこと言ってるけど、君はもう既に僕らの「仲間」であることは変わりない。
もし「一員」にならなくても、いつでもいらっしゃい。
僕らはいつでも歓迎しよう。
リボル、コードネーム:オセロットより。
また会おう!』
……以上だ。」
菊岡の、伝言の朗読が終わり、場の空気がしん……と静まり返る。
そして、
「……分かった。確かに受け取ったよ」
和人がそう呟いた。
……そしてこの
いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。
やーっと死銃編が終わった?
まだだ、まだ終わらんよ!!!(`✧ω✧´)ピカァ
もー少し、(てか結構、)続きます!
お楽しみに!
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