これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode63 不思議な感覚 〜Mysterious feeling〜

「あ、あそこだ……って、ええ!?」

「「……?」」

 

決闘当日。

キリトに指定された場所へと並んで飛んでいた店主とシノンは、先頭で飛ぶタスクの声に、首を傾げた。

 

「どうかしたの?タスクくん」

 

店主が、先を覗き込みつつタスクに声をかける。

 

「……あーはは、そゆことね」

 

……が、店主はまるで自問自答するかのように、タスクの答えを聞く前に納得した。

 

そんな二人の謎な行動に耐えかねて、シノンも先を覗き込む。

少し位置をずらし、そこから更に首を伸ばして目を凝らす。

 

 

するとそこには、()()()()()()()ができていた。

 

 

 

「……あいつ、何考えてんのよ」

「……はは、彼は何気に人徳があるからねぇ」

 

シノンがそんな悪態を小声で呟く。

店主は、それに相槌を打って笑った。

 

「……」

 

そんな中、タスクだけが、沈黙を保ったまま真っ直ぐにそこへ飛んでいく。

そしてゆっくりと、キリトの前に降り立った。

 

「……おお、タスク!」

「こんにちは、キリトくん」

 

それに気づいたキリトが、タスクを見て笑う。

タスクも、それに応えて笑顔を返した。

 

すると、周りがざわりとざわめく。

 

タスクは、それを感じ取りつつ言葉を続けた。

 

「今日はよろしくお願いします」

「ああ、お互い本気でやろう」

 

キリトのその言葉に、周りはまたざわつく。

 

「あの黒いやつが本気でとか言ってるぜ……?」

「だいたい、あのタスクってやつ、だれなんだよ。強いのか?」

 

心做しか、そんな声も聞こえてきた。

それを少し気にして、なんとなくタスクは耳を傾けてしまう。

 

するとその時、不意に、前から……つまりキリトの方向から、あまり聞きなれない声が飛んできた。

 

「あ、あの……タスクさん」

「……!」

 

タスクは、慌てて意識を引き戻し、前を見る。

見ればそこには、キリトの従姉妹、直葉もとい、リーファが立っていた。

 

「あっ……ああ、すみません。どうしました?」

「あ……そ、その……ごめんなさい!!私のせいで……」

「……へ?僕何か……」

 

するとリーファは、いきなり謝罪をしながら、申し訳なさそうに見返してきた。

そんな彼女の視線に、タスクは違和感を覚える。

 

この人が、自分に何かしただろうか?

そんな考えが、タスクの中に浮かんだ。

 

だが、そんな思考虚しく、その答えはすぐにやってきた。

 

「い、いや、実はこの人だかり、半ば私のせいなんです」

「……!」

「お兄ちゃんにも怒られたんですが、私がサクヤとアリシャ……いえ、シルフとケットシーの領主を呼んじゃったんです。そしたら、次第に人が集まっちゃって……」

「……ああ、なるほど」

 

ああ、その事か。

と、タスクは内心でストンと腑に落ちる。

 

タスクが何気に気にしてしまった、この人だかりのことだ。

 

つまり、リーファは恐らく、キリトの決闘の話を、仲がいいと聞いているシルフ領主、サクヤに話してしまったのだろう。

 

……で、その後その話がケットシー領主、アリシャにも伝わり、キリトに一目置いている大物2人が肩を並べて見物に来てみたら、これだけ人が集まってしまった、という訳だ。

 

少し……と言うよりはほとんど、休日にアスナらとALOで遊んでいるシノンからの情報に基づいて推測した結論だが、あらかた間違ってはいないように思えた。

 

「本っ当にごめんなさい!!決闘を邪魔するつもりはなかったんです!」

 

タスクがそんな思案をしている間にも、リーファは必死に頭を下げて謝ってる。

 

そんなリーファを見たタスクは、はっと我に返ると、慌ててかぶりをふってその謝罪を否定した。

 

「あっ……いえ、いいんですよ!全然!」

「……え?」

「人が多い方が、彼の応援も大きくなるでしょうし……」

「で、でも、そしたらタスクさんは……その、アウェイというか……!」

「あー、僕はそういうの、慣れてますから」

「で、でも……」

「はは、いいんですよ!全然!」

「……!!」

 

タスクが、リーファをまるで元気づけるように、会話をどんどん広げていく。

そのお陰か、だんだんリーファの顔に笑顔が戻り始めたその時。

 

「……それに……ね」

「?」

 

不意に、タスクのトーンが低くなった。

リーファは、それに釣られて反射的にタスクをみる。

 

するとその時。

 

 

「もうなにも、隠す必要はありませんからね」

 

 

タスクが静かにそう言った。

リーファはその瞬間、ゾクリと何かが背筋を走り抜けたような、不思議な感覚を感じる。

 

だからなのか、彼の顔は、屈託のない笑顔から、少し何かを含んだ笑顔に変わっていた。

リーファは、何故かその顔から目が離せない。

 

……だが、気づいた時にはもう、その感覚は跡形もなく消えていた。

 

「……だから、本当に何も気にしないでください。ね?」

「……!!」

 

代わりにそこに居たのは、ついさっきまでと何ら変わらない、屈託のないタスクの笑顔。

そしてそこから感じ取れる、おおらかな優しさと、微かな親近感のみだった。

 

「は、はい……」

 

半ば呆然として言葉を返すリーファ。

するとタスクは、最後にニコッと笑って踵を返し、店主とシノンの元へと歩いていった。

 

リーファは、無意識的に安心感を求め、振り返ってキリトを見る。

だがそのキリトは、いやキリト自身も、不安げな顔でリーファを見返していた。

 

 

 

 

……緊張の決闘まで、あと僅か数分である。




次回!決闘開始!

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