これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「視察?」
「そう」
初めてビック・ボスと会ってから、数日後。
ベネットは、店主に「任務がある」と呼び出されていた。
「し、視察って言っても、いろいろあるじゃないか」
「うん、そうだね」
「場所? それとも何かの組織? それ次第では、ガラリと話が変わっ……」
「えっとね、ベネットさん」
「……?」
ただ一言、視察と言われても。
そう言わんばかりのベネットを、店主は微笑みを保ったまま、言葉を制した。
ベネットは、微笑みが一切変わらない店主を見て、ますますわからなくなる。
すると店主は、一呼吸を置いた後、ゆっくりとした口調で話し出した。
「行き先は、
「
「そう、ようは、
「……!?」
あまりの意外な回答に、ベネットは言葉を詰まらせる。
すると店主が、カウンターから出てきて、ベネットの座るカウンターの隣の席に座った。
ベネットは、自然とそちらの方向へ椅子を回す。
「確かに、あなたは強い。流石は、警察としてこの殺伐としたゲームの監視を任されるほどだ」
「……!!」
「ここ数日だけ見ていてもわかる。初期からの古参プレイヤーとして、実に素晴らしい強さをあなたは持っている」
「……?」
「……でも、僕らに求められるものは、そういうんじゃないんだよね」
「っ……!?」
店主の声が、心なしか低くなったように聞こえる。
同時に、目つきも険しくなった気がした。
「じゃ、一体求められているものってなにか、というとね。それは、自分で気づかなきゃ意味がないんだ」
「だ、だから……?」
「そう。それら求められているものを、既に持っている人達を見て、気づいて欲しいんだよね」
「……!! 分かりました」
するとベネットは、そんな店主の言葉を聞いて、そういうことなら、とコクリと頷きながらそう答える。
いくら(おそらくは)最古参とは言え、自分はここではまだ新人。
実に警察官らしい自律心が、そこにはあった。
……加え、菊岡に常々言われていた、
「彼らは、
その言葉の真意も、確かめてみよう。
そんな探究心も、少し混じっていた。
✣
それから数十分後。
ベネットは、店主に「まずは今日、ここにいる2人を見てみて」と言われた場所へと、やって来ていた。
そこは、赤茶色の大地が広がるエリア。
初心者が肩慣らしに来たり、玄人が銃の試射をしたりする、ようはおまけステージのような所。
「おーい、こっちこっちー!!」
「あっ……!!」
するとその時、ベネットを誰かが背後から呼んだ。
その声に反応して振り返ると、すぐそこに2人のプレイヤーが立っている。
それを見たベネットは、早足でその2人の所に寄っていく。
おそらく彼らが、店主の言う2人であろうからだ。
「あなたが、ベネットさん?」
「あ……はい、そうです」
「そっか、僕はラクス。店主から話は聞いてる、会えて嬉しいよ」
「ど、どうも……」
すると、それに合わせてラクス、と名乗ったプレイヤーが、気さくに声をかけてくれた。
ベネットは、ある種安心して、その声に答える。
するとラクスは、バラクラバ越しでも分かる笑顔をニカッと向けると、ふいと振り返って後ろのプレイヤーに声をかけた。
「さてカチューシャ、始めようか」
「……ああ」
カチューシャ、と呼ばれたプレイヤーは、ラクスの言葉に一言相槌を打つと、のそのそと歩いていく。
するとそれを見ていたラクスは、なんだか申し訳なさそうにベネットに話しかけた。
「いやぁ悪いね、あいつ極度の人見知りでね」
「そ、そうなんですね……」
「中身は良い奴だから……そうだな、一度一緒に任務に出てみれば分かると思うんだけどね」
「は、はぁ……」
そんな話を聞いたベネットは、この人達、連携とかどうしてるんだろう、と実に古参らしい疑問が浮かび上がってくる。
……だが、彼がここに来たのはそういった疑問を解消するためではない。
ベネットは気を取り直して、彼ら2人がしようとすることを、注意深く眺めた。
「……ここでいいか」
「うん、少し待ってて」
すると、ラクスはそこらへんに転がっていた机を持ってきて、カチューシャの正面に配置する。
そして左手のウィンドウを操作した。
すると……
「……!?」
びっくりする量の銃が、机の上に次々と生成されていった。
それも、ハンドガンやらアサルトライフルやら、はてはスナイパーライフル、ロケットランチャーまで、多種多様な銃種。
これで一体何を?
そんな疑問を抱えながら、ベネットは黙って見ている。
すると最後に、ラクスは意外なものを取り出した。
「よいしょっと……ほい、やるよ」
「おう。」
それは、たまに見る録画用のアイテム。
ラクスはそれを起動し、自分の頭上に浮かせて配置した。
「……よし」
すると今度は、カチューシャが左手のウィンドウを操作し始める。
そして出てきたのは、これもまた意外なもの達だった。
まず出てきたのは、下が大きなそりになった銃座。
バラバラのパーツを組み立て、どしん、と地面に置く。
そして次に取り出したのは、何やら鉄板を重ねたようなもの。
カチューシャはそれを、組み立てた銃座の上についた金具に置くと……
「よっこい……しょ」
そんな事を言いながら、
「なっ……!?」
もちろんベネットは、驚いて目を見張る。
こんなもの、見たことなんかないからだ。
カチューシャは、まず最初に板を横に展開する。
ガチャ、ガチャ、と重厚感ある音。
すると今度は、左右に広がった鉄板を、全体的に上にあげた。
内側に固定金具がついているのか、今度はバチン、バチン、と音がする。
その後下にも、カチューシャは思い切り、板の下部分を掴んで引き下げた。
そしてまた、固定金具らしき音がたつ。
そうして一通り板を広げた後。
ベネットからはもはやカチューシャの姿が見えないが、代わりに板の真ん中の穴から、2本の銃身が伸びてきた。
そしてその瞬間。
「ラ、ラハティ……!! それにブローニング!!」
ベネットは思わず感動して、声を出してしまった。
あの二本の銃身は、確かに見覚えがある。
GGOに実装されている、と聞いてはいたものの、なかなかお目にかかれなかった超一級の2品だ。
このGGOで唯一、20×138mmB弾を使用する、アンチマテリアルライフルの中のアンチマテリアルライフル、《ラハティ L-39》と、現実世界で1933年に生産されてから、今でも絶大な人気を誇る伝説の名機関銃、《ブローニング M2》。
そしてそれを際立たせる背景かのように、堂々たる大きさの防弾シールドと、薄く切り抜かれた覗き防弾窓。
まさに、「
ガンマニアなベネットにはたまらない光景が、そこにはあった。
「ふおおぉぉぉ……!!」
目を輝かせているベネットをしり目に、カチューシャのガジェットの完成を見届けたラクスは、頭上に浮いていたアイコンをポチ、と押す。
そして並べられた銃の名前、使用弾薬を一言も噛まずに羅列し、最後にテストナンバー29、と言い終えると……
それら全ての銃の弾倉一つ分の弾薬を、カチューシャ目がけてぶち込んだ。
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