これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode75 比率 〜ratio〜

「ゆ、誘拐?」

「そう」

「それに……監禁って……!」

「そのまんまさ」

 

キリトが、目を見開いて店主の言葉に食いつく。

 

店主は今、ラフコフの欲望がだんだん裏血盟騎士団に向いてきた、と言った。

人殺しに快楽を求めるあの連中を止めようとして、逆にその矛先を向けられた……と。

 

ならば、次にくるのは「殺害」やら「暗殺」やら、いわゆる「命を落とす」系列の言葉……だと、思っていたのだが。

 

実際はそうではなく、やってきたのは「誘拐」と「監禁」という、今までの過激さと比べればどこかヤワそうな単語。

 

「ふふ……なんで、と言わんばかりな顔をしてるね」

「……!!」

 

その時、店主がポカーンとするキリトを見て微笑んだ。

キリトは、その顔をあえて見返して説明を求める。

 

すると店主は、キリトが言わんとしていることを自ずと察し、話し出した。

 

「確かに、彼らは人殺しに快楽を見出す集団。それは、間違いない事実だ」

「……」

「でもね、彼らとて人間だ。いずれ()()が来る」

「……!?」

「人間は、()()が来ると次に何をすると思う?」

「……!!」

「彼らはね、殺しのレパートリーを増やしたんだ」

「レ……レパートリー?」

「そう……レパートリー。ま、言っちゃえば種類、だね。そのひとつが、今まさにこの状況さ。誰かの大切な人を攫って、その誰かが助けに来たところで、目の前でその大切な人を殺す」

「なっ……!?」

「その後、その誰かも殺す。殺す側はそれだけで2人も殺せるし、何より大切な人を殺されたその誰かの絶望した顔も見れる」

「っ……!?」

「まあ、こう言っちゃあなんだけど、殺す側にしてみたら楽しいことこの上ないだろうね」

「な、なぁっ……!!??」

 

そう話しつつ店主は、どこか怖い笑みを浮かべ始める。

そしてキリトの顔は、それに比例して、あからさまな引き顔へと変わっていった。

 

「……で、その状況がまさに裏血盟騎士団な訳さ」

「あっ……!!」

「当時、『知のアユム・武のタスク』なんて言われるくらい、彼らは猛威を奮っていた」

「……!!」

「そんな2人、同い歳なこともあって、仲がいい。そしてその歳も、14、5とまだまだ若い」

「う、うわ……!!」

「もう、彼らにとっちゃぁこの上ない状況だよね。これが成功した暁には、なかなかない子供の殺害が2人もできる上、敵対勢力の指揮系統崩壊(モラルブレイク)、さらにはその勢力の壊滅だって目じゃない」

「……!!」

 

キリトはいつの間にか、机を見つめて顔を歪めていた。

 

心無しか、店主の顔が見れなくなったのだ。

それはただ単純に怖くなったのか、それとも何かまた別の理由があるのか。

 

分からない、だが分からないが故に、尚更怖い。

 

「……ふふ、怖くなっちゃった?」

「いっ……いえ……」

「はは、声が震えてるよ」

「っ……!!」

 

店主のあっけらかんな声が前から聞こえてくる。

キリトはそんな声での指摘に言葉を返せず、結局黙り込んでしまう。

 

……そして、店主はついに、こう切り出した。

 

「……でまあ、かくして、ついに『アユム事件』が起こっちゃったわけさ」

 

 

「手順は至って簡単でした」

「……」

 

一方、こちらはタスクとシノン。

 

タスクはあぐら、シノンはしゃがんで、墓へ斜めに向いて、半ば3人で丸く座っているような感じで、話は続いていた。

 

「当時、裏血盟騎士団の最大の敵はラフコフ。という事はつまり、()()()()()()()()()()は、ラフコフへの対処な訳です」

「え、ええ……」

「ですから、その……そうですね、「比率」で考えてみてください」

「……?」

「戦力、つまり人は、無限にはありません。どこかへ多くの戦力を、そして人員を投入すれば、必然的に他の所の戦力は低下します」

「そ、そうね……」

「とすれば、それを逆に捉えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、相手方には必ず隙が生まれる訳です」

「……!!」

「ラフコフのリーダーは、その加減がすごくうまかった。僕らがそうせざるを得なくなる状況まで、その……ラフコフへの特段の警戒心も利用されて、あっという間に持っていかれてしまったんです」

 

そう話すタスクの顔は、微笑みを保ちつつもどこか暗く沈んでいた。

シノンはその顔を伺いつつも黙ってその話を聞いている。

 

「ただ、僕らも自覚がなかった訳ではないんです」

「……?」

「嫌な予感はしていたし、なんならアユムは、もしかしたらわかっていたのかもしれません」

「でも……」

「ええ……そうなんです。()()()()()()()()()()()。ほんとに、してやられましたよ」

 

そう言って、タスクは大きく息を吐く。

シノンは、相変わらずその様子を見つめ、黙り込んでいた。

 

そうして、しばしの沈黙が訪れ……

 

「……で、じゃあ具体的に一体どうなってしまったかと言うとですね」

「……!!」

 

……たのだが、タスクがその沈黙を破るようにまた話し始めた。

シノンはシノンで、そんなタスクの話に素直にまた、耳を傾ける。

 

 

 

 

そしてまた……タスクの、そして今は亡きアユムの、凄惨な過去の断片が語られていった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやぁ、長いですね(笑)
『光と影』編、想定よりだいぶ長くなりそうで、申し訳なさ半分、こんな長々とした作品を読んでくださる嬉しさ半分、とっても微妙な気持ちです(笑)

……で、ですね。
なかなか終わりが見えてこないこの章に、流石の読者さんも「例のアレ」が気になってしょうがなくなっているのではないか?と思い至りましてですね。

Twitterでのアンケートを経て……

『キャンペーンキャラの名前、一言セリフの設定集追加』

を決定しました!!

非常にお待たせしておりますので、半ば緊急措置のような形になります。

本当に申し訳ないです(笑)
今後とも、この長々とした物語をよろしくお願いします。

では……

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