これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「ここらへん……?だったような」
シノンが一人、真昼の荒野の真ん中に立って呟いている。
その手には、店主に渡されたあの紙切れがあった。
そして今、その紙切れに書いてある座標に立っている。
理由は、あのプレイヤー、ビッグ・ボスに会うためだ。
シノンはまた、紙切れを見る。
「間違いないんだけどなぁ」
そう言って、シノンはあたりを見回した。
前と左右は開けた荒野で、後ろには大きな崖だ。
この崖を迂回するために、ものすごく遠回りしてきたのだ。
なのにも関わらずシノンは、相変わらず困った顔をしてあたりを見回し続けている。
なぜなら、その目的のプレイヤー、ビッグ・ボスがそこにいなかったからだ。
店主に渡された紙切れに書いてある座標はたしかにここだ。
ここに彼がいる、そう教えられたはずだった。
「……どうしよう」
そう、シノンが呟いていささか困り果てた時、いきなり5m前あたりに空マガジンが落ちてきた。
シノンは、その空マガジンを拾いに行く。
「これは……!」
そしてそのマガジンを手に取った時、シノンは目を見開いた。
「このマガジン……この大きさ……間違いない。アンチマテリアルライフル用のものね。てことは……」
シノンは、さっと予測をつけると、マガジンが飛んで来た方向、つまり背後の崖を見る。
するとそこには、あのプレイヤーがこちらを見下ろしていた。
シノンは、そのプレイヤーから目を逸らさない。
そしてそのプレイヤーが、淡々と話し出した。
「よう、シノンさん。いつぶりかだな」
「ええ……」
「店主から聞いたよ。純正マガジンを使うようになったらしいな」
「……!ま、まあ、意見は正しかったし…」
「ふ、素直だな、あんたは」
「な……!」
そのプレイヤーは、眼帯マスクスナイパーと呼ばれ、最近ではビッグ・ボスと呼ばれるようになってきたまさにシノンの目的の人だった。
ガタイのいいそのプレイヤー、ビッグ・ボスは、少し苦笑しながら後ろ腰に手を入れ、ロープを垂らす。
シノンは、少し赤面しかけながらそのロープを握った。
ビッグ・ボスはそのことを確認し、ロープを一気に引き上げる。
シノンが、あっという間に6m超の崖の上まで引き上げられた。
「うわっ……!」
勢いが強すぎて、崖の上の地面が見える。同時に、シノンの体が放物線の頂点に達して、落下を始めた。
シノンは、慌てて着地の体制をとる。
だが、その必要はなかった。
ドスン!
ビッグ・ボスが、落ちてくるシノンを受け止める。
軽々と持ち上げられたシノンは、今度こそ真っ赤に赤面した。
「な……なっ……!なに……を!」
「なんだ?」
「さっさと下ろせこの変態!」
「ああ、すまない」
シノンが女の子らしい黄色い悲鳴を上げる。
なぜなら、ビッグ・ボスはシノンをいわゆるお姫様抱っこで抱えていたからだ。
シノンから怒声を浴びせられたビッグ・ボスは、顔色一つ変えずシノンを下ろした。
「あ、あんた!次そんな事したら顔にヘカートIIぶち込むからね!」
「そ……そうか」
ビッグ・ボスは、あまりのシノンの焦り様に狼狽えるが、シノンの脅迫には全く動じなかった。
シノンが、息を整えつつ、紛らわすように本題の話を切り出す。
「はぁ……はぁ……で、あなたの正体は何?」
「……本当に知っていいんだな?」
ビッグ・ボスは、まるで心配しているかのようにシノンの顔を窺う。
だが、シノンは問答無用で即答した。
「もちろん。私だって強くなりたい。あなたの正体を知って、次こそ勝ちたい。だから……!」
シノンが、ありのままの自分の考えを吐き出す。
ビッグ・ボスは、そんなシノンの顔と口調を見て彼女の決意を察した。
「……分かった」
そして遂に、ビッグ・ボスはマスクと眼帯をとる。
そこには、あの時、あのショップで店主とじゃれあっていた、あのプレイヤーの顔があった。
「……久しぶりです。シノンさん?」
さっきとは一転。
小さい子供のような顔つきの、それでも根はしっかりした少年が、姿を表した。
同時に、ウィンドウを開いて服を変える。
すると、ゴトッと背中背負っていたスナイパーライフルが地面に接し、ガタイが一気に小さくなった。
そしてビッグ・ボス、もといタスクは、ニコッと笑って手を広げ、体を見せるようにしながら話を続けた。
「これが僕の正体です。ご明察でしたね、シノンさん」
シノンは、流石に戸惑う。
「え、ええ?」
「……?どうかされました?」
「い、いやちょっと待って?本当にあなたなの?本当にあなたが…あのビッグ・ボス?」
「はい。そうですよ!僕がビッグ・ボスの正体です」
「え、ええ〜っ!?意外だなぁ」
「はは、それが狙いですから」
タスクが、シノンの反応に明るく対応する。
そしてその後、シノンとタスクは、友達を超えた戦友として、雑談に明け暮れた。
彼の名前がタスクである事、ビッグ・ボスと呼ばれた経緯、この戦闘スタイルが確立した所以。
タスクは、シノンからの質問逐一答えていった。
✣
そうして日が暮れかけた時、急にタスクが話を変えた。
「ところでシノンさん。これからまだ、時間はありますか?」
シノンは、急な質問に狼狽える。
「えっ……ああ、まだ大丈夫だけど」
「……なら良かった。シノンさん。実はね、」
タスクが、明るい返事を返してニコッと笑う。
そして、そのままの顔でとんでもないことを口にした。
「僕、今から依頼の仕事なんです」
「い、今から!?」
「だから、シノンさんに手伝ってもらいたいんだけど……いいですか?」
「ええ?そんな…」
「いいじゃないですか。強くなる為と思って、ほら!」
シノンは、この唐突な打診に狼狽える。
それもそのはず。もしここで逃げ出せば、強くなれるチャンスを逃してしまうが、かと言ってタスクの仕事に手を出して、自分も狙われてしまうのもなんか困る。
この二つの選択肢にも利益不利益平等に存在していて、今そのどちらを取るのかを、またシノンは悩んでいる。
ついさっきの店主やビッグ・ボスの時のタスクとのやりとりと同じ条件だ。
そんなシノンの脳裏に、この荒野にくる前に店主に言った自らの言葉が思い浮かぶ。
ー私が、私自身が強くなる為に。
「……」
シノンは、沈黙して目を閉じて思案している。
タスクは、シノンが答えを出すまで待っているつもりなのだろう、顔色一つ変えずにシノンを見ていた。
そしてシノンは、答えを出した。
「分かった。ついて行かせてもらうわ」
「そうこなくっちゃ」
こうして、タスクとシノンの、共闘が決まった。
【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!
【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!
【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。
【感想】
下のボタンをタップ!!