週末なにしてますか?忙しいですか?遊んでもらっていいですか? 作:ゆきめーる
・ヴィレム
……ロリコン。
・クトリ
……スーパーエターナルヒロイン。今回は出番なし。
・アイセア
……っす。
・ネフレン
……可愛い。今回は出番なし。
・幼女ども
……幼女。
・ナイグラートさん
……女神。
雨は、あまり好きではない。
何故か、と聞かれれば、いの一番に洗濯物が乾ききらないことが挙げられる。あの生乾きの、なんともいえない匂いを、胸をはって好きだなんて言える人は滅多にいないだろう。
だから、今日のような雨のよく降る日は、
「はぁぁ………」
こんな、憂鬱気なため息が出てしまう。
そして洗濯物も干し終わり、本日の洗濯物当番としての仕事も終了。することがなくなってしまった。
とりあえずは洗濯物籠を戻してこようと思い、籠を持ち上げる。
「…あ、あのぅ……」
そこへ、声がかけられる。
振り向けば、最初に目につくのは橙色。明るく、優しい日だまりのような色をしている。少し視線を落とせば、可愛らしくもじもじとしながらこちらを見上げている少女が。
「--ラキシュ。どうしたんだ?」
珍しい。いつもなら桜色、翠色、紫色と一緒にいるはずなんだが。はて?
そう思いながら、少し腰を屈めて視線を合わせる。
「実は、その……ちょっと来てほしくて…」
「来てほしい?何処に?っていうか、何かあるのか?」
「あ、はい。その……みんなが呼んでて…それで---」
そうして聞いたことは、なるほどあいつららしいな、と思えることだった。
そういえば、ここに来てからは大人数でしたことないな。久しぶりにするのもいいかもな…。
「よし、わかった。ラキシュ、みんなにはすぐに行くって言っておいてくれ」
目を輝かせて「は、はいっ!」と元気よく返事をして、ラキシュは去っていった。
よし、ちょっと急ぐか。
「久しぶりだな…、絵本なんて読み聞かせるのは……」
「ここ、だよな」
その後すぐに片付けを終わらせ、言われていた部屋へ来た。途中で誰ともすれ違わなかったということは、少なくともかなりの人数が集まっていると考えていいだろう。
ドアに手をかけ、ゆっくりと開ける。
中には----いっぱいいた。
「…は……?」
予想外だった。想定していた人数の倍……、否、もっといるだろう。
そして、こちらを見つけた者から歓声を上げながら、我先にと詰めよってくる。
「うわぁー!びれむだぁーー!!」
「びれむぅー!!」
「びれむー!遅いぞーー!!」
「あの、わざわざ来てもらって、その、ありがとうございます……!」
「遅いよ、管理者。遅刻だよ。」
「あ、遅いよー!もっと早く来ーてーよー!」
寄って来た人数を数えれば、養育院の全員の人数と一致した。嘘だろ?全員いんのかよ……。
そんな益体のないことを考えている間に、甘いものに群がる蟻の如く皆が寄って来ている。
本当に子供って元気だな、と思いながら、とりあえず全員の本を回収していく。
数人で、同じ本を読んで欲しいという要望もあったためか、流石に妖精たち全員の人数と同じ数の本を読まなければならないという事態にはならなかったものの、
「重っ…以外と多いな…」
十~二十冊ほど、かなりの数が残った。
とりあえず皆が見える体勢で読もう、と本を中心にして円を描くようにして寝転ばせる。
「あたしびれむのよこー!」
「じゃあわたしうえー!」
「じゃあわたしその上にのるー!」
「もう!みんな、ちゃんとねころばないと!」
全員が、見えるような位置に寝転ぶと、一番上に置いてあった『にんぎょとアヒルたち』という本を手に取り、読み始める。
「『あるみずうみに にんぎょがすんでいました---』」
ゆっくりと、それでいてハッキリと聞こえるように口を大きく開け、読み聞かせる。登場人物になりきり、まるで絵本の中の人物であるかのように話す。
そうしていると、昔のことを思い出す。
時々俺の部屋に来て、読んで読んでってねだったっけな…。アルマリアだけは、もう子供じゃないんだからね、なんて言って頑として来ようとしなかったな。
……懐かしいな。
「『---そして にんぎょさんは アヒルさんたちとあたらしいみずうみでしあわせにくらしました』…おしまい、と。
次の本は---」
少し感傷に浸りながら、積まれていた本をゆっくりと読み聞かせていく。いつの間にか本が増えていたが、そりゃあ読んで欲しい本なんていっぱいあるよなと思い、読み進めていく。
「『--おじいさんは 大きなくしゃみをしました。すると--』」
大体9冊ほど読み終わった頃だろうか。何人か、こっくりこっくりと舟を漕ぎだす子供たちが現れ始めた。やっぱり、本を聞いてるだけじゃ眠くなるよな、と内心苦笑しながら読み進めていく。
…正直自分も眠い。雰囲気にでもあてられたか?
意地でも全員寝るまでは起きていよう。
そう思い、より一層演技(と呼べるほどのものではないが)に力をいれていく。
「どこに行っちゃったのかしら……」
少しじめっとした廊下を、部屋の中をひとつひとつ確認しながら進む。
探しているのは、ヴィレム・クメシュ第二位呪器技官だ。新しくやって来た呪器技官様は、この辺境に住み込むという変人ぶりを発揮し、その上子供たちと実に楽しげに遊ぶという変態ぶりまで発揮する、本当に変な軍人だ。さらに言えば『
いや、軍人なのはただのアルバイトとか言ってなかったかしら……。
しかし、とても助かっているのは事実であり、感謝しているのだ。今日は雨で、いつものように子供たちと外で遊ばないのだから、感謝のしるしに一緒に紅茶でも飲もうと思っていたのだが。
「もう。せっかく美味しいって評判の紅茶、仕入れてきたのにっ。……ていうか、ほんと何処にいるの…」
探せど探せど見つからない。
半ば諦めぎみになりながら歩いていると、ふと脳裏にとある部屋がよぎった。
子供たちが大人数で室内で遊ぶ際に仕様する部屋だ。最近はヴィレムが来たおかげで、雨の日以外は使われることがずいぶんと少なくなった(晴れの日は大抵の子が外で遊んでいる)。
もうそこくらいしか、探していない場所は残っていないだろう。
でも、部屋の近くを通った時は、子どもたちの声も聞こえなかったし望み薄なのよねぇ。
しかし予想に反して、その部屋には子どもたちとヴィレムがいた。
「あら?」
だがこちらも予想に反しており、
「ふみゅぅ……」
「すぅ…すぅ……」
「お腹いっぱいだぞ~……」
「これでわたしも……大人の…女の人に…」
皆元気に遊んでいるわけでも、楽しく絵本を読んでいるわけでもなかった。皆、一つに集まってぐっすりと眠っている。その寝ている際の気持ちよさそうな顔は、見ているこっちにまで伝播してきそうだ。
事実、今の彼女たちを見ていると、思わず頬が緩んでしまう。
そして、彼女たちの中心。お団子のようにひと塊になったその中に、餡子のようにしている男が一人。
もちろん、言うまでもなくヴィレムその人である。
何人かの子どもたちにのしかかられているが、子どもたちの体重が軽いおかげか苦しそうではない。寧ろ、穏やかと言えよう。
あまりにも穏やかな顔で寝ているので、つい、悪戯心が湧いてしまった。
ぐっすりと寝ている彼の顔をつつくのだ。それはもう、ぷにぷにと。
ぷにぷに。ぷにぷに。
ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。
「ふ…ふふっ……」
これは、想像以上に良い。
というか、面白い。いつも凛々しくしているヴィレムの顔が(というか頬っぺたが)、まるでプリンかゼリーのように揺れるのだ。
……ちょっとこれ、癖になりそう。
今度は、指で摘まんで、もちもちと弄ってみる。
もちもち。もちもち。
…本当に、ヴィレムって男?そこらの女子より、よっぽど綺麗な肌してるんだけど。『
そんなことを思いながら、さて次は何処を弄ってやろうかと思い---、
「---ナイグラート。何してるっすか?」
「わひゃあっ!?」
唐突な不意討ちに飛び上がった。文字通り。
次いで、今の声で子どもたちを起こしていないかを確認する。
「もう。アイセア、何するのっ?」
「なははは。いやー、すまんすまんっす。何か面白そうなことしてたんで、つい」
そう言って、快活に笑うアイセア。全く反省しているようには見えない。
オレンジにも似た橙色の髪が、ふわりと揺れる。
「でも、ナイグラートも何してたっすか?獲物を襲う準備か何かっすか?」
「そんなのじゃないわ。ヴィレムに用があったのだけど---」
「こんな感じっすからねぇ」
そう言って、穏やかに眠るヴィレムの顔を見る。
「でも、特に急の用事でもないから…。それに、こんなにぐっすり寝てる人を起こすなんて、ただ無粋なだけよ」
「そっすね。ま、寝てる人の頬っぺたつついてた人の台詞じゃないっすケド」
………まさしくその通りだったので、何も反論はできなかった。
二人で、物音をたてることなく退散し、毛布を全員分取ってくる。何度か危ないこともあったが、どうにか完了する。
「ふぅ。これでお腹冷やしたりしないでしょう」
おやすみなさい、ヴィレム。そう言ってナイグラートは退室していく。
同じくアイセアもドアへ向かって行く。
退室する直前、部屋の中を振り返る。
そこには穏やかに眠る子どもたちと、 その中に混ざって眠るヴィレムがいる。
…いつもはしっかり保護者してるのに、随分と子どもらしい一面もあるんすね。
どうかこの幸せが、安寧が、穏やかな日々が永遠に続いて欲しい。しかし決して叶うことはないだろう。今も世界は、緩やかに破滅へ向かっているのだから。
だからこそ切に願う。
どうか、この一瞬だけでも----。
「おやすみなさいっす」
そう言い残して部屋を出る。
後ろ手にドアを閉め、先ほどの妙な感傷を振り払う。
まったく、こんな感傷を抱くなんてどうかしている。思春期のイタい男子か何かか。いや、陰気な雨のせいだろうか。
そう思い、窓の外をぼんやりと眺める。
不意に気づいた。
「…ん?雨、いつの間にか止んでたっすね」
ヴィレム「ナイグラートが来て身の危険を感じてたら、なんか頬をこねくりまわされた。何がしたかったんだろう」