これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode71 対面 〜First encount〜

路地の街灯が、やたら寂しそうに道を照らす。

 

時刻は夜7時。

すっかり夜も更け、東京という名の街の喧騒の色が、一気に変わる時間帯。

 

黒いコートと藍色のズボンに身を包んだ一人の少年が、狭い路地を歩いていた。

 

その少年の名は、桐ヶ谷 和人。

他でもない、ほんの数日前、影の剣豪、タスクと渡り合い、惜しくも敗れた、別名「黒の剣士」である。

 

その少年、和人……いや、あえて言うならば、()()()は今、黙々と、とある場所へと歩みを進めていた。

 

「本当にそこにあの人がいるのか……?」

 

そんな中、キリトは、不安な感情を言葉に漏らす。

 

決闘に決着がつき、リスポーンした時、既に入っていた店主からのメッセージ。

そして、そこに書かれていた、日時と場所。

 

まだ決闘に負けた実感がなく、かと言ってどことなく自覚しているような、ふわふわした中で、確かに見たそのメッセージを、キリトは思い返した。

 

《明後日の夜7時、「ダイシー・カフェ」で、君を待つ》

 

……という、前置きも何もかもすっ飛ばし、たった一文、端的に書かれたメッセージを。

 

「『君を待つ』……か」

 

するとキリトは、思い返しに浸る中で、そう独りごちた。

 

『「ダイシー・カフェ」で、君を待つ』

日時はいいとして、この文面に込められた意味は、決して一つの……そして単純な意味ではないことは、キリトは容易に理解出来た。

 

今まで、仮想世界でしか会わなかった店主との現実世界の初の接触。

そしてその理由が、「決闘後の話し合い」であるという事実。

 

「はは……もう言ってるようなもんじゃないか」

 

間違いない。

必ず何か()()()()を、キリトの彼らの仲間入りか否かという話題以上の、『()()』を、店主……あの人は言うつもりだ。

 

キリトは、そんなあえてわかりやすく見せたかもしれない店主の暗示を悟り、少し笑う。

 

そして一言、

 

「いいぜ……受けてたってやる」

 

そう呟いて、ポケットの中の手を握りしめた。

キリトとて、もう心は決まっている。

 

その心は、『彼らの仲間に入る』……というものだった。

 

もちろん、当初はアスナやリズ達に、やんわりと引き留められた。

シリカとユイだけは……やんわりは愚か、あからさまだったが。

 

ただ、彼女らの言い分は、一貫して『いくら強さを求めると言っても、今自分たちはもう命を懸けているのではないのだから』というものだった。

 

確かにその通りだ。

今はもう、「帰還不能かつゲームオーバー=死」なんていう、腐ったゲームの中ではないのだ。

いまさら強くなったって、せいぜい()()()()()()()ゲームの中で、トッププレイヤーになれるくらいなだけだろう。

 

……でも、と、キリトは内心で否定の意を示した。

 

なぜなら彼らは、()()()()()()()()()()()からだ。

命を懸けたゲームでも、本来の意味のゲームでも、関係ない。

 

キリトがまだ知らない()()に、彼らはいるのだ。

 

SAO時代、登り詰めようとした強さ。

それを遥かに凌駕する、さらに上の強さ。

 

それを知りたくて、キリトは無謀な決闘を挑み、そして負けたのだ。

その賭けと、それの結果を、無駄にはしたくない。

 

もちろんこれは、単純な興味かもしれない。

それかあるいは、男性なら一度は感じたことのあるだろう、「強さへの憧れ」なのかもしれない。

 

でも、それでも、その単純な興味かもしれない()()()()は、必ず、いつかどこかで使える。

そしてそれが、ゆくゆくは、アスナを始めとする、「大切な人」を守る時に必要になる。

 

キリトはそう、確信し、そしてそれを彼女ら……アスナたちに伝え、こうしてきているのであった。

 

「ついた……!!」

 

すると、そんな考え事……というより、回想をしている間に、キリトは遂に「ダイシー・カフェ」の前へと、やってきていた。

 

いつも気軽に開けていた扉が、何故か今日に限っては、やけに開けにくい雰囲気を醸し出している。

 

この先に、あの人が……あの()()がいる。

そう思うと、より一層、緊張がこみ上げてくる。

 

だが、ここで引き返す訳には行かない。

タスクを別の世界まで呼び出して、引き止めるアスナ達を説得し、今度は自分が、向こうの世界へと行くのだと、決心してきたからだ。

 

「くそっ……ええいっ!!」

 

そうしてキリトは、その決心のままに、勢いに任せて扉を引き剥がさんとばかりに引き開ける。

 

「よお、キリト。いらっしゃい」

 

するといつも通りのエギルの声が飛んできて……

 

次の瞬間。

 

「……やあ!キリトくん。何日かぶりだね」

「あ、あんた……まさか……!!」

 

キリトに、驚きの衝撃が走った。

 

 

カツカツ……

スタスタ……

 

体重の違いからか、それとも歩き方の違いからか。

はたまた、履いている靴の違いからか。

 

全く違う音質の足音が、夜7時の霊園に響く。

 

「……」

「……」

 

一方は背丈こそ低めなものの、肩幅が広い、がっちりとした体躯の男性。

そしてもう一方は、男性とほぼ同じ背丈をした、細いメガネの女性。

 

……もう、お分かりだろう。

 

「ここ……が?タスク」

「ええ……ここです、シノンさん」

 

この2人である。

 

「これが、僕の親友……アユムのお墓です」

「アユム……くん」

 

するとタスクが、そう言ってしゃがみ、目の前の墓石を愛おしそうに、かつどこか悲しそうに眺める。

それに対し、シノンは立ったまま、その墓石をまっすぐ見つめる。

 

そこには、「和平(かずだいら) 歩武(あゆむ)」と彫られていた。

墓石を撫でるタスクと、それを虚ろな目で見つめるシノン。

 

二人の間に、しばしの静寂が訪れた。

 

……そう、この二人は、それはもう、死銃事件よりも前の、かなり前、タスクと店主が意図せず集まった、タスクの()()()()()()、アユムのお墓へと、お墓参りに来ていた。

 

なぜならそれは2日前、キリトとの決闘の際、タスクがつい漏らした、

『ごめん……アユム、僕……』

という呟きに、シノンがどうしても堪えきれず、恐る恐るその「アユム」とは誰なのか、直接聞いてみたのだ。

 

もちろん、シノンとて間抜けではないため、恐らくその「アユム」というのは、いつか店主が言っていた、「SAO時代にタスクが失った仲間」の事だということを、それとなく悟ってはいる。

 

だから、恐る恐るで聞いてみたのだ。

本来、触れるべき話題ではない事は百も承知である。

 

ただ、シノンはその……いわゆる「常識」よりも、何故か「好奇心」を優先させてしまった。

自分はこんなに不躾な奴だったか、と、自分で自分に落胆する程に、自分の行動を恥じたのだが、何故か不思議と後悔はしていなかった。

 

それに、対価と言ってはなんだが、自分にもそれと似た過去がある。

もしタスクが嫌な顔をしたら、それを話そう。

シノンは様々な葛藤の末、そう心に決めて、タスクに問うてみたのであった。

 

……すると、意外にもタスクは、嫌な顔一つせず、快く承諾してきたのだ。

いつもの二カッとした笑みを漏らし、「いいですよ」なんて軽い言葉で返してきたのである。

 

もちろん、シノンはその時、戸惑いが隠せなくなった。

自分が色々悩んで、非常識だ、不躾だなどと自分を罵って、それでもなお……なんて、葛藤じみたことをしてまで問うた質問に、こんなにもあっさり、そしてむしろ快く、受け取られてしまったからである。

 

「……シノンさん?」

「あっ……ああ……ごめんなさい」

 

するとその時。

シノンが、タスクの声で回想から引き戻される。

 

そう言えば……といえば失礼だが、今自分はタスクに連れられ、その()()()()の前に立っているのだ。

さすがにここまで不躾なことをしておいて、ぼーっとしている訳には行かない。

 

そう思い至り、シノンは慌てて何か……いわゆる「お悔やみの言葉」の一つや二つを言おうとする。

 

「あっ……えっ……と……!!」

 

……だがそれは、タスクの呟きによって、遮られた。

 

 

 

 

 

 

「今の僕がいるのは、全て、彼がいたからなんです」

「……!!」

 

シノンは咄嗟に、口を噤んでしまった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、Twitterでは予告しておりました通り、この場を借りて、謝罪させていただきます。

一体なんのことかと申しますと、それは『予告の誤表記』です。

前回の、『Episode70 決着 〜Settlement〜』の後書きにおきまして、今後の予定として、「AW編」をお送りする、と表記されておりましたが、これは間違いです。

正確には、「UW編」、つまり「アリシゼーション編」でございます。
「AW編」だと、原作の作者さんの別の作品、「アクセル・ワールド編」になってしまいます。

それは、全く意図しておりません。
完全なるこちら側のミスです。

これからのご期待を大きく左右する予告におきまして、このようなミスを犯してしまい、本当に申し訳ございませんでした。

以後は、もう二度とこのようなことがないよう、細心の注意を払っていく所存です。
今後ともよろしくお願い致します。

※問題の部分は、既に修正済みです。

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