これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode81 駒 〜Piece〜

「そ、それで……どうなったんですか?」

 

不意に口を噤んだ店主に、キリトが喰ってかかる。

 

気づけば、話し始めてから、約30分が経過していた。

淡々と語られた、裏血盟騎士団の活動の断片。

その結果失ってしまった、()()()()

 

キリトとて、仲間を失った経験が0ではない。

でも……彼、タスクのように、いやあえて言うならば大蛇(オロチ)のように、()()()()()()()()()()()()()()なんていう失い方は、した事がなければ、そもそも起こる可能性がほぼ0に等しかった。

 

故に……キリトには、その痛みや苦しみは理解できない。

だが同時に、その苦しみを経験してなお戦い続ける彼の強さを感じた。

 

「その後……はね」

「……はい」

 

すると、また店主がポツポツと話し始める。

 

「交渉に交渉を重ね、なんとか、彼の出撃は免れた」

「……!!」

「もちろん、彼も彼で、十分に休養を与えたし、対モンスター戦闘でのリハビリも少しづつこなしていったんだ」

「なるほど……」

「それである程度、復帰の兆しが見えたところで……」

「ところ……で?」

 

そこまで話し、言葉を濁した店主の顔は、少し強ばっていた。

 

 

「血盟騎士団側が、突然、『ラフコフ討伐隊』を設立したんです」

「『ラフコフ討伐隊』……!?」

 

一方、こちらはタスクとシノンである。

 

相変わらず墓石をを含めて円形に座り、話し込んでいた。

 

「そ、それって……!!」

「血盟騎士団のメンバーの他、攻略組の有志メンバーも含まれていたそうです」

「まさか……」

「話によれば、()()()くんや、()()()さんも……」

「……!!」

 

タスクの言葉を聞き、下を向くシノン。

 

「そのこと……だったんだ」

「……え?」

 

そしてそう、ボヤいた。

すると、今度はそのボヤキを聞いて、タスクがシノンの方を向く。

 

「その事……って?」

「あ、ああ……あのね、タスク」

 

そうして、タスクの質問を受けたシノンは、慌てて説明し始めた。

 

「実は……BOBでね」

「……?」

「キリトが言ってたの。『自分は人を殺したことがある』って……」

「……!!」

「その時の記憶が蘇ったのかな……蒼白になって座り込んでさえいたわ」

「……そう、でしたか」

 

タスクは、シノンの言葉に俯く。

そして少し震えた声で、ポツリと呟いた。

 

「……やはり、僕が弱かったせいだ」

「っ……!!」

「元々、()()()()()をさせないために、僕らが立ち上がったはずなのに……」

「そ、それは……」

「結局……彼が全てを救った。酷いことをさせてしまった」

「……!!」

 

シノンは、タスクのあまりに弱々しい声に言葉を失う。

なぜならその声は、今まで聞いてきたどんな声よりも心の奥深くまで突き刺さってきたからだ。

 

強い、そんなイメージしかない彼が発したとは到底思えない、いや、だからこそ、心に突き刺さる声音。

 

 

《……悔しい》

 

 

ふと、彼女の中に、そんな気持ちが芽生えてくる。

 

自分も、そういった経験はしたことがあるはず、()()()

思い返せば、その話は、今タスクが話してくれた話の()()として、話すつもりだったのだ。

 

……だが実際、蓋を開けてみれば、自分の過去など到底及ばないような、凄惨極まった物がそこにあった。

 

「……!!」

 

もちろん、()()()自分がやった事に悔いはないし、間違っているなど微塵も思わない。

ただ……彼、ひいては店主を含め、裏血盟騎士団の過去は、二段も三段も上の段階に位置する、とても高すぎる物だった。

 

今、シノンが歯がゆいのは、まさにそれである。

 

何段も上にあるものに、どう手を出したらいいのか分からない。

そもそも、()()()()()()()()()()()()()()、分からない。

 

したがって、今の彼女の状態といえば、気の利いた言葉はおろか、相槌さえも返せず、話を聞いたまんま、黙り込んでいるだけ。

そんな状況が、そしてそれを打開することさえできない自分自身が、歯がゆくて、悔しくてしょうがないのだ。

 

「まあ……その後」

「あっ……!!」

 

すると、しばらくの沈黙の後、また、タスクが話し始める。

シノンは結局、何も口を開けずにいるしかなった。

 

「ラフコフは事実上崩壊。討伐隊、ラフコフ、お互いに相当数の犠牲者が出ました」

「犠牲……者」

「そうです。考えてみれば当然でしょう、なにしろそれまで、モンスターとしか戦ってこなかった人達だ、人殺し集団に真っ向から立ち向かって互角になれる訳ないんです」

「た、確かに……」

 

GGOでもそうだ。

そう、シノンは内心で相槌を打つ。

 

まあ……GGOに関しては、使用する武器さえ、変わるのだが。

 

「これは僕の憶測ですが……きっと、数で押し切ったんだと思います。その証拠に、戦死者は前衛職の方々が多かった」

「そうな……の?」

「ええ……一応、裏血盟も猛抗議してましたし、報告だけは出してもらえたんです。まさに予想通りでした」

「……!!」

「人数が多ければ多い程、隊列は重要です。統率のためでもあるし、味方同士で邪魔し合ってしまう可能性がでてきますからね」

「それで……その……隊列の前衛職の人達が……」

「そう、殺られしまった。僕はそう思います」

 

そこまで話し、ふう、と息を吐くタスク。

その隣で、そんなタスクを横目に見つつ、シノンは俯いた。

 

「時々……ね、思うんですよ」

「ん……?」

 

すると、少しトーンの落ちたタスクの声が聞こえてくる。

シノンはぱっとまた前を向く。

 

「こんな時、アユムはどうするだろう、もしあの時、アユムならどうしていただろう、ってね」

「……」

「色々学んだ今でもなお、断言できます。彼は、アユムは、戦略の天才だった」

「!!」

「ただそうであるが故に……最後の最後に自らの命さえ、駒にしたんです。それを何故かと彼に聞けばこういうでしょう」

「……」

「『自分も人を駒にしてきたから』とね」

「……!!」

 

タスクはいつの間にか、微笑んでアユムの墓石を見つめている。

その横顔には、悲しさと、親しみと、懐かしさが入り混じっていた。

 

その横顔を、見つめるシノン。

自分もいつか、こんな顔をできるようになるのかな、そんな思いが心の中で渦巻いた。

 

 

「……さて、すっかり夜ですね!!」

「えっ……ああ、そうね……」

 

そうして、しばらくの後。

タスクとシノンは立ち上がって、そんな事を言いながら歩き出していた。

 

「いやぁ、なかなか長くなってしまいました」

「ん……いいのよ」

「退屈じゃありませんでしたか?」

「そんな……、話してくれて嬉しかったわ」

「そりゃよかった」

 

そんな、他愛のない話をしつつ、墓地の出口へと歩いていく。

タスクはケラケラ笑っていたが、対してシノンはそうではなかった。

 

「……!」

 

どこか思い詰めた顔をして、俯いて歩いている。

そんな彼女を見て、タスクがふと問いかけた。

 

「シノンさん? 具合でも悪く……」

「いっ……いや、そうじゃないの」

「……?」

 

どこかいつもと違うシノンを見て、タスクはキョトンとする。

シノンは焦りを隠そうと、ごねごね何か呟いているが……

 

「……ふふ」

「その……え?」

 

タスクが突如、立ち止まると、にっ、と微笑んで、シノンに真っ直ぐ体を向けた。

シノンはドキリと心臓が跳ねる。

 

そして少し見つめあった後……

 

「話があるなら、聞きますよ」

「っ……!!」

「相談でも、愚痴でも、なんでもいいですから」

「いや……その……」

「あなたが話してくれる事なら、僕は何も拒絶しません」

「っ……!!!!」

 

タスクの真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな言葉に、シノンは思わず目を逸らしてしまう。

 

……が、その瞳と言葉に、シノンは救われたのだった。

どこか諦めたように、はぁ……と息を吐くと……

 

「……分かった。話したいことがあるの」

「……おや、なんでしょう」

 

そう、言葉を返して、タスクを真っ直ぐ見返した。

そんなシノンを見たタスクは、その視線を受け止めて、また見つめ返す。

 

「あなたのように……とても長くなりそうなんだけど……」

「……ほう」

「あなたにも、知ってて欲しい話」

「……では、場所を変えましょうか」

「……え?」

 

 

 

「食事でも行きましょう。あなたさえ……良ければね」

 

 

 

「……!!」

 

そうしてタスクはまた、ケラケラ笑い出す。

結局シノンはタスクから目を逸らしてしまった。

 

二人の上に浮かぶ月は、いつもと違って美しかった。




光と影編、残りあと【1】話。



【次章】『ピンクの彗星』編、近日始動!!

新たに参入した総勢6名のプレイヤー(CP)達。
店主、もといオセロットは、そんな彼らに「とある任務」を命じた。

『君達の任務はただ一つ。()()()の首を……狩る事だ。』

乞うご期待!!

※CP…キャンペーンキャラ


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この動画にしかない物語の鍵があります……。

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