これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
路地の街灯が、やたら寂しそうに道を照らす。
時刻は夜7時。
すっかり夜も更け、東京という名の街の喧騒の色が、一気に変わる時間帯。
黒いコートと藍色のズボンに身を包んだ一人の少年が、狭い路地を歩いていた。
その少年の名は、桐ヶ谷 和人。
他でもない、ほんの数日前、影の剣豪、タスクと渡り合い、惜しくも敗れた、別名「黒の剣士」である。
その少年、和人……いや、あえて言うならば、
「本当にそこにあの人がいるのか……?」
そんな中、キリトは、不安な感情を言葉に漏らす。
決闘に決着がつき、リスポーンした時、既に入っていた店主からのメッセージ。
そして、そこに書かれていた、日時と場所。
まだ決闘に負けた実感がなく、かと言ってどことなく自覚しているような、ふわふわした中で、確かに見たそのメッセージを、キリトは思い返した。
《明後日の夜7時、「ダイシー・カフェ」で、君を待つ》
……という、前置きも何もかもすっ飛ばし、たった一文、端的に書かれたメッセージを。
「『君を待つ』……か」
するとキリトは、思い返しに浸る中で、そう独りごちた。
『「ダイシー・カフェ」で、君を待つ』
日時はいいとして、この文面に込められた意味は、決して一つの……そして単純な意味ではないことは、キリトは容易に理解出来た。
今まで、仮想世界でしか会わなかった店主との現実世界の初の接触。
そしてその理由が、「決闘後の話し合い」であるという事実。
「はは……もう言ってるようなもんじゃないか」
間違いない。
必ず何か
キリトは、そんなあえてわかりやすく見せたかもしれない店主の暗示を悟り、少し笑う。
そして一言、
「いいぜ……受けてたってやる」
そう呟いて、ポケットの中の手を握りしめた。
キリトとて、もう心は決まっている。
その心は、『彼らの仲間に入る』……というものだった。
もちろん、当初はアスナやリズ達に、やんわりと引き留められた。
シリカとユイだけは……やんわりは愚か、あからさまだったが。
ただ、彼女らの言い分は、一貫して『いくら強さを求めると言っても、今自分たちはもう命を懸けているのではないのだから』というものだった。
確かにその通りだ。
今はもう、「帰還不能かつゲームオーバー=死」なんていう、腐ったゲームの中ではないのだ。
いまさら強くなったって、せいぜい
……でも、と、キリトは内心で否定の意を示した。
なぜなら彼らは、
命を懸けたゲームでも、本来の意味のゲームでも、関係ない。
キリトがまだ知らない
SAO時代、登り詰めようとした強さ。
それを遥かに凌駕する、さらに上の強さ。
それを知りたくて、キリトは無謀な決闘を挑み、そして負けたのだ。
その賭けと、それの結果を、無駄にはしたくない。
もちろんこれは、単純な興味かもしれない。
それかあるいは、男性なら一度は感じたことのあるだろう、「強さへの憧れ」なのかもしれない。
でも、それでも、その単純な興味かもしれない
そしてそれが、ゆくゆくは、アスナを始めとする、「大切な人」を守る時に必要になる。
キリトはそう、確信し、そしてそれを彼女ら……アスナたちに伝え、こうしてきているのであった。
「ついた……!!」
すると、そんな考え事……というより、回想をしている間に、キリトは遂に「ダイシー・カフェ」の前へと、やってきていた。
いつも気軽に開けていた扉が、何故か今日に限っては、やけに開けにくい雰囲気を醸し出している。
この先に、あの人が……あの
そう思うと、より一層、緊張がこみ上げてくる。
だが、ここで引き返す訳には行かない。
タスクを別の世界まで呼び出して、引き止めるアスナ達を説得し、今度は自分が、向こうの世界へと行くのだと、決心してきたからだ。
「くそっ……ええいっ!!」
そうしてキリトは、その決心のままに、勢いに任せて扉を引き剥がさんとばかりに引き開ける。
「よお、キリト。いらっしゃい」
するといつも通りのエギルの声が飛んできて……
次の瞬間。
「……やあ!キリトくん。何日かぶりだね」
「あ、あんた……まさか……!!」
キリトに、驚きの衝撃が走った。
✣
カツカツ……
スタスタ……
体重の違いからか、それとも歩き方の違いからか。
はたまた、履いている靴の違いからか。
全く違う音質の足音が、夜7時の霊園に響く。
「……」
「……」
一方は背丈こそ低めなものの、肩幅が広い、がっちりとした体躯の男性。
そしてもう一方は、男性とほぼ同じ背丈をした、細いメガネの女性。
……もう、お分かりだろう。
「ここ……が?タスク」
「ええ……ここです、シノンさん」
この2人である。
「これが、僕の親友……アユムのお墓です」
「アユム……くん」
するとタスクが、そう言ってしゃがみ、目の前の墓石を愛おしそうに、かつどこか悲しそうに眺める。
それに対し、シノンは立ったまま、その墓石をまっすぐ見つめる。
そこには、「
墓石を撫でるタスクと、それを虚ろな目で見つめるシノン。
二人の間に、しばしの静寂が訪れた。
……そう、この二人は、それはもう、死銃事件よりも前の、かなり前、タスクと店主が意図せず集まった、タスクの
なぜならそれは2日前、キリトとの決闘の際、タスクがつい漏らした、
『ごめん……アユム、僕……』
という呟きに、シノンがどうしても堪えきれず、恐る恐るその「アユム」とは誰なのか、直接聞いてみたのだ。
もちろん、シノンとて間抜けではないため、恐らくその「アユム」というのは、いつか店主が言っていた、「SAO時代にタスクが失った仲間」の事だということを、それとなく悟ってはいる。
だから、恐る恐るで聞いてみたのだ。
本来、触れるべき話題ではない事は百も承知である。
ただ、シノンはその……いわゆる「常識」よりも、何故か「好奇心」を優先させてしまった。
自分はこんなに不躾な奴だったか、と、自分で自分に落胆する程に、自分の行動を恥じたのだが、何故か不思議と後悔はしていなかった。
それに、対価と言ってはなんだが、自分にもそれと似た過去がある。
もしタスクが嫌な顔をしたら、それを話そう。
シノンは様々な葛藤の末、そう心に決めて、タスクに問うてみたのであった。
……すると、意外にもタスクは、嫌な顔一つせず、快く承諾してきたのだ。
いつもの二カッとした笑みを漏らし、「いいですよ」なんて軽い言葉で返してきたのである。
もちろん、シノンはその時、戸惑いが隠せなくなった。
自分が色々悩んで、非常識だ、不躾だなどと自分を罵って、それでもなお……なんて、葛藤じみたことをしてまで問うた質問に、こんなにもあっさり、そしてむしろ快く、受け取られてしまったからである。
「……シノンさん?」
「あっ……ああ……ごめんなさい」
するとその時。
シノンが、タスクの声で回想から引き戻される。
そう言えば……といえば失礼だが、今自分はタスクに連れられ、その
さすがにここまで不躾なことをしておいて、ぼーっとしている訳には行かない。
そう思い至り、シノンは慌てて何か……いわゆる「お悔やみの言葉」の一つや二つを言おうとする。
「あっ……えっ……と……!!」
……だがそれは、タスクの呟きによって、遮られた。
「今の僕がいるのは、全て、彼がいたからなんです」
「……!!」
シノンは咄嗟に、口を噤んでしまった。
いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。
今回は、Twitterでは予告しておりました通り、この場を借りて、謝罪させていただきます。
一体なんのことかと申しますと、それは『予告の誤表記』です。
前回の、『Episode70 決着 〜Settlement〜』の後書きにおきまして、今後の予定として、「AW編」をお送りする、と表記されておりましたが、これは間違いです。
正確には、「UW編」、つまり「アリシゼーション編」でございます。
「AW編」だと、原作の作者さんの別の作品、「アクセル・ワールド編」になってしまいます。
それは、全く意図しておりません。
完全なるこちら側のミスです。
これからのご期待を大きく左右する予告におきまして、このようなミスを犯してしまい、本当に申し訳ございませんでした。
以後は、もう二度とこのようなことがないよう、細心の注意を払っていく所存です。
今後ともよろしくお願い致します。
※問題の部分は、既に修正済みです。
【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!
【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!
【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。
【感想】
下のボタンをタップ!!