これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode7 彼の正体 〜His true character〜

「ここらへん……?だったような」

 

シノンが一人、真昼の荒野の真ん中に立って呟いている。

その手には、店主に渡されたあの紙切れがあった。

そして今、その紙切れに書いてある座標に立っている。

理由は、あのプレイヤー、ビッグ・ボスに会うためだ。

シノンはまた、紙切れを見る。

 

「間違いないんだけどなぁ」

 

そう言って、シノンはあたりを見回した。

前と左右は開けた荒野で、後ろには大きな崖だ。

この崖を迂回するために、ものすごく遠回りしてきたのだ。

なのにも関わらずシノンは、相変わらず困った顔をしてあたりを見回し続けている。

 

なぜなら、その目的のプレイヤー、ビッグ・ボスがそこにいなかったからだ。

店主に渡された紙切れに書いてある座標はたしかにここだ。

ここに彼がいる、そう教えられたはずだった。

 

「……どうしよう」

 

そう、シノンが呟いていささか困り果てた時、いきなり5m前あたりに空マガジンが落ちてきた。

シノンは、その空マガジンを拾いに行く。

 

「これは……!」

 

そしてそのマガジンを手に取った時、シノンは目を見開いた。

 

「このマガジン……この大きさ……間違いない。アンチマテリアルライフル用のものね。てことは……」

 

シノンは、さっと予測をつけると、マガジンが飛んで来た方向、つまり背後の崖を見る。

するとそこには、あのプレイヤーがこちらを見下ろしていた。

シノンは、そのプレイヤーから目を逸らさない。

そしてそのプレイヤーが、淡々と話し出した。

 

「よう、シノンさん。いつぶりかだな」

「ええ……」

「店主から聞いたよ。純正マガジンを使うようになったらしいな」

「……!ま、まあ、意見は正しかったし…」

「ふ、素直だな、あんたは」

「な……!」

 

そのプレイヤーは、眼帯マスクスナイパーと呼ばれ、最近ではビッグ・ボスと呼ばれるようになってきたまさにシノンの目的の人だった。

ガタイのいいそのプレイヤー、ビッグ・ボスは、少し苦笑しながら後ろ腰に手を入れ、ロープを垂らす。

シノンは、少し赤面しかけながらそのロープを握った。

ビッグ・ボスはそのことを確認し、ロープを一気に引き上げる。

シノンが、あっという間に6m超の崖の上まで引き上げられた。

 

「うわっ……!」

 

勢いが強すぎて、崖の上の地面が見える。同時に、シノンの体が放物線の頂点に達して、落下を始めた。

シノンは、慌てて着地の体制をとる。

だが、その必要はなかった。

 

ドスン!

 

ビッグ・ボスが、落ちてくるシノンを受け止める。

軽々と持ち上げられたシノンは、今度こそ真っ赤に赤面した。

 

「な……なっ……!なに……を!」

「なんだ?」

「さっさと下ろせこの変態!」

「ああ、すまない」

 

シノンが女の子らしい黄色い悲鳴を上げる。

なぜなら、ビッグ・ボスはシノンをいわゆるお姫様抱っこで抱えていたからだ。

シノンから怒声を浴びせられたビッグ・ボスは、顔色一つ変えずシノンを下ろした。

 

「あ、あんた!次そんな事したら顔にヘカートIIぶち込むからね!」

「そ……そうか」

 

ビッグ・ボスは、あまりのシノンの焦り様に狼狽えるが、シノンの脅迫には全く動じなかった。

 

シノンが、息を整えつつ、紛らわすように本題の話を切り出す。

 

「はぁ……はぁ……で、あなたの正体は何?」

「……本当に知っていいんだな?」

 

ビッグ・ボスは、まるで心配しているかのようにシノンの顔を窺う。

だが、シノンは問答無用で即答した。

 

「もちろん。私だって強くなりたい。あなたの正体を知って、次こそ勝ちたい。だから……!」

 

シノンが、ありのままの自分の考えを吐き出す。

ビッグ・ボスは、そんなシノンの顔と口調を見て彼女の決意を察した。

 

「……分かった」

 

そして遂に、ビッグ・ボスはマスクと眼帯をとる。

そこには、あの時、あのショップで店主とじゃれあっていた、あのプレイヤーの顔があった。

 

「……久しぶりです。シノンさん?」

 

さっきとは一転。

小さい子供のような顔つきの、それでも根はしっかりした少年が、姿を表した。

同時に、ウィンドウを開いて服を変える。

すると、ゴトッと背中背負っていたスナイパーライフルが地面に接し、ガタイが一気に小さくなった。

そしてビッグ・ボス、もといタスクは、ニコッと笑って手を広げ、体を見せるようにしながら話を続けた。

 

「これが僕の正体です。ご明察でしたね、シノンさん」

 

シノンは、流石に戸惑う。

 

「え、ええ?」

「……?どうかされました?」

「い、いやちょっと待って?本当にあなたなの?本当にあなたが…あのビッグ・ボス?」

「はい。そうですよ!僕がビッグ・ボスの正体です」

「え、ええ〜っ!?意外だなぁ」

「はは、それが狙いですから」

 

タスクが、シノンの反応に明るく対応する。

 

 

そしてその後、シノンとタスクは、友達を超えた戦友として、雑談に明け暮れた。

 

彼の名前がタスクである事、ビッグ・ボスと呼ばれた経緯、この戦闘スタイルが確立した所以。

 

タスクは、シノンからの質問逐一答えていった。

 

 

そうして日が暮れかけた時、急にタスクが話を変えた。

 

「ところでシノンさん。これからまだ、時間はありますか?」

 

シノンは、急な質問に狼狽える。

 

「えっ……ああ、まだ大丈夫だけど」

「……なら良かった。シノンさん。実はね、」

 

タスクが、明るい返事を返してニコッと笑う。

そして、そのままの顔でとんでもないことを口にした。

 

「僕、今から依頼の仕事なんです」

「い、今から!?」

「だから、シノンさんに手伝ってもらいたいんだけど……いいですか?」

「ええ?そんな…」

「いいじゃないですか。強くなる為と思って、ほら!」

 

シノンは、この唐突な打診に狼狽える。

それもそのはず。もしここで逃げ出せば、強くなれるチャンスを逃してしまうが、かと言ってタスクの仕事に手を出して、自分も狙われてしまうのもなんか困る。

 

この二つの選択肢にも利益不利益平等に存在していて、今そのどちらを取るのかを、またシノンは悩んでいる。

ついさっきの店主やビッグ・ボスの時のタスクとのやりとりと同じ条件だ。

そんなシノンの脳裏に、この荒野にくる前に店主に言った自らの言葉が思い浮かぶ。

 

ー私が、私自身が強くなる為に。

 

「……」

 

シノンは、沈黙して目を閉じて思案している。

タスクは、シノンが答えを出すまで待っているつもりなのだろう、顔色一つ変えずにシノンを見ていた。

 

そしてシノンは、答えを出した。

 

 

「分かった。ついて行かせてもらうわ」

「そうこなくっちゃ」

 

こうして、タスクとシノンの、共闘が決まった。




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