週末なにしてますか?忙しいですか?遊んでもらっていいですか? 作:ゆきめーる
その日は、秋が過ぎ近々冬を迎えようか、という外出するのが億劫になるかのような肌寒い日のことだった。
ネフレンがちょうど図書室で本を読んでいると、何かを探すようにして、青髪の少女がひょっこりと顔を出した。
「あれ?ねぇ、レン。ヴィレム知らない?」
彼女が探していたのは何か、ではなく、誰かだったようだ。
キョロキョロと、部屋の中を見回しながらクトリが問いかける。
「ヴィレムなら、ナイグラートと二人で出かけてた」
「………へぇ…」
たぶん、このときの表情を養育院の誰か、幼い少女が見ていたならば号泣し逃げ去っていただろう。
ひんやりとした、冬の到来を感じさせる風が頬をすれ違いざまに撫で、そのまま別の誰かに、同じ事を繰り返すべく向かっていく。
ああまったく、この季節は、本当に毛皮のある種族が羨ましい。徴無しというのはこういう環境の変化に弱いのだ。
いや、そうは言っても隣のコイツは別だろう。筋力やら生命力やら、どの徴無しにも勝っているだろうし。そもそも、徴有りの者とも余裕で張り合えるだろう。本当に祖先が人間族なのか怪しくなってくる。いや、一応コートを着ているのだから、寒さに強い耐性があるというわけではないのだろうか。
そう思いながら、いきなり寒い中に連れ出されたことやら常日頃から隙あらば調理してやろうかという恐怖心を煽るような言動をしていること等、その他諸々の恨みを視線に込めて、妖精倉庫のオルランドリ商会側の管理者である彼女----ナイグラートをじとーーっ、とした目で見つめる。
「で、なんで俺は連れて来られたんだ?しかも、あいつらに内緒で」
「あら、そういえば言ってなかったかしら?」
「ひとっ言も聞いてねぇよ」
ギリギリなんとか着てこれたコートのポケットに手を入れ、寒さに耐えながら質問する。
首を傾げ、まったく悪びれていないような微笑みをこちらに向ける彼女。
「実はね、近々……、えぇと、貴方たちで言うところの、越冬祭みたいなお祭りがあるのよね」
食人鬼らの祭りの名前を言っても分からないと判断したのか、人間族の祭りの名前を挙げる。
……越冬祭、か……。アルメリアたちのために大量の仕事をこなして、越冬祭のギリギリに帰ったことを思い出す。ひどく忙しいときに長期休暇を申請しちまって、ずいぶんな量を出されたっけ……。懐かしい思い出だ。
ナイグラートはそんな俺に気づいていない様子で、説明を続ける。
「越冬祭みたいにプレゼントを渡したり……あ、あとご飯をいっぱい食べたりするわね」
「……それ実は人間とかいうオチじゃないよな」
「そりゃあ今は違うけど…、うーん。昔はちょっと、知らないわねぇ…」
この五百年で、食人鬼の食文化が変わってて本当によかった。
心の底からそう思った。
「…で、今日俺を持ってきたのはプレゼントを見繕うためって訳か?」
「そうなの。だって、私だけで選んだものより、貴方の選んだもののほうが子どもたちも喜びそうだもん…」
そう言って頬を膨らませ、こちらをじとっとした目で睨みつけてくる。
もしかして、嫉妬とかをしていたりするんだろうか。子どもたちの人気を得られなかったりするせいで?
……本当に、変なやつだ。普通は徴無しとなんて、積極的にコミュニケーションをとろうとなんかしたりしないはずだ。だが、彼女らとはとても仲が良い。否、それどころか、一人一へと愛情を注ぎ、可愛がっていたりもする。
「……本当、変なヤツだよ。お前」
「もう、ひどーい。そんなこと女性に言っちゃだめよ?」
「心配すんな。お前くらいにしか言わねぇって」
「ふふ、あら私、口説かれてるの?」
「んなわけねぇだろ」
そう言っているのだが、こちらの考えを見抜いているかのような笑みを浮かべ、それをさらに深めていく。
その笑みを向けられていると、どこか気恥ずかしくなってくる。それを振りきるように、話題を変えるつもりで「モタモタしてると、日が暮れるぞ」と、そっぽを向いて言い放つ。
それに彼女は、
「そうね。じゃあ今日一日、私に付き合ってもらおうかしら?」
と、どこか人を食ったような笑みを返した。
……やはり、彼女はなんというか、苦手だ。
その後は買い物を済ませた。ナイグラートが食材や服を買い、俺はそれらの荷物持ちをさせられていた。
ナイグラートの方が何倍も力があるのだから、彼女が持てば持ち運ぶ際の効率も良くなり早くに済ませられるのだが、どう考えても内心に止めておくが吉だろう。
道中、唐突にふらっと居なくなり、穴場と言えるような、物珍しい食材を出している店を見つけたりしたのには驚かされた。本人曰く「種族としての本能」らしい。
……食い意地が張ってる、の間違いじゃないのか?
そんなこんなで、買い物をほとんど終わらせた。
ずいぶんと駆け足だったらしく、気づけばまだ昼前であった。ちょうど時間も良かったので、昼食をとる店を探し始める。
「うーん。ヴィレム、貴方、どこか良い食事処知らない?」
「なんで俺に聞くんだよ?」
「たまには、他人のオススメとかに行ってみたいなー、って思って」
確かに、食人鬼は祖を人間族とするらしく、味覚は近いものがあるらしい。しかし、自分は数えるほどしかコリナディルーチェに来たことはなく、その上それも子どもらの付き添いで来たくらいだ。そんな良い店なんて-----、あ。
「あー…、そういや、良い店知ってるかもしれねぇ」
「あら、そうなの?意外ね、知らないと思ってたわ。
でも、それならお手並み拝見かしらね。私の肥えた舌は、そう簡単には満足させられたりしないわよっ!」
……何を食べて舌を肥やしたのか、聞かないほうがいいのだろうか。
「きゃぁぁああ!何これ!すっごく美味しいわ!!」
何度か来たこの街で良い店を知った時といえば、コリナディルーチェ市長の娘さんであるフィア嬢を
あれからかなり経っていたため、正確に店まで案内できるか心配だったのだが、無事何事もなくたどり着くことができた。
そして、自称舌の肥えたお姉さんは満足してくれたようだ。どうやら予想以上だったらしく、美味しさのあまり悲鳴すら上げている。
「んんー!美味しい!それにしてもヴィレム、貴方ってこんな良いお店知ってたのね。本当に意外だわ」
「ああ、知り合いに教えてもらってな」
正直、ここまで喜んでくれるのは予想外だったが、やはりフィア嬢のオススメ
「にしても、貴方友人とかいたのね。そっちの方が意外だわ」
「ちょっと待て。それはどういう意味だ」
店内には、俺たち以外無口な球形人の店長しか人影は居らず、自分たち二人の話し声のみが空気を震わせている。
「もちろん、その友人って女性よね」
「なんでもう確定してんだよ…」
カランカラン、と唐突にベルが鳴り新たな人影が店内に侵入する。それに気付きふと、そちらへ視線を向ける。
「ん?お、アンタ、久しぶりだな」
「はい?……え、あ、あなたは!」
店内に入ってきたのは、嘗てこの店を紹介してくれた、そして奇しくもちょうど話題にあがっていたフィラコルリビア嬢、その人だった。
「はじめまして。私、フィラコルリビアと申します。フィアとお呼びください」
「ええ、はじめまして。私はナイグラートって言うの、よろしくね。
そういえば、貴女って市長さんの娘さんなのね?ヴィレムから聞いたわ」
礼儀正しく挨拶を交わす二人。互いの座席のテーブルには、新しく包み羊が置かれている。というか、ナイグラートはどれだけ食うつもりなんだ。
そして、ヴィレムから聞いた、という言葉をナイグラートが口にした瞬間、こちらを敵意満々で睨みつけてくるフィア嬢。
「…ヴィレム。貴方、彼女に何したの?」
以前は助けたのだから感謝こそすれ、敵意を向けられる理由はないはずだ。しかし、彼女は相も変わらずこちらを睨んでいる。
「別になにもしてねぇよ。……いや、やっぱあった」
確か狼人種は腹を身内以外に触らせないんだったか。……悪いことしたな。
「あー、その、なんだ。前のことは……、いろいろと悪かった」
「…別に、もう気にしていません。
ただ、貴方が信用ならないというだけのことです。今日もまた、新しい女性の方を連れておられるようですし」
そう言うと、何故か更に視線を鋭くするフィア嬢。
何故だ。
「いや、こいつは同僚なんだよ。で、今日はただの買い出しだ」
「ヴィレム。私、話に入れないのだけど」
「ああ、おう…。こいつは----」
そんなこんなで、フィア嬢と会う切欠となった若気の至り全開すぎて五年後に後悔しそうなヤツらこと、滅殺奉史騎士団の事件を説明し、自己紹介が済んだ。ちなみに、ガキどもに絡んだチンピラが出てきたあたりで、ナイグラートが悪魔のようなオーラを放ち始めて、非常に生きた心地がしなかった。
会話が一段落したところで、そういえば、とフィア嬢が話を振ってくる。
「そういえば、もう買い出しは終わられたのですか?まだでしたら、良いところを紹介しますが」
「ふふ、大丈夫よ。私もこの街の良いお店は、ちゃーんとわかってるから。あ、でも……うーん」
唐突に、何かを考え込み始めるナイグラート。
そうかと思えば、すぐにひらめいたような納得したような顔になり、フィア嬢に声をかける。
「ねぇ、フィアさん。貴女の知ってるお店に案内してくれない?もしかしたら、違う発見とかあるかもしれないし。
……ああ!大丈夫。ヴィレムは此処に置いていくから、気にしなくていいわよ?」
そう言うナイグラート。おそらく先ほど悩んでいたのは、俺の扱いをどうするかだったのだろう。そもそも、俺がいなくても食人鬼としての筋力ならば、十分以上に荷物を持ち運べる。
その提案に対して、フィア嬢は少し複雑そうな顔を見せ、
「この方は、放置しておいてもよろしいのですか?」
「大丈夫大丈夫。子どもじゃないんだから、迷子とかになったりはしないでしょうし」
なんで俺は困ったちゃん扱いなんだ。
しかし、その言葉が最後の一押しとなったのか、どこか戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた。
「…で、俺は何してたらいいんだ?」
「そうね……。特にないけど、迷子にだけはならないでね」
ナイグラートそう言って、コートを着込み店を出ていった。フィア嬢も彼女に続き、こちらを睨みながらではあるが、一応礼をして出ていった。
しばらく彼女らの出ていった後のドアを見つめていた。ふと、球形人の店長を見ると、向こうもこちらに気がついたらしく、無言で親指を立てて返された。
一体どういうことなんだ……。
その後、しばらくして彼女らは帰ってきた。手にはなにも持っていなかったが、どうやら用意までに時間がかかるらしく、祭り前日あたりに郵送されてくるらしい。
なにを買ったのかと何度か聞いてみたが、祭り当日のクトリに期待しておいて、の一言しか返ってこなかった。
フィア嬢は「やはり貴方を好きになれません。ただ、貴方ではなく、ほかのお嬢さんたちがこの街に来るのは大歓迎ですので、また来てもらっても別にかまいません」と言い、拗ねたような顔で最後を見送られた。
降雪祭当日。
「へぇ。クトリの着てたドレスが、あの時のヤツか」
「そういうこと。どう?良いサプライズだったでしょ?」
なるほど。ならば、俺を店に連れて行かないのも頷ける。
先ほどクトリを、正面から褒めたのがそんなに嬉しかったのか、機嫌の良さそうな笑みをこちらに向けるナイグラート。
ふと、なにかを思い付いたのか、表情をどこか意地悪げな微笑みに変え「私にはああいうドレス、似合うと思う?」と聞いてくる。
「結構似合うんじゃないか?」
そう無難な答えを返せば、呆れたような顔でため息をつかれた。
「そういうお世辞はいらないわよ」
「いや、本心だ」
それを聞くと、更に大きなため息をつき、これは重症だと言わんばかりに大きく肩を落とした。
「そういうナンパみたいな台詞、誰にでも言ってると、信用されなくなっちゃうわよ」
ナイグラートはそう言って、キッチンに少し早足で向かっていく。
「ほら、もっとクトリのこと褒めてあげないと。
さ、行きましょ」
その途中に振り返り、彼女はどこか嬉しそうな微笑みを浮かべて、そう言った。
アニメが遂に終わってしまいましたね…。
夏からはアポクリとか始まりますね。
秋はDies iraeとか。楽しみ。
なんかネタないかなぁぁああああああ
なに書いたらいいんだろう。