これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode6 悩み 〜Trouble〜

「いい……センス」

 

ここは、あの店主のガンショップ。

そのガンショップの一角にある休憩スペースのようなところのカウンターに座ったシノンは、一人ポツリと呟いていた。

 

内容は、一昨日戦った通称、「ビッグ・ボス」との戦いの後、去り際にかけられたあの言葉だ。

 

ーだが 、こいつを使った速射は見事だった。

ーいいセンスだ。

 

なぜかこの言葉だけ、強く耳に残っている。

シノンは、ある一点を見つめ、考え込みだした。

 

だんだん眉間にシワがより、どんどん思考の沼に入ってゆく。

そして、そんな思考の沼に完全に飲み込まれそうになった時、不意に、優しい声が前から飛んできた。

 

「やあシノンさん。なにかお悩みかな?」

 

シノンは、咄嗟に顔を上げる。そこには、この店の店主がいた。

その店主はいつも通り、優しい顔をしてシノンを見ている。

シノンは、慌てて首を横に振った。

 

「あっ、ああ、いや、その……!」

「ん?どうかした?」

「ええと……」

「なにか悩みがあるなら、相談に乗ろうか」

「えっ……?」

 

その店主は、あっさりと見抜いていた。

シノンが、あの時かけられた声の事で、悩んでいる事を。

でも、それを悩みと言ってよいのかと、これもまた悩んでいる事を。

 

でも、この店主なら聞いてくれる。

 

そう、シノンは内心で考えた。

そして……

 

「実は……」

「うんうん」

 

そこからシノンは、あの戦いの一部始終を話し、同時に自分の悩みについても打ち明けた。

 

本当の顔を見せないで言われたあの言葉。それは本当に褒める意味を込めて言ったのか。

そしてそれを、自分は素直に受け取っていいのか。

 

そんな些細な悩みを、ただ淡々とシノンは店主に打ち明けた。

すると店主は、分かっていたかのように答えを返した。

 

「シノンさん。きっとそれは、嘘じゃないよ。彼は本当に、あなたの腕を褒めてるんだと思う」

「えっ……?」

「僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ」

「深い……関わり……」

 

シノンの中で、4日か5日前に見たあの光景が頭に浮かぶ。

身長が低く、店主とじゃれあって無邪気に笑っていたあのプレイヤー。

シノンは、また考え込もうとする。

 

……が、その必要はないとばかりに、店主が唐突に話し出した。

 

「ねえ、シノンさん」

「はい?」

「……知りたい?彼の正体」

「……!」

 

唐突に、悩みの答えを突っ込んでくる店主。

シノンは流石に面食らってしまった。

だが、そんなことはお構いなし。店主は周りを見渡した後、少し声を落として、でもかわらない優しい声で、こう続けた。

 

「彼から言われているよ。『あいつは信用できる奴だ。あいつなら、自分の正体を教えても構わない。』とね。ちなみにあいつとは、あなたの事だよ」

「でっ……!でも……!」

「はは、いい子だなぁ君は。いいんだよ。俺も、シノンさんの事を信用してる。彼だって同じさ」

「そうなんですか……じゃあ、どうしてです?何でそこまで、私を信用してくれているのですか?」

「それはね、シノンさん。あなたはあの戦いの後、彼にウェポンについて何か言われたでしょ?で、今それが悩みになってるよね?」

「ま、まあ、はい」

 

あのロングマガジンについての事と、速射についての事。

シノンはこの店主はその事までも知っているのかと驚いた。

 

「その時、喋りながら隙だらけの姿を晒していた彼に、あなたは何もしなかったよね?」

「あっ……!」

「そこが彼にとって、信用できる、と思ったらしいよ」

「……」

 

シノンが押し黙る。

確かに自分は彼と戦った。そして、実際言葉も交わした。

あの時の彼は、まるで歴戦の兵士のような威厳のある風格だった。

だが、それを考える時、必ずと言っていいほどあのプレイヤーが頭に浮かぶ。

 

店主とじゃれあった時の無邪気な笑顔。とてもGGOキャラとは思えない低身長。

何から何まで違う2人のプレイヤーが、同一人物である確証がないのに、シノンはそんな気がしてならない。

そんな思考を彷徨わせていると、店主が顔を覗き込みながら話を続けた。

 

「シノンさん。もう一度だけ、聞くよ?彼の正体、知りたい?」

「……!」

「もちろん、ここで断って忘れるのもありだ。彼の正体を知って、後悔するかもしれない。でも、今の迷ったシノンさんは、本当のシノンさんじゃない。だから俺は、あなたに提案したんだ。きっとこれは、彼も分かってる」

「そ、それは……!」

「彼の正体を知るのか知らないでおくのか。どちらの選択にも利益不利益平等にある。そのどちらを取るのかは、シノンさん次第。さあ、どうする?」

 

シノンは下を向いた。同時に、葛藤が生まれる。

彼の正体を知れば、自分もあちら側の世界に入ってしまうかもしれない。

かと言って、このまま知らないでおき、強き者を忘れ去るのは自分の中では最も取りたくない選択肢だ。

最悪、先延ばしにするのも手だ。でも、先延ばしにした所で答えが出るとも思えない。

 

「私は……!」

 

そしてついにシノンは、絞り出すように答えを口に出した。

 

「私は、知りたい。彼の正体を、彼の強さを、この目で見て知りたい。私が、私自身が強くなる為に」

「よく言った。良い返事だ」

 

すると店主は、ポケットからとある紙切れを取り出した。

そしてそれを、シノンへと差し出す。

その紙に書いてあったのは、この世界にも存在するとある座標情報だった。

 

「彼は今、ここにいる。会いに行ってみるといい。彼はきっと、答えを教えてくれるよ」

「はい」

 

そう言って、店主は店の方へと戻っていった。

シノンは、数秒その紙切れを見た後、その紙切れを引っ掴んで、立ち上がった。そのまま店の出口に向かっていく。

 

そして遂に、シノンが店の出口の前に立った時。

店主が、マガジンに弾が満タンの物を2個、投げてきた。

もちろん、そのマガジンは、シノンのヘカートIIに対応したものだ。

シノンは、慌てて紙切れをポケットに入れ、両手で一個づつ掴む。

店主はそれを見て、片目を閉じ、こう話した。

 

「これを持っていきな。で、彼にこう伝えてくれ。『これは貸しだ。ツケで払ってもらう。』ってな。一応、あなたのSTRをオーバーしてるし大きいから、なにか置いてストレージに入れていきなよ?置いたものは預かっておくから」

「……分かりました。ありがとうございます」

 

シノンは、両手のマガジンを見た後、ウィンドウを開いてそのマガジンをストレージに入れた。

 

ストレージは、いわゆる『見えないカバン』だ。

こうすれば、手に持って走ることはない。

だが、その『見えないカバン』でも、ステータスの一つ、STR(筋力)の制限はかかる。

よって何かを置いていかねばならないのは変わりない。

 

前回の戦いの時にはサブウェポンのG18の交換用マガジンを複数個おいて、代わりにヘカートIIのマガジンを少し追加して行ったが、今回はそのG18ごと置いていくことにした。

店主は、それを見て微笑む。

そして、そのG18をしっかりと受け取り、じっ見ると、シノンに聞こえるように呟いた。

 

「ふふ、素直だなぁ」

「な……!い、いや……!」

「うんうん。分かってるから。ほら、行ってらっしゃい?」

「……はい。ありがとうございます」

 

その呟きが聞こえたシノンが顔を赤くして弁明しようとする。

だが、それは店主によって遮られ、彼の元へと送り出された。

それを見届けた店主は、受け取ったG18をまたまじまじと見出す。

 

「ふふ、ほんとに素直だな、シノンさんは」

 

そう、一人で呟きながら店主は上から下から、右から左からと、様々な角度からG18を見ていく。

そして最後に、マガジンを引き抜いた。

店主は、そのマガジンをクルクルと回して弄んで、机に置いた。

そして、微かな笑みを浮かべる。

 

そう。そのマガジンは、弾数の少ない、純正マガジンだった。




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