これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「……!」
シノンは、だんだん現実味を帯びてくる体の感覚を感じつつ、ゆっくりと目を開ける。
キリトに誘われて行った先で会った、
娘の無邪気な笑顔と、「ありがとう」というあの言葉。
どちらも、別れて家に帰り、GGOに来た今でも、鮮明に頭に残っている。
「……がんばらなきゃな」
それをまた思い出し、手を握りしめるシノン。
でも、自分がそれを背負ったことで、救えた人達がいる。
その事実を、「わかっている」だけでなく、きちんと「知っている」状態になったということは、彼女の中で、大きな
「さて……と」
そうして彼女は
この世界を、間接的には、現実の世界の平和を、守る為に。
✣
ガチャリ……カランカラーン……
「いらっしゃいませー!」
シノンが店の扉を開けると、いつものごとく店主の声が聞こえる。
そんな声を聞きつつ、棚の間を抜け、カウンターまで歩いていくと……
「……おや、シノンさん!こんにちは」
「はは……どうも」
店主はシノンを見ると、挨拶をする。
すると。
「お待たせ」
「……!」
「できてるよ」
店主は、何か意味ありげに微笑んで、シノンを見た。
シノンもシノンで、その笑みの意味は理解している。
そして……
「……はい」
ガシャッ
「……!!」
店主は、カウンターの下から、「
槍のように突き出したバレルと、その先についた少し大きめのマズルブレーキ。
比較的スリムな金属製のボディと、アクセントのように目を引く木製のグリップとストック。
そして、その上に鎮座する大きなスコープ。
もうお分かりだろう。
そう、シノンの愛銃、「ウルティマラティオ ヘカートII」である。
「あ、ありがとうございます……!!」
「いえいえ。それだけの事をしてくれたから、お返ししたまでさ」
シノンは少し高揚しつつ、店主に感謝の言葉を言う。
使い慣れた愛銃が、ほぼ新品同様になるのは、誰だって嬉しくなるだろう。
「〜♪」
シノンは、珍しく鼻歌を歌いながら、ヘカートIIを手に取って撫でる。
実はシノンは、BOBでの死銃戦の際、死銃に、スコープを撃ち抜かれていた。
逆を言えば、スコープのおかげでヘッドショット即死判定を免れたのだが……
その対価だろうか、スコープは愚か、
なぜならば、スコープが撃ち抜かれた時、精密さを求めて、誤差のないようガッチリと固定されていたレールが、その固定の強さが仇になり、引き上げられるように破損してしまったからだ。
それにより、フレームに、シリンダーにと衝撃が伝わり、全体のバランスが崩れてしまった。
ネジというネジが折れて歪んで、パーツというパーツが使い物にならないほど形が崩れてしまったのだ。
そこで、シノンが店主に修理を依頼。
店主はもちろん快諾し、任務の報酬も兼ねて、
「……あれ?」
「ん?」
するとその時、シノンが、ヘカートIIの
店主は、そんなシノンを見て、ふふふと微笑んだ。
「これって……?」
「ああ。少しいじらせてもらったよ」
そう言って、店主はヘカートIIへ目線を落とす。
それにつられて、シノンもヘカートIIへ目線を戻した。
そう、実は店主は、修理だけではなく、
これに関しては、店主と
「どうりで、なんか重たいなと……!」
「ふふ、ごめんね……?」
「い、いえ!むしろありがたいです……!」
「そう……?よかった!」
店主は、シノンの明るい顔にほっとする。
ヘカートIIには、基本パーツの交換はもちろん、カスタムパーツの組み込みや、付属パーツの取り付けがなされていた。
コッキング速度、ゆくゆくは速射力増強に繋がる、ストレートプルボルト。
遠近両方に対応できるように、スコープの前のレールに取り付けられた、斜めにせり出すオフセットアイアンサイト。
その他、後付けサイドレールを装着し、レーザーポインターや、弾道計算装置が取り付けられていた。
後付けサイドレールは、シノン好みのパーツがつけられるように2〜3本程度、空きが作られてある。
もちろんこれだけではなく、ほぼすべてのパーツが入念に吟味され、カスタム化されていた。
セーフティーレバーやトリガーに至るまで、どこのどんなパーツも、研磨し噛み合わせをタイトにして、精度を上げる程に。
「すごい……!本当に、ありがとうございます……!」
それを、使い手だからか一瞬で察したシノンは、頭を下げて礼を言う。
……が。
「いやいや、だからね?」
「……!」
「僕は、君の仕事の対価にそれをしただけだ。礼を言われるようなことはしてないよ」
「そ、そんな……!」
少し謙遜も含み、店主は微笑みながら固く礼を拒む。
それを受けたシノンは少し、むしろ残念そうに口を噤んでしまった。
すると、それを見た店主が、
「ふふ……まあでも、そこまで礼を言いたいなら、タスク君に言ってあげて」
「……え?」
「彼も彼で、
「……!」
シノンが目を丸くし、そして少し、頬を赤らめる。
「むしろ、礼を言うなら、そっちが
「……わ、わかりました」
「うん。……よろこんでくれてよかったよ」
そう言って、店主はそそくさとレジに戻り、来客を待つ姿勢に戻る。
……が、店主は見逃していなかった。
シノンの、頬の紅潮を。
「やっぱり、青春だねぇ……」
そんなことを呟いて、微笑む店主。
だがもちろん、本人であるシノンには、その呟きは聞こえていなかった。
✣
そして、しばらくした後。
ガチャ…
「やっほー!シノノン!息してるー?」
「へ!え!?はい!?……きゃっ!」
ヘカートIIを眺めたり、触ったりしていたシノンに、射撃演習場から一人のプレイヤーが飛び出してきて、そのまま飛びついてきた。
「いやー!近くで見てもやっぱかわいいね!どれどれ……」
するとそのプレイヤーは、そんなことを言って、シノンの体の至る所を触り始め、
「ひ……!きゃんっ……!」
シノンが、店主ですら聞いたことないような悲鳴をあげる。
……すると、次の瞬間。
ゴンッ!
「あいだぁ!」
そのプレイヤーの後頭部が赤く光った。
「すまんな。うちのアホが……」
「い……いえ……」
あまりの衝撃にそのプレイヤーは、ゆっくりと倒れていく。
その後ろにいつの間にか立っていて、拳に赤いエフェクトが煌めくプレイヤーが詫びを入れる。
想像には難くない。
シノンにある意味「痴漢」をしていたプレイヤーが、その後ろに立つプレイヤーに後頭部を殴られたのだ。
そんな
「……あっ!!」
「……?」
「もしかして、あなた達は……!」
「……ああ」
そう言って、シノンは彼らの面影に見入る。
「あの時、ウインクしていったあの……!」
そう。彼らは、BOB予選の時に、すれ違いざまにウインクしていった二人のプレイヤーだったのだ。
「……久しぶり……だな」
フードを目深くかぶったプレイヤーは、そう言葉を発することで、肯定を示した。
次回!
死銃編【最終回】
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