摩天楼、歌って、踊って
彼と二人過ごして
スポーツのニュース。コメントを述べるのは、彼(か)の地で活躍した野球選手。引退した、偉大な日本人スラッガー。そうだ、あの日は冬だったから、観ることは叶わなかったけれど。わたし達は行ったのだ。彼が喝采を浴び、活躍していたあの土地へ。記憶があの地へ飛んでゆく。わたし達も、喝采を浴びたあの時へ―
「「「「「「「「「入浴」」」」」」」」」」
疑問符を浮かべるわたし達に、プロデューサー三人が告げる
「いや、New York。みんなでボケかまさないでよ」
「俺もビビッたけどさ。ミュージカルの聖地で公演してくれって」
「あたしも腰ぬかしたもん。そりゃ混乱するかもね~」
プロデューサー、三人の言葉。私が10歳、十二月初旬のお話。新たに加わった、三人目のプロデューサーは若い女の人。メンバーが増えて、仕事が捌(さば)ききれないから。手を貸してと、二人のプロデューサーに促され活動に参入した。わたしたち、そして、神威組のプロデューサーの後輩だという。二人は言う。感性と才能はオレ達より上だろうと。メンバー多数参加型の曲が得意。事実、彼女の評価は右肩上がり。膝に乗っているわたしと、乗せてくれている紫の彼。見るなり彼女は
「うふふ~あたしは押すよ、二人とも。バンバンきっかけ作っちゃうからねっ」
言った。そして、わたしと彼をよくデュエットさせてくれた。それが、やたらと嬉しかったけど、まだ、外見は少女といっても、差し支えないその人は
「気付かないの、気付こうよ二人とも」
とよく悪態をついた。その意味、あの頃は分からなかった
三人目のプロデュサーと共に、メンバーに加わった歌い手もいる
「初めまして、氷山キヨテルと申します。今、24歳です『識高の歌人(しきこうのうたびと)』というコンセプトを頂いてます。塾の講師から、歌い手へ転身させていただきました。ロックバンド活動でスカウトしていただきまして」
自己紹介したキヨテル先生。彼女の秘蔵っ子だという。宿題など、わからないことを聞けば、やさしく丁寧に教えてくれる。まさに、PROJECTの先生。今は、神威の家に居候(いそうろう)先生の歓迎会。髪を上げ、ロックモードで歌う姿を見て、リリ姉は目を煌めかせていた。それ以来、よく、リリ姉、カル姉の勉強の面倒を見ているという。特に、リリ姉からは、ことある事に質問攻めだとか
「それにしても、NYか。まさか、びっくり、サプライズじゃない。海外に、行ったことあるヤツ、お手上げ」
「ボクだ、かむい。英語できね~けど」
「ワタシもですわ。神威さん。イギリス英語なので多少差異はありますが話せます」
「私もです。英会話ならできますよ。書くのは苦手ですが」
「四人か。俺含めて、会話できるのは三人だな」
海外に行ったことがあるのは、派遣されたこともある、テト姉。留学経験のある、ルカ姉。ロックフェスタで滞在したキヨテル先生。そして、格闘技の大会でNYを訪れたことがある、紫の彼だけだ。その他のメンバーは海外遠征など初めての事
「「「PROJECTが世界に認められた」」」
プロデューサーは泣いていた。わたし達は、パスポートの作成、衣装の選択、送付。滞在計画などに、きりきり舞い
「でも、楽しみだわ~NY」
「楽しいとこだメイコ。だだし、気はぬくんじゃない」
「子供達から、目を離してはいけませんよ。防寒対策もしっかりしないといけませんね、神威さん」
「殿もテルさんも、少し過敏じゃないかな」
「いや、カイト」
「カイトさん」
「「なめたらいかん」」
「はい」
キヨテル先生と紫の彼。出発前から言っていた。出発当日、朝。たちどころにその日。国内の空港。ここからすでに、声を掛けられて。写真撮影を求められ、とても嬉しかった。大きな荷物ケースを押し、歓談する大人組。めぐ姉、リリ姉、カル姉、ミク姉も、ころころバッグを横に華やいで。わたしとレンは無邪気にはしゃぐ。浮き足立たないように、搭乗手続きを前に、キヨテル先生が告げる
「みなさん、NYは人が多く、街も広いです。一人で行動してはいけません。必ず、大人と一緒に動いてくださいね」
「いざとなったら、護ってやる。ゲキタイしてやるぜっ」
気遣ってくれるキヨテル先生。ジャブを打つテト姉
「「「「「わかりました~」」」」」
応えるチビ組
「それから、寒さも厳しいです。風邪をひかないように。必ず寒さ対策をしてくださいね」
「「「「「は~い」」」」」
キヨテル先生は、前々から、寒さ対策を考慮。プロデューサーと相談。現在、女性、男性。違ってお揃い。女性は、空飛ぶ蒸気機関車のヒロイン。白くした感じの格好。男性は、白のロングコート。赤くして、拳銃持ったらある漫画のパクリ。帽子、マフラーはおもいおもいの色形。そんな出で立ちの、目立つ集団
「ありがとうなテル。子供達、大切にしてくれて」
「とんでもない。子は鎹(かすがい)宝物ですからね」
「今、テルも言ったように、必ず誰かと手をつなげ。はぐれるんじゃない」
「ぽ兄ちゃんが言ったように。何かあったら、大きな声だしてね。絶対助けに行くからね」
「「「「「わかった~」」」」」
同様に彼、めぐ姉
「じゃあ、リンはがっくんと手をつなぐ」
「いいじゃな~い」
「ミクさん、レンくん。つなぎませんか」
「いいよ、ルカ姉」
「ミクも~」
両手に花のルカ姉
「ウチは、もうおっとな~。だれとつなぐかな~」
「いけませんよ。リリィさん。ご自分を大切に。大人の人とつないでください」
「なら、センセつないでくれんの~」
「いいですよ」
軽口のつもりだったのか。うつむいて、まっ赤になるリリ姉。手を差し出す先生
「あ~じゃあ、つないだげる。センセが迷子んならないよ~に」
「はい、よろしく」
早口で言って、がっしり腕組み。勢いでめがねがずれる先生。荷物ケースの上。腰掛けている黄色いの。押してくれてる、紫の。いつだったかも押されていたな。初めての飛行機、海外。ひたすら楽しみで、足をぱたつかせながら
「にゅ~よ~く初めてっ。た~の~し~み~」
「迷子にだけはなるんじゃないぞ」
わたしの頭に顎をのせ、真剣モードで告げる彼。きっと彼は、滞在中。誰よりもメンバーを気にかけていたのだろう。登場開始を告げるアナウンス。乗り込む機内。一角を貸し切り。よくここまで来たモノだと思った。バス一台、借りるのに、四苦八苦していたわたしたちが。いま、ジャンボジェットを。一区画とは言え貸し切る。本当にありがたい
「マナーは護って。でも、好きな順ですわってね~」
同行する、プロデューサーの言葉。わたしは、当然のように彼の隣に座る。と
「リン、窓側がいいんじゃない。景色見えて」
「ありがとがっくん。リンそうする~」
優しい彼の気遣い。ただ、怖いもの知らずだった頃なのに離陸の時、初めての感覚。エンジンの轟音。急に怖くなってしまって。隣に座る、彼の大きな手を強くにぎる
「大丈夫。大丈夫」
言って、両手でさすってくれる。優しい彼。飛び立ってからは、幸いにも機体は安定。初めての空の上。どこまでも青かった
「さすがジャンボ。乗り心地抜群。輸送機とは比べものにならないぜ。食事も、良い物出るみたいだし、快適カイテキ」
テト姉。周りのメンバーと、カードゲーム。わたしも、しりとりをしたり彼がポータブル機材でDVDを観せてくれたり。乗り物酔いをしないタチで良かったと思う。飲み物が振る舞われる。あの日、初めて知った。コンソメスープや、オレンジジュース
「コンソメ、お願いします」
めー姉は、乗り物の中ではお酒を飲まない。彼が買ってくれた、ラスクが美味しくて、機内食もおいしくて。ついていたオレンジを、彼がわたしによこしてくれて
「オレンジ好きだったじゃない」
「ありがとがっくん、じゃ、このチョコあげる」
「それは、リンが食べる。育ち盛りダカラ」
やりとりが。彼との、みんなとの時間が楽しかった。後半は、長いフライトに、飽きてしまったのだけれど
「リン、みんなも。飽きたら眠っとこうじゃない。時差ぼけしなくてすむから」
紫の彼の気遣いで、メンバー全員、時差ぼけせずにすんだっけ。TVの音。CMの騒がしい音で、記憶の土地から、強制送還。あの選手の試合、観たかったな。などと思いつつ、夕食の準備に集中する―
CMからニュースへ切り替わる。サッカー代表が空港へ帰還。熱烈な歓迎を受けている。わたし達も、こんな暖かな歓迎を受けたことがあった。そう、NYのあの地。今日は、思い出につかる日だなと諦めて、何度目かの記憶図書館来訪を開始する―
「「「「「「「「「「「「「「「Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」」」」」」」」」」」」」」」
降り立った空港から、熱烈な歓迎を受けた。嬉しくて泣きそうだった。入国審査の人にまで、握手を求められた。集まってくれた、人、人、人。掛けられる声、求められる、握手。フラッシュの光にクラクラする。用意してくれた大型バスに乗り込むまで、人の波にかき回された
出発前から、メンバー全員で決めていた。会場入りをするまえに、まずは、あの場で献花。黙祷して、哀悼の意を捧ぐ。せめて、皆々様が安らかであるよう、祈りを込めて歌います、と。その後は、日本ではお目にかかれない、超高層ビルの谷間を移動
「すっご~い。高いビル~」
「さすが違うわね、NY」
わたしはもちろん、めー姉さえも、お上りさん上等で見渡した。到着した、ミュージカルの聖地で歌う。その公演でも、大声援をいただく。侍姿で歌った彼への声援はおおきかった。何より、みんなカタコトの日本語で
『miku cha~n』
『rin cha~n』
と、声をかけてくれたのが嬉しかった。誰かに安らぎを、与えられている。思い込みでも、そう感じることができたから
一日目の公演終了後、クタクタになりながら、たどり着いたホテル。用意していただいた、中心街の高級ホテル。豪華な造り。素晴らしい食事に、目が飛び出しそうだった。ホテルマンの方との会話は、紫の彼、先生、ルカ姉が翻訳してくれた。用意していただいて幸せだったのだけど、モメタのはその部屋割り
「全部二人部屋だって。どうする」
ホテルの最上階。めー姉をハジメ、大人組が悩む
「日本(くに)だったら、男女分けでいいんだがな」
「NYですから。どうしますか、神威さん」
「ま~、大人、子供ペアでいくしかないじゃない」
「仕方有りません」
子供組を気遣ってくれた、大人達の優しさ。男女がどうのなど、あの日のわたしは考えるはずもない
「おし。デカいのと小さいの。ペア組むぞ~」
「ミクさん。ワタシと寝ませんか」
「いいよ~ミク、ルカ姉と一緒のお部屋~」
ミク姉、ルカ姉に抱きつく
「レン。アタシと組むわよ」
「うん、めー姉」
抱き上げるめー姉。まだ照れのないレン
「リンがっくんと一緒がイイ~」
「うん、リン。重音やめぐの方が良くない」
わたし、彼の腕にすがりつく
「がっくんがいい~」
「じゃ、そうするか」
だっこしてくれる
「じゃあ、わたしはカルちゃんと同じ部屋で」
「めぐねえさまさま。一緒にねます」
ごきげんに抱きついてゆくカル姉
「リリたん、ボクと寝ようぜ」
「重音さん、アザ~ス」
腕組みリリ姉
「じゃ、オレはテルさんと相部屋かな」
「よろしく、カイトさん」
それぞれ、キーを手に。入る部屋。広々とした洋室。鎮座する大きなベッド。テーブル。大画面のTV。荷物を置いて、さっそく横になるわたし。疲れていた
「ふわ~ふかふか。気持ちいい~」
「リン、まず、お手々洗って、風呂入ったら。すぐに眠れるじゃない」
「うん、リンそうする~。そうだ、がっくん、一緒に入ろうよ~」
「一人で入ろうじゃない。俺はほら、門番してるから」
「わかった~」
恥じらいも何もなかった。彼と入浴したことは、マンション在住の時を含めて一度も無い。服を脱ぐ。下着だけになって
「じゃ~入ってくる~」
「ごゆっくり~」
部屋のシャワールームに入る。日本と違って、浴槽にお湯ははらない。シャワーだけで体を洗う。ボディソープも、シャンプーも。香りだけで、高級なモノだとわかる。簡単に入浴を済ませ、パジャマになって彼の前へ
「あがった~」
「よし、リンおいで。乾かしてあげようじゃない」
「ありがと~」
ベッドの上、髪を乾かせてくれる。その後、彼もシャワーを済ます。長い髪を乾かすのに時間がかかってたな
「やっと一息か」
髪をポニテにしながら彼。電話をかけ、ルームサービスを頼む。TVを点ける。当然ながら英語。わたしには全く聞き取れなかった。部屋の戸がノックされる。運んでくれたボーイさんに、チップを渡す。テーブルに置かれる、ミニボトルのウィスキー。わたしの前には、ホットミルク
「よく眠れるように。お疲れ様、リン」
「明日からも、がんばろ~ね、がっくん」
お酒と牛乳で乾杯する。雑談を交わす。ホットミルクは甘くて美味しかった。二人の杯が空になり、歯を磨いて、うつらうつらする。ベッドに運んでくれた彼。わたしをベッドに置き、離れようとするその彼のシャツを、離さなかったわたし。嫌々と、頭を振った覚えがある。その日、結局一緒に眠ることになった彼。わたしを起こさなかった、優しいやさしい、紫の彼。朝目が覚めて、横を見ると彼がいた。珍しく、わたしの方が先に目を覚ました。朝日が、カーテンの隙間から零れている。思いっきり伸びる。彼の横。朝からとても気分が良かった
「がっくん、がっくん。おはよう」
彼の耳元で囁くわたし。やや間があって、彼が覚醒しはじめる
「―ああ、リンおはよう」
「今日も良い天気みたいだよ」
横になったまま、わたしの頭を撫でてくれる。至福の感触に、しばらく酔っている
「~お~し、起きますか、リン。朝ご飯、行こうじゃない」
「みんなも起きてるかなぁ」
体を起こす、わたしの体を起こしてくれる彼。歯を磨き、洗顔、身支度を済ませる。彼にリボンを結んで貰う。携帯で、彼がメンバーと連絡をとる。朝食に行こうと。キーを持って部屋の外に
「おはようございます、神威さん、リンさん」
「おはよう。殿もリンもよく眠れた」
「ぐっすりだよカイ兄。がっくん、一緒にねてくれたから~」
「シャツ、掴んで離してくれなかったじゃない。リンと一緒にガッツリ寝た。おかげで体調バツグ~ン」
朝型のカイ兄、先生。話す部屋の前。他のメンバーを待つ
「おっす、かむい、みんな」
「朝ご飯いこ~ぜ~」
「おっは~みんな。今日もよろしくね~」
「大変過ごしやすいお部屋ですわ」
テト姉、リリ姉、にっこりと。ミク姉、ルカ姉、微笑ながら合流。談笑していると
「ふわわっ。おはですみんな~」
「ねむねむ。おはようみんな」
朝が弱い、めぐ姉、カル姉、やや眠たげにやって来る。そして、一番朝が苦手な二組
「うい~おふぁよう~」
「はああ~寝たりないわ~」
めー姉とレン、お互いにひっついてかばい合いで部屋から出てくる全員集合で朝食へ向かう。華やかなレストランスペース。バイキング形式の朝食。どれもおいしそうで迷っていたわたしに
「リン、ちょこっとずつ取れば、色々食べられるじゃない。みんなで分けて食べよう」
そんな声を掛けてくれた、優しい彼。TVの音。意識が帰ってくる。ちょうど、バイキングレストランの取材。食べきれないほど取っているお姉様がた。もったいない。あれ、絶対残すよね―
TVに映る、NY最大手新聞の字幕。あの経験、本当におおきなものだったな。記憶の扉、もはや自動ドア状態で開けられる―
「ルカ姉にあ~う」
「妹分ながら嫉妬しちまうぜ」
「ありがとうございます。お二人だって綺麗ですよ」
NYでの四日間の公演。日を追うごとに、来場者の数が増えていったそうだ。そしてご褒美、オフの時間。光のさざ波のもと、カフェで休憩。キャラメルカプチーノが美味しかった。夕刻、世界一のクリスマスツリーを観る。タクシーで移動。高級ショッピング店が立ち並ぶ、五番街でお買い物洋服のお店の中。みんなで試着。ミク姉、テト姉と共に感嘆。薄桃のドレス。本当にキレイ。まるで花嫁だ。紅いドレスのテト姉、エメラルドグリーンのミク姉。黄色いチビは見劣りしている気がしてならなかったあの日。まあ、今でも勝てる気はしない
「ありがと~ルカ姉」
「ふっ、ふん。嬉しくなんかねぇんだからっ」
「なんでこうなってんの」
「あら、似合ってるじゃない、レン。将来が心配なほど」
「だよね、め~ちゃん」
「レン君とてもかわいらしいですよ」
「可愛いぞ、レン。リンも愛らし~じゃない」
「ありがとがっくん」
紫の彼の言葉。簡単に気持ちが向上する、単純なわたし
「そのまんまお買い上げでいいんじゃネ、レン。あ~あ。ウチもルカみたくキレイに成れたらな~」
「リリィさんも、濃金色ドレス。大変良くお似合いです。お綺麗ですよ。レンさんも、とても可愛らしいですね」
薄茶色の燕尾服を纏うキヨテル先生。言われてリリ姉、まっかっか
「僕も似合うと思うんだけどな~レン」
「俺も。コレで歌うってのアリだよな」
「あたしも。がくちゃん、かいちゃん。レンクン、挟んで立ってみて」
同行した、プロデューサー達の声。ダークシルバーのタキシードの彼、オモシロそうに。ブラックのモーニングを着たカイ兄、吹き出しながら。中央に、黒のフリフリドレスのレン、不満げに
「れんれん、いちばんお姫様」
「「「よし、これ行こう」」」
「~~~~~カンベンしてくれ~~~~~」
後日、これがきっかけで、あるユニットと名曲が生みだされた。その後、寄ったアクセサリーのお店。華やぐ姉達から、やや距離を置く。一番ちびで、女らしくないわたし。可憐な宝石類なんて、どうせ似合いやしないから。と
「なにしてんの。リンも選ぼうじゃない」
「え、がっくん」
わたしの手をひいて。躊躇なく、選び始める彼
「わたし、にあわないよ~」
「俺が似合うの、選ぼうじゃない」
彼がアクセサリーを選んでくれる。イスに座らされ、とっかえひっかえ試着。照れ、幸福、恥ずかしさ。ぐるぐるにまざる感情で、全身が熱を持って。頭のてっぺんまで熱くなって。足が床に付いていないような感覚
「これ。リンにぴったり。Sorry―」
「が、っくん」
「お買い上げ~」
「そんな、悪いってば~」
わたしを尻目に、店員さんと英会話。もう止められない。そうしてわたしに贈ってくれた、ネックレス。銀のリングにプラチナリボンのついた、ショートチェーンのネックレス
「ちょっと早い誕生日のプレゼント」
彼に連れられ店の外。摩天楼、電飾装飾が光り輝く、クリスマスシーズン夜空の下。そんな、映画のようなシチュエーション
「寒いけど、少しだけ」
防寒のため、巻いていたマフラーが外される。かがんで、さっそく首に掛けてくれる。目が合う。ぞくりとするほど優しい目。イルミネーションの燦めきに、完全に勝るそのキレイな瞳の目尻が下がる。そして、ショーウインドウのガラスに、わたしを向ける。写し出される、デザイン違い。白いコートのわたしと彼。首元に輝く白銀の首飾り
「ほら、お似合い。大人になっていくじゃない。11歳、おめでとう、リン」
わたしの頬を優しくなでて、くれながら。一週間後、十二月二十七日。わたしと、レンの誕生日。覚えていてくれた彼。幸せで涙が込み上げる。鼻声で、彼に告げる
「ありがとう、がっくん。大切にするね」
「喜びすぎなんじゃない」
「さ~次、化粧品行くわよ~男共~あら、神威君、リン」
華やかに出てくる、めー姉。姉達も、百花繚乱。女王と姫が家臣達を引き連れている風情。店の前、佇むわたし達に気がついた
「リン、マフラー外すな。風邪をひくじゃん」
「りんりん、ねっくれす似合ってる。かあいい」
気付かないレン、気付いてくれたカル姉
「わわっ、かわいいネックレス。ぽ兄ちゃんが買ってあげたのかな。リンちゃん、すっごく可愛いよ~」
「私も、そう感じます。大変お似合いですよ。まるで、リンさんのために作られたかのようです」
破顔しながら、めぐ姉。眼鏡をつまみ、微笑みながら先生
「そ、リンにちょ~っと早い誕生日プレゼント。後でレンにも。ドレス買ってあげようじゃな~い」
「いらね~からっ、がく兄」
「うそうそ、コレ。レンに。おめでとうレン。大きくなっていくじゃない」
彼がレンに手渡したのは、青水晶の数珠ブレス。ネックレスと一緒に購入していたらしい
「え、ほんとっ、ありがとっがく兄、やった~」
たちまち、喜んで、腕にはめ、飛び跳ねるレン
「お似合いです。かっこいいですよ、レンくん」
褒めるルカ姉。ますます喜ぶレンの後ろで
「神威君」
「殿」
「「ありがと」」
「NYのごたごたと、夢見心地で、リンとレンの誕生日」
「また、トビそうになってた。本当にありがとう、殿」
「忘れちゃダメじゃない。また泣かせる気か」
溢れる彼の優しさに、改めてふれた摩天楼での夜。宝石店のCMのBGMで、意識が今へと帰ってくる。あのネックレス、今も大切にしまってある。ここ一番の時に身につけるため―
ワイナリーに来ています。特集を報じるリポーター。高い棚、隙間無く並ぶ、赤白の瓶。木造の建物。少し薄暗いのは、ワインを劣化させないためだと、彼から教わった。だから、造りが似てるのか、あの土地のワイナリーに。記憶の小部屋行きますか―
「メイコ。明日、郊外のワイナリー行こうじゃない」
一週間の滞在でNYを満喫。女神像を観た。超高層ビルの最上階、百万ドルの夜景。光の洪水を見ながら食事をした。わたし達も歌ったあの聖地で、ミュージカルも見ることが出来た。そして、あのサプライズ。思いやりに溢れることを仕掛けてくれるのは。いつでも優しい、紫の彼
「あら、神威君、アメリカはウィスキーの国なんじゃない」
「NY、合衆国ではワインの美味しい街じゃな~い。良いとこ知ってんだ、行ってみない」
「うふふ、喜んで」
お酒の提案に、乗らないはずがないめー姉。とても嬉しそう
「テルも、白、好きだったじゃない。同行しない」
「是非、神威さん。あの老舗ワイナリー。まさか訪れることができるとは思いませんでした」
「みんなも行かない。美味しそうなモノあるみた~い」
「オレいくよ殿」
カイ兄、右手を挙げる
「ミクも~。わ~楽しみ~」
「わたしも参加で、ぽ兄ちゃ~ん」
「全員参加でおっけ~じゃね、がく兄」
こうして、訪れたワイナリー。通された、歴史を感じるたたずまいの部屋。並んでいたのは、美味しそうな料理。本格的なピザ。極太のウィンナー、骨付きチキン。豆のサラダに、肉のサラダ。アメリカンドッグに巨大なハンバーガー。日本ではお目にかかれない、本場アメリカンフーズ。あきらかにパーティームード
「実は、みんなで来ること決まってから。予約入れちゃった。これ、やりたくて」
「神威君―」
「がっくん―」
「Sorry master―」
マグナムボトルを注文した彼。コルクを抜いて
「ありがとう。始まりの歌姫。安らぎの声風。貴女が、貴方たちが。作ってくれた、道の上。この液体よりも紅い、血が滲むような苦労の上に。俺達は立ってます。すべてに捧ぐ歌娘、俺はあなたの歌声で、参加を決めました。。合わせ鏡の歌声、俺を映し出してくれてありがとう。今日は万感、感謝とお礼の想いを込めまして。ささやかながら、宴を用意させていただきました」
颯爽とめー姉に、紅い中身を注ぎ言う
「ありがとう。我が家の頼れる御館様。神威君、貴男にだって、いつも助けて貰ってるのよ。ね、愛するカイト。信じられる。今のこの状況。地方の薄汚いライブハウスで。笑われて、ヤジられて、けなされて、たまに褒められて。歌っていたアタシ達」
うっとりと、グラスを見ながらめー姉
「NYで、喝采浴びて公演。ワイナリー、貸し切って祝宴。ホント、信じがたいよね。愛してるよ。めーちゃん。殿だって。妹の、弟のため。オレ達のため。必死に仕事してくれて。殿がいないメンバーなんか、もう考えられないから。ありがとう、オレ達の御殿様」
白ワインを注がれながら、カイ兄
「気高き貴女様の声に、導かれ。私は此処にいます。優しいカイトさんの歌に憧れ、歌い手に成ることを決めました。偉大な神威さんの仕事への真摯な姿勢。尊敬し、見習っています。ありがとうございます。みなさん」
カイ兄に、ワインを注ぐ、キヨテル先生泣き笑い
「がっくん、がっくんが来てくれて良かった。だって、がっくんが来て、ルカ姉が帰って来て。わたし達、歌のお仕事ふえたもん。今、にゅ~よ~くにいるのだって、絶対、みんなのおかげだよ。めー姉、カイ兄ありがとう。みんなホントにありがとう~」
あの日のわたし、微笑みながら
「メー姉、ウチ、メー姉みたいにナンノが目標っ。カイトの歌声好きだから。おにぃ、支えてくれてあんがとおっ」
泣きながら。リリ姉がめー姉に抱きつき
「カルっも、めい様好きっ。かいっ様、あいしてるっ。あにさま大大だい好きっ」
カル姉がじゃくりあげながら。各々が、全員が。メンバーそれぞれにに感謝して。縁(えにし)を再確認する
「さ、辛気くさいのは無しにして、乾杯しましょ」
「冷めたらおいしさ半減だもんね、めー姉」
「へっ、柄にもなく湿っちまったぜ」
レン、今度は意識がゴチソウに移行する。軽口を言うテト姉、こういう軽口は絶妙なのに
「だな、レン。発声を命じてほしいじゃない、メイコサマ」
「ありがとね、神威君。発声は~カル~」
「うれしいめいさま。うれしい、みなさま。ありがとあにさま。にゅ~よ~く。びっくりビックリ。みんなのおかげ。カル達の歌、聞いてくれてる人達のおかげ。みんなみんなにありがとう。いっせーの~で」
「「「「「「「「「「か~んぱ~い」」」」」」」」」」」
本場の豪快な米国食。日本では味わえない美味しさだった。そうしてどこへ行っても、わたし達ははしゃぎ、目を輝かせ、ひたすらに楽しんだ。ただ、その最中彼は
「カイト、メイコ、重音。テル、ルカ、めぐも。子供達から目、離すなよ。絶対迷子にさせんじゃない」
そう言って、わたしと手をつなぎ、離さなかった
あの頃からだったな。記憶図書館を退館し、思う『チビ』と言う呼称が『子供達』に変わった彼。あの時はきっと、わたし達を。本当の子供同様に、想い始めたのだろう。やさしい彼と過ごした、大都会での日々―
少し長めのお話し
『本当の子供』から、その関係が変化するのはまたいづれ