途上、語られる『指定席』のこと
話される思い出
伝説の艦(ふね)と共に
還ってくる思い出
それぞれの家へ戻って、お風呂セットを用意する。お皿を洗ってくれるメンバーに、やや、後ろめたさを感じつつ、神威家へ
「そういえばアタシ、初めてだわ。神威家のお風呂。見学させて貰ったことはあったけど」
「あ、別の家のお風呂ってなかったね~、今まで。ヒノキ風呂って言ったよね~」
マンションのエントランスで、めー姉、ミク姉の会話。実際、それぞれ家があるため、他のお宅に宿泊することはあまりない。どこでも徒歩三十秒『実家』があるから
「うふふ。わたし、入ったことがあるよ~、めー姉。温泉みたいな気分になっちゃう。すっごく気持ちいいんだよ~」
「マジかよリン。うわ~すっげぇ羨ましいんだけど。シェアハウスは、家(マンション)と、あんまり変わんないじゃん」
ふたたび庭へ出る
「あら、ではレンくん、ご一緒しますか」
「入っちゃおうよ~、久々に~」
凄まじいスピードで、シェアハウスへ逃げていくレン。さすがに、この歳で姉二人とは恥ずかしいのだろう
「今、レンが脱兎の勢いで逃げたけど、何かあったんじゃな~い」
笑いながら、近づいてくる紫様。手には、木製の風呂桶
「姉二人に、手玉に取られたトコロ~。あ、リュウト君も一緒だね、殿。オリバーくんは、ハウスにいるのかな」
「そういえば神威君、リンが神威家のお風呂に入った事あったって言ってたのよ。それって、何時のこと~」
興味が湧いた様子のめー姉が尋ねる。とたん、顔中に変な笑みを浮かべてテト姉
「そうだっ、かむい。おまえまさか風呂につれこぎいゃあっ」
「あら、ごめんあそばせ。お酒のせいですわ、躓いてしまいました」
ルカ姉、パンプスサンダルのヒールで、テト姉の足を踏みつける。抗議声を上げるも
「下劣なお話は聞きたくありませんの。もう一度躓きましょうか」
凄むルカ姉。本当に下品な冗談を聞きたくなかったのだろうな。完全に、目が据わっていた。反撃不能のテト姉。さすが、めー姉の妹だ。と、言うならわたしやミク姉もなんだけれど
「ふぁっははっ。やるじゃない、ルカ」
「お褒めに預かり光栄ですわ、神威さん」
紫様とハイタッチ。メジャーリーガーのように打ち合わせる
「ま、重音、お前が何思ったて構わない。ありえない、お前が思うようなことは。で、風呂の話しなんだけどさ。前にさ、ゲリラ豪雨降って、バス止まった事があったじゃない」
あの日の出来事を、話し始める彼
「あったね、めーちゃん。オレ達が買い物行ってた帰りだった」
「帰ったら、神威君とリンが、晩ご飯用意してくれてたわね」
そう、わたしが、雨に打たれたあの日。神威家のお風呂に初めて浸かったあの時。みんなでうどんの宴をしたあの夜
「リンが一人、濡れ鼠で帰って来たじゃない。良かったよ、俺、家にいて。風邪引いたら大変だから、お招きして、風呂にも入ってもらった。それが事の真相~」
「一人だけ、外れクジ引いたって思ってた~。でもね、お風呂入らせて貰って、おやつまで用意してくれて。逆に当たりくじだったよ。あの日ね、お願いして、初めて包丁握らせて貰ったんだ~」
彼に『決断』を迫った事を話し始める、得意気に
「初めのうちは、俺かカイトと一緒の時だけってな。今は、本当に上達したじゃない、包丁さばき」
「ああ、それでこの構図ができたんだ~。リンちゃんが、がくさんと包丁姿~。これ、いつ見ても萌えるんだよね~」
「ミクちゃ~ん、萌えるって何が~」
スマートフォンの操作を始めるミク姉。丁度やってきたIA姉、会話に参加を始める
「あ、IAさ~ん、見て~これ~」
画面を見せるミク姉。写っているのは、わたしと彼。わたしの後ろに立って、手を重ね、調理している姿。彼に包まれている格好だ
「ゎ~あ、萌え萌え~。リンちゃん護ってるかんじで~」
「神威のアニキとリンちゃん。昔っから仲良しなんだね~」
「というか、ミク。お前、いつの間に撮った」
IA姉は頬を染めて萌え出す。一緒にやって来たMikiちゃんは感動。呆れ笑いの彼
「困ったクセが付いたわね~ミク。まぁ、悪い写真ばかりじゃないのが救いだわ」
めー姉も笑い方が複雑だ
「まあ、ちょっと前は休日ごとに、この構図だったもんね。撮るチャンスは幾らでもあったよ、殿。ただ、オレもこれ初見」
「お~い、風呂整ってるぞ~。って、みんな何してん」
呼びに来てくれたリリ姉、不思議そう
「ん~リリね~さん、アニキとリンちゃんのこと。昔っから仲良しだったんだねって」
「これ覚えてるでしょ~、リリ姉~」
「ああ、最近見なくなったなコレ。ウチも結構好きだったな~。てか、ま~たミクの仕業かよ」
楽しそうなミク姉とMikiちゃん。微笑みが、苦笑に変わるリリ姉。当然のリアクションだ
「ま、立ち話はここまでにして、ひとっ風呂浴びちゃおうじゃない」
「め~ちゃんもルカも、お酒入ってるからね。浴槽に浸かっちゃだめだよ」
「はいはい、分かってるわよ。みんな、素早くね~」
そう告げて、シェアハウスへと向かう、男性陣。わたし達も、神威家へと向かう。めー姉の言葉通り。あの日は二次会が楽しみで、ゆっくりとお風呂には浸からなかった。ただ、この期を逃すまいと、結局。カイ兄の言いつけを破って、少しだけヒノキ風呂に浸かった、姉二人。簡単に汗を流し、髪を乾かす。そそくさと薄着に着替え、マンションへと向かう。ハウス組は、一度ハウスへ。お風呂道具と洗濯物を置くため
「お待たせ~。やっぱ、男の子達は早いね~。ピコきゅん達、もういなかったよ」
「さ~甘いの食べに行こ~」
Mikiちゃん、IA姉、ホクホク。待ち合わせて、みんなで向かう
「あ、皆もはえ~じゃん、やっぱり。おれらもソッコーだったよ。二次会テンションってやつ」
「今、テルさん達、家(マンション)のシャワー使って貰ってるからさ。オレ、道具片付けるよ。洗濯物も入れとくから」
リビングでは、男性陣がすでに準備を開始。弟と兄が出迎えてくれる
「だって、二次会楽しみだもん」
「甘い物食べた~い。ありがと~カイ兄」
応えるわたし。ミク姉、甘味渇望。洗濯物やお風呂道具を片付けに向かってくれるカイ兄
「あら、神威君は何処、レン」
「キッチン。余ったの、温め直してくれてる~。ああ、みんな揃ったら、冷やしてあるのも取りに来てって言ってたな」
「大集合かんりょ~です~。これからいきましょ~」
弟、ピコ君の先導で、団子になって向かうキッチン
「楽しみだな~。今日はどんなの選んでくれたの、リリちゃん」
「アイス、プリン、シュークリーム。ちょっと高めのヤツ~。期待値たけ~よ、I・A~。他にもあるから、リンも楽しみになっ」
「やった~。プリン大好きだよ、リリ姉」
右腕をわたしの肩に腕を回し、左手でIA姉の頭を撫でるリリ姉
「アイスは、誰かさんが一番喜びそうね~。まぁ、アタシも楽しみだわぁ。エビチリで焼酎」
めー姉は飲むことで頭がいっぱいのご様子。続いてゆくテト姉、ルカ姉までも
「ワタシも、もう少し頂きますわ。スモークチーズとワイン」
「エビマヨもあったな。肉も残ってるから、スコッチでいくぜ」
お酒モード全開だった。お酒って、そんなに良いものなのか、未だにわからない。でも、何時の日か、彼とお酒を共にしたい。そんな気持ちがあるのは確か
「デザートたのしみだね~リュウトくん」
「わがしもよういしてくれたみたいです、ゆきちゃん」
天使様、みんな仲良しだけれど。手を繋ぐユキちゃん、リュウト君
「あたし、シュークリーム好きだな~。オリバー君は何が好き~」
「ボク、カボチャマンジュウト、Biscuitガスキ~」
腕組みのいろはちゃん、オリバー君。特に仲良しのペア
「アニキ~、お疲れ様~」
「作業、ありがとうございま~す」
手を恋人繋ぎで、キッチンに入ってゆく、ピコMikiちゃん。あ『君』って呼ぶの忘れた
「お、みんな揃ったか、レン。カレーとシチュー、今、簡単に温め直した。味が染みて、尚更美味しいんじゃない。食べ飽きない。ついでに塩昆布と野菜のサラダも作っといた。いろは、キムチラーメン出してあげようじゃない」
「ありがと~がっくん。あ、冷蔵庫のお総菜と、甘いのも持って行っちゃうね」
「ありがとう、がくおにさ~ん」
わたし、冷蔵庫に向かう。みんなして、二次会準備。リビングに、簡易式の冷蔵庫、お茶類のサーバーも用意。お酒組は追加のお酒。キヨテル先生達が来る頃には、第二弾宴会セット完了。それぞれに、好みの飲み物を用意
「天使様から、乾杯の御発声~」
めー姉、天使様を促す。キヨテル先生、リリ姉が、四人を整列させ
「キュ、キョオハアリガトウ、ミナサン」
四人の中で最年長、オリバー君が声出し
「こんなに楽しいかんげい会、本当にありがとうございま~す」
いろはちゃん、四人一の元気良し。勢いよく頭を下げる
「ぽ父さん、カイトさん。おりょうり、ありがとうございます」
「りりねえさま、きよてるせんせい。おかいもの、たのしかったです」
ユキちゃん、リュウト君がトリを飾る。一度見つめあう四人
「「「「ありがとうございま~す、おつかれさまで~す」」」」
「「「「「「「「「「おつかれさまで~す、おりこうさ~ん」」」」」」」」」」
杯が掲げられ、二次宴会の緞帳(どんちょう)が上がる
「さ~て、リュー、何が食べたい~。大人気無いのが群がる前に」
「ユキも。まず食べたいの、取ってあげようじゃない」
メンバーを牽制しつつ、リリ姉と紫様。さっき群がっちゃったわたし達、バツ悪し
「ぼく、かぼちゃまんじゅうがたべたいです。りりねえさま」
「ゆきは、アイスがいいです、ぽ父さん。チョコとまっちゃのトッピングで」
弾けるエンジェルスマイル。萌え上がりながらも、リクエストの品を手渡す、リリ姉、紫の彼
「さあ、オリバーさん、いろはさんも、遠慮しなくて良いんですよ」
キヨテル先生も、傾斜を復元させながら
「あたし、まずラーメンが食べた~い」
「ボク、Biscuit Pleaseデフ~」
こちらも輝く、天使の笑顔。IA姉が、先生を手伝って、なんとか手渡す。天使様にお菓子を配り終えて、銘々好みの食べものを取る。いろはちゃんは、小鉢のラーメン。小テーブルへ移動。腰を下ろしてまったりと
「がっくん、はい、米焼酎。二次会は焼酎からだったよね」
「ありがたいじゃない、リン。覚えてくれて感謝~」
ご機嫌で杯を満たすわたし。注がれる彼も上機嫌。アテは、ホタルイカと揚げ浸し。テーブルに酒瓶を置く。自分用の、プリンとウエハースも置く。お酒を含む彼、わたしはその膝によじ登る。杯を置き、手伝ってくれる彼
「リンちゃん、ぽ父さんのおひざにすわるんだ」
「あ、うんユキちゃん。がっくんの膝、わたしの指定席なの~」
「ハハッ。これだけ観ると、どっちが年上か分かんね~なぁ。ケド、ウチも好きなんだけどね、この光景」
膝に乗せる彼、座るわたし。初めて観たユキちゃん。以外にもこの日まで、観たことなかった。イタズラっ子モード、茶化してくるリリ姉。でも、眼差しは暖かなものだ
「シテイセキってなあに~」
「ここは、わたしだけの場所ってコトだよ~」
何時だったか、彼に教えてもらった言葉を口にする
「確かに~。リンちゃんだけの場所だよね、神威のアニキの膝。アニキ好きの、グミね~さんでも乗せてもらえないもん」
小首を傾け、可愛らしく聞いてくるユキちゃん。答えたわたしと、同意するMikiちゃん。浮かぶ表情は愉快全開
「ホントだよね~。わたしもぽ兄ちゃんの膝、座りたい。でも、何だか出来ない。リンちゃんの場所なんだよね、ぽ兄ちゃんの膝」
少し寂しげなめぐ姉。でも、わたしの『指定席』を肯定してくれる。心からありがとう
「そうなんだぁ」
ぽつりと言って、リリ姉と話している、キヨテル先生をチラ見のユキちゃん。その視線、先生は気付かない
「そういえば、双子ちゃんは乗ってたけど~。ミクは座ったこと無かったわね、神威君の膝」
不思議そうに聞く、めー姉。エビチリを摘まみ、焼酎を一口
「う~ん、なんかねぇ。座ってみたかったけど、双子ちゃんか、リンちゃん。何時も占領されちゃってたから~」
珍しく、眉を下げながらミク姉『タイミングを逃した』とも口にする
「何かもう、オレ達『古参組』には日常の光景だよね。殿の膝にリン」
「ゎたしもそ~だよ、カイトのに~さん。ゎたしの心の栄養剤~」
バニラアイスをコーヒーウォッカに浮かべるカイ兄。チーズビスケ、チョコビスケを美味しそうにIA姉。二人とも上機嫌
「そういえばさ、リン」
「なぁに、がっくん」
匙を使って、プリンを食べさせてくれる。さすがスイーツ好きの二人のお眼鏡に叶ったプリン。濃厚、しっとり、本物の『Pudding』である。後からかけたカラメルソースも、とても美味しい
「ちょっと聞かせて。初めて会った日の歓迎会。あの時から、俺の膝に乗ったじゃない。レンも一緒だったけど。でも、先に乗ったのはリンだった。どして。普通さ、家族でもないのが来たら、警戒しそうじゃない。しっかも初対面は、あんな侍姿でさ」
紫の彼が聞いてくる。確かにそうか。普通、警戒するかもしれない。打ち解けるには、時間が掛かるのも当然だろう。プリンを味わいながら考える。でも、侍姿を観たわたし。完全な子供思考だもの『カッコイイお侍さん』と思った『綺麗な人だ』とさえ感じた。それに、わたしには確信があった。何故なら、初めに飛びかかっても、彼は無碍にあしらわなかった。あの日のわたし(チビ)を。考えを、揺るぎないものにした出来事は
「ん~と、覚えてるかなぁ、がっくん。あの日『待たせるわけにいかない』って言ってたコト。わたしのリボン、結んでくれたこと」
「ん、あ~あ、あった。早めに降りようって思ってさ。階段降りたら、リンが居たじゃない。ヤッチマッタかって思ったよ。後輩の俺が、先輩待たせちゃって」
そう、そんな細やかな気遣いができる人。あの日のわたし『わかんないや』と返してた。でも、どこかで、分かったのだろう
「優しい人じゃなきゃ、そんなこと考えない。そう思ったんだぁ。会ったばっかりの子供のさ『リボン結べる』なんてお願い。ちゃあんと聞いてくれる人。優しい人だ~って、すぐ分かった」
「あ、初めての日、そんなことあったんだ。オレが下に降りたら、既に懐いてたもんね。リンが殿に」
「初耳だ~。しかもおれ、一人だけ遅れちゃったもんね~がく兄~」
バツが悪そうなレン。着替えに、時間が掛かっていたのだろう。間違いない。何故なら
「あの辺りだったわね~。ようやく、レンが一人だけで着替えを始めたの。朝が弱い、夜が早いで、アタシが着替えさせてたものねぇ」
「甘えん坊だったもんね~レン。お風呂も―」
「めー姉もカイ兄もその話やめてぇぇぇぇぇ」
これが理由。恥ずかしい暴露を、これ以上されないよう、必死な片割れ。メンバーに、笑いのさざ波がおこる
「うふふ。でね、カイ兄より背が高い人観たの、あの日が、初めてだったんだ。今だって、がっくんが一番、背、高いもん。でね、この広くて大きな膝、乗ったら、どんな気分だろうなって。座ってみたら、すっごく気持ちよくって」
そう、凄く気持ちが良かった。いや、気持ちいいと言うのはちょっと違う。安心。安らぎ。ここは、わたしの場所なのだ。何故かそう感じた、彼の膝。でも、あの日のわたしには、それしか語彙がない
「あの日、そのまま船こぎ出しちゃったわね、二人とも。ふふっ、今リン位の歳なら照れも出ると思うのにねぇ。よっぽどお気に入りなのね、リン。神威君のお膝」
おかわりの焼酎をグラスに注ぐめー姉。隣のカイ兄にもたれかかる。兄もウォッカフロートを堪能している様子で
「『船』と言えば、殿。あの日のケンカの原因『船』だったよね。仕事終わって帰ってきたらさ。リンとレンが大げんかしてた日。家に入ったら、ミクが泣きながら走ってきてさ『タスケテ~』って」
その日のことは覚えている。でも、何故ケンカしたかは、よく覚えていない。身長だったか、おやつの取り分か、それとも、チャンネル争いか。些細なことで始まった大げんか
「あったなぁ。カイトと俺、メイコ、ルカで、仕事済ませて帰ってきた日だったな。ミクが大泣きで走ってきたじゃない『リンちゃんとレンくんが~』ってさ。帰ってこられたのが、不幸中の幸いだった」
言いながら、わたしの頭に手を置く彼。ぐい飲みの中身を含む
「ええ、覚えてますわ、神威さん。あんな大げんかは、最初で最後でしたもの。その時も大泣きしながら『がっく~ん』って。避難場所みたいに乗りましたわ。神威さんのお膝に」
ルカ姉、酔いが回り始めているのか、まつげが濡れている。恥ずかしい思い出を語られているのに、心の中は暖かい
「それ程のオオゲンカをされたコトが、あるでゴザッタカ~」
「ウチらも知らないってことは、ホント最初の頃なんだ。ウチら神威の妹も、割合古参メンバーなのにさ」
唐辛子入りのスモークチーズ、スパークリングワインと楽しむアル兄。チョコトリュフを、先生が煎れてくれたハニーティーと合わせるリリ姉。二人共通で浮かぶ表情は『意外』というもの
「うん、リリ姉達が来る、ほんの一月前くらいのこと~。兄妹げんか、茶飯事だったもんね~、リンちゃんとレンくん。でも、あの時は困ったよ~」
「はは、でもミク。ほとんどは、じゃれてるようなもんだったじゃない。あれは、コミュニケーションの一環だろう。だけど、あの日はヤバかった」
お互いを罵倒し、取っ組み合い寸前までいって、姉兄、紫の彼に止められた。あの日、わたしと片割れの間に割り入った紫の彼が言う。わたしはそのまま、彼の胸にしがみつき、膝の上で泣きわめいた。事の顛末が、めー姉、カイ兄によって語られる
「わ~壮絶です~。でも、どうしてそんな大げんかになったんですかぁ。リンちゃん、レンくん。それに『船』と言えばって」
ピコ君がやや竦みながら聞いてくる、ケンカの原因
「ん、あれ、何だったっけ、リン。おれ、覚えてないや」
「あ、レンも忘れてる。実はわたしもなの。何だっけ『船』」
レンまでも、わたしと同じく、ケンカの理由を忘れている。めー姉、少し驚いた顔で
「あらあら、あんな大立ち回り演じたのに覚えてないの~。レンがね、リンお気に入りのヌイグルミにコーヒー零したって言ってたわよ。ゲームセンターの景品、限定の代物」
ケンカの理由を告げるめー姉。苦笑し、お酒を一口。あの日二人とも、泣きわめきながら告げたのだろう、大人達に
「レンくん、一応謝ったんだけどね~。でも『わり~わり~』って笑いながら。ちょっと軽かったかな~」
ミク姉の表情は、困り顔。わたし達に巻き込まれた、ある意味当事者
「それで怒ったリンが、レンのプラモデル壊したらしくてね。腹いせに。今さ、マンションのエントランスに飾ってあるよね『伝説の宇宙戦艦』の大型模型。あれ、レンが作った四隻目なんだけど―」
「「ああ~思い出したぁっ」」
わたしとレン、同時に叫ぶ。宇宙戦艦の単語で、記憶がリバース。思い出宇宙、16万8千光年彼方から、伝説の船と共に還ってくる。その船の模型、二隻目を、わたしは、腹いせにぶち壊した
「ひっでぇよなリン。高い上に、難しいんだぞっ、あの『宇宙戦艦』作んのってぇ」
「なにさっ。レンだって『同じの買えば良いじゃ~ん』なんてっ。あれ、獲るのすっごく大変なんだよっ」
「コラコラ、ケンカの話しでケンカ始めるんじゃない」
あの日のように、わたし達を止めにかかる紫様。レンと顔を見合わせ
「「っ、はははははっ。子供だったね~、大げんかの理由がおもちゃだもん」」
「今もとってあるよ、あのヌイグルミ。なんか捨てられなくって」
「マジ、おれもだよ『星団決戦後』にアレンジしてさ」
盛大に笑い合う。本当に些細な理由。所詮、子供のケンカなんて―
「あ~でもまぁ、気持ちはわかるす。自分も好きだよ、レン『伝説の宇宙戦艦』カッケエよな~」
「限定のヌイグルミとか弱いよね~、オンナノコ。同じのとか言われたら、怒っちゃうカモ~」
同意してくれる、勇馬兄、めぐ姉。二人の手にはババロア。そう『人』がケンカを始める理由なんて、殆どはクダラナイ。大人も子供も総じて
「拙者モ大切にしている模型が有るデゴザルヨ。世界的に有名な日本ロボットアニメの。Newの方でござる」
「でも、ケンカは宜しくないですよ。皆で仲良くしましょうね。怒る前に、まず話し合いです」
「取っ組み合いなんかしたら、ダメだぞ。テト姉とおにぃ、勇馬なんかがやってるのは『稽古』だからな」
アル兄も頷く。先生、リリ姉は、天使様に注意する。ただ、おそらくはメンバー全員へ向けた言葉
「物よりも思い出か、物あっての思い出か。捨てないで取っておくのも大切じゃない、リン」
「ん、ど~いうこと~がっく~ん」
ふたたび、プリンを食べさせてくれる彼。自分も、揚げ浸しを口に運び、焼酎を流す。わたし、膝の上でお酌する
「あにさま、りんりん。今の流れが全部萌え。もえもえ」
「わかる、カルちゃん。殿とリン、一連の動作がナチュラルすぎ」
目を輝かせるカル姉。眉を下げ、微笑むカイ兄。二人の発言で、話の軌道がそちらへ一度逸れる
「甘えに行く妹をアマヤカス兄。年の離れた兄妹という風情でゴザルナ」
「わかるよ~、アルのダンナ~。でも、ゎたしは『も~一歩』踏み込んだ感があるな~」
アル兄、目尻を下げ、お酒を含みながら。IA姉はソファの上、萌え上がって足をパタパタさせている。そのIA姉の意見に、苦笑しながらキヨテル先生
「IAさん、それは『邪推』というものではありませんか」
「いや~、それはどうかな~センセ」
割って入ったリリ姉、小悪魔スマイルで反論する『もう一歩』がどういう意味合いだったか、今も真意はわからない。IA姉の考えだから、悪い意味じゃないとは思うけど
「一歩踏み込むって何、ど~ゆうこと~」
「妹、好きすぎ、変○シスコン兄貴ってことじゃな~い」
聞くわたしに、答えた彼。誰かが何かを言う前に、自分で道化を演じることで、話題をさらに逸らせたのかもしれない
「え~ひっど~い。がっくん○態じゃないもんっ」
「いや~、そいつは分からないぜ、リンたん」
頬を、これ以上無く膨らませていたであろうわたし。生じた不満を爆ぜさせる。テト姉は悪ノリ。すかさず先生が咳払い。押し黙る
「わっわ、違うよ~ぅ、リンちゃ~ん。もぅ、神威のに~さん、何でそんなコト言うの~。ゎたし、そんな風に思ってないよぅ」
慌てて弁解IA姉。今度は、紫様に向けて不満を言う。わたし同様、頬が膨らんでいる
「ふふふ、IA、発言には気を付けようじゃない。ま、安心して。踏み込んだってのがどんな意味か知らんが、お前はそんなことを考える子じゃない。それは分かってる」
イタズラっぽく笑う彼、IA姉、安堵のため息。そこであがる、無邪気な質問
「変○ってなぁに、氷山先生」
「しすこんて、なんですか、めぐねえさま」
ユキちゃんとリュウト君。もっともな疑問『俺こそ失言だったか』と、片手で顔を覆う彼。しかし
「○態というのは、悪いことをする人の事ですよ。みなさん、気を付けなければいけません。防犯ブザーは忘れずに」
逆に、教訓に置き換える神がかりぶり。キヨテル先生、苦笑い
「シスコンて言うのはね、妹をすっごく可愛がってくれる、良いお兄ちゃんってことだよ。わたしとぽ兄ちゃんみたいに。でもね、変○が付くと、妹をイジメル、悪いお兄ちゃんってことなんだよ」
その見解はいかがなものか、と思うが見事、煙に巻くめぐ姉
「そうなんだ。でもユキ、グミちゃんがうらやましいな。リンちゃんも、ぽ父さんにあまえてるし。ユキにもいるかなぁ、あまえさせてくれる人」
天使様、ユキちゃんの一言で、場の雰囲気が又変わる
「大切だよね、繋がりって。このメンバーとの関係、オレはもう捨てられないな。あ、話し逸れてたけど殿、さっきの話しの続き。捨てるって単語で思い出した」
ウォッカに浮かべたバニラアイス。蕩かしながら堪能カイ兄。話題の軌道を修正する
「ああ、何て言うかさ。今『捨てりゃ楽になる』みたいな風潮あるじゃない。けどさ、ならまず『持ってくるな、集めるな』って、俺は思っちゃうワケ」
「ああ、捨てれば楽になるって、やたら聞くよね、アニキ~」
「でも、捨てられない物たくさんです~」
仲良く、スモモ味の水ようかんを食べる、Mikiちゃんとピコ君。彼の言葉に反応する
「だろう、Miki。ピコ、捨てられないってコトは、集めちゃった、持っちゃったってことじゃない。ハナから、集めてるクセにさ『捨てなさい』なんて、なんだそれ」
一息に、焼酎を飲み干す彼。わたしはお酌する、彼の膝の上で。撫でてくれる、優しい彼。その手の感触が心地良い
「今、レンの『宇宙戦艦』で思い出すみたいにさ。物を観て、思い出す事もある。とっておいたから、思い返すこともある。反省できる事だってあるじゃない、物を観てさ」
みんな、彼の話に聞き入る。ただし、飲食はやめない。そこら辺が、メンバーの人間くささ。そりゃそうか『人』だもん
「『こだわらないほうが楽』なんて、仏様じゃないんだ。俺達にはムリ。神様だって執着するじゃない。そりゃ『ゴミなんたら』みたいな、執着癖まで行ったらどうかとは思うけどさ。大体『捨てる側』って気楽かもだけど『捨てられる側』になったらどう思うよ。ちょっと考えてみようじゃない」
捨てられる側。少し想像してみる。何だかとても恐ろしい
「わ、それこわいよ、ぽ父さん。ユキ、すてられるのやだぁ」
「いやです。すてられたくないです、にいさま」
「ウチは捨てね~よ。ユキも、リューも。センセ~も~」
不安げなユキちゃん、リュウト君。挟まれて座っているリリ姉、二人の肩に手を回す。強く抱き寄せる
「Japanニハ、物にも魂が宿るトイウ考えがアッタデゴザルナ。拙者モ、愛用の万年筆は捨てられんデゴザルヨ。例え、壊れても、デゴザル」
「あ~、お人形の髪がのびのび~とか」
アル兄、顔つきが神妙になる。IA姉、怪談を思い出したのか、やや青ざめる
「あはは、IA、そ~じゃない。長く使った道具なんかには、魂が宿るってお話。鍋とか、タンスとかな。八百万の神、全てに神様がいるなんて発想もあるし」
「やおよろず。数がきわめておおいこと。かみさまたくさん、もりだくさん」
面白そうに訂正する彼、揚げ浸しを焼酎で流す。カル姉は『ちゅ~』と言って、目を閉じる。胸の前で両手を握って、何かに想いを馳せている
「わ~、そう思ったら、おそまつにできないね~」
「ヒトモ、ドウグモ、タイセチュデフ」
いろはちゃん、ただでさえ大きめの瞳がまん丸に。オリバー君は二度頷く。カワイイ反応
「な~んか説教クサクなっちゃったじゃない。ま、要するに大切にしようじゃないってお話。他人(ヒト)も、道具も、お食事も。俺達、メンバー同士も。聞いて下さる方々も。それが心になきゃ、このPROJECTの歌い手としては、ダメなんじゃない」
お酒の香りを纏う彼。でも、わたしはこの香り嫌いじゃない。彼が纏うなら尚更
「いいえ、神威さん、大変良いお話だったと感じます。皆さん、歌い手として、大切な心がけですよ」
「「「「たいせつにしま~す」」」」
天使様『歌い手魂』持っている
『怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒』
び、ビックリした。低空飛行していったと思われる、ヘリコプターのプロペラ音。ケタタマシイ音で、わたしの記憶読書は、強制的に打ち切られる。ああ、もう少し浸っていたかったのに。でも、家族のために、調理に専念いたしましょうか―
子供の頃の思い出
運んで来てくれた艦(船)
大切な思い出
語るのは『指定席』の上