此所はいつもの地ではないけれど
いつも通りの場所の上
午後四時過ぎ、ホテルに入る。フロントで鍵を受け取る。それぞれの部屋で、荷物を置く。天使様は、少しお疲れなので、部屋で休憩。わたし達は、居残りメンバーが集まっている部屋へ向かう
「あ、おかえりなさ~い」
「っす、ど~たったすか」
「と~っても楽しかったよ~、っゎゎ~」
「こっちも派手にやってたようじゃない」
めぐ姉、勇馬兄の声が部屋の中から。先頭で入ったIA姉、たまげた声。紫の彼からあがる、ややあきれが混じった声。わたしも、彼の脇からのぞき込む。と、ころがる、ペットボトル、スナック菓子の空き袋。昼食にしたと思わしき、ピザの空き箱。チョコレート菓子の食べ残しや、ビスケットの余り。そして
「そちらのコインは」
怪訝な顔で聞くキヨテル先生
「にゃはっ。皆でゲーセンによってさ。お菓子のクレーンゲームやったら、たまたま一発でくす玉が割れてよう」
愉快げに説明を始めるテト姉
「悪ノリして、もっかいやったんです。そしたら、また、くす玉割っちゃってっ。二度あることは、なんてコトワザがあるから、試してみようってしちゃったんです~」
ピコ君、公演後で、本当に悪ノリしちゃったんだろうな。悪ふざけモードって、滅多にない。と、思ったら
「うちが思いついちゃってねっ。そしたら、ホントに割れちゃって、くす玉。これ全部コインチョコなの~。すごいっしょ。これでも減ったんだよ~」
小箱一杯のコインチョコを示すピコ君、Mikiちゃん。Mikiちゃんの悪ノリだったのだ。百枚以上はあるだろう、コインチョコ
「ヘッタとは、いかなる由縁で、でゴザルカ、Miki殿」
「あ、重ね~さん提案のゲームでね~。まず『何枚』って宣言するの」
顔が引きつっている、アル兄
「1~10枚の間でっす。んで、その時一番多い数を採用っす。カードゲームをやって」
楽しげに説明を引き継ぐ、勇馬兄
「最下位の人が、そのチョコ枚数を一気食いです。オモシロイでしょ~」
笑顔のピコ君。何をしているのだろう。でも、この勝負の仕方。どこかで聞いた気もする
「太っちゃうし、からだに悪いよ~ぅ」
「はなぢ出そ、アタマの血管切れじゃね~の~」
IA姉のあきれ顔は珍しい。リリ姉、目に蔑みの色。テト姉は楽しそうに
「にゃはは~。激辛とか、アルコール系よりいいじゃん。それに、未成年組も参加できるしなっ」
「また、帰ったら沢山運動しないとね、重音さん」
「めぐ、ったく。重音、お前等、阿呆だろう。ん、テル、おい」
あきれ果てる、紫の彼。その横を、無言で通り過ぎるキヨテル先生。眼鏡を、頭に上げる。有無を言わせず、テト姉に近づく。と、右手で頭をワシヅカミにする。意外な行動に、全員固まる
「重音さん。そのゲームは、二度としてはいけませんよ~。特に、天使様の前ではぜ~ったいに、ですよ。お利口の重音さんなら、聞き分けていただけますよね~」
「ん、どした、先生たん。て、痛、イタタタタ、せせせ、先生」
「二度としませんよね~」
もがくテト姉。テト姉の戦闘力は、最強足る紫の彼に次ぐはずなのに。先生はこの時その上をいっていた。言語道断オーラも、めー姉の上を行く。万力で、クルミを潰すような音が聞こえた、気までした
「賭け事や、変なゲームはいけませんよ~。特に『未成年』の皆さんに影響するようなものは~」
「わわわ、わかった。わかりました~先生もうしません~。ぐにゃあああ、てんて~ごめんにゃさいいい」
頭から手を放すキヨテル先生。テト姉が崩れ落ちる。先生、わたし達に向き直り
「ね、皆さん」
細目のまま笑顔。というか、目は笑ってない。めー姉が、和を乱すワガママを許さないように。紫の彼、わたしとレンに過保護なように。先生は、天使様達へ。悪影響をもたらすものを許さない。沸騰点があることを知る
「こ、こええ」
「わわ、わかりました~」
「し、しないです~。二度と~」
勇馬兄がポツリと。めぐ姉、ピコ君は怯えながら
「センセ、マジカッケエ」
乙女モードに入るリリ姉
「か、重ね~さ~ん、生きてる~」
倒れ込むテト姉の心拍を確認するMikiちゃん
「ま、概ね、テルの意見に賛同~。心配すんなMiki、その程度でクタバル奴じゃない。さぁて、駅組が戻ってくるまでに、お片付けしようじゃない」
まだ帰還していない駅組が来る前に、片付けを促す紫の彼。食べ残しのお菓子はまとめておく。ゴミは袋へ。その最中に、駅組が帰ってくる
「色々見てきたわ~。共用のアクセサリーなんかも買っておいたっ。二次会用のお酒や飲み物も、買ってきたわよ~」
「装飾品、食材やお土産なんかは、宅急便で送ったよ、殿。曜日指定、や~、楽しかったぁ」
お土産を配送すれば、荷物が減る。それでも、来るときよりは増えるのだけど。ありがたいお話、大満足笑顔の姉と兄
「帰りの電車とか、二次会とかで食べようってさ~」
「美味しそうなお菓子も買いましたわ」
「簡単なおつまみと、プラコップも~」
ルカ姉、ミク姉に挟まれてやってくるレン。こちらも『いい顔』三人銘々袋を下げて
「おかえり、そっちも楽しかったみたいじゃない」
「みなさん、おかえりなさい。では、天使様もお呼びして、点呼をとりますか」
「センセ、ウチ呼んでくる」
リリ姉が、子供達を呼びに行く。と、燃え尽きているテト姉を発見する駅組
「ん、アネキ、ゆっくりしてたんじゃないの。なんで燃え尽きてるの、神威君」
「教育的指導があったじゃな~い」
「しど~って何があったの、あにさま」
畳に突っ伏しているテト姉。さっきの顛末を知らない駅組。キヨテル先生に目配せする彼。話しても良いかという視線。苦笑いの先生。語ってもいいですよ、という顔だ。教育的指導の内容を語る彼。爆笑する駅メンバー
「うっわ~、先生もつええ。かっこいい~」
「いえいえレンさん、お恥ずかしい」
「そりゃ~、アネキが悪いわ」
見直したようにレン。恐縮する先生。ひたすら可笑しそうにめー姉
「ちょっと可哀想だけどね。でもまぁ、悪ノリしすぎかな。そのゲームは推奨できないな~」
控えめにカイ兄、注意を促す
「あ、でもこのチョコおいしいよ、レンくん。ルカ姉も~」
「けれど、食べ過ぎはいけませんわ」
「ふきでものが出そうなげ~む、めっ」
可笑しそうなミク姉、チョコを勧(すす)める。額に手をあて、嘆息するルカ姉。カル姉もあきれる。まあ、あのゲームをするのは、良くはないよね。天使様が合流して、キヨテル先生が点呼を取る。メンバー全員、大きな声で返事、手を上げる。完全に修学旅行状態なのが楽しかった。食事までの間、一部屋に集まってくつろぐ。わたしは、あぐらをかく、彼の膝の上
「しっかしさ~。ほんっとリンの指定席だよな。おにぃの膝~。そ~いや、それ聞くの忘れてたぜ~」
「ん、どしたのリリ姉」
キヨテル先生の隣、ひっついて座るリリ姉がつぶやく。キヨテル先生の膝の上には、ユキちゃんが座っている
「いや、なんでそんなにオキニなのかなって。おにぃの膝」
「そ~いえばそうね。神威君が来た日から観てた。アタシ達もあまりに自然すぎて~」
「そんな風に考えなかったね、め~ちゃん」
「あの日、気がついたら乗ってたもんね~リンちゃん。レン君も乗ってたけど」
リリ姉の言葉に、姉と兄。ミク姉も参加してくる
「かるも気になる。りんりん、なんで」
「そっか~、昨日聞いちゃえば良かったね」
カル姉、めぐ姉も、興味深げに
「ん、昨日ってなに~。何かあったの」
「お前ら、リンに変なこと聞いたんじゃないだろうな~」
別の興味を示すカイ兄。可笑しげな声の彼。わたし、神威の姉達と、顔を見合わせ
「「あはっ」」
「へっへ~」
「うっふ~」
めぐ姉と声が重なる。それぞれ吹き出す、リリ姉、カル姉
「え、な、なに、なに。その反応。お兄ちゃん、気になっちゃうな~リン」
実際『何か』気になったのだろう。やや慌てた顔で、カイ兄が前のめる、も
「あっははいつまでも『お兄ちゃん』とか言ってんなよカイト。ヒクんだけど~」
「え~」
リリ姉に切り払われて、落ち込むカイ兄。こうべを垂れる
「女子トークだから秘密~。ぽ兄ちゃんにも~」
「りんりんとカル達だけのおはなし。みんなはめっ」
秘密の会話を、肯定してくれるめぐ姉。カル姉、人差し指で×を示す
「ぅんぅん。女子トークは秘密~。ぉとこの子は聞いちゃダぁメ~。でも、ゎたしも気になる~。リンちゃん、神威のに~さんのぉ膝って、どんな心地なの~」
IA姉、会話の内容には触れず、座り心地を訪ねてくる
「ネタにされ損じゃない、俺。ま、女子トークの内容は秘密だ基本。カイト、マナー違反じゃない、聞くのって。聞かない方がいい話しもあったりするじゃな~い。で、リン、どんな心地なのかな、俺の膝」
言われ、さらに落ち込むカイ兄。めー姉が慰める。紫様自身、気になったのか、聞いてくる
「んとね、がっくんの膝。乗るとね、悲しいときでも、ヤな事あったときでも。落ち着くの、とっても。安心する。護ってくれてる~、って気分になるんだ~」
背もたれよろしく、彼の胸に寄りかかる
「そうなのか。考えてみたら、聞くの、俺も初めてだったじゃない、リン。なんで乗ったか、聞いたことはあったけどさ」
「そ~だよ、がっくん。がっくんの膝、わたし、すっごく落ち着く」
彼を見上げる、優しく微笑み返してくれる
「そっか~、落ち着くのねぇ、お・ひ・ざ。うふふっ、落ち着きすぎたのね。神威君の膝の上で、眠っちゃったこともあったわね。小一時間動けなかったわぁ、神威君」
可笑しそうにめー姉。幼い日の失敗談、しっかり覚えられていた
「むぅ、それは言わないでよ~、めー姉。がっくんも一緒に寝てたって言ってるし~」
「ゎ~、ゎたし観たかったな~。ミクちゃん、写真撮ってないの~」
「うん、ごめんねIAさん。まだ、写真に目覚めて無くて~。あ~今思いだしたら、もったいない~」
写真に目覚めるというより、何か別のものに目覚めた気がするミク姉。IA姉とは『別の意味』で相当残念そうだった
「そ、問題ないじゃない。俺まで眠ってたんだから」
「はは、殿、もう時効だと思うから言っちゃう。リン、あの日ね、殿は眠ってなかった」
「えっ」
精神的に回復してきたカイ兄によって。あの日、告げられた真実。幼かったあの日の事実。彼は眠っていなかった。私が起きないよう、静かに読書を続けていたのだと。周りの家族にも、静かにするよう、促していたことを
「起こさなかったノハ、神威殿のオモイヤリでゴザルナ」
「ぅゎ~あ、お話し聞いただけで萌え萌え~。小っちゃいリンちゃん、ぉ膝の上でぉねむでしょ。神威のに~さんがそれ護ってるの~」
「わかる~IAね~さ~ん、うちも萌えちゃうっ。起こすなって、ホントに『護って』あげてる~ぅ」
腕組み、微笑みながら頷くアル兄。IA姉、Mikiちゃんは萌え上がる
「うぁ~、知らなかったぁ。ホントにごめんね、がっくん」
「気にしなくて良いじゃない、リン。あんな気持ちよさそうに寝てたら、起こすこと出来ない」
撫でてくれる、やさしい彼
「でも、なんだかわかる、リンちゃん。ゆきもおちつくの、ひやま先生のおひざのうえ」
「ほんと、ユキちゃん。わ、うれし~な。わたしと同じだね~」
天使様の理解を得られる。大変に光栄だ
「おうち(シェアハウス)にいるときね、おねがいして、のせてもらうんだ~」
そして、わたしと彼の同様の事をしているのも、なんだか嬉しい
「へえ~、テルさんもユキちゃん、乗せてるんだ」
ダメージは残っているが、興味が湧いたらしい、カイ兄
「ええ、せがまれまして。以前観た、神威さん、リンさんの光景に触発されたようです。まだ、こちらに入らして日も浅いですからね。心細さもあったのでしょう。そう考えたら『家長』としては断れません」
やや、恥ずかしそうな先生。でも、その想いを聞くと、心が温まる。ここで、テト姉が軽口を叩かなかったのは珍しい。きっと、さっき先生が放った必殺技が効いていたからだろう
「マジか、ユキ~。羨まし~。ちょい変わってくんね~」
「いいよ~リリちゃ~ん」
言って、軽やかに。キヨテル先生の膝を降りるユキちゃん
「え、リリィさ―」
カンバツ入れず、有無をも言わせずに。先生の膝の上に収まるリリ姉
「お~マジだ。ヤッベ、これ癖になりそ~。ウチもこのまま寝てい~い、セ・ン・セ」
キヨテル先生を見上げ、小悪魔スマイル。顔を近づける。すると、先生が眼鏡を外す。目が真剣に
「いけませんよ、リリィさん。無闇にこんなことを―」
「はいはい、メンサイ(ごめんなさい)でも、ウチがんなことするの、センセだけなんだから~」
膝からどきつつ、つまらなさそうにリリ姉。眼鏡をかけ直すキヨテル先生は頭の上に疑問符がふわふわ。でも、先生、越後では、リリ姉を膝枕してたよね。さっき同様、隣にひっつくリリ姉。どうやら先生なりの基準があるようだ
「あらあら、テル先生もスミにおけないわね~。カイト、あたしも良いかしら~」
「ど~ぞ、め~ちゃん」
カイ兄の、足の間に収まる姉。逆に、カイ兄の心を癒すことも考えての行為のよう。ユキちゃん、ふたたび、キヨテル先生の膝の上へ
「ピコく~ん。うちの膝に乗ってみな~い」
「わ~い、乗りま~す」
Mikiちゃんの膝の上。積極的に乗りにいくピコ君
「アルさん。あたしたちも~」
「オヒザ、ノッテミタイデフ」
「何のソレシキ。遠慮されるコトハ、ないでゴザル」
大きなアルさんの膝に乗る、いろはちゃんとオリバーくん。気に入ったらしく、大はしゃぎ。孫を見るかのような顔のアル兄
「ゎたしも乗せてみたかったんだ~。おいで~リュ~トく~ん」
「は~い」
寄って行ったリュウトくんを、膝に抱き上げるIA姉。笑顔で撫でてあげる
「レンくんも乗りませんか」
「あ、ずる~いルカ姉。レンくん、わたしも乗らない」
「どっ、どっちも乗らないしっ」
ルカミク、二人の姉に言われ、慌てて照れる片割れ
「ふっはは。なんだかミョ~な流れになったじゃない」
「お膝だっこ大会。みんなかあいい」
吹き出す彼と、和むカル姉。何か複雑そうな勇馬兄
「うん、グミ姉、ナイスアシスト。グミ姉の一言で、素晴らしい画がたくさん撮れた」
「「「「「「「「「「ミク、ま~たお前か」」」」」」」」」」
サムズアップ、ウィンクしながらミク姉。あきれる面々。膝だっこ大会をしていると、あっという間にご飯の時間。その日の晩ご飯は、天麩羅の盛り合わせ。半熟玉子の天麩羅や、珍しい、つくねの天麩羅も付いてったっけ。主菜は、のどぐろの煮付け。ゴマ豆腐や茶碗蒸し、お吸い物からなる御前。子供達には配慮して別メニュー。大きなハンバーグがメインディッシュ。昼間、飲み食いしていただろう居残り組も含め、全員完食
いつも通りの場所
黄色の少女が、最も落ち着く場所
紫の膝の上
世界の何処でも変わらない『場所』