これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode89 求められているもの 〜What is sought〜

「視察?」

「そう」

 

初めてビック・ボスと会ってから、数日後。

ベネットは、店主に「任務がある」と呼び出されていた。

 

「し、視察って言っても、いろいろあるじゃないか」

「うん、そうだね」

「場所? それとも何かの組織? それ次第では、ガラリと話が変わっ……」

「えっとね、ベネットさん」

「……?」

 

ただ一言、視察と言われても。

そう言わんばかりのベネットを、店主は微笑みを保ったまま、言葉を制した。

 

ベネットは、微笑みが一切変わらない店主を見て、ますますわからなくなる。

すると店主は、一呼吸を置いた後、ゆっくりとした口調で話し出した。

 

「行き先は、()()なんだよね」

()()……?」

「そう、ようは、()()()さ」

「……!?」

 

あまりの意外な回答に、ベネットは言葉を詰まらせる。

 

すると店主が、カウンターから出てきて、ベネットの座るカウンターの隣の席に座った。

ベネットは、自然とそちらの方向へ椅子を回す。

 

「確かに、あなたは強い。流石は、警察としてこの殺伐としたゲームの監視を任されるほどだ」

「……!!」

「ここ数日だけ見ていてもわかる。初期からの古参プレイヤーとして、実に素晴らしい強さをあなたは持っている」

「……?」

「……でも、僕らに求められるものは、そういうんじゃないんだよね」

「っ……!?」

 

店主の声が、心なしか低くなったように聞こえる。

同時に、目つきも険しくなった気がした。

 

「じゃ、一体求められているものってなにか、というとね。それは、自分で気づかなきゃ意味がないんだ」

「だ、だから……?」

「そう。それら求められているものを、既に持っている人達を見て、気づいて欲しいんだよね」

「……!! 分かりました」

 

するとベネットは、そんな店主の言葉を聞いて、そういうことなら、とコクリと頷きながらそう答える。

 

いくら(おそらくは)最古参とは言え、自分はここではまだ新人。

実に警察官らしい自律心が、そこにはあった。

 

 

 

 

……加え、菊岡に常々言われていた、

「彼らは、()()()()()()」という言葉。

 

その言葉の真意も、確かめてみよう。

そんな探究心も、少し混じっていた。

 

 

それから数十分後。

 

ベネットは、店主に「まずは今日、ここにいる2人を見てみて」と言われた場所へと、やって来ていた。

 

そこは、赤茶色の大地が広がるエリア。

初心者が肩慣らしに来たり、玄人が銃の試射をしたりする、ようはおまけステージのような所。

 

「おーい、こっちこっちー!!」

「あっ……!!」

 

するとその時、ベネットを誰かが背後から呼んだ。

その声に反応して振り返ると、すぐそこに2人のプレイヤーが立っている。

 

それを見たベネットは、早足でその2人の所に寄っていく。

おそらく彼らが、店主の言う2人であろうからだ。

 

「あなたが、ベネットさん?」

「あ……はい、そうです」

「そっか、僕はラクス。店主から話は聞いてる、会えて嬉しいよ」

「ど、どうも……」

 

すると、それに合わせてラクス、と名乗ったプレイヤーが、気さくに声をかけてくれた。

ベネットは、ある種安心して、その声に答える。

 

するとラクスは、バラクラバ越しでも分かる笑顔をニカッと向けると、ふいと振り返って後ろのプレイヤーに声をかけた。

 

「さてカチューシャ、始めようか」

「……ああ」

 

カチューシャ、と呼ばれたプレイヤーは、ラクスの言葉に一言相槌を打つと、のそのそと歩いていく。

 

するとそれを見ていたラクスは、なんだか申し訳なさそうにベネットに話しかけた。

 

「いやぁ悪いね、あいつ極度の人見知りでね」

「そ、そうなんですね……」

「中身は良い奴だから……そうだな、一度一緒に任務に出てみれば分かると思うんだけどね」

「は、はぁ……」

 

そんな話を聞いたベネットは、この人達、連携とかどうしてるんだろう、と実に古参らしい疑問が浮かび上がってくる。

 

……だが、彼がここに来たのはそういった疑問を解消するためではない。

ベネットは気を取り直して、彼ら2人がしようとすることを、注意深く眺めた。

 

「……ここでいいか」

「うん、少し待ってて」

 

すると、ラクスはそこらへんに転がっていた机を持ってきて、カチューシャの正面に配置する。

 

そして左手のウィンドウを操作した。

すると……

 

「……!?」

 

びっくりする量の銃が、机の上に次々と生成されていった。

 

それも、ハンドガンやらアサルトライフルやら、はてはスナイパーライフル、ロケットランチャーまで、多種多様な銃種。

 

これで一体何を?

そんな疑問を抱えながら、ベネットは黙って見ている。

 

すると最後に、ラクスは意外なものを取り出した。

 

「よいしょっと……ほい、やるよ」

「おう。」

 

それは、たまに見る録画用のアイテム。

ラクスはそれを起動し、自分の頭上に浮かせて配置した。

 

「……よし」

 

すると今度は、カチューシャが左手のウィンドウを操作し始める。

そして出てきたのは、これもまた意外なもの達だった。

 

まず出てきたのは、下が大きなそりになった銃座。

バラバラのパーツを組み立て、どしん、と地面に置く。

 

そして次に取り出したのは、何やら鉄板を重ねたようなもの。

カチューシャはそれを、組み立てた銃座の上についた金具に置くと……

 

「よっこい……しょ」

 

そんな事を言いながら、()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

もちろんベネットは、驚いて目を見張る。

こんなもの、見たことなんかないからだ。

 

カチューシャは、まず最初に板を横に展開する。

ガチャ、ガチャ、と重厚感ある音。

 

すると今度は、左右に広がった鉄板を、全体的に上にあげた。

内側に固定金具がついているのか、今度はバチン、バチン、と音がする。

その後下にも、カチューシャは思い切り、板の下部分を掴んで引き下げた。

そしてまた、固定金具らしき音がたつ。

 

そうして一通り板を広げた後。

 

ベネットからはもはやカチューシャの姿が見えないが、代わりに板の真ん中の穴から、2本の銃身が伸びてきた。

 

そしてその瞬間。

 

「ラ、ラハティ……!! それにブローニング!!」

 

ベネットは思わず感動して、声を出してしまった。

 

あの二本の銃身は、確かに見覚えがある。

GGOに実装されている、と聞いてはいたものの、なかなかお目にかかれなかった超一級の2品だ。

 

このGGOで唯一、20×138mmB弾を使用する、アンチマテリアルライフルの中のアンチマテリアルライフル、《ラハティ L-39》と、現実世界で1933年に生産されてから、今でも絶大な人気を誇る伝説の名機関銃、《ブローニング M2》。

 

そしてそれを際立たせる背景かのように、堂々たる大きさの防弾シールドと、薄く切り抜かれた覗き防弾窓。

 

まさに、「()()」。

ガンマニアなベネットにはたまらない光景が、そこにはあった。

 

「ふおおぉぉぉ……!!」

 

目を輝かせているベネットをしり目に、カチューシャのガジェットの完成を見届けたラクスは、頭上に浮いていたアイコンをポチ、と押す。

 

そして並べられた銃の名前、使用弾薬を一言も噛まずに羅列し、最後にテストナンバー29、と言い終えると……

 

 

 

 

 

 

それら全ての銃の弾倉一つ分の弾薬を、カチューシャ目がけてぶち込んだ。




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