これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
Episode83 後ろの後ろ 〜Back behind〜
赤みがかった太陽の光。
どこまでも続く砂の大地。
そして、それら自然の条件が重なり現れる、
今となってはもう何世紀も前の形式の戦車の残骸。
どうしてここに……と、思わずにはいられない巨大な岩。
「今ぉ日はどんな人が来っるのかな〜勝ってるっかな〜!!」
そんなフィールドに、
水筒を隣に置き、耳にはヘッドフォン。
流しているのは、もちろん「神崎エルザ」のNEWアルバム。
足を前に投げ出し、背中を戦車の残骸に預けて、完全にリラックスモードでくつろいでいる。
これが噂の「ピンクの悪魔」だと知ったら、さぞ騒いでいるプレイヤー達は落胆するだろう。
そんな事まで思わせるほど、そのチビ……レンは気を抜いて、グダついていた。
……ヘッドホンを撃ち抜かれるまでは。
✣
「ふん、ふん、ふふ〜ん」
あまりに人が来ず、あまりに暇を持て余したレン。
思わず、ここがGGOであることを忘れ、鼻歌を歌い始めた次の瞬間。
バキン!!
「ひゃっ!?」
突如として、弾丸が左耳のすぐそばに飛んできて、ヘッドホンを撃ち抜いた。
反射的にレンは頭を下げて、腹に置いていた愛銃、《Vz61 スコーピオン》二丁を両手に持つ。
すると次の瞬間。
バキィ!!
「ひええ!!」
今度は、隣に置いてあった水筒が光の粒になってしまった。
しまった、油断した、と後悔をしても後の祭り。
とにかく、この場を離れようと立ち上がる。
そして、持ち前のAGIにものを言わせて残骸の影から飛び出すと……
ドッ
「ぎゃっ!?」
今度はレンの腹に、
レンはAGI特化型。
STRもある程度上げているプレイヤーの拳に耐えられる訳もなく、軽々と4〜5m吹っ飛ばされてしまった。
「くっ……!!」
ただ、何とか転倒だけは抑えたレン。
ちくしょう、やってくれたな、と言わんばかりに、手に握りしめた愛銃と共に、その拳の主へと顔を向ける。
するとそこには……
「な……っ!?」
かくや自分の2倍はあろうか、という大きさの、ガタイのいい、ゴツゴツしたプレイヤーが立っていた。
レンは、飛びかかって反撃する、なんてことを忘れ、思わずその巨体に見入る。
やたらゴツゴツしている、と思いきや、よく見たら体の至る所に埋め込まれている防弾鉄板。
ハーフのガスマスクに右目眼帯のせいで顔が全くわからず、ただただ強い、そんな雰囲気を漂わせている。
それに加え、よく見たら右手にはハンドガン、背中には何やらどデカい銃。
それも、ハンドガンは「デザートイーグル」とかいう、暴れ馬みたいな代物な上、おそらく背中にしょっているのは「アンチマテリアルライフル」と呼ばれる、これまた強力な代物。
どんなステータスしてんだこの人、てか、眼帯つけてよく狙えるな、そんな感想がポンポンと頭の中で出てきては消えるレン。
「……お前が、ピンクの悪魔か」
「はっ!!」
そんなレンは、不意に飛んできた低い声に、我に返
「なるほどな、低い身長に砂漠に合わせた迷彩色。おまけに銃も小さく高レート。そんでもって極端なAGI特化。そりゃ手練が何人も屠られる訳だ」
「くっ……」
そして、この冷静な分析。
正直この状況は、今まで敵に出会って5秒足らずで仕留めてきたレンにとっては、初めてだった。
だからなのか、同時にないと思っていた、「屈辱」のような感情が浮かんでくる。
「さて……どうする、おチビちゃん」
「……!!」
「すまないが……
チャキッ
「っ……!!??」
すると、そんなことを考えて固まっていたレンに、その巨体は少し煽りを含めた声をかけてくる。
同時に、デザートイーグルの銃口をレンに向けた。
レンは、ここまで対峙して、会話しておいてなお、この男は私を殺す気でいるのか、と半ば驚いた目をしている。
「……ふむ」
ダァン!!
「なぁっ!?」
すると次の瞬間。
その男が、突如、レンに向けていたデザートイーグルを発砲した。
レンは飛び上がってその弾を避ける。
「くっ……そぉぉぉぉ!!!!」
「はは、なんだ、戦うんじゃないか」
そしてそのまま、その男に向かってレンは飛び込んだ。
その男もその男で、楽しそうに呟きながら、レンへとまた銃口をむける。
レンは、その小さな体を生かし、その男の懐へと潜り込もうとした。
デザートイーグルは反動が大きい。
つまり、一発撃った後、二発目を撃とうと思ったら、反動でブレた照準を戻す必要があり、そのためにはどうしても1テンポの時間が必要となる。
レンはその1テンポの間に、懐へ潜り込んでしまおうとしたのだ。
……が。
ドッ
「がっ……!?」
「そう簡単にはいかんぞ」
レンは、懐まであと少しという所で、その男の重たい膝蹴りを喰らった。
拳よりさらに強い一撃を加えられ、さっきよりはるか遠くへ吹っ飛ばされる。
「くぅ……」
いい感じまで距離が離れたし、もうこのまま逃げてしまおうか。
だんだん、そんな感情が込み上げてきた。
どう考えたってこの勝負に勝ち目はない。
自分は、一気に距離を詰めて、一気にケリをつける戦い方。
一撃必殺、ヒット・アンド・アウェイ、そんな戦い方なのだ。
そもそもからして、ステータスが違いすぎる。
それはすなわち、経験値が違う、と言っても過言ではないのだ。
そんな人に挑んで、勝ち目なんかない。
そう、結論が出てしまい、レンは咄嗟に方向転換しようとする。
……だが。
「っ……!?」
レンは突如、動きを止めた。
そして、両手に持つ愛銃、Vz61 スコーピオンを数秒眺める。
すると……
「くっ……しょうがない……なぁ!!!」
そんなことを呟いて、またその男へと突進した。
その男は、きょとん、としてレンを見ている。
だがすぐにまたデザートイーグルを構えると、数発、突進中のレンに発砲した。
ダァン ダァン ダァン
「……!!」
レンは流石のAGIか、3発の弾丸を全て躱し、その男の懐へと接近。
その男は、それに対応して発砲を諦め、肉弾戦の迎撃準備をする。
……だがレンは、それをも凌駕する動きに出た。
ギュン……!!
「……ほう」
「はぁぁぁ!!!!」
レンは、その男の懐のさらに下、股下へと、滑り込んだのである。
懐に入ったところで、どうせ膝蹴りやら、下への肘打ちやら、真下へのフックがすっ飛んでくるのは目に見えている。
だったら、
レンはそう、考えたのである。
また、最初対峙した時、一旦我を忘れて見入ったのも、この判断を助けただろう。
身長が高い、それ即ち、足も長い、のである。
「はぁぁぁ!!!!」
「なるほど……な」
そして、完全に背中を取ったレンは、満を持して愛銃をその男に……
向けなかった。
もう一段、フェイントをかましていたのだ。
レンは今、その男の上にいる。
股下をくぐり抜けた後、即座に上を飛んだのだ。
この男は、相当のトッププレイヤーだ。
ただ後ろに回り込んだだけじゃ、対応されるに決まっている。
だったら、
経験やスキルではなく、人間である以上、必ず持ち合わせているであろう、「驚き」の感情を引き出すことによって、隙を作ろうとしたのだ。
そんなとんでもない考えの元、レンは行動に移したのだった……が。
ジャッ
「っ……!?」
そんなレンの考えをも凌駕する強さを、その男は持っていた。
レンが着地し、愛銃、Vz61 スコーピオンを向けようとした時には既に……
「残念だったな」
「な……!!」
その男は、レンの眉間にデザートイーグルを突きつけていた。
レンのVz61 スコーピオンは、まだ腰の位置にある。
対して、この男のデザートイーグルは、既に自分の眉間の位置。
負けた。
レンは、この時ばっかりは、潔く認めるほかなかったし、実際認めていた。
「まだ戦うか?」
「んえっ……!?」
だが、その男は、再度、そんなことを聞いてきた。
レンは硬直して、また答えを返せずにいる。
……と、思っていたのだが。
「い、いや。もういい……です」
「……そうか」
またいきなり撃たれても困る、と、体が勝手に動いたのか、そう、咄嗟に口走っていた。
すると、そんな答えを聞いたその男は、目を見開いて面白そうに相槌をうつ。
そして……
ダァン ダァン
「ひっ……!!」
その男は、
てっきり、眉間をぶち抜かれると思っていたレンは、恐怖のあまり体全体が力んで縮こまる。
そして次の瞬間、レンは、両手が不意に軽くなったのを感じ、またそれにより、自分がまだ生きていることに気づいた。
「すまんな、仕事なんだ」
「へ……? し、仕事……?」
すると、前からもはや聞きなれた声が聞こえてくる。
「そう、砂漠で暴れ回っている謎のPK、『ピンクの悪魔』の無力化」
「無力……化」
「だからお前さんを殺す必要はない。武器さえ壊しちゃえばな」
「え……」
そして、その声によってやっと、自分の両手に持つ愛銃が、きれいさっぱり消えて無くなっているのに気がついた。
「殺しはしない……が、仕事上、君に戦闘能力があっては困るんだ。すまない」
「い、いや、別に……」
命だけでも……と言いかけて、この世界が仮想世界であることを思い出し、すんでのところで踏みとどまる。
ただ同時に……
この人、本当は優しい人なのかな?
不意に、そんな考えが、レンの中にぽっ、と浮かび上がってくる。
おそらく、レンにとっては、初めての経験だったのだろう。
✣
「ふぅ……終わったな」
「ええ……」
そしてそれから、数分後。
ピンクの砂漠に座り込み、赤みがかった太陽の光を浴びながら、遠くを見つめて黄昏ている、
片方は、もちろん「ビック・ボス」。
そしてもう片方……際どい服装に、やたら長くでかい銃を抱えた少女、「クワイエット」。
二人は、ついさっき仕事を終えた、バディ同士である。
「あんた……あの子に何か話してたけど、何話してたの?」
「ん? ああ、それは……な」
すると、クワイエットがビック・ボスの方をジト目で見て、そんな質問を突き刺してきた。
「しかもあの子の武器壊して、ナイフだけ持たせてSBCへ走らせるなんて……いっそ殺してあげた方がよかったんじゃない?」
「ま、まあそう……だな。けど……」
「けど……なによ」
そんな指摘に肯定の意を示しつつも、どこか口篭るビック・ボス。
クワイエットはそんな彼の挙動に、さらにジト目のジト具合を加速させる。
そしてついに、観念したのか、ビック・ボスがその口篭った理由を話し出した。
「ナ、ナイフの方が、彼女のような、近接戦闘では有利な場合もある。それを教えてただけ……だ」
「……じゃなんで殺してあげなかったのよ」
「う……そ、それは……」
「ナイフが有利なのは認める。だけど、だからってナイフ一本ほいって渡して、まあまあな距離あるところまで走らせたのはなんで?」
「それ……は、だな。その……」
「……」
「またあの子と、戦いたかったからだ」
「……はあ?」
クワイエットは、ビック・ボスの答えに思わず変な声を上げてしまう。
仮想世界では、命はひとつではない。
なのに彼は、そんなことを言うのか。
でもその直後、まぁでも、彼らしいっちゃぁ彼らしいわね……と、内心でため息をついた。
すると、ビック・ボスは、ごにょごにょと言い訳を繰り出しはじめる。
「だいたいな、クワイエットが初弾を外さなければよかった話……」
「な、な、なんですって? 戦いたそうにうずうずしてたのはどいつよ」
「う、そ、それは……」
そんな二人は、どこか楽しそうであった。
大変、お待たせ致しました。
SJ編、そして、『ストーリーダイブ・キャンペーン』のキャラ登場章、開幕!!
【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!
【作者 公式LINE】
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