貴方の声だから
よく眠れるの
貴男の言葉だから
圧倒的幸福感に、身体が萌え上がっている
「大げさじゃない。多分、カイトやメイコも同じ事思ってるんじゃないかな」
お酒のグラスを取る音が聞こえる
「そうだとしても~、そんな風に言ってくれるの、がっくんだけっ。めぐ姉達にも言ってたの『必死』に護る~なんて『大事なキミ』な・ん・てっ」
「いや、言ったことないはず。護るって言ったことはあったはずだけど。やっぱり歳とって変わったんじゃない。子供の頃、めぐ達護るってのは、相手を『ぶっ潰す』『決死』で護る的な考えだった。未熟だよな」
ようやく、顔を上げるわたし。きっぱりと言い、お酒を含む彼
「でも、今は違う。護るってさ『必死』にあがくって感じなワケ。どこかで聞いたじゃない『決死と必死は違う』って」
「ケッシとヒッシ、どういう事、がっくん」
頭悪し。今にして思う、せめて、必死くらいすぐ、漢字を思え
「『決死』ってさ、何を足掻いても、最後は逝っちゃう、あの世に。でも『必死』はそうじゃない。言うじゃない『必死に生きる』とかって。昔の俺は『決死』だった」
見やる彼、眉を下げ『馬鹿者』という表情。その気持ちを読み取れるのに『真意』を読み取ることができない
「昔の俺は『クタバッテモ護る』だった。でも『クタバッタ』らその先、護ることはできない。今はそう思う。たったその一瞬、護るんじゃない。長い間護りたいって。だからこそ、じゃない『必死に護ろう』って考えになったの。必死だったら、ずっと護ってあげられる。護る必要が無くなる時まで、自分で歩ける時まで。それに加えて『護る』って『削っても』って感じになったじゃない」
「ケズル~」
なにを削るというのだろう、体育座り状態のままやり取り。頬の熱はまだ下がらない
「自分の時間、自分のごはん、自分の命。削ってでも護る。全部を『無く』したら、自分が無くなっちゃう。だから『削る』削った分、あげられる。あげただけ、また少し護ってあげられる」
微笑みが、言葉が、その声が、優しい。優しさを、今、すべてわたしに振り向けてくれている。わたし、彼の優しさに溺れてしまう
「足りないもの、大人組から、俺から、削っていって、リン。必要なもの、持って行って。削られたところは『必死』こいて元に戻せばイイじゃない。もう少しの間、大人に頼って」
完璧な微笑みを浮かべながらながら
「もう少し護らせて、キミを」
完全にノックアウト。その顔で、その微笑みで、言われて心トロトロ。再び、顔を膝に付け、隠す。それ程の有頂天で、何故気付かなかったのか。まあ、気付かなくて良かったんだけど。しばし幸福感のぬるま湯に、足の先から頭のてっぺんまで浸かる。幸せのお湯で満たされた浴槽、這い出して、顔を僅かに上げてみる。丁度、お酒を一口含んだ彼。微笑み返してくれる。頬が熱くなって、また顔を下げる。正体不明幸福感、波のように、寄せては返す
「~、~」
束の間、足の親指同士を擦り合わせ、宙に浮く心を僅かに静めにかかる。それでも、浮きにウキウキだったんだろう。想いに気付かないまま、バカみたいに歯の浮く台詞を吐いた。小声で言った、聞こえるだろうから
「護ってね、がっくんっ、わたしが一人で歩ける日まで。お願いだよ、わたしの王子様」
顔を少し上げて見る。意外そうな顔。良かった、二人だけの時で。メンバーの前だったら、どんな視線を浴びたことやら、この一連のやり取り
「王子様、俺が。っはは、リン、王子なんてカンジじゃ~ない、俺は」
をした後、大層可笑しそうに笑う。その笑い声が、わたしを正体不明の浮遊感から解放。正常に戻してくれる
「王子様だよ、がっくん。昔さぁ、ホントはじまりの日、レンを王子って言ったよね」
「よ~く覚えてたじゃない。言った、他に言いようが無かったから。王子と姫、二人とも、その通りに育ってるじゃない」
また嬉しくなる事を告げてくる彼。その通りとは『姫、王子』と思ってくれている
「ふふふ、ありがとう。でもね、わたしに言わせれば、がっくんの方が王子様。よっぽど王子っぽい~」
「そうか、嬉しいけどさ、やっぱりそんなんじゃあない。はは『大叔父様』って感じじゃな~い」
「っはははは~」
大オジサマの冗談に、吹き出してしまうわたし。でも、可笑しさの中に生じた疑問を投げかける
「がっくんさぁ、最近よく言うよね、オヤジとかオッサンって、自分の事。でも、わたしが思ってるようなオジサンじゃないよがっくん」
「う~ん、まあ、若くいたいとは思うけどさ。30にも成れば、自覚持っとかなきゃ。ジキに31に成っちゃうし。いい歳して、若い時と同じ気持ちじゃ~ダメなトコロもあるじゃない」
「30歳って、オジサンなの~。じゃあ、30歳になったらイキナリそんな変わるの、若い時と。若いって、29歳までなの、がっくん」
話しが砕けたおかげ、ようやく顔が上げられる。完全に。膝に肘を乗せ、右手に顎を乗せる紫様。多少難しい顔つきになって
「さてな、イキナリ変われるもんじゃない、人なんて。でも、覚悟を持っておけって感じ。戒めみたいに使うわけ『オヤジ』って。いつまでも浮つくんじゃないって。これからは色んなコトが変わっていく。さっきリンに言ったよね『大人じゃない、子供でもない』俺もそんな状態なのかな」
目が笑っているのは、自覚があるからなのだろう
「『若くもない、歳でもない』って状態、谷間の年齢か。中々に難しいじゃない」
「ん~、よくわかんない~。でも、似たような感じかな、がっくん。さっき言ってた、わたし達と」
『狭間』のわたし『谷間』の彼。やや膝を下げ、顎を膝に乗せる
「まあ、そういうことにしておこうじゃない。似たような悩みがあるってことで。14歳の可愛い悩みと、30歳、オッサンの廃れた悩みじゃ、色合いは違うけど」
口の端を上げ、薄く笑う彼
「さぁ~て、これ以上の夜更かしはイケナイな。リン、ダブルの部屋だから、ここで歯磨きしていったら。すぐに部屋で休めるじゃない。コップと歯ブラシは部屋に持ち帰っちゃえ」
という彼の提案。わたし、幸福感でうわついて、調子に乗って
「な~らぁ、ベットも二つあるよね。にゅ~よ~くの時みたいにさ、ここで寝てもいいかなぁ。あ、ベッドは別でさ」
「コラ」
あ、しまったまた失敗、目が本気モード。怒らせてしまった
「リ~ン、大人になるってさ『気を付けなきゃならない』コトが増える、沢山になるの。ふふふ、化粧習ってるのと同じようにさ、ルカやめぐに教えて貰おうじゃない『ソノアタリ』も。俺、もう今はこれ以上言わない」
一瞬で眼差しを暖かな物に変えてくれる彼
「色~んな事教えて貰って。ルカやめぐ、メイコ女王様なんかに。大人準備も大事~。メンバーだけじゃなくってさ、友達とか、先輩でも良い。それもお勉強だ」
わたしは教わった、色々な事を。ただ、やっぱり『友達』や『先輩』と呼べる人は少なかったな、今思う。それが寂しいわけでも、イヤだったわけでもない。というか、気にさえならなかった。彼の側にいられるだけで、かけがえのないメンバーと一緒に居るだけで。わたしは日々が楽しかったから
「解った~ぁ。ありがとう、がっくん」
「素直でよろしいじゃな~い」
脚を組み直し、微笑む。一息にお酒を流す彼。わたしも紅茶を飲み終える。彼のご提案で、歯を磨いていくことに
「そういえばさ、言ってたじゃない、明日のことって」
洗面所に向かいながら。さっきわたしがいった『誤魔化し』提案を真に受けていてくれた彼
「あ、う、うん。ん~っと」
明日のことなど何も考えていなかった。が、言われて、何か必死に絞り出す
「あ、行列ね、何かお芝居、入れたいかも。うん、うんっ、イイアイディア~」
途中から、独り言と思案が混じって言葉になる
「芝居」
不思議そうに聞く彼、わたしと彼だけで打ち合わせた、秘密のお芝居を一つ打とう。考えつくわたし
「何かね、みんなと打ち合わせてないアドリブお芝居。なんか出来ないかな~」
「そ~うか。~、あまり時間はさけないな。何しようじゃない」
歯ブラシを手渡してくれる。ダブルの部屋ならでわ、用具も二つ。しばらく二人。無言で歯磨き
「ん~」
何かうなっている彼。サプライズお芝居を考えてくれている。わたしの方が先に磨き終わって、うがいを済ます。洗面所を出てベッドに腰掛け彼を待つ。自分でも考えてみるが、中々思い浮かばない。そりゃそうだ、デマカセ口実だったわけだし
「ならさ、リン、明日はじめ『楽刀』持ってくれない」
歯磨きを終え、やって来る彼
「レンが俺の所にきた後、一芝居あるじゃない。その後に『姫様、刀をこれへ』とか言うから、持ってきてくれない『仰せのままに~』とか言って」
わたしが言ったデマカセきっかけのお願いにさえ、真剣に応じてくれた、優しい彼。御館様に、刀を差し出す姫。姫様呼びも何だかステキと思って
「あ、いいねっ、がっくん、ヤルやる~。それやろぉっ」
はいご機嫌、単純だよね。今も、彼とすることは、ほぼ全て楽しいから、変わってないか、あの頃と
「決まりじゃない、姫、明日はよろしく願いつかまつる。ワシの『刀(命)』そなたに預けるぞっ」
「ぁははっ、ココロエタ、わたしの御館様~」
芝居がかった声で、演じる彼。上々機嫌で、お芝居返すわたし。何故なのか『わたしの』などと付けて、どうして気付かなかったのか
「よろしくじゃな~い、じゃじゃ馬のお姫様。よ~ぉし、戻ろうか、キミのお部屋。送ろうじゃない」
「おねがぁ~い。もぉ~、じゃじゃ馬ヤメテょ~」
と、言って、じゃじゃ馬姫様の称号、嫌いじゃない。だって、じゃじゃ馬だろうが、彼が『姫』扱いしてくれるんだもの。彼の部屋を出て、歩く
「なんかすっごく楽しみになってきたっ、明日の行列~」
「俺も~。リンのおかげ、一芝居打とうじゃな~い」
さすがに夜なので、声は潜める。同じ階層にメンバーが多いとしても、だ。他のお客様に、迷惑をかけてはいけない。エレベーターに乗って、一つ下の階を目指す
「だけどリン、も~一回だけ念押しする。こんな格好で出歩いたらダメ。今度は気を付けて、できるかな、約束」
「うん、ごめんなさい『変な目』ってよく解んないけど、気を付ける」
どれだけ子供か。まぁ、この辺りのことも、結局はメンバーに教わった、後々。めー姉、めぐ姉、ルカ姉、お姉様達に。自分で学習したこともあるけれど。その後は他愛ない会話を重ね、一つ下の階層、わたしの部屋の入り口の前。たどり着く前に、他人様(ひとさま)に遭わなくて良かったと、今は思う。あんな格好のわたしを連れた彼。見つかっていたらタダじゃ済まない、カモしれない『彼』は。それでも、わたしを『護衛』してくれた紫の彼。わたし、幸せに過ぎるほどだったんだな
「さて、それじゃあお休み、リン」
そう言って立ち去ろうとする彼を
「あ、ま、まってがっくん」
強制的に引き留める。不思議そうに振り返る彼
「あの、ね。がっくんが言ったみたいに、眠れそうにないから、かけて欲しいんだ」
「カケル、何を―」
「がっくんがかけてくれる、お休みの魔法」
少し考える彼。わざと答えを言わないわたし。思い出して欲しいから。覚えていてくれたら嬉しいから。最近ご無沙汰の
「もしかして、アレ、お休みリンってやつ」
大正解。困ったように笑う彼に、口で言う代わり、大きく上半身で頷いて肯定
「まだ俺がマンションに居た時か。別れ際に言ってたな。魔法でもなんでもないじゃない、あんなの」
「そんなことないよ。あれ、言ってくれた日は、すっごく良く眠れたんだから。お願いがっくん」
なら毎日言ってあげれば良かった。そんな風に言いながら、引き返してくれる彼。わたし、その腕を取る
「リン」
「んとね、今日はベッドの脇で言って欲しい。あの日みたいに」
ちょっとワガママを言ってみる。それもやっぱり、思い出して欲しくて。覚えていたらうれしくて、聞いてみる
「俺の膝が、リンの指定席になったあの日の事かな。そういえば、あれが初めてだったじゃない。よく覚えてたな、リン」
さっき覚えていてくれたことよりも、さらに嬉しい。はじまりのあの日、覚えていてくれたこと。頭を撫でてくれる彼
「がっくん、さっき言ってたよね『大事な思い出』って。わたしもね、特別に思ってたの。あの日、歌ったこと。だから覚えてる、あの日の事、全部」
「そっか。嬉しいじゃない、そう思ってくれる事って。俺はリンに会えて、みんなに会えて良かったけどさ」
「わたしもだよ。がっくんに会えて良かった」
彼の腕を取ったまま、僅かに見つめあう。不意にわたしは夢見心地になる。正体不明の感覚に、頭のてっぺんが痺れ、よろめく。抱き留めてくれた彼
「さて、じゃあ魔法をかけてあげようじゃない。リン少し疲れてるみたいだし」
突然、意識が迷子になった、わたしを見た彼。そんな感想を口にし、わたしを姫だっこしてくれる
「あの日は、レンも一緒だったじゃない。本当に小さな双子だった」
そう言いながら、わたしをベッドの中へ。本当、執事に世話されるお嬢様のよう。されるがままが心地よい。シーツの少し冷えた感触、かけられる布団、家(マンション)の物と違う
「外からだけど、鍵掛けていく。フロントに事情言って、預けておくから」
ベッドの脇、かがみ込みながら言ってくれた彼
「おやすみ、リン、良い夢を」
二度、オデコを撫でてくれる。それだけで、意識がまどろむ。何が眠れそうにない、だ。ああ、たぶんデマカセだった。魔法をかけて貰いたかっただけ。でも、おかげで微睡んだのも確か。立ち去ろうとする彼に
「がっくん、おやすみ。イイ夢見てね」
返してみる。小さく『ありがとう』と帰ってきた。あの夜は、魔法のおかげで快眠。紫の殿様と江戸時代の街を巡る、なんて夢まで観て、朝起きたときから恭悦至極。ん、緊急無線が入ったな、意識が今へ、トンボ還る。え、熊を見た。幸い離れた町名だったけど、竹林に囲まれているこの場所。熊が出たらどうしよう。彼が居る時なら『護って』くれるけど、一人の時はどうしよう。これは一度、皆と真剣に話し合った方がいいな、熊対策。ミク姉が都で買ってきた十手じゃ、対抗出来ないだろうな―
魔法使い
紫の魔法使い
黄色い子、限定の魔法使い
黄色い子の王子様