乗りたいの、その場所に
お仕事が入った
そんなに小さくありません
又お人形屋さんのCMが流れてる。ああ、でも、メーカーが違う。それに、今度は五月人形だ。五月人形か。ああ、また思い出してきちゃった。私が14歳、五月人形を飾り終えた後の神威の家で。ゴールデンウイークまで一週間というあの日。飾り付けを終えて、みんなでお茶をしていた時だったな。もう、今日はしょうがないでしょう。はい、また伺いました、記憶の書庫さん。入らせていただきますよ。ちょっとごめんあそばせ―
「はい、はい。ん、わかりました、話し合っときます。ええ、全員揃ってますから」
メモを取り終わり、スマホを切るカイ兄。話しぶりでは、どうやらプロデューサーからのようだ
「ど~したの、カイト。プロさん達からでしょ~」
「うん、めーちゃん。殿組のプロさん『お前等仲良すぎ』だってさ。ちょ~どいいから、聞いて~みんな。お仕事依頼だよ~。古都以来の、フルメンバーで~」
彼お手製の柏餅、兄謹製のきな粉ちまきをつまむメンバー。仕事と聞いて、テンションが上がる。個々の仕事も増えて『メンバー勢揃いでお仕事』というのは、中々に難しくなっていたから、尚更嬉しい。そのフルメンバー、今日は、みんな午後のオフが重なった。五月人形飾っちゃおうと、神威の家に集合した
「仲良すぎ上等~。仲良くなきゃ勤まらないじゃない、俺達は。全員集合の仕事って半年ぶりじゃない、カイト。で、主からの内容は」
わたしの横に座る彼、お茶を啜りながら聞く。京の都から約半年、結局彼の膝には座れずにいる。と言って、彼の側から離れようとはしないのだけど
「あのね、柏餅やちまきのアピール。歌よりはそっちのが強いみたい。有名な歌い手さんに、商店街を盛り上げてほしいってさ。少し、売り上げが落ちてるみたいでね、無理を覚悟で依頼してきたらしいよ。予算が少ないから、講演料がって」
「あら、カイト兄様。それは、ワタシ達にうってつけのお仕事ですわ」
立ち上がって説明する兄に、嬉しそうに応えるルカ姉
「そうですよ~。誰かを癒やせたら、重荷を外せたらっていうPROJECTなんですから。無料でも良いくらいです~」
「拙者らの歌で、商店街ガ活気付けば、何よりでゴザルナ」
両手を、胸の前で組むピコ君。アホ毛が今日も♪マーク。勢いよく、力こぶを見せるアル兄
「だめだよピコきゅん、うちら一応プロの歌い手なんだから~。報酬は頂かないと」
ウィンクMikiちゃん
「お、Mikiって、そんなにガメツかったんか~」
イタズラっ子モードでリリ姉が返すと、Mikiちゃんは微笑んで
「ううん、リリね~さん、講演料は要らなくてもさ『ナニカ』で報酬。例えば一年間、月一で、豚まん送ってもらうとか」
「それ、いいかもね~。食費が浮くよ。まあ、冗談はさておいてっと」
可笑しそうに笑うカイ兄、仕事内容を告げようとする
「アピールは良いけどさぁ。歌わないの、カイ兄」
「「「「おうた、うたいた~い」」」」
今度はやや、不満げなレンが聞く。歌い手としての自尊心なのだろう。天使様は朗らかだ
「もちろん、歌うよ~。オレら歌い手なんだから。歌うなって言うなら、声かからないよ。その中でね、今から言うメンバーは特に重要なんだ」
メモ用紙を片手に、立ったままカイ兄。重要事項を伝えるのと、裏腹な微笑み
「これから呼ぶ人は、お稚児さんの衣装で行列して貰うからね~」
「呼ばれた方は、その場に立ってお返事しましょう」
カイ兄の言葉に、キヨテル先生が提案。お稚児さんと言うくらいだ。天使様で間違いないのだろう
「まず、リュウトく~ん」
「はいっ」
右手を元気に挙げて立ち上がる。予想通りの名前が呼ばれる
「次にユキちゃ~ん」
「は~い」
同じくユキちゃん。リュウト君の横、ゆっくり立ち上がる
「いろはちゃ~ん」
「は~い、やった~」
両手を挙げて、跳ね上がる
「オリバーく~ん」
「ハァイ」
いろはちゃんの隣、左手を挙げ、立ち上がる
「え~、それからね~」
まだいるのか、と疑問に思った。もう、自分たちは子供じゃ無い。わたしも、きっと片割れも、勝手に思っていた時分だったから。少なくともわたしは、もう『子供いないじゃないか』と思ってた
「え~、リンとレン~」
「えぇっ」「はぁっ」
身を乗り出す。片割れと、声が重なる。不満な声が
「最後に、IAちゃ~ん」
「は~い。やった~嬉し~な~」
IA姉、パーカーの余る袖、回しながら手を上げる。微笑みながら立ち上がる。小柄でかわいらしいIA姉。似合うだろうと選ばれた。後にプロデューサーから聞かされた。これだけ対応に差があるのも『大人と子供』の顕著な差だ。今だったら分かる
「ちょっと待ってよ、カイ兄。わたし達もお稚児さんするの~」
「おれら、もうそんなガキじゃね~し」
「いや、オレに言われてもさ。依頼主さんからの要望だし。それに、今のって、IAちゃんにも、天使様にも失礼だよね」
「「あ」」
わたし達を窘める(たしなめる)カイ兄。言われてみれば、全てが失礼な物言いだった。IA姉にも、天使様にも、依頼主さんにも
「ご、ごめんIA姉」
「おれ、そんなつもりで言ったんじゃ」
「ぅふふ~。な~んとも思ってないよ~ぅ」
「「みんなもごめん」」
わたしもレンも、慌てて頭を下げる。IA姉は、ほわほわしたその穏やかさで意に介さない。天使様は、何の事だかわからない
「ま、多感な時期だ。しょうがないじゃない」
「あ、それからね、殿にもお願いしたいって」
多少の理解を示してくれる紫様、も選ばれる。メンバー全員、意外そうな顔で彼を見る。彼自身、呆けた顔。彼の稚児衣装。想像するだけでかわいらしい、が
「ん、俺も稚児すんの。いいけど、さすがに変じゃない」
「ああ、殿にはね、あのカッコで先導して欲しいって。ユニフォームの侍姿。端午の節句だからさ。簡単にでも、出陣行列みたいなこと、したいんだって」
稚児を先導する、侍。なるほど納得がいく。同時に、彼と仕事が出来ると思い、単純なわたしは楽しくなる
「はっははぁ、分かった。粋なこと考えるじゃない、依頼主様。それ、やろう。商店街のために。で、場所は何処、カイト」
「うん、中華街とか港が有名なあの町『ゼロヨン』ってレースもしてるらしいよ」
彼との出陣行列を想像して、気持ちが高揚していくわたし。完全に子供だ。さっきの文句を言う資格などない。ただし、言葉には出さない。また、変な視線を受けても堪らないから
「じゃ~、そこまでは、又みんなで新幹線かな~」
「ううん、ミク。商店街の最寄り駅までは行けないんだ、新幹線だと。首都圏、オレ達が歩くと、今は迷惑かけちゃうからね」
そう。ありがたいことに、わたしたち。一団で出歩くと、それなりの注目を受ける。京の都は、周りの観光資源に目が行っていたおかげや、分散行動で助かったけれど。やはり移動は混雑を避けるため、チャーターしてもらったバスや、ジャンボタクシーだった。混雑させてしまっては、申し訳無い
「プロデューサーの話しでは、駐車場が近くにあるらしいから」
「なるほど。俺達で、車移動ってわけだなカイト。土産積めるし、むしろ良いじゃない。なら、今のうちに車割りしちゃおう」
「そうですね。いつも、当日に談義してしまうのも不毛です」
この時も、テト姉は運転手を外してもらえた
「じゃ~、いつも通り、一号車は俺が運転しようじゃない。一緒に乗るヤツ~」
「なら、ゎたし、神威のに~さん号で~。リンちゃ~ん、一緒に乗ろ~よ~ぅ」
IA姉にさそわれる。そう、いつもなら、いの一番にそう宣言しただろう。でもあの日は違った
「う~ん、どうしよっかなぁ。又、変な視線貰うのもやぁ(嫌)だしな~」
その眼差しが気になって、どうしようか示唆をする。もちろん、心の底では乗りたいのだ。彼の車に。そしてもう一つ『乗りたい』ものがあった
「リンちゃ―」
「リ~ン。悪かったと思ってるわ。だけどね―」
悲しげな声をあげる、めぐ姉。それを遮り、ため息交じり、告げるめー姉
「拗ねるのはやめて。アタシはね、別に神威君とリンが仲良くするの、ダメなんていってないでしょう」
「そ、そうだよリンちゃ~ん。わたしもね、羨ましいと思ってるくらいだよ。ぽ兄ちゃんと仲が良くって」
めぐ姉も、我が意を得たと加勢、身を乗り出す
「だよな~。おにぃに、存分に甘えりゃあ良いじゃん、リン」
リリ姉、大福を頬張り苦笑いをうかべながら
「リンちゃん、ユキもね。お家(シェアハウス)にいる時は、ひやま先生と、いっつも一緒にいるんだよ」
「マヂかっユキたん。いっつも一緒って」
きっと、変なことを想像しただろうテト姉。鼻息が上がる、が
「うん、テトちゃん。ねむるときとか、おふろとかいがいはね。お家のリビングにいるときは、いっつもいっしょ~」
「かむさんとリンさんの次によく見る光景ですよね~」
「特に、シェアハウス組のうちらはね~。先生と仲良しユキちゃん」
当然のことを告げるユキちゃん、嬉しそう。今日はピコ君を膝に乗せるMikiちゃん、楽しそう。面白くなさそうなテト姉
「ユキほんとはね、リリちゃんもいっしょがいいな。先生とリリちゃんが『ユキの』おにいちゃん、おねえちゃんなの。ぽ父さんがお父さんで、カイトさんは『お母さん』メイコちゃんが、一番上のおねえちゃん。ユキ、ひやま先生とリリちゃんだぁ~ぃ好き」
ユキちゃんの言葉に涙ぐむ、キヨテル先生とリリ姉。メンバーも心が温まる
「オレお母さんなんだっ、はっはは~」
嬉しそうに笑う、カイトお母さん
「良いわね~それ。VOCALOIDPROJECTで家族。ボカロファミリーって感じねぇ」
めー姉も上機嫌。みんなが同じ思いであったろう。その場のメンバー
、微笑みが連鎖する。と
「へへへへへ。ユキたん、それはもしや、先生たんとのきんだ―」
古都での出来事を、忘れたのか。懲りないテト姉、軽口を言い始める。さすがに、この軽口は心無い。多分、誰しも思った。すると
「重音さ~ん」
眼鏡を外す先生の、氷点下の声。目が、相当に鋭い。さすが『氷山』先生。周囲全員凍り付く
「―っ」
声を出さずに、満点の姿勢で土下座をするテト姉。ただ、耳を澄ますと、あばばば、テスト、あれ、などと言って錯乱。恐怖におののいている
「どうしたの、テトちゃん」
「何でもね~よユキ。気にすんな」
先生の膝の上、小首をかしげるユキちゃん。リリ姉が撫でまわして誤魔化す。眼鏡をかけ直し
「では、二号車は私が運転させていただきます」
「センセとウチ、天使様達(みんな)できっまり~」
「「「「きっまり~」」」」
天使様が駆け寄り、たちまち、先生、リリ姉の周りに花が咲く。エンジェルフラワー、百花繚乱
「じゃあ、がっくんの車に乗って良い」
「悪いわけナイじゃない」
言って、撫でてくれる。やっぱり、この手は温かい。ささくれ立った気持ちが、温和になってゆく。頑(かたくな)に張った意地の氷塊、溶けて消えていく。だったらついでに重要事項、これも聞いてしまった方がいい
「ん~と、ついでにね。膝に乗ってもいい」
「いいんじゃな~い」
「うふ、じゃあ失礼しま~す」
さっきまでの事など、無かったように乗りに行く。久々の膝に乗せてもらえるのが本当にうれしい。収まって思う。やっぱりここは、わたしだけの特等席だと
「はは、リン。何だか、オレ達もしっくりくるよ、その方が」
「何時も見ていたユエ、何かが抜け落ちたような感じでゴザッタ」
カイ兄を始め、メンバーまでもが『ほっ』とする。そんな表情だった
「やっぱりこ~でなくちゃ、神威のに~さんとリンちゃんは~」
「だよね~、IAちゃん。わたしも安心しちゃったぁ」
「何か自分もスッキリしたっす」
「リンに振り回されるカンジで、シャクだけどな~」
心から微笑んでくれる、IA姉。胸の前で、袖ぱたぱた。心底安堵の顔、めぐ姉と勇馬兄。言葉通りの顔をするのは片割れ。そして
「じゃ、おれもがく兄の車に乗る」
意外な申し出を口にする
「こんな風に、みんなが振り回される二人がさ~。いつもどんな風~にしてるか気になるじゃん。オレも乗らせてがく兄。そういや、長距離移動の車の時、がく兄と一緒のこと、あんまなかったし。IA姉も良いっしょ~」
「どんな風にっても、いつも通りじゃない、レン。ま、いいよ。断る理由、ないじゃない」
「うっふふ~、レンくんも一緒だね~」
完全に、弟を見る眼差しの彼、IA姉。もしかしたら弟は、少しでもわたしを困らせようとしたのかも知れない。振り回した張本人を。その目論見(もくろみ)は、残念ながら失敗する
「あ、じゃ~わたしも一緒に乗って良い~がくさ~ん」
「ワタシも同乗させていただきたいですわ、神威さん」
「問題ないじゃな~い。はい、一号車ケッテ~イ。可愛い子に囲まれちゃったじゃない。またハーレム車内、超俺得」
『可愛い子』の中に、弟も含まれている辺り彼らしい。が、決定を宣言する彼の声に
「えっが、がく兄」
慌てる弟。そう、最近二人の姉は、レンのペースをかき回す事が多い。弟は、きっとわたし以上に気を遣っていたのだろう。二人と接することに
「どした、レン。いいじゃない、仲良しおねぇ二人と一緒で」
レンの中の事情がどんなものか、今でも正確には分からない。ただ、困っている事には気付く。双子ナメルナ。紫様は気付かない。わたし、困らせようとした片割れに、助け船は出さない
「レンくん、嫌ですか。悲しいですわ、近頃、避けられている気がしますもの。少し前は、良く一緒にお休みしましたのに~。好きでしたわ、レンくんのだきまく―」
「わあ゛~、あ゛あああああ~」
ルカ姉の言葉を、必死に遮る片割れ
「ほ~んと、ルカ姉。なんだか寂しいな~。ついこの間まで、お風呂で洗いっ―」
「うぎゃ~あ゙~あ゙~―」
さらに大声を張り上げる弟。メンバー全員爆笑。墓穴を掘ってしまったようだった
「はははははっ、こっちはコッチで複雑そうだね。どう着地するんだろう」
苦笑いのカイ兄の言葉。どうやら、みんな同感なようで
「でもこっち、着地点あるんすか、カイサン。テレマーク入んねぇ」
「いっそ、着地点ぶっ壊した方が上手くいくんじゃね~の」
薄笑い、多少茶化す表情、勇馬兄。リリ姉は、滅茶苦茶に愉快そうな声
「あっはは、かもね。さて、3号車はオレ。誰乗り合わせ~」
「アタシは鉄板よね~カ・イ・ト」
「「「「新婚さ~ん」」」」
仲睦まじい、カイ兄、めー姉。はしゃぎ出す天使様
「あっはっ。新婚じゃないってば、みんな」
確かに新婚ではない。訂正するミク姉。まぁ、新婚と言って差し支えないと思うけど。楽しく、車割りが決まったその日の晩。帰ってきたプロデューサー三人と、簡単な打ち合わせ。珍しく食事を共にしながら話しを聞く
「まずね~、前日にね~。商店街に入って貰って、見学~。主催者様と打ち合わせ。衣装合わせも、その時にするよ~」
「んで、中央駅に移動してゲリラCMな。公(おおやけ)の許可は取ってあるぜ~ぇ、ハデ目にカマシテ来いよ。っはははははぁ」
「稚児行列してぇ、商店街でライブ~。お菓子やちまきの直販は、歌い手さんの握手付きでってぇ」
仕事が取れたことへの祝杯。お酒でご機嫌のプロデューサー三人。前日商店街を見学するのは、魅力を知るためだ。店々の良い点を、人々の魅力を、肌で感じなければ言葉になるはずがない
「お店に来て貰えなければ、意味ないものねぇ。重役だわ~」
「少しはアピールになれば良いね。オレ達メンバーでさ」
「客寄せの大役、しっかり勤めようじゃない」
座卓の上、料理を運ぶ、めー姉、カイ兄。あの日は、神威家に入り浸り。紫の彼を筆頭に、歌い手達の手によって、運ばれてくる料理様。賑やかになる円卓。を、観たプロデューサー
「ってゆうか、これみんな、カイちゃんとがくちゃん作ったの~。プロ級ね、うっわ~ゼ~タク~」
「おめえら、派手な食生活送りやがって。天狗になってねえだろうな」
驚きと喜びが混じる女プロさん。怪訝さと怒気を含む声の神威プロ
「「「「「「「「「「え」」」」」」」」」」
「「「え」」」
その贅沢という言葉に、驚くメンバー。同様に驚く、プロ三人。ただし、驚きの種類が違う。当然であった
「贅沢ったって、主らよ。俺たちが、普段食べてるものじゃない。材料費なんか殆どかかってない」
もちろん、季節で手に入る物、入らない物はあるけれど。常日頃食卓にあがり、食べているものだから
「だって、タケノコご飯だよ、高級品だよ」
の、女プロさんの声に
「いや、今朝、裏庭で採った物なんだけど」
応えるはめー姉。そう、季節になれば、全員総出で、タケノコを掘る。竹林があるこの丘で。そのタケノコを、近所の(と言っても一㎞先)農家様の物品と物々交換出来るほど実ってくれる。柔らかくて美味しいと、評判のタケノコが
「こ~いう自然の恵みで生きて行けるように、この土地を選んでくれたんじゃないんですか」
カイ兄の問い返しに
「う、ん。ま~あねぇ」
目が浮いている、わたし達のプロデューサー
「お~い先輩(ぱいせん)適当に人目につかねぇ、僻地選んだつってたじゃねぇか、あ~ん」
「ああ、それ言わないでよ~」
適当だったらしい。まあ、結果オーライだから良かったけれど。でももし、ここが痩せた土地だったら、わたし達の食糧事情は苦しい事になっていたかもしれない
「え~何それ~。テキトウなのかよ~、ひっでぇ。おれら、自分で野菜だって育ててるのに」
「後で入った身分っすけど、僻地扱いはひでえっす。痩せた土地だったら、飢えてたかも」
不満が溢れる、片割れと勇馬兄
「ホント良かった~。お野菜が育ってくれる土地で~。がくさんとがんばったカイがあるよねぇ」
ミク姉は安堵の言葉。紫様と姉の提案で、始められた家庭菜園。野菜が美味しく育つ土地で良かった。実はいま、椎茸も育てている
「今日、ごはんに使ってるお野菜、家庭菜園で作ったものですよ~」「農家さんと物々交換したものも入ってま~す。ぉ味噌もみん~なで作りましたぁ」
「神威さんとミクさんの指導で、育てているんです。メンバー全員で協力していますよ」
めぐ姉、IA姉、キヨテル先生の言葉に驚くプロデューサー三人
「え~、味噌造ってるの~」
「マジか。こんだけの野菜、作ってんのかよ。ならこの、ツマミに最高なイワナは」
『味噌造り』に驚く初代プロ、神威プロの問いに
「アルさんがさっき釣ってきた物で~す」
「お魚釣り、上手ですなんです~ぅ」
返すMikiちゃん。ピコ君も上機嫌で言う
「近くの川は水質が良い故、美味い川魚が釣れるでゴザル」
「カル達のお家、お味噌発酵に最適テキ」
プロデューサー曰くの僻地、わたし達には『最両宝の山』以外の何でもない
「本日の晩ご飯は、裏庭で採れたタケノコご飯。茶碗蒸し、お煮染めにも入ってますよ。使った卵やちくわは、そのタケノコで物々交換して頂いた品です」
銘々の前に、各々協力しておかずを並べながら、会話は続く
「汁物は家庭菜園で採れた、野菜たっぷりの味噌汁。俺とミク、だけじゃあない、みんなで耕した畑の収穫物。うれしいじゃない。油揚げや豆腐も、交換で頂いちゃった品物。竹の子寿司は、Mikiが握ってくれたじゃない」
カイ兄、紫の彼が説明をしてくれる。調理担当、三つ星シェフのお二方
「メインディッシュは、イワナの塩焼き。ツクシと三つ葉のおひたしは、家の前で収穫したの。自然に育ってくれるから。タケノコご飯、おみおつけはカイ兄。お煮染めと茶碗蒸しはがっくん。イワナの塩焼きとおひたしはわたしが作った~」
その二人の『専属アシスタント』と勝手に思っているわたし、得意になって説明に加わる。このイワナは良く洗って、塩で焼くだけ。魚はまだ捌けないが、丸焼きはワタもほろ苦くて美味しい。問題なし
「え、リンちゃんも料理したの」
女プロさんの驚きの声。そんなに驚かれると、ちょっと傷つくの。以外なのかもしれないけれど
「女プロさま、りんりんお料理上手。驚く、めっ」
「おにぃの直伝だぜ、食べて旨さに驚けよ~」
抗議をしてくれる、カル姉、リリ姉。神威の姉がしてくれる『妹扱い』わたし、それが凄く好き
「お米はさすがに栽培出来ないから、殿の故郷、越後のお米。これだけは贅沢品かな」
土鍋二つ、勢いよく湯気が立ち上る、タケノコご飯。放たれる、美味しい香り。飲まない組の分を盛りながらカイ兄
「いや、カイト。この米、オヤジの古い知り合いが、格安で流してくれるヤツ。米粒の大きさ揃ってないから、市場に出せないんだと。味や品質は問題ないじゃない、もったいない」
変な贅沢をするより、よっぽど美味しくて『楽しい』ごはん。わたし達は本当に恵まれている
「わり~わりィ。天狗になってるとか思ってよ。おめ~ら、自給自足のサバイバー。もしくは、料理人でも食ってけるわ。寿司まで握れんのかMiki」
神威組のプロデューサーはそんなことを言う。ただし、表情は嬉しそうなモノ
「ダメだよ~。みんなもう、れっきとした歌い手なんだから~」
わたし達のプロデューサーの言葉。わたし達が、世間様に認められた事を、最も喜ぶ三人。わたし達には、普段通りの、質素倹約ご飯。でも、大自然の恵みに満ちあふれた『贅沢な食卓』だという、三人の言葉は肯定。あの日の晩餐もまた、格別の空気があった
そんなに小さくなくっても
でもまだまだ、そんな歳
だって、まだまだ甘えんぼ
だって、まだまだ指定席