これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode60 ケット・シー 〜Cait Sith〜

「すーーっ……」

「……」

「はぁ……っ」

 

鬱蒼と茂る森の真ん中にある小さな野原で、その()()()()()は、深呼吸する。

 

「……ふふ」

 

それを、少し離れて微笑み見守るもう一人の()()()()()

 

そんな彼らの手には、()()が、握られている。

 

深呼吸した、青緑色の髪色で小柄なケットシーは、「刀」を。

微笑み見守っている、黄土色の髪をした大柄なケットシーは「薙刀」を、それぞれ持っていた。

 

「……」

「……」

 

すると、深呼吸を終えた小柄なケットシーは、キッと大柄のケットシーを睨み、刀を正面に構える。

 

それを見た大柄のケットシーは、薙刀の刃を下に、柄を上にして、微笑んで小柄なケットシーを見返した。

ただその目には、顔でこそ微笑んでいるものの、明確な闘志が宿っている。

 

そして……

 

「……」

「っ!」

バキン!

 

ほんの一瞬のうちに、二人の位置が入れ替わる。

不意を突かれたのか、大柄の方が少し厳しい顔をする。

 

それを見逃さず、小柄な方が、体をすぐに反転させ、大上段から斬りかかった。

大柄な方は、厳しそうな顔をそのままに、風を唸らせながら薙刀を横にし、上に突き出す。

 

ザシュッ

「……がっ!」

 

……が、斬られたのは太ももだった。

そう、大腿動脈がある場所である。

 

ドシュゥゥ……!!

「ぐぅ……!」

 

ポリゴン片の血液が溢れ出る。

今度はそれを見た小柄なケットシーが、また体を反転させて微笑んだ。

 

「股を開きすぎですよ」

「し、下をくぐるなんて反則だよ……」

 

大柄のケットシーは、小柄なケットシーの言葉に苦笑いする。

 

すると、その顔を見た瞬間、小柄なケットシーが飛び込んで斬りかかってきた。

今度は、刀を斜め上から斬り下げる、袈裟斬りの構えである。

 

……だが。

 

「ふふ……かかったね」

「……!」

 

斬りかかってくる小柄なケットシーに向けて、大柄のケットシーはぎらりと眼光を光らせ、笑った。

小柄なケットシーは、しまった、と言わんばかりに顔を歪める。

 

だが、時すでに遅し。

体勢は既に決まっていて、変えられない。

 

ゴッ

「がはっ……!!」

 

結果、小柄なケットシーは、構えていた刀の下にある脇腹に蹴りを入れられ、10mほど吹っ飛ばされた。

 

何回か地面に接触し、また浮いて、また落ちる。

そうして何回も叩きつけられつつ転がり、やっと止まった所には……

 

「ち、ちょっと、大丈夫……?」

 

水色の髪をした、()()()ケットシーがいた。

 

覗き込むように、心配そうな顔で、仰向けに転がる小柄なケットシーをのぞき込むように見ている。

 

小柄なケットシーは、その心配に笑って答えようとした。

 

……が。

 

「あっ……」

「……!!」

 

その顔は、すぐに真っ赤に染まった。

小柄なケットシーは、慌てて逃げようとする。

 

だが、女性はその類の事については、恐ろしく強い。

素晴らしい情報処理速度と反応速度でその動きに反応する。

 

バチーーーーン!!!

「あがっ!!」

 

その結果、鬱蒼と茂る森に、風船が割れたような音が響いた。

 

 

「あっはっはっは!!やられたねぇタスクくん!!ひーっひっひー!」

「むぅ……店主さん、ずるしてるでしょ」

「ほら、早くとらせてよ……タスク」

 

ここは、ALOの()()()()

 

言わずもがな、「仕事で」ALOに来た時に、クリスハイトと会った()()()()である。

 

今回も、ある意味「仕事で」ALOにコンバートしてきていたタスク、シノン、店主の3人は、その酒場の済の席に仲良く座っていた。

 

ちなみに、3人とも種族はケット・シーだ。

なぜなら店主曰く、「格闘戦闘において、最も重要な体との適応率は、この種族が全種族の中で最も高い」らしいからである。

 

「んー……なぁんで店主さんはそんなに上手いんだろうなぁ」

「インチキが得意だからよ」

「ああ……!」

 

そんな嫌味を言いつつ、シノンはタスクの手札から、カードを1枚取り出す。

 

「……んー」

「……?」

 

その時のシノンの手を見て、タスクはまた難しい顔をする。

 

そう、彼らは今、仕事などそっちのけで、いわゆる「ババ抜き」なるものをしていた。

 

局面は、もうそろそろ終わりが見えてくるであろう……と言わんばかりの、いわゆる「最終局面」。

皆が皆、少ない数のカードをとりあい、自分や相手の手札を睨みつけては、やれババは来るなだの、数字よ早く揃えだのと躍起になる場面である。

 

ちなみに、ババはご察しの通りタスクが所有。

シノンのわかりやすい位置にあったババを店主が回収し、次の番であるタスクに、巧みなテクニックで横流ししたのだ。

 

……で、こういう事にはめっぽう弱いタスクは、シノンに全くババをとらせることができず、周りのカードばかり取られてしまっている。

 

これでは、もう結果はわかりきっている……のだが。

 

「くっ……まだだ!!」

 

それを分かっていても、そんなことを言える諦めない不屈の精神で、タスクは店主の手札からカードを取っていった。

 

 

そしてついに、その時はやってくる。

 

「おっ……!」

 

最初にそのこと気づいたのは、店主だった。

なぜなら、シノンにカードを取られたタスクが、あからさまに絶望的な顔をしたから。

 

「あっ……!」

 

次に、シノンがそのことに気づく。

なぜなら、残り2枚となったタスクから、悩んだ末に自分がとったカードが、ジョーカーではなかったから。

 

「負け……た……」

 

そして最後に、タスクである。

 

パサ……と、寂しく机にジョーカーのカードを置き、突っ伏しそう呟いた。

 

「わーい!」

「あ、あは……は……」

 

すると店主が、あからさまに、そして少しわざとらしく喜ぶ。

続いてシノンが、そんな店主とタスクを見て、苦笑う。

 

店主の呆れるようなその仕草は、店の喧騒でシノンとタスク以外誰も気づかない。

 

……だが、気づかれないとはいえ、少し大人気ないのも事実である。

 

「くぅ〜!!」

 

タスクは、店主のそんな仕草を、恨めしそうに見上げる。

 

その視線に気づいた店主が、タスクに一言、声を掛けた。

 

「今日は運がないねぇ!タスクくん!」

「……え?」

 

そんな言葉に、タスクは違和感を覚える。

 

「ババ抜きが弱い」とかの言葉ならまだ、腹立たしいがわからなくもない。

だが、店主の「運がない」という言葉に関しては、ほぼ全く心当たりがない。

 

店主の策略にはまったという意味ではたしかに運がなかったが、わざわざそんなことを言うのだろうか。

 

……が、そんな思考の甲斐なく、その答えはすぐにやってきた。

 

「ババ抜きでぼろ負けしたり……」

「……?」

 

 

「シノンさんのパンツを見ちゃったり……さ!」

 

 

「……!!」

 

タスクは、その言葉にドキッとする。

 

ああ、その事か、などと納得している場合ではない。

彼は、恐る恐る、シノンを見る。

 

そうして見てみると、シノンはおもむろに左手を振り始めた。

そして一言、

 

「ええと、ハラスメントは……」

「「……!!」」

 

 

 

 

 

この後、店主が必死に釈明したのは、言うまでもない。




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