これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode96 悲劇 〜tragedy〜

悲劇は、突然やってきた。

 

「ベネット!! 直上!!」

 

大通りを進んでいた彼らの最後尾、ベネットに、突如、タウイがそう叫ぶ。

そしてその直後、その声に反応して、ベネットは反射的に上を向く。

 

するとその視界の真ん中に、小さな円柱の物体が見えた。

 

「あれは……っ!!」

 

見覚えのあるフォルムに、ベネットは思わず顔を歪める。

 

その円柱の物体の正体は、《MK3A2攻撃手榴弾》。

一般的な破砕手榴弾、《フラググレネード》とは違い、鉄片ではなく爆発による衝撃で敵を殺傷する、いわゆる《コンカッショングレネード》である。

 

「ああ……クソ!!」

 

まるでスローモーションのようにその光景を見つつ、ベネットが走り出す。

 

この手のグレネードは、フラグと違って爆発の威力が非常に大きい。

鉄片が飛び散らない分、殺傷能力はフラグに劣るものの、使われる場所によっては話が変わる。

 

ここは()()()なのだ。

 

ひび割れたコンクリートが、鉄片の代わりに飛び散る可能性は充分ある。

それも、フラグより遥かに高い爆発力によって、だ。

 

そのグレネードは、ベネットのほぼ真横辺りに落下するコースを辿って来ている。

 

「ぐっ……!!」

 

どう頑張っても、ライフ5割損失は免れない距離。

こうなったら、いっそ自分がこいつを抱いて、犠牲を1人にした方がいい。

 

そう考え、走る向きを180度変えかけた、その時。

 

「下がれ!!」

「なっ……!?」

 

驚くほど強い力で引かれ、ベネットは後ろに吹っ飛ばされる。

そして代わりと言わんばかりに前に出ていったのが……

 

 

 

 

 

タウイだった。

 

 

少し前。

 

乱戦をやり過ごし、漁夫の利を得たチームを屠るべく淡々と待ち構えていた例の男達は、ついにその時がやってきていた。

 

「まだだ、まだ待て……」

「……」

 

下の方から、ドンパチ合戦の音が止まることなく響いてくる。

男達は、はやる気持ちを抑えきれないかのように、少しうずうずしていた。

その中でもリーダー格の男が、他の男達を制す。

 

「いいか? あえて漁夫の利を成功させ、気が抜けたところで、まず俺がこいつを最後尾に落とす」

 

そしてそう言いつつ、胸の防弾チョッキからひとつ《MK3A2攻撃手榴弾》を取って、ぐっと握り直した。

 

「その後、下の連中が最後尾に気を取られたところを、お前達がそれを落とす」

「……これですね」

 

すると、リーダー格の男が、顎をくいとさせて、正面にしゃがんでいた男の胸元をさした。

 

「リアリティを求めたいが、この場合は仕方ない。リアリティより、確実性をとる」

「了解」

 

そして、顎をさされた男が胸からそれを取り出す。

はたしてそれは……

 

 

 

 

 

《プラズマグレネード》だった。

 

 

「タウイ!!」

ドォォォン!!!!

 

盛大な爆発音と共に、タウイがベネットの頭上を吹っ飛んでいく。

そしてその後、ぐしゃっ、という音と共に、路面に大の字に横たわる。

 

「次が来る!! 上だ!!」

 

直後、レックスがそう叫んで、建物の最上階の窓に掃射し始めた。

 

「何やってるベネット!!」

 

すると、いつの間にかプルームが隊列の先頭から走ってきて、そう叫びながらタウイの腕を引っ張っている。

 

ベネットは、はっと我に返ると、慌ててタウイのもう片方の腕を引っ張り、直近の建物の中に滑り込んだ。

 

 

タウイを2人が引きずっているさなか。

 

「牽制頼みましたよ!!」

 

そう言って、ライトがレックスが掃射している建物の1階部分の窓に突撃して行った。

 

「よし、入った!!」

 

すると、レックスの隣で同じく掃射していたギフトがいきなりそう叫び、銃を投げ捨てローブの中に手を突っ込んだ。

 

そして取り出したのは、フラッシュバン。

 

「今ライトは……よし」

 

すると、建物のを上から下へ舐めるように見た後、目を閉じて両手のフラッシュバンのピンを抜く。

 

……そして。

 

カチッ……

「今だ!!」

 

レックスのマガジンが弾を切らした瞬間、ギフトが建物の最上階の窓へ完璧な軌道でフラッシュバンを放り投げた。

 

 

一方、例の男達である。

 

「くそっ……!! 連中、案外反応早いな!!」

「こ、これではプラズマグレネードは投擲できません!! 誘爆の可能性が……!!」

 

彼らは今、留めなく突き上げてくる弾丸に、なかなかプラズマグレネードを放り投げられずにいた。

 

当然だ。

プラズマグレネードは、その強さから、決定的な弱点を付与されているからだ。

 

それは、他のどんなグレネードよりも弾丸に弱いということ。

 

今ここで下手に放れば、自分達のいる階層の窓のすぐそこで爆発したっておかしくない。

 

ただ、リーダー格の男は、まだ取り乱しはしなかった。

 

「待て! これだけ撃ってればもうすぐ弾切れを起こすはずだ!!」

「り、了解!!」

 

プラズマグレネードを握ったまま、男達はただひたすら弾幕が止むまで耐えようとする。

 

そしてその指示の直後、弾幕がピタッと鳴り止む。

 

「今だ!! やれ!!」

 

そのさらに直後、リーダー格の男が叫ぶ。

 

……だが。

 

カランカラン……

「……なんの音だ!?」

 

()()()()が、男達のいる空間に響く。

そして。

 

バァン!!

「くっ……そ!!」

 

リーダー格の男が、悔しそうに悪態をいた。

 

今、投げ込まれたのは()()()()()()()

爆発を受けた相手を一時的に麻痺させる、特殊なグレネードである。

 

「……っ!!」

 

作戦失敗。

この四文字が、頭の中を駆け巡った。

 

そして、次の瞬間。

 

バタン!!

「こんにちは!!」

 

 

 

 

 

ライトの【H&K MP5】が、火を噴いた。




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