これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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第五章 ピンクの彗星 〜The pink comet〜
Episode83 後ろの後ろ 〜Back behind〜


赤みがかった太陽の光。

どこまでも続く砂の大地。

 

そして、それら自然の条件が重なり現れる、ピ(・)ン(・)ク(・)の(・)砂(・)漠(・)。

 

今となってはもう何世紀も前の形式の戦車の残骸。

どうしてここに……と、思わずにはいられない巨大な岩。

 

「今ぉ日はどんな人が来っるのかな〜勝ってるっかな〜!!」

 

そんなフィールドに、そ(・)の(・)チ(・)ビ(・)はいた。

 

水筒を隣に置き、耳にはヘッドフォン。

流しているのは、もちろん「神崎エルザ」のNEWアルバム。

 

足を前に投げ出し、背中を戦車の残骸に預けて、完全にリラックスモードでくつろいでいる。

 

これが噂の「ピンクの悪魔」だと知ったら、さぞ騒いでいるプレイヤー達は落胆するだろう。

そんな事まで思わせるほど、そのチビ……レンは気を抜いて、グダついていた。

 

 

 

……ヘッドホンを撃ち抜かれるまでは。

 

✣

 

「ふん、ふん、ふふ〜ん」

 

あまりに人が来ず、あまりに暇を持て余したレン。

思わず、ここがGGOであることを忘れ、鼻歌を歌い始めた次の瞬間。

 

バキン!!

「ひゃっ!?」

 

突如として、弾丸が左耳のすぐそばに飛んできて、ヘッドホンを撃ち抜いた。

 

反射的にレンは頭を下げて、腹に置いていた愛銃、《Vz61 スコーピオン》二丁を両手に持つ。

 

すると次の瞬間。

 

バキィ!!

「ひええ!!」

 

今度は、隣に置いてあった水筒が光の粒になってしまった。

 

しまった、油断した、と後悔をしても後の祭り。

とにかく、この場を離れようと立ち上がる。

 

そして、持ち前のAGIにものを言わせて残骸の影から飛び出すと……

 

ドッ

「ぎゃっ!?」

 

今度はレンの腹に、拳(・)が(・)、飛んできた。

 

レンはAGI特化型。

STRもある程度上げているプレイヤーの拳に耐えられる訳もなく、軽々と4〜5m吹っ飛ばされてしまった。

 

「くっ……!!」

 

ただ、何とか転倒だけは抑えたレン。

ちくしょう、やってくれたな、と言わんばかりに、手に握りしめた愛銃と共に、その拳の主へと顔を向ける。

 

するとそこには……

 

「な……っ!?」

 

かくや自分の2倍はあろうか、という大きさの、ガタイのいい、ゴツゴツしたプレイヤーが立っていた。

レンは、飛びかかって反撃する、なんてことを忘れ、思わずその巨体に見入る。

 

やたらゴツゴツしている、と思いきや、よく見たら体の至る所に埋め込まれている防弾鉄板。

ハーフのガスマスクに右目眼帯のせいで顔が全くわからず、ただただ強い、そんな雰囲気を漂わせている。

 

それに加え、よく見たら右手にはハンドガン、背中には何やらどデカい銃。

それも、ハンドガンは「デザートイーグル」とかいう、暴れ馬みたいな代物な上、おそらく背中にしょっているのは「アンチマテリアルライフル」と呼ばれる、これまた強力な代物。

 

どんなステータスしてんだこの人、てか、眼帯つけてよく狙えるな、そんな感想がポンポンと頭の中で出てきては消えるレン。

 

「……お前が、ピンクの悪魔か」

「はっ!!」

 

そんなレンは、不意に飛んできた低い声に、我に返ら(・)せ(・)て(・)も(・)ら(・)っ(・)た(・)。

 

「なるほどな、低い身長に砂漠に合わせた迷彩色。おまけに銃も小さく高レート。そんでもって極端なAGI特化。そりゃ手練が何人も屠られる訳だ」

「くっ……」

 

そして、この冷静な分析。

 

正直この状況は、今まで敵に出会って5秒足らずで仕留めてきたレンにとっては、初めてだった。

 

だからなのか、同時にないと思っていた、「屈辱」のような感情が浮かんでくる。

 

「さて……どうする、おチビちゃん」

「……!!」

「すまないが……仕(・)事(・)なんでな」

チャキッ

「っ……!!??」

 

すると、そんなことを考えて固まっていたレンに、その巨体は少し煽りを含めた声をかけてくる。

同時に、デザートイーグルの銃口をレンに向けた。

 

レンは、ここまで対峙して、会話しておいてなお、この男は私を殺す気でいるのか、と半ば驚いた目をしている。

 

「……ふむ」

ダァン!!

「なぁっ!?」

 

すると次の瞬間。

その男が、突如、レンに向けていたデザートイーグルを発砲した。

 

レンは飛び上がってその弾を避ける。

 

「くっ……そぉぉぉぉ!!!!」

「はは、なんだ、戦うんじゃないか」

 

そしてそのまま、その男に向かってレンは飛び込んだ。

その男もその男で、楽しそうに呟きながら、レンへとまた銃口をむける。

 

レンは、その小さな体を生かし、その男の懐へと潜り込もうとした。

 

デザートイーグルは反動が大きい。

つまり、一発撃った後、二発目を撃とうと思ったら、反動でブレた照準を戻す必要があり、そのためにはどうしても1テンポの時間が必要となる。

 

レンはその1テンポの間に、懐へ潜り込んでしまおうとしたのだ。

……が。

 

ドッ

「がっ……!?」

「そう簡単にはいかんぞ」

 

レンは、懐まであと少しという所で、その男の重たい膝蹴りを喰らった。

拳よりさらに強い一撃を加えられ、さっきよりはるか遠くへ吹っ飛ばされる。

 

「くぅ……」

 

いい感じまで距離が離れたし、もうこのまま逃げてしまおうか。

だんだん、そんな感情が込み上げてきた。

 

どう考えたってこの勝負に勝ち目はない。

 

自分は、一気に距離を詰めて、一気にケリをつける戦い方。

一撃必殺、ヒット・アンド・アウェイ、そんな戦い方なのだ。

 

そもそもからして、ステータスが違いすぎる。

それはすなわち、経験値が違う、と言っても過言ではないのだ。

 

そんな人に挑んで、勝ち目なんかない。

そう、結論が出てしまい、レンは咄嗟に方向転換しようとする。

 

……だが。

 

「っ……!?」

 

レンは突如、動きを止めた。

そして、両手に持つ愛銃、Vz61 スコーピオンを数秒眺める。

 

すると……

 

「くっ……しょうがない……なぁ!!!」

 

そんなことを呟いて、またその男へと突進した。

 

その男は、きょとん、としてレンを見ている。

だがすぐにまたデザートイーグルを構えると、数発、突進中のレンに発砲した。

 

ダァン ダァン ダァン

「……!!」

 

レンは流石のAGIか、3発の弾丸を全て躱し、その男の懐へと接近。

その男は、それに対応して発砲を諦め、肉弾戦の迎撃準備をする。

 

……だがレンは、それをも凌駕する動きに出た。

 

ギュン……!!

「……ほう」

「はぁぁぁ!!!!」

 

レンは、その男の懐のさらに下、股下へと、滑り込んだのである。

 

懐に入ったところで、どうせ膝蹴りやら、下への肘打ちやら、真下へのフックがすっ飛んでくるのは目に見えている。

 

だったら、潜(・)り(・)抜(・)け(・)て(・)し(・)ま(・)え(・)ば(・)い(・)い(・)のだ。

レンはそう、考えたのである。

 

また、最初対峙した時、一旦我を忘れて見入ったのも、この判断を助けただろう。

身長が高い、それ即ち、足も長い、のである。

 

「はぁぁぁ!!!!」

「なるほど……な」

 

そして、完全に背中を取ったレンは、満を持して愛銃をその男に……

向けなかった。

 

もう一段、フェイントをかましていたのだ。

 

レンは今、その男の上にいる。

股下をくぐり抜けた後、即座に上を飛んだのだ。

 

この男は、相当のトッププレイヤーだ。

ただ後ろに回り込んだだけじゃ、対応されるに決まっている。

 

だったら、後(・)ろ(・)の(・)後(・)ろ(・)を、とればいいじゃない。

経験やスキルではなく、人間である以上、必ず持ち合わせているであろう、「驚き」の感情を引き出すことによって、隙を作ろうとしたのだ。

 

そんなとんでもない考えの元、レンは行動に移したのだった……が。

 

ジャッ

「っ……!?」

 

そんなレンの考えをも凌駕する強さを、その男は持っていた。

 

レンが着地し、愛銃、Vz61 スコーピオンを向けようとした時には既に……

 

「残念だったな」

「な……!!」

 

その男は、レンの眉間にデザートイーグルを突きつけていた。

 

レンのVz61 スコーピオンは、まだ腰の位置にある。

対して、この男のデザートイーグルは、既に自分の眉間の位置。

 

負けた。

レンは、この時ばっかりは、潔く認めるほかなかったし、実際認めていた。

 

「まだ戦うか?」

「んえっ……!?」

 

だが、その男は、再度、そんなことを聞いてきた。

レンは硬直して、また答えを返せずにいる。

 

……と、思っていたのだが。

 

「い、いや。もういい……です」

「……そうか」

 

またいきなり撃たれても困る、と、体が勝手に動いたのか、そう、咄嗟に口走っていた。

すると、そんな答えを聞いたその男は、目を見開いて面白そうに相槌をうつ。

 

そして……

 

ダァン ダァン

「ひっ……!!」

 

その男は、下(・)に(・)向(・)け(・)た(・)デザートイーグルを、立て続けに2発、発砲した。

 

てっきり、眉間をぶち抜かれると思っていたレンは、恐怖のあまり体全体が力んで縮こまる。

そして次の瞬間、レンは、両手が不意に軽くなったのを感じ、またそれにより、自分がまだ生きていることに気づいた。

 

「すまんな、仕事なんだ」

「へ……? し、仕事……?」

 

すると、前からもはや聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「そう、砂漠で暴れ回っている謎のPK、『ピンクの悪魔』の無力化」

「無力……化」

「だからお前さんを殺す必要はない。武器さえ壊しちゃえばな」

「え……」

 

そして、その声によってやっと、自分の両手に持つ愛銃が、きれいさっぱり消えて無くなっているのに気がついた。

 

「殺しはしない……が、仕事上、君に戦闘能力があっては困るんだ。すまない」

「い、いや、別に……」

 

命だけでも……と言いかけて、この世界が仮想世界であることを思い出し、すんでのところで踏みとどまる。

 

ただ同時に……仮(・)想(・)世(・)界(・)で(・)あ(・)っ(・)て(・)も(・)、(・)命(・)を(・)奪(・)わ(・)な(・)い(・)で(・)い(・)て(・)く(・)れ(・)た(・)、という、その男の優しさにも気がついた。

 

この人、本当は優しい人なのかな?

不意に、そんな考えが、レンの中にぽっ、と浮かび上がってくる。

 

おそらく、レンにとっては、初めての経験だったのだろう。

本(・)当(・)に(・)強(・)い(・)人(・)と戦い、そして少し、会話したのは。

 

✣

 

「ふぅ……終わったな」

「ええ……」

 

そしてそれから、数分後。

 

ピンクの砂漠に座り込み、赤みがかった太陽の光を浴びながら、遠くを見つめて黄昏ている、二(・)人(・)の(・)姿があった。

 

片方は、もちろん「ビック・ボス」。

そしてもう片方……際どい服装に、やたら長くでかい銃を抱えた少女、「クワイエット」。

 

二人は、ついさっき仕事を終えた、バディ同士である。

 

「あんた……あの子に何か話してたけど、何話してたの?」

「ん? ああ、それは……な」

 

すると、クワイエットがビック・ボスの方をジト目で見て、そんな質問を突き刺してきた。

 

「しかもあの子の武器壊して、ナイフだけ持たせてSBCへ走らせるなんて……いっそ殺してあげた方がよかったんじゃない?」

「ま、まあそう……だな。けど……」

「けど……なによ」

 

そんな指摘に肯定の意を示しつつも、どこか口篭るビック・ボス。

クワイエットはそんな彼の挙動に、さらにジト目のジト具合を加速させる。

 

そしてついに、観念したのか、ビック・ボスがその口篭った理由を話し出した。

 

「ナ、ナイフの方が、彼女のような、近接戦闘では有利な場合もある。それを教えてただけ……だ」

「……じゃなんで殺してあげなかったのよ」

「う……そ、それは……」

「ナイフが有利なのは認める。だけど、だからってナイフ一本ほいって渡して、まあまあな距離あるところまで走らせたのはなんで?」

「それ……は、だな。その……」

「……」

「またあの子と、戦いたかったからだ」

「……はあ?」

 

クワイエットは、ビック・ボスの答えに思わず変な声を上げてしまう。

仮想世界では、命はひとつではない。

なのに彼は、そんなことを言うのか。

 

でもその直後、まぁでも、彼らしいっちゃぁ彼らしいわね……と、内心でため息をついた。

 

すると、ビック・ボスは、ごにょごにょと言い訳を繰り出しはじめる。

 

「だいたいな、クワイエットが初弾を外さなければよかった話……」

「な、な、なんですって? 戦いたそうにうずうずしてたのはどいつよ」

「う、そ、それは……」

 

そんな二人は、どこか楽しそうであった。




大変、お待たせ致しました。

SJ編、そして、『ストーリーダイブ・キャンペーン』のキャラ登場章、開幕!!

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