黄色い少女の贈り物
渡す物、不意打ちの贈り物
賑やかな中、このタイミングだ、と、座る彼に
「がっくん」
「ん、どした」
「あのね、渡したい物があるの。ちょっと抜け出さない」
小声で打ち明ける。一瞬、呆けたような顔をした彼。次の瞬間、微笑んで
「偶然じゃない。俺もリンに渡すモンがある。抜け出しちゃおうじゃない」
「え、ホント」
耳元で打ち明けられる。二人して、コッソリ抜け出す。IA姉達が援護してくれたからだろう。気付かれることなく、すんなりと抜け出せたもの。彼は、一度自分の部屋に寄る
「さ~て、貸し切り状態だから何処でも良いけど、何処行くか」
「ちょっとだけ、部屋から離れたところがいいなぁ」
思案する彼に告げてみる
「そっか、ならあの場所がイイかな」
「じゃあ、がっくんが思った場所に行こ~う」
「そうしようじゃな~い」
わたし、彼の腕を取る
「でもびっくりじゃない。いきなり俺に渡すモノって」
歩きながら会話。今は彼と『二人だけ』状況を知っている、めぐ姉とIA姉。でも、どんな会話が交わされているか、彼と過ごす時間の内容ついては知り得ない。二人っきり状態
「うふふ、ちょっとね~」
その状況に、ご機嫌わたし。つれられ行った先は、ロビーラウンジ
「ココ、良いんじゃない、今の時間は人も居ない。ま、貸し切り状態も相まって、じゃない」
さすがに人の気が無い。改めて向かい合う。込み上げてくる『正体不明』の照れくささ。さて、どう切り出すか、考えていると
「はい、これリンに。似合うんじゃないって」
手渡される包み。促され、開けてみる。出てきたのは、椿の花。紅白の椿が施されたリボン。あの日は、椿の花だと知らなくて。綺麗な花が施される、可愛い髪飾りと思った
「がっくん、この髪飾り」
「ああ、簪(かんざし)の店見つけてさ。その中で見つけた、リボン。これなら、今のリンに合うんじゃないかって。紅白の椿の花。さっきみんなも言ってたけどさ、俺も思う。少しずつ大人びてきてるじゃない。今日付けてた可愛い系も似合うけどさ。今ならこういう、大人っぽいのもいいんじゃないって」
『大人びてきている』『今のリン』『今なら似合う』心のどこか、反応する。それはきっと、紫の彼と『対等な立場』が近づいたと感じたから。その理由、やっぱりわたしは気付かない。なぜ、彼と『対等』を、無意識のなか望んだのか。機嫌が良くなり、照れくささも吹き飛んで
「ありがと~がっくん。わたしもね、お返しのプレゼント。いつも、優しくしてくれてありがとう。さっきも、お菓子ありがとう。だから感謝のプレゼント~」
手渡した包み。促して、開けて貰う。出てきたループタイに、驚きの顔と、喜ぶ声
「おいおい、高かっただろコレ~。無理するなよ。ありがとう、リン。趣味もいいじゃない。大切にする。ありがとう」
彼に気に入ってもらえたのが嬉しくて。撫でてくれるのも嬉しくて
「ありがとうがっくん。これ、今年の誕生日プレゼントでしょ。わぁ綺麗~」
彼はまた、一瞬呆けた顔をして。その後少し、微笑んで
「いや、誕生日のは、家にもう買ってあるんだけどさ。なんか贈りたくなって、リンに。それ、付けたリン、イイんじゃないって。この贈り物は、リンだけ。レンにはナイショ。ま、剣道用具一式とアイコで良いじゃない」
照れたような彼の顔。初めて見せる表情
「がっ、くん」
鼓動が少し、跳ねた覚えがある。その跳ね方は初めての感覚だった。しばらく見つめあう。無言。何とも言えない空気が流れる
「さ、戻ろうか。心配されても困るじゃない。お互いナイショの贈り物、見つかんないように」
「あ、う、うん。そ~だねっ」
その気まずさを振り払うかのように言った彼。というか、わたしだけが、勝手に空気感を感じただけかもしれない。くれた簪、バレないように、袂にしまう。あげたループタイ、懐に隠す
「がっくん―」
「ん、ああ、繋ごうじゃない」
手を差し出すと、繋いでくれる。わたし『違う感じの空気』などと思ったのに、どういう神経なのか。まぁ、やっぱり彼の側に居たい。それが本音。大きな彼の手、優しく包んでくれる。無言で歩く。いつもとすこし違う空気。無言がわたしの不安を呼び、心なしか彼にすがりつく。自然に、撫でてくれる彼。嬉しくなって、ますますすがりつく
「ど~した、リン、疲れたかな。甘えんぼさんじゃない」
そのわたしに、悪戯っ子モードで聞いてくる彼。声が聴けたのが嬉しくて
「んぅ~、なんか―、なんかこうしてたい」
はい『何故か』そうしたかったのです。にやけながらだったろう応えるわたし。腕を組んで、頭を彼の方にもたげる
「そっか。あったな、めぐにもそんな時が。やたらと甘えんぼになった時が。あんな感じかな」
益々もって、撫で回される。蕩けるわたしの心。そんなことをしながら歩く。誰も観ていないのを良いことに。と、部屋への通路の前、袋を手に佇む人物
「ぽ兄ちゃん、リンちゃん。お帰んなさい。あ、ぅふふIAちゃん」
「ゎたせた~リンちゃ~ん。ぉ何だか、ょ~さげなフンイキだね、ぐみちゃ~ん」
めぐ姉、IA姉『作戦』を実行。どうやらわたし達のため、暗躍してくれていたようだ。ただ掛けられた声で、彼から離れてしまう
「ありがとう、めぐ姉。渡せたよ、IA姉」
「ん、めぐ、IA。お前達、一枚かんでたのか」
不思議そうな顔の彼
「かんでたって程じゃないよ~。ちょこっと応援ってとこかな。でも、良い雰囲気ってことは~」
「今、に~さんとリンちゃん、ゎたし達と飲み物追加してるって事に~。上手くいったのかな~」
袋の中身は缶ジュース。自販機で購入した物
「めぐ姉も、ありがとう。ちゃんと渡せたよ~」
「言えたかな、気持ち」
「うん、言えた。ちゃんと『お礼』言えたよ~」
一瞬、目を丸くする。その後、困ったような笑みを浮かべ
「そっか。違ったのかぁ。脈ありだと思ったのにね、IAちゃん」
「ぅ~フカヨミだったのかなぁ~グミちゃ~ん」
残念がる二人。何の事だか気付かない『二人とも』紫の彼、めぐ姉から、飲み物を取る。持ってあげる
「何だかわかんないけど、気遣いありがとな、めぐ。いつの間にか、リンと仲良く成りすぎじゃない。もう、完全に姉妹だな」
「えへへ~、嫉妬~、ぽ兄ちゃ~ん」
「んなわけないじゃない」
イタズラっぽく返すめぐ姉を、撫でる彼『嫉妬してくれた方が~』小声でIA姉の声
「ふふふ、二人だから教えてあげる。がっくんに貰ったの」
袂から、リボンを出して見せる。驚きのめぐ姉、またイタズラっぽく微笑んで
「ぽ兄ちゃん、誕生日のは買ってあったよね。双子ちゃんの分。リンちゃんだけに、どしてかなぁ」
「すると、この贈り物の真意ゎ何ですか~神威のに~さ~ん」
IA姉までも悪戯っ子モード。おそらく、だけど。あの日、彼から『何か』を引き出したかったのかもしれない。が
「なんだ。別に、贈ったていいじゃない。似合うと思ったから。レンには、竹刀贈ったから、おアイコじゃない」
そう言い放った彼。めぐ姉IA姉、さらに困った顔をして
「う~ん」
「ぅぅ~」
そう言ったきり、黙ってしまう。その顔は、切なさまで浮かんでいた。あの後、贈り物をしまってから二次会部屋へと戻る。会場に戻って、彼の膝。乗るわたしに集まる、生温かな視線。それが、何故だかイヤだったっけ。鍋が噴きこぼれる。おっと、いけないイケナイ、浸りすぎた。じゃがいも用のお湯だったのがまだ幸い。何かの『煮汁』だったら、コンロが焦げ付いてしまうから。火を止める。一度、軽く下ゆでしてから、食べる前に蒸かすと、芯がなくて美味しいじゃがバターが出来上がる。このバターには、食塩も含まれてるから、塩を振るかはお好みだと、彼に教えて貰った。マヨネーズ派もいることだし。そうだ、彼が好きなトッピング、粗挽き胡椒も用意しておこう。胡椒、ミルに足しておかなくっちゃ―
渡された物、大切な物
紫の贈り物
その真意には気付かない