これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

85 / 189
第五章 ピンクの彗星 〜The pink comet〜
Episode83 後ろの後ろ 〜Back behind〜


赤みがかった太陽の光。

どこまでも続く砂の大地。

 

そして、それら自然の条件が重なり現れる、()()()()()()

 

今となってはもう何世紀も前の形式の戦車の残骸。

どうしてここに……と、思わずにはいられない巨大な岩。

 

「今ぉ日はどんな人が来っるのかな〜勝ってるっかな〜!!」

 

そんなフィールドに、()()()()はいた。

 

水筒を隣に置き、耳にはヘッドフォン。

流しているのは、もちろん「神崎エルザ」のNEWアルバム。

 

足を前に投げ出し、背中を戦車の残骸に預けて、完全にリラックスモードでくつろいでいる。

 

これが噂の「ピンクの悪魔」だと知ったら、さぞ騒いでいるプレイヤー達は落胆するだろう。

そんな事まで思わせるほど、そのチビ……レンは気を抜いて、グダついていた。

 

 

 

……ヘッドホンを撃ち抜かれるまでは。

 

 

「ふん、ふん、ふふ〜ん」

 

あまりに人が来ず、あまりに暇を持て余したレン。

思わず、ここがGGOであることを忘れ、鼻歌を歌い始めた次の瞬間。

 

バキン!!

「ひゃっ!?」

 

突如として、弾丸が左耳のすぐそばに飛んできて、ヘッドホンを撃ち抜いた。

 

反射的にレンは頭を下げて、腹に置いていた愛銃、《Vz61 スコーピオン》二丁を両手に持つ。

 

すると次の瞬間。

 

バキィ!!

「ひええ!!」

 

今度は、隣に置いてあった水筒が光の粒になってしまった。

 

しまった、油断した、と後悔をしても後の祭り。

とにかく、この場を離れようと立ち上がる。

 

そして、持ち前のAGIにものを言わせて残骸の影から飛び出すと……

 

ドッ

「ぎゃっ!?」

 

今度はレンの腹に、()()、飛んできた。

 

レンはAGI特化型。

STRもある程度上げているプレイヤーの拳に耐えられる訳もなく、軽々と4〜5m吹っ飛ばされてしまった。

 

「くっ……!!」

 

ただ、何とか転倒だけは抑えたレン。

ちくしょう、やってくれたな、と言わんばかりに、手に握りしめた愛銃と共に、その拳の主へと顔を向ける。

 

するとそこには……

 

「な……っ!?」

 

かくや自分の2倍はあろうか、という大きさの、ガタイのいい、ゴツゴツしたプレイヤーが立っていた。

レンは、飛びかかって反撃する、なんてことを忘れ、思わずその巨体に見入る。

 

やたらゴツゴツしている、と思いきや、よく見たら体の至る所に埋め込まれている防弾鉄板。

ハーフのガスマスクに右目眼帯のせいで顔が全くわからず、ただただ強い、そんな雰囲気を漂わせている。

 

それに加え、よく見たら右手にはハンドガン、背中には何やらどデカい銃。

それも、ハンドガンは「デザートイーグル」とかいう、暴れ馬みたいな代物な上、おそらく背中にしょっているのは「アンチマテリアルライフル」と呼ばれる、これまた強力な代物。

 

どんなステータスしてんだこの人、てか、眼帯つけてよく狙えるな、そんな感想がポンポンと頭の中で出てきては消えるレン。

 

「……お前が、ピンクの悪魔か」

「はっ!!」

 

そんなレンは、不意に飛んできた低い声に、我に返()()()()()()()

 

「なるほどな、低い身長に砂漠に合わせた迷彩色。おまけに銃も小さく高レート。そんでもって極端なAGI特化。そりゃ手練が何人も屠られる訳だ」

「くっ……」

 

そして、この冷静な分析。

 

正直この状況は、今まで敵に出会って5秒足らずで仕留めてきたレンにとっては、初めてだった。

 

だからなのか、同時にないと思っていた、「屈辱」のような感情が浮かんでくる。

 

「さて……どうする、おチビちゃん」

「……!!」

「すまないが……()()なんでな」

チャキッ

「っ……!!??」

 

すると、そんなことを考えて固まっていたレンに、その巨体は少し煽りを含めた声をかけてくる。

同時に、デザートイーグルの銃口をレンに向けた。

 

レンは、ここまで対峙して、会話しておいてなお、この男は私を殺す気でいるのか、と半ば驚いた目をしている。

 

「……ふむ」

ダァン!!

「なぁっ!?」

 

すると次の瞬間。

その男が、突如、レンに向けていたデザートイーグルを発砲した。

 

レンは飛び上がってその弾を避ける。

 

「くっ……そぉぉぉぉ!!!!」

「はは、なんだ、戦うんじゃないか」

 

そしてそのまま、その男に向かってレンは飛び込んだ。

その男もその男で、楽しそうに呟きながら、レンへとまた銃口をむける。

 

レンは、その小さな体を生かし、その男の懐へと潜り込もうとした。

 

デザートイーグルは反動が大きい。

つまり、一発撃った後、二発目を撃とうと思ったら、反動でブレた照準を戻す必要があり、そのためにはどうしても1テンポの時間が必要となる。

 

レンはその1テンポの間に、懐へ潜り込んでしまおうとしたのだ。

……が。

 

ドッ

「がっ……!?」

「そう簡単にはいかんぞ」

 

レンは、懐まであと少しという所で、その男の重たい膝蹴りを喰らった。

拳よりさらに強い一撃を加えられ、さっきよりはるか遠くへ吹っ飛ばされる。

 

「くぅ……」

 

いい感じまで距離が離れたし、もうこのまま逃げてしまおうか。

だんだん、そんな感情が込み上げてきた。

 

どう考えたってこの勝負に勝ち目はない。

 

自分は、一気に距離を詰めて、一気にケリをつける戦い方。

一撃必殺、ヒット・アンド・アウェイ、そんな戦い方なのだ。

 

そもそもからして、ステータスが違いすぎる。

それはすなわち、経験値が違う、と言っても過言ではないのだ。

 

そんな人に挑んで、勝ち目なんかない。

そう、結論が出てしまい、レンは咄嗟に方向転換しようとする。

 

……だが。

 

「っ……!?」

 

レンは突如、動きを止めた。

そして、両手に持つ愛銃、Vz61 スコーピオンを数秒眺める。

 

すると……

 

「くっ……しょうがない……なぁ!!!」

 

そんなことを呟いて、またその男へと突進した。

 

その男は、きょとん、としてレンを見ている。

だがすぐにまたデザートイーグルを構えると、数発、突進中のレンに発砲した。

 

ダァン ダァン ダァン

「……!!」

 

レンは流石のAGIか、3発の弾丸を全て躱し、その男の懐へと接近。

その男は、それに対応して発砲を諦め、肉弾戦の迎撃準備をする。

 

……だがレンは、それをも凌駕する動きに出た。

 

ギュン……!!

「……ほう」

「はぁぁぁ!!!!」

 

レンは、その男の懐のさらに下、股下へと、滑り込んだのである。

 

懐に入ったところで、どうせ膝蹴りやら、下への肘打ちやら、真下へのフックがすっ飛んでくるのは目に見えている。

 

だったら、()()()()()()()()()()()のだ。

レンはそう、考えたのである。

 

また、最初対峙した時、一旦我を忘れて見入ったのも、この判断を助けただろう。

身長が高い、それ即ち、足も長い、のである。

 

「はぁぁぁ!!!!」

「なるほど……な」

 

そして、完全に背中を取ったレンは、満を持して愛銃をその男に……

向けなかった。

 

もう一段、フェイントをかましていたのだ。

 

レンは今、その男の上にいる。

股下をくぐり抜けた後、即座に上を飛んだのだ。

 

この男は、相当のトッププレイヤーだ。

ただ後ろに回り込んだだけじゃ、対応されるに決まっている。

 

だったら、()()()()()を、とればいいじゃない。

経験やスキルではなく、人間である以上、必ず持ち合わせているであろう、「驚き」の感情を引き出すことによって、隙を作ろうとしたのだ。

 

そんなとんでもない考えの元、レンは行動に移したのだった……が。

 

ジャッ

「っ……!?」

 

そんなレンの考えをも凌駕する強さを、その男は持っていた。

 

レンが着地し、愛銃、Vz61 スコーピオンを向けようとした時には既に……

 

「残念だったな」

「な……!!」

 

その男は、レンの眉間にデザートイーグルを突きつけていた。

 

レンのVz61 スコーピオンは、まだ腰の位置にある。

対して、この男のデザートイーグルは、既に自分の眉間の位置。

 

負けた。

レンは、この時ばっかりは、潔く認めるほかなかったし、実際認めていた。

 

「まだ戦うか?」

「んえっ……!?」

 

だが、その男は、再度、そんなことを聞いてきた。

レンは硬直して、また答えを返せずにいる。

 

……と、思っていたのだが。

 

「い、いや。もういい……です」

「……そうか」

 

またいきなり撃たれても困る、と、体が勝手に動いたのか、そう、咄嗟に口走っていた。

すると、そんな答えを聞いたその男は、目を見開いて面白そうに相槌をうつ。

 

そして……

 

ダァン ダァン

「ひっ……!!」

 

その男は、()()()()()デザートイーグルを、立て続けに2発、発砲した。

 

てっきり、眉間をぶち抜かれると思っていたレンは、恐怖のあまり体全体が力んで縮こまる。

そして次の瞬間、レンは、両手が不意に軽くなったのを感じ、またそれにより、自分がまだ生きていることに気づいた。

 

「すまんな、仕事なんだ」

「へ……? し、仕事……?」

 

すると、前からもはや聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「そう、砂漠で暴れ回っている謎のPK、『ピンクの悪魔』の無力化」

「無力……化」

「だからお前さんを殺す必要はない。武器さえ壊しちゃえばな」

「え……」

 

そして、その声によってやっと、自分の両手に持つ愛銃が、きれいさっぱり消えて無くなっているのに気がついた。

 

「殺しはしない……が、仕事上、君に戦闘能力があっては困るんだ。すまない」

「い、いや、別に……」

 

命だけでも……と言いかけて、この世界が仮想世界であることを思い出し、すんでのところで踏みとどまる。

 

ただ同時に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という、その男の優しさにも気がついた。

 

この人、本当は優しい人なのかな?

不意に、そんな考えが、レンの中にぽっ、と浮かび上がってくる。

 

おそらく、レンにとっては、初めての経験だったのだろう。

()()()()()()と戦い、そして少し、会話したのは。

 

 

「ふぅ……終わったな」

「ええ……」

 

そしてそれから、数分後。

 

ピンクの砂漠に座り込み、赤みがかった太陽の光を浴びながら、遠くを見つめて黄昏ている、()()()姿があった。

 

片方は、もちろん「ビック・ボス」。

そしてもう片方……際どい服装に、やたら長くでかい銃を抱えた少女、「クワイエット」。

 

二人は、ついさっき仕事を終えた、バディ同士である。

 

「あんた……あの子に何か話してたけど、何話してたの?」

「ん? ああ、それは……な」

 

すると、クワイエットがビック・ボスの方をジト目で見て、そんな質問を突き刺してきた。

 

「しかもあの子の武器壊して、ナイフだけ持たせてSBCへ走らせるなんて……いっそ殺してあげた方がよかったんじゃない?」

「ま、まあそう……だな。けど……」

「けど……なによ」

 

そんな指摘に肯定の意を示しつつも、どこか口篭るビック・ボス。

クワイエットはそんな彼の挙動に、さらにジト目のジト具合を加速させる。

 

そしてついに、観念したのか、ビック・ボスがその口篭った理由を話し出した。

 

「ナ、ナイフの方が、彼女のような、近接戦闘では有利な場合もある。それを教えてただけ……だ」

「……じゃなんで殺してあげなかったのよ」

「う……そ、それは……」

「ナイフが有利なのは認める。だけど、だからってナイフ一本ほいって渡して、まあまあな距離あるところまで走らせたのはなんで?」

「それ……は、だな。その……」

「……」

「またあの子と、戦いたかったからだ」

「……はあ?」

 

クワイエットは、ビック・ボスの答えに思わず変な声を上げてしまう。

仮想世界では、命はひとつではない。

なのに彼は、そんなことを言うのか。

 

でもその直後、まぁでも、彼らしいっちゃぁ彼らしいわね……と、内心でため息をついた。

 

すると、ビック・ボスは、ごにょごにょと言い訳を繰り出しはじめる。

 

「だいたいな、クワイエットが初弾を外さなければよかった話……」

「な、な、なんですって? 戦いたそうにうずうずしてたのはどいつよ」

「う、そ、それは……」

 

そんな二人は、どこか楽しそうであった。




大変、お待たせ致しました。

SJ編、そして、『ストーリーダイブ・キャンペーン』のキャラ登場章、開幕!!

【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!

【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!

【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。

【感想】
下のボタンをタップ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。