これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「そう……だったんですね……」
キリトはそう、相槌を打って俯く。
あの恐ろしい記憶の影には、そんなことがあったのか。
知らなかった、いやもはや、知りようのなかったその事実を知り、彼はどこか、複雑な気持ちになっていた。
「……君は、強いよ」
「っ……!!」
すると不意に、また店主が話し始める。
キリトはその言葉に、ビクリと反応する。
「結局、あの世界の全てを、救ったのは君なんだよ」
「……え?」
「血盟騎士団団長、つまり
「……!!」
「攻略組の永久敵だったラフコフに、トドメを刺したのも、君だ」
「そ、そんな……!!」
「君は強い。信じられない程にね」
店主の真っ直ぐな瞳に、キリトは目を合わせられない。
違う、俺は強くなんかない、そう言いたかった。
でも何故か、それが言い出せない。
そんな葛藤を抱えたキリトを、まるで
すると……
「……さて、話を戻そうか」
「は、はい……?」
そう、店主は話を
キリトは、はっとして背筋を正す。
そうだった、そもそもここには、
「僕が君にこの話をしたのはね?」
「……?」
「君は本当にそれでいいのか、と疑問に思っているからだ」
「どういう……ことですか?」
店主の言葉に、キリトは怪訝な顔をして店主を見る。
対して店主は、複雑な顔をしてキリトを見据えていた。
「君はいわゆる「光」だ。僕らのような、「影」じゃない」
「っ!!」
「君は今まで、「光」の領域で戦ってきた。それは素晴らしい事だ。SAOはもちろん、少し前のALOだって、ましてや先の死銃……GGOでだって、君は数えきれない人達の命を、心を救ってきた」
「……!!」
「でも今、君はその領域を
「そ、それは……!!」
「
店主はそう言って、キリトから目線を外し、そのまま床に落として、息をつく。
キリトもキリトで、俯いて机を見て、黙り込んでしまった。
実は店主も、内心、少しかわいそうなことを言ってしまったかな、とは思ってはいるのだ。
少年が大きな決断をしてきて、その一歩を踏み出そうとしているのに、それを受け入れる側の人間すらも、それを阻もうとしている。
それもそれで、なんだかな、と思わなくもないのだ。
……でも、店主は同時に確信してもいる。
自分の言っていることは、真実と寸分違わぬことだと。
今まで自分がしてきたのは、そういう事なのだ。
少年の親友や姉の命を見捨て、
そんな道を、現時点で
「お……お言葉ですが、店主さん」
「ん……?」
「それは……違います」
「……!!」
するとその時。
キリトが、硬く結んでいた口を開き、店主を真っ直ぐ見据えた。
対する店主も、キリトのその真っ直ぐな視線に応え、真剣に見返す。
そしてキリトは、今までになくハッキリした声で、話し始めた。
「俺が今まで「光」で戦ってこれたのは、その……いわゆる『目標』があったからであって……」
「……!」
「その『目標』を達成すべきところが「光」だった、ただそれだけです」
「……」
店主は、そんなキリトの話を黙って聞いている。
……が、その目は、先程と違ってどこか輝いていた。
「そして、今の俺の『目標』は、『大切な人を守る』事です」
「……!!」
「そのためには、モンスターと戦える強さではなく、
「……」
「もっと言えば、それに並行して出てくる
そう言って、キリトはぐい、と体を前に倒して、机に肘をつき、店主を見た。
店主は少し顎を下げて、その視線に応ずる。
「店主さんはさっき、自分達のことを、
「ああ……確かに言ったね」
「それはつまり、
「っ……!!!!」
するとその時、店主の目が明らかに見開いた。
いつも、どんな時でも、飄々としていた店主の顔が、初めて素を出したかのように。
「俺はそれをまだ分かってない。命を奪ってしまったことばかりに囚われて、そこから先にある
「……!!」
「俺はそれを知りたい……いや、
「……」
「そのためには、店主さん達と同じ舞台に立たねばならないと思っているんです。
「なるほど……ね」
そしてキリトは、そこまで話すと、ぐっ……と口を噤んだ。
店主も店主で、ふぅ……と息を吐くと、なんの言葉も発さず、キリトを見すえて黙り込む。
……ただ、その目は、もう先程までと違って、やさしく、またどこか嬉しそうな感情が入り交じっている。
そうしてついに、この話に
✣
「……ふふ」
そしてその後、10分ほど経った頃。
店主は、既に帰途についていた。
街灯が寂しく照らす中、ひとり孤独に歩いている。
ただその顔だけは、いつになくニコニコしていた。
「すべては彼の予想通り……か」
彼はそう呟いて、また笑う。
今日、キリトに会いに行く前、タスクに言われたこと。
それが頭の中で駆け巡っては、それと全く同じことを言うキリトの顔が浮かんでは消える。
実を言うと、タスクは全て、見抜いていた。
キリトが何を思って挑んできて、そして負けて、何を考えているのか。
その結果、彼がこれから、どう動いてくるのか、その全てを。
「それに加えて
そしてその結果を踏まえて、タスクが店主に託したある
「いくら本名が
そう言って、店主は上を向いてまた笑う。
その後、続けて一言……
「まさか彼のコードネームが、『カズ』とはね」
そう言って、また微笑んだ。
【次回】新章『ピンクの彗星』編、遂に始動!!
✣
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