とうとう気付いた、黄色い子
生きたい人が居る
ずっと一緒に、生きたい人が
本章より恋愛要素がやや強くなります(あくまでも投稿者基準で)
苦手な方はお戻りください
飲み会、何次会まで行うか。そんな街頭アンケートの結果が報じられている。修学旅行にしろ、今のアンケートにせよ、誰が得をする報道なのか。でも、チラリと考え始める。わたし達は、大体が三次会まで行っちゃうな。なんて考える。三次会か。あの日も三次会まで行った。その後、四次会まであった。四次会は、祝福のため。ただ、わたしが起こした『大事件』によって、四次会は途中退場、自業自得。でも『大事件』がなかったら、今、わたしは『此所』に居なかっただろう。あの日の三次会。記憶図書館の最重要資料の一角に、今も大切においてある。ちょっと開いてみようかな―
「「「「「「「「「「飲み直しだ~」」」」」」」」」」
またたく間に、お酒も料理もすすんで、現在は三次会。明日はみんなで洗い物大会だ。もちろん、カイ兄と彼には、休んでもらうこと前提で。現在、午後11時。テーブルの上には、スナック菓子。リリ姉とキヨテル先生が吟味したスイーツ。カイ兄と、彼が作った、漬け物や味玉子。温め直した、焼き鳥や焼きビーフン。リュウト君、ユキちゃん、いろはちゃん、オリバー君は、すでに夢の中。以前起こしてしまった事があったので、二階の開きの間。お風呂も済ませ、わたしは彼の隣に座る。けれど、座ったは良いが、メイカイ様の結婚式、その夜、夢を観てから、積極的な行動が出来ない。さっきの『違和感』を覚えてから、より一層『彼』を意識してしまう。目を合わせるとか、手を取るとか『膝に乗る』とか『したい』のに『できない』それでも隣にいる、わたし。彼と離れたくはないから。りんごジュースのコップを、両手のひらで挟み、まわす。三次会開始以降、みんなは歌の感想だのPVの観賞だの、それぞれの反省だのを。わいわいと言い合ってた。ようするに内輪会の真っ最中、その喧噪も上滑り。いつもだったら、楽しいこと間違いない、内輪会。それさえ蚊帳の外で、考えていた。自分勝手に。夢を観たあの日、めー姉、カイ兄結婚式の夜、彼の夢を観た。彼と歌う、夢を観た。翌日、わたしは思った『がっくんと歌って生きたい』と。そう、一生涯一緒に居たいと思った。するとそれは、どうなるか。めー姉、カイ兄のように『成る』の。それはつまり、ではこの好きは、彼への『好き』は。動揺し出す、わたしの心。そのわたし、意識を引っ張ったのは
「リンもレンも、眠いんじゃない」
他ならぬ、紫様の声。めー姉にかかりっきりのカイ兄に代わり、紫の彼が言う。常にみんなを気にかける、やさしい彼。わたしも、少し離れて座るレンも大丈夫と返す。片割れはルカ姉、ミク姉に挟まれて三人でミク姉へのプレゼント確認。総ての品に、歓喜するミク姉。ちなみに彼は、ギガ級フラッシュメモリ数種類、わたしはメモリーカード。カブッタ感じが嬉しかった。無理はするなよと、撫でてくれる、大きな手。この行為とミク姉の歓声が、心を落ち着かせてくれた。ぐい飲みを呷(あお)る彼
「そういえば、リン、肉ジャガ。出汁の取り方、よく覚えたじゃない。勇馬が喜んでた。ジャガイモの皮も包丁でムケルようになったし、どんどん、料理上手になるじゃない」
撫で回してくれる彼。この行為が、わたしの『何か』を呼び覚ます。もっと褒めてくれ、と。もっと撫でてくれ、と
「えへ。だって、がっくんに教えて貰ったから」
褒められたのが嬉しくて、多少、おとなしめに見上げてみる
「俺が教えたから」
「うん。だってがっくん、すっごく褒めてくれるでしょ。わたし嬉しくて。がっくんが来る前はね、わたし、料理覚えようなんて思わなかった」
いつものように撫で続けてくれる紫様。そう、貴男からの行為だからなのだ、この幸福感は。貴男の手が撫でてくれるから嬉しいんだ。貴男と作る料理だから、殊更に楽しいの
「そっか。以外じゃない。昔から興味あったのかと思ってた。次の日くらいから、俺の隣でお手伝い、してくれたじゃない」
そう、貴男の隣だから。隣に居たかったから
「うん、がっくんと一緒にお料理したいな~って。カイ兄のお料理は、作ってくれるのが楽しみだったけどね、がっくんとは作ってみたいな、お料理してみたいなって」
「過保護カイトが、手伝わせないのかと思ってた。ああでもそっか。レンが言ってたな、前、信じられないって。それでか」
焼酎を一口含む彼。嬉しさに拍車が掛かるわたし
「うん。わたし、もっとがっくんとお料理したい。たくさん覚えたい。それでね、作ってあげたくて。いつか結婚した時に」
結婚。その言葉を言ったそこまでは夢見心地だった。きっと褒められて浮き足立ったから。めぐ姉の言葉、彼の手のひら。感じた『違和感』と感じる『幸福感』に心のタガが外れたのだろう。あの日、めー姉が言った『一生支えたい人。生涯、支えて欲しい人。救け合いたい人の事。ゆっくりと』と。結婚式当日、カイ兄も言った『リンの思うままに』と。姉達からは『神威の妹』とさえ言われるわたし。数年前まで、嬉しくて仕方なかった。けれど中華の町、彼に『妹』と呼ばれたとき、何故か多少、落胆した。それは何故か
「向上心があって良いじゃない。ははっ、リンのダンナさんに成るヤツは幸せ者だ」
何故だか寂しそうな顔をする彼。疑問に思って
「がっくん、なんか寂しそうだよ、どして」
「ん、そうかな。だとしたらアレじゃない。妹を送り出すアニキってカンジ。リンが他所様に嫁いじゃう。まったく、リンの旦那になるヤツに嫉妬しちゃいそう。こんなイイコを嫁に貰うヤツ、羨ましいじゃない」
『リンのダンナ』その言葉に、心が『憤慨』しつつ訴えかける。何を言ってるのか、と。わたしは一生、一緒に居るのだ、と。わたしの旦那様になる人は、わたしが嫁ぐ先は
「何言ってるの。わたし、がっくんのことが大好きなんだよ。わたしと結婚してくれるのはがっくん。がっくんと一生支え合って、救けあって、生きていきたい。歌って生きたいだから―」
言って、背筋が凍り付く。わたしは今、何を口走ったのだ、と。トンデモナイことを言ったのではないかと。焦る気持ちのなか、どんどん、心音が溢れる『彼が好き』だという想い、あふれ出したら止まらない
「―リン、それ、えっと冗談―かな。それとも、オレを茶化してる。メンバーの事好きじゃない、リン。多分その意味で一緒に―」
「―っ違うっ」
困った顔で、告げる彼。その『冗談』の言葉に、動揺していた心、冷静な部分が反応する。冗談じゃあない。わたしは貴男のことが好きなのだ。愛しているのだ、と。逆に『茶化すんじゃない』と。けれど、言ったは良いが、わたしの動揺は止まらない
「―」
彼を見る、驚いた顔。見つめあう。綺麗な瞳に浮かぶ、あきらかな動揺の色。互いに言葉は出てこない。頭だけが、やたらと冷静に答えを導き出す。なんで、彼に教えて貰ったものは、必死に覚えたのか。何故、彼の前では、自分を良く見せようとしていたのか。化粧をしたあの日、なぜ『彼』の反応があれほどまでに嬉しかったか。中華の街で、彼に掛けてもらった言葉、あの『幸福感』が何だったか。めぐ姉の言葉で生じた『違和感』の『正体』に、わたしは気付いてしまった
『覚えた』のは褒めてほしいから
『良く見せた』のは好いてほしいから
『幸せ』なのは大好きな彼がくれたから
『背伸びした』のは彼との『差』を埋めたいから
『違和感』を感じたのは『好き』の類い(たぐい)が違うから―
とうとう、自分の気持ちの正体に気がついてしまった。京の都で感じた『照れくささ』の正体。中華の街で抱いた『幸福感』の正体
いつからだろう、彼への想いは
いつから変わったのだろう彼への『好意』は
知ってしまった。兄としての好きではない、メンバーとしての好きでもない。だから嬉しかった、秘密の贈り物。想ってしてくれたからこそ、嬉しかった『お小言』変わった『好意』の対象、彼がしてくれたから、嬉しかったのだ。とうとう気付いた
わたしは、この人の事が。どこまでもやさしい、紫の彼が『わたしの王子様』が『愛おしくてたまらない』のだ、と
「ん、がく兄、リンも。何固まってんの」
「さっきリンちゃん、大きな声あげたけど、ど~したの~お」
片割れの不思議そうな声。ミク姉のノンキな声。わたしと彼、二人の視線が外れる。その時だった。聞き慣れたイントロが響く。スクリーンに目をやると、曲はオリジナルのものではなかった。ミク姉とカイ兄のデュエット曲。わたしが10歳の時、彼とカバーした、中世ヨーロッパ社交界を舞台にした楽曲。そのPV(プロモーションビデオ)実はあの日の一月前、リメイクして取り直した。女性プロデューサーの手によって。わたしと彼、完成したモノを観たのは、初めてではない
「あ、このPV取り直したんだ。うっわ、すげえ画が綺麗になってんじゃん」
「本当だ~。わ~本家より力入ってるっぽい。ちょっと嫉妬しちゃうな~」
同じく画面に向き直るレンの感想。本家のミク姉始め、メンバーでは、初見の人が多かった。撮り直したことを知るメンバーはいたけれど。あの時、わたしは初めてそれを観た気持ちだった。今までは気付いていない感情に支配されてたから。彼に本当に、このPVのように。愛しいと想って貰いたい『愛して欲しい』そんな想いが溢れ出る
「うっわ、本当だ、気合い入ってるね。さすがこのリビング、三日間占領しただけのことあるよ」
「演出とロケーションもハンパじゃないわ~」
微笑み会う、カイ兄、めー姉。彼は無言だった。メンバー、しばし無言で魅入る。わたし、加速中の鼓動。考えが纏まらないまま、心が中に浮いたまま、動画が中盤にさしかる。その時、言葉を発したのはIA姉だった
「ぅふ~、神威のに~さんとリンちゃん。デュエット本当に増えたね~。ゎたし、ふたりのデュエット、大好き~。萌え萌え、らぶらぶ、きゅんきゅんきゅ~ん」
黒砂糖を用いたというチョコビスケットスティック。11月11日を勝手にそのお菓子の日にしてしまった物の黒糖版。手に萌えあがるIA姉
「しかしなんつ~かさ~。ウチこのリメイクPVは初めて見たけど~。コ~レおにぃとリンの雰囲気ヤバクね~。撮り方あぶねぇ、どんな演出よ」
「うちも思っちゃうな~リリね~さん。なんっか、危険なにおいするよね~。禁断の恋、ってカンジで~」
先生達が買ってきた、知る人ぞ知る店の、老舗謹製というおまんじゅうを食べながらリリ姉ジト目。至高のエクレアを食べながらMikiちゃん、小悪魔笑顔で。心の何か『禁断の恋』という言葉に反応する。わたしと彼『禁じられたモノ』なのか、と
「あ~、うん。PVの撮り方も含まれてはいるから、一概にはいえないけど。てか、初めて観たけどさ。アタシこのPVの演出、女プロ(女性プロデューサ)の作為というか、悪意を感じるんだけど。かなり設定も変わってるわよね」
ワイングラスを傾け、機嫌のよろしい、めー姉。中の液体は真っ赤なもの
「だよね~、め~ちゃん。だってこれ、舞台は中世で、兄妹のお話だったはずなのにさ。完全に『現代社交界』じゃないか。良家の御曹司と、迷い入った娘の、許されざるってとこかな。この、殿・リンバージョン。あ、この場面、リンの服装と髪型、わざと子供っぽくしてるね」
カイ兄も甘いお酒を含む。会話を終え、そのカイ兄に、次のおつまみを取ってと命じるめー姉。具体的になってくる物言い。なにが言いたいか、じわり、じわりと伝わってくる。きっと、言って欲しくないことを考えられている。思って欲しくない事を想われている。10歳だったあの日、プロデューサーが言った一言。想ったであろうアレを思われている
「アレだろ、かむい。お前アレだろう、アレなんだろう。途中で抱きしめてたじゃね~か、なんつ~ことしでかしてんだ。前作もかんなりヤバかったのによう」
「がくサンには申し訳ないすけど、ヤバ目に見えっす。ただ、リンも楽しんでるふ~には見えっけど、なんでこうなった感が。やっぱ女プロの趣味っすかね」
ひたすら楽しげにテト姉『アレ』という言葉の連呼。その連発に、わたし『何か』のボルテージが上がっていく。申し訳なさげに勇馬兄。ただ、後半はカラカイが含まれた声。ここにいるみんなが思っている。かけがえのないメンバーさえ思っている『思って欲しくない』事を。そう思えてくる。隣の彼を観る。押し黙って、目を見開いている
「そ、それじゃあんまりだよ。二人に失礼だよ~。リンちゃんもぽ兄ちゃんもこの撮影、すっごく頑張ってたんだよ。お似合いだよ~リンちゃ~ん」
「あにさま、りんりん、おにあいあ~いっ。みんな変なこと言う、めっ」
真剣に擁護してくれた、めぐ姉、カル姉。その声も、安定剤にはならず
「私も、メイコさんの仰るとおり、プロデューサー女性の悪意を感じますね。めぐさんに同意いたします。神威さんとリンさんのお気持ちを踏みにじる。これは、お話し合いが必要です、ね」
「わ~先生、大丈夫ですよう。ぼくも、良いと思うよリンちゃん。お似合いだよっ。プロデューサーさんの演出が問題で、危なく見えるだけで。あ―」
いままで優雅にカプチーノを入れていた、キヨテル先生は半眼に。慌てて事を収めようとするピコ君、あまりフォローになってない
「でもさ~。なんか、おれ、リンのほ~が積極的に見えるんだよね~『二人きりになりませんか』とか言うんじゃね~の」
最近、わたしより先に、少しマセてきた片割れ。にやつき、フルーツケーキを食べる弟が気に障る
「あ、それで二人になったら豹変『わたしが叫んだら大変ですよ~』っとか。でもその裏には、リンちゃんの切ない事情があ~ぁ」
オニオンチップをつまみ、目を輝かせ、朗らかに言う。以前からこのテの話し好きな、ミク姉の言葉が癇に障る
「リンちゃんが神威さんを。ですか。ふふ、そして、愛の力で、壁を乗り越えてゆくのですね。本当になりませんかしらぁ」
『大人』である、姉。リキュールを含み艶っぽいルカ姉の物言いが、癪に障る。三人とも思ってたってことか
「ニホン文学にアリ申した。ゲンジ~。とか申シたか」
アル兄の言葉に、悪意はなかったのに。思ってしまったら止まらない。負の感情が際限ない。そうか、みんな思ってるってことか、わたしたちの歌を聞いた人たち、みんなが思ってたってことか
思ってるってことか
「しっかし、すっごいハンザ―」
「禁じられたあ―」
「こぉん~のろりこ―」
「違うよ~、に~―」
「そんな偏見では―」
皆が言い終わる前に、誰かが何かを吐く前に、テーブルにコップを叩きつける。砕け散る、グラスの音と共に立ち上がる
思って欲しくない
例え許されないもだとしても
事実だとしても
みんなにはせめて、思って欲しくない