これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode85 ギャップ 〜gap〜

確かこの前、どこかで聞いたことがある気がする。

 

「傭兵のいるプレイヤーショップは、だいたいいいお店なんだぞ」と。

 

なんでも、傭兵稼業を成り立たせられるプレイヤーは、ほんのひと握りらしいからだと。

そしてそんなプレイヤーが通い、従っているお店はまず間違いないのだと。

 

考えてみれば単純な話だ。

プロさえいるようなこの世界で、顧客に満足いく結果を提供できる者なんて、それはそれは相当な練度に決まってる。

 

ただレンは、その情報を耳に挟んだ所で、特に何も考えなかった。

主な買い物はあらかた大きなマーケットだし、たまーにいくプレイヤーショップなんて、傭兵のよの字もなかったから。

 

だが、そのピトさんに誘われていくお店とはいえ、確かまだ4軒目か5軒目に行くプレイヤーショップが、まさかトップレベルの敷居のお高いお高い、恐ろしいお店だとなると、話が違う。

 

こういうお店って、何十軒も回って辿り着くものじゃないの!?

てか私が入っていいの!? ついこのあいだ強い人にボコられた上に武器も何も無いのに!?

 

そんな悲鳴が心の中で響いている。

……その結果。

 

「……それで、どんなやつがほしいのかな?」

「えっ……ええっと……」

 

困ったぞ。

レンはそう、内心で悪態をついていた。

 

「いいよ〜、なんでも。うちはあらかた揃ってるから〜」

「は、はい……はは……」

 

目の前で微笑む、ピトフーイからは店主、と紹介されたやたらガタイのいい男性プレイヤーに、レンは苦笑いで答えることしかできない。

 

ここは、『ガン・マリア』というお店のカウンター。

ピトフーイに引きずり込まれた挙句、店主を紹介されるやいなや、「じゃ、わたしはこれで」と言わんばかりに放り出され、店主に勧められるがまま、カウンターに座ったのである。

 

助けてよピトさん!?

そう念じてみるも、当の本人は《ショットガン》と書かれたショーケースの前で、

 

「ムッハーーー!?!?!? こぉれめっっっっちゃレアなやつじゃん!!!!!!」

 

とかなんとかいって、もはやこっちに目を配りさえもしないご様子。

 

「何が欲しい?」って聞かれても、私どう答えたらいいのか分かんないよ……。

きっとここで、「今武器を持っていない」なんて言ったら、私笑われるんだろうなぁ。

「いつ頃からやってるの?」とか聞かれたらどうしよう……それこそなんて答えたらいいのか……。

 

そんな不安と憶測が、駆け巡っては止まらない。

 

……するとその時だった。

 

「よしわかった」

「……んぇ?」

 

店主はそう言って、おもむろに、カウンターの下から椅子を取り出して座った。

そして顔をぐいーと下げて、レンと目線の高さを合わせる。

 

もちろんレンは戸惑う。

何かを言おうとしているが、結局パクパクしてるだけ。

 

そんなレンを見て、その店主は微笑みながら話してくれた。

 

「まず、レンさん……いや、レンちゃん、でいいかな」

「あっはい、そう……です」

「ん! おっけ、そいじゃーレンちゃん」

「は、はい……?」

 

あれ、この人、意外と話しやすい人……?

レンの中に、そんな感情が芽生える。

 

ただ、その感情は、一瞬で刈り取られてしまった。

 

「あなた、このゲーム始めて、割と日が浅いでしょ?」

「ん!?」

「え〜と、もともと使ってたのは二丁持ち系だね。ま、さしずめ《Vz61 スコーピオン》かそこらでしょ」

「えっあっ……ええ?」

「そいで、得意なマップはおそらく砂漠だね、敏捷系ならなおそうだろう」

「……!?」

「……で、今。武器を何も持ってない……よね?」

「……」

 

ニコニコしてそう話す店主に、レンは思わずポカーンとしてみてしまう。

 

あれ、この人、意外と怖い人……?

ついさっきと真反対の感情が、さっきより三倍増しで膨れ上がった。

 

「どっ……どどっ……どうして……!?」

 

つい反射で、そんなことを聞いてみる。

……すると、またもや感情をひっくり返すような言葉が、彼の口から飛び出てきた。

 

「ふふ……ごめんね、実は最初の質問、ちょっとしたひっかけなんだ」

「はい?」

「あの質問にね、例えば特定の銃の名前をだす人は、大抵ガンマニア」

「は、はぁ……」

「アサルトライフルとか、カービンとか、銃種をだす人は、まあ普通の人」

「ふむ」

「高威力だとか、高レートだとか、そういう性能のことをだす人は、割と競技志向というか、ガチ勢さん」

「なるほど……」

「で、ロマンとかいう人は変態」

「変態……!?」

「関わらないほうがいいよ」

「へっ……へぇ……」

 

あ、私そういう人しってるー。

レンはつい、そう口走りそうになってやめた。

 

すると店主が、一段と微笑んで机に肘をつき、体をぐい、と前に出す。

 

「でね」

「……?」

「レンちゃんのように……」

 

何を答えればいいのかわからくなって黙りこんじゃう人、ですよね。

レンは勝手にそう想像して、ため息をつきそうになる。

 

……だが。

 

「何かうまく答えようとして、逆に不安そうな顔してしまう人。そういう人は、割と初心者さん」

「ゔっ……」

 

想像していたよりはるかに刺し込んだ回答が、レンの心に刺さってきた。

 

あ、あれ〜、私、意外と感情が表に出ない人なんだけどな。

そんな考えが浮かんできて、レンは思わず苦笑いする。

 

「はは、リアルとのギャップに迷うよね、最初の頃は」

「え……あっ……!?」

 

そうじゃん、ここ、仮想世界じゃん。

レンは、いまさらすぎることを思い出す。

 

この世界では、自分の涙を無理矢理止めることはできないように、感情のセーブも現実世界と比べるとしにくくなる、とピトフーイに教わっていた。

 

「までも、あらかたあなたのことはわかったよ」

「は、はいぃぃ……」

 

ダメだ、この人に隠し事は絶対できないっ!!

そんな叫びが心の中でこだました。

 

もうさらけ出すものは何も無い。

 

……と思いきや。

一瞬、リアルの()()()()()()()()()()が頭をよぎる。

 

ははは、いくらなんでも、まさかこれだけはバレまいて……

レンは思考をかき消すように、心の中で首を振る。

 

「ふふ……かわいらしいね」

「あ、えへへ……」

 

店主が、一人、物思いにふけっている少女……いや、強いて言うなら幼女を見て、そう言いつつ微笑んだ。

対してその()()と言えば……

 

 

 

 

満更でもなく、照れていた。

 

 

それから、数分後。

 

「ふふ、じゃーさレンちゃん」

「は、はい?」

 

店主が微笑みを保ったまま、改めてレンに問いかける。

レンはその問いかけに、ぱっと顔を上げて答える。

 

ニコニコした店主の顔が、レンの視界いっぱいに映る。

レンが視線を見つめ返してきたのを見て、店主は少し、ニヤッとした雰囲気を含ませた笑みを見せる。

 

レンは少し変わった笑みを見て、どこか探るような目を見せるが、店主になにか言葉を発したりはしない。

 

……そして、しばらくの沈黙の後。

店主はこう、切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かわいい銃、とかどうかな?」




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です……!!

大変お待たせ致しました。
キャンペーンキャラクターの準備をしてたらつい……(言い訳)

さて、皆様お気づきになられたでしょうか。
実はこの章から、原作SAOAGGOの時雨沢さん風な地の文になっていることを……

あの独特な敬語調まではいきませんが、レンの心情を地の文に追加してみました。
これ、どうですかね(笑)
是非意見を感想欄にて教えてください(笑)

今後ともよろしくお願いします。

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