これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode97 色 ~color〜

「あーっ……てて、派手に飛んだね、僕」

「ちょっと黙ってろ……まったく」

 

時は、レックスやライト、ギフトがドンパチしている真っ只中。

それに背中を任せ、直近の建物に滑りこんだプルームらである。

 

「ライフは……8割損失か、まあまあだね」

「0距離で受けてこれくらいなら、十分だな」

 

そんな会話をしながら、プルームがタウイの胸元へ治療キットを乱雑に突き刺す。

 

タウイは、爆発によって左腕と右足を、それぞれ根元から吹き飛ばされていた。

 

「残り2割だけど……どこまで増やしとこうかなぁ」

「全部使うのは勿体ないと思う……が、指揮系統がそうそうに死なれても困る」

「はは……プルームは真面目だね……」

 

気の抜けたタウイのボヤキに、呆れたようにまた治療キットを乱雑に突き刺すプルーム。

 

そんな彼らのいる建物の窓際。

スキャンの時には見当たらなかったが、一応……ということで、ベネットがドンパチの範囲外を見ていた。

 

「……」

 

ただその顔は……少し、険しそうである。

 

「クソ……」

 

なんというミスを……そう言いたげに、一層シワを寄せる。

 

ベネットは、自責の念に駆られていた。

自分が、もっと良く考えていたら……そんな後悔が。

 

スキャンという名の()()()()に、まんまと嵌められてしまったのだ。

スキャンはシステム上、リーダーの位置しか示さない。

そしてそこに、チーム名を表示する。

 

だが、そこに()()()()()()()()()()()()

 

「別働隊……充分考えうるものだったじゃないか……」

「……?」

 

つい、そう呟くベネット。

後ろにいるプルームとタウイがさっ、とベネットの方を向く。

 

ベネットは、GGO歴の長さと、その確かな実力から、色々なスコードロンに助っ人参戦してきたプレイヤーだ。

 

その中で、様々な作戦に出会い、実行し、時には実行されてきた。

 

別働隊。

名の通ったプレイヤーがいるスコードロンがよく取る作戦だ。

 

あえて敵に姿を晒し、交戦することで、名の通ったプレイヤーを仕留めようと躍起にさせ、スコードロンから別働隊として数人を側面や背面に回り込ませ、挟み撃ちにして仕留める。

 

何度も嵌められ、また、何度もその作戦を崩してきたベネットにとって、まさかこんなことが起こるとは思ってもいなかった。

 

ようは、()()()()()()()()()、なのだ。

名の通ったプレイヤーが、リーダーになっただけ。

 

ただそれだけなのに、その穴にまんまと嵌められて、結果こちらのリーダーに大損害を与えてしまった。

 

「……!!」

 

悔しさというか自らへの憤りというか、そんな感情が煮えくり返る。

銃のグリップを握りしめ、顔を更に歪めたその時だった。

 

ザッ

「ベネット」

「!」

 

隣に、プルームが座ってきた。

もちろんベネットは驚いて、チラリとプルームを見る。

 

「……何も、気にしなくていい」

「!?」

 

すると、プルームがそう言ってベネットの肩を上から叩いた。

 

「な、何も……って……!!」

「あのな、ベネット」

 

ベネットが少し苛立ち気味にプルームを見る。

だがプルームは、相変わらず外を見たまま、その言葉を遮った。

 

「お前は、俺たちを、お前の関わってきたスコードロンの有象無象と同じように見てるのか?」

「っ……!?」

「俺達のこの戦いの目的は何だ? 勝つこと? 違う、()()()()()()()()()()()()()だ」

「……!!」

「そこらのスコードロンのような、仲良しグループじゃない」

「っ……!?」

「正真正銘の、チームとして、動き、機能すること。そしてそれが、可能であることを示すこと。それが俺たちの目的だろう」

「そ、そう……だな」

「だったら気にしなくていい。現状、このチームはきちんと、寸分の狂いもなく機能している」

「……!!」

 

圧倒的な気迫と正論に、ベネットは続く言葉が出てこない。

何もかもが見透かされている気がして、下手に何かを言えない。

 

すると、不意に後ろから一転して柔らかい声が聞こえてきた。

 

「はは、プルーム? 言ってる事は正しいが、それじゃ少々……お堅いよ」

「ま、まあ……」

「あのねベネット。別にプルームは、怒ってる訳じゃぁ、ないんだよ」

「は、はぁ……」

 

もちろんその声の主は、タウイである。

 

「ただ僕らは……彼の言う通り、単なる仲良しグループ、スコードロンじゃなくてね……」

「……?」

「僕らには()()がある。それぞれの好みに合わせて、突出させた得意分野、()()が」

「!!」

「店主さんは、その個性をお互いに噛み合せて、チームとして機能するかを見てるんだ」

「……!!」

 

そう言えば、なんてことは言えないが、確かに忘れていた。

それに、確か似たような事をカチューシャにも言われていたのを思い出す。

 

「個性は、突出させればさせるほど、その分だけ対極の弱点が露出する。それを他の人が……ま、極端に言えばその弱点が逆に個性の人が、カバーする。これが、チームとして機能する、ということ」

「……!!」

「店主さんがベネットに『固有ガジェット』を作れって言ったのも、それじゃないかなと思う。ベネットさんは、色んなスコードロンを回る中で、自らの長所に割くべき時間を、短所を埋める時間に当ててしまった」

「た、確かに……」

「『固有ガジェット』は、誰でも自分が好きなものを作りたいよね。それを作らせて、あなたの『好き』を、ようは、『個性』を引き出そうとしたんだと思う」

「……!!」

 

いつしかベネットは、自分への憤りや、タウイに対する申し訳なさなどは全て消え去って、タウイヤプルームの言葉に一心に聞き入っていた。

 

「今回の場合、君だけじゃないけど、爆発に対する防御力の低さという弱点を、僕がカバーした」

「あっ……!!」

「圧倒的な防御力、という個性でね」

 

するとタウイが、そう言ってにっ、と笑う。

ベネットは、その顔を見て、少しばかりの笑顔を返した。

 

「十人十色、各々色んな個性、色があっていいんだよ。だって僕らは……」

 

 

 

 

 

 

「『VRF』、『バーチャル・レインボー・フォース』だからな」

 

 

 

 

 

「あーっ!! 最後だけとりやがった!!」

「いいじゃないかそれくらい……」

 

プルームが横槍を入れ、タウイががたっ、と立ち上がる。

いつの間にか、手足も回復しているようであった。




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