これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode82 光か影か 〜Light or shadow〜

「そう……だったんですね……」

 

キリトはそう、相槌を打って俯く。

 

あの恐ろしい記憶の影には、そんなことがあったのか。

知らなかった、いやもはや、知りようのなかったその事実を知り、彼はどこか、複雑な気持ちになっていた。

 

「……君は、強いよ」

「っ……!!」

 

すると不意に、また店主が話し始める。

キリトはその言葉に、ビクリと反応する。

 

「結局、あの世界の全てを、救ったのは君なんだよ」

「……え?」

「血盟騎士団団長、つまり()()()を倒し、皆を解放したのも君」

「……!!」

「攻略組の永久敵だったラフコフに、トドメを刺したのも、君だ」

「そ、そんな……!!」

「君は強い。信じられない程にね」

 

店主の真っ直ぐな瞳に、キリトは目を合わせられない。

 

違う、俺は強くなんかない、そう言いたかった。

でも何故か、それが言い出せない。

 

そんな葛藤を抱えたキリトを、まるで()()()()()()()()かのように、店主は微笑んで見つめる。

 

すると……

 

「……さて、話を戻そうか」

「は、はい……?」

 

そう、店主は話を()()()

 

キリトは、はっとして背筋を正す。

そうだった、そもそもここには、()()()()()()()()()()()を伝えにきたのだった、と。

 

「僕が君にこの話をしたのはね?」

「……?」

「君は本当にそれでいいのか、と疑問に思っているからだ」

「どういう……ことですか?」

 

店主の言葉に、キリトは怪訝な顔をして店主を見る。

対して店主は、複雑な顔をしてキリトを見据えていた。

 

「君はいわゆる「光」だ。僕らのような、「影」じゃない」

「っ!!」

「君は今まで、「光」の領域で戦ってきた。それは素晴らしい事だ。SAOはもちろん、少し前のALOだって、ましてや先の死銃……GGOでだって、君は数えきれない人達の命を、心を救ってきた」

「……!!」

「でも今、君はその領域を()()、「影」で……いや、敢えて言うならば「闇」で、戦おうとしてる」

「そ、それは……!!」

()()()()()()()人達の、仲間になろうとしてる。それは、本当に君がすべきことなんだろうか……とね。僕はそう思うんだ」

 

店主はそう言って、キリトから目線を外し、そのまま床に落として、息をつく。

キリトもキリトで、俯いて机を見て、黙り込んでしまった。

 

実は店主も、内心、少しかわいそうなことを言ってしまったかな、とは思ってはいるのだ。

少年が大きな決断をしてきて、その一歩を踏み出そうとしているのに、それを受け入れる側の人間すらも、それを阻もうとしている。

それもそれで、なんだかな、と思わなくもないのだ。

 

……でも、店主は同時に確信してもいる。

自分の言っていることは、真実と寸分違わぬことだと。

 

今まで自分がしてきたのは、そういう事なのだ。

少年の親友や姉の命を見捨て、()()()()()()()()の命も見捨ててきた。

 

そんな道を、現時点で()()()()()()()少年に、歩ませるわけにはいかない。

 

「お……お言葉ですが、店主さん」

「ん……?」

「それは……違います」

「……!!」

 

するとその時。

 

キリトが、硬く結んでいた口を開き、店主を真っ直ぐ見据えた。

対する店主も、キリトのその真っ直ぐな視線に応え、真剣に見返す。

 

そしてキリトは、今までになくハッキリした声で、話し始めた。

 

「俺が今まで「光」で戦ってこれたのは、その……いわゆる『目標』があったからであって……」

「……!」

「その『目標』を達成すべきところが「光」だった、ただそれだけです」

「……」

 

店主は、そんなキリトの話を黙って聞いている。

……が、その目は、先程と違ってどこか輝いていた。

 

「そして、今の俺の『目標』は、『大切な人を守る』事です」

「……!!」

「そのためには、モンスターと戦える強さではなく、()()()()()と戦える強さを得ねばならない」

「……」

「もっと言えば、それに並行して出てくる()()にも、耐えうる強さを得ねばならないんです」

 

そう言って、キリトはぐい、と体を前に倒して、机に肘をつき、店主を見た。

店主は少し顎を下げて、その視線に応ずる。

 

「店主さんはさっき、自分達のことを、()()()()()()()人達だと言いましたよね」

「ああ……確かに言ったね」

「それはつまり、()()()()()()()()()ということです」

「っ……!!!!」

 

するとその時、店主の目が明らかに見開いた。

いつも、どんな時でも、飄々としていた店主の顔が、初めて素を出したかのように。

 

「俺はそれをまだ分かってない。命を奪ってしまったことばかりに囚われて、そこから先にある()()を、まだ知らないんです」

「……!!」

「俺はそれを知りたい……いや、()()()()()()()()()()

「……」

「そのためには、店主さん達と同じ舞台に立たねばならないと思っているんです。()()()()()()()()()()()()()()()()

「なるほど……ね」

 

そしてキリトは、そこまで話すと、ぐっ……と口を噤んだ。

店主も店主で、ふぅ……と息を吐くと、なんの言葉も発さず、キリトを見すえて黙り込む。

 

……ただ、その目は、もう先程までと違って、やさしく、またどこか嬉しそうな感情が入り交じっている。

 

そうしてついに、この話に()()がついたことは、店主はもちろん、キリトも、図らずとも察した。

 

 

「……ふふ」

 

そしてその後、10分ほど経った頃。

店主は、既に帰途についていた。

 

街灯が寂しく照らす中、ひとり孤独に歩いている。

ただその顔だけは、いつになくニコニコしていた。

 

「すべては彼の予想通り……か」

 

彼はそう呟いて、また笑う。

 

今日、キリトに会いに行く前、タスクに言われたこと。

それが頭の中で駆け巡っては、それと全く同じことを言うキリトの顔が浮かんでは消える。

 

実を言うと、タスクは全て、見抜いていた。

キリトが何を思って挑んできて、そして負けて、何を考えているのか。

その結果、彼がこれから、どう動いてくるのか、その全てを。

 

「それに加えて()()()()……か、 タスク君もすごいこと言うね」

 

そしてその結果を踏まえて、タスクが店主に託したある()()

 

「いくら本名が桐ヶ谷(キリガヤ) 和人(カズト)くんだからって……ねぇ?はは……」

 

そう言って、店主は上を向いてまた笑う。

その後、続けて一言……

 

 

 

 

 

 

 

「まさか彼のコードネームが、『カズ』とはね」

 

そう言って、また微笑んだ。




【次回】新章『ピンクの彗星』編、遂に始動!!



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