紫の彼とミクの故郷で浴びた大歓声
アナウンサーが告げるスキージャンプの試合告知。夏期の大会があるらしい。伝説になりつつあるジャンパーが好調だという。スキージャンプか。いったな、わたし達も。北海道のジャンプ台。季節は冬だったけれど。キレイだった、雪祭り。わたしの意識。記憶の列車に乗って、戻ってゆく。ルカ姉が帰って来て、一月後のあの冬の日へ―
「雪祭りか、カイト。主からの連絡内容は」
「そうみたい、殿。初日に歌ってほしいって」
プロデューサー達からの電話連絡。応えるカイ兄の会話。プロデューサー達のことを、尊敬を込め『主(ぬし)』と呼んでいる彼
「わ~ミクのふるさとで歌えるんだ~」
「そうなのか、ミク」
「うん、がくさん。わたし達一族、みんな北海道出身なの~」
「アタシとカイトは最北端。岬が有名なとこ」
「リンとレンは真ん中。酪農が有名だよ~がっくん」
「ワタシは玄関口。朝市や教会が有名ですわ」
「そういえば、殿って何処の生まれなの」
「関西。たこ焼きの街。で生まれたんだが、親父の都合でさ。一歳の時に越後に越した。だからほぼ、越後上越の人」
「だから神威君の日本酒、越後の銘柄が多いのね」
「越後の酒は美味いじゃな~い。しかしいいな。北海道か。イベントの後は、あの朝市にも行こうじゃない。教会のバターも美味いしな」
「楽しみだねがっくん」
「北海道のお酒も買い込むわよ~」
「久しぶりに、本場の大間産がいただけます~」
依頼主曰く、お祭りらしい楽しい歌を歌ってほしいとのこと。プロデューサーが選び出した曲。メンバー多数参加型の曲多かった。多数参加の曲は、確かに楽しいものが多い。彼と、みんなと。歌えることが楽しみだった
「僕らもいくからね。依頼者さんとの打ち合わせもあるし」
「宿も手配してくれるとよ。声がかかるってな~ありがてえよな」
プロデューサーの言葉。衣装の選別、着替えなどの荷造り。楽曲の歌い込みやダンスを確認しているうち、早々(はやばや)と出発の日を迎える。首都まで、電車を乗り継いで、降り立ったホームを歩く。周辺が少しざわついている。PROJECTが、少しずつ認められた証拠だった。何故首都の駅を歩いたか。それはあの日、移動はまだ走っていた、寝台特急に乗って、目的地を目指したから
「寝台車、取ってあるから好きなようにね~」
「あ、迷惑はかけんなよ~」
告げるプロデューサー。解放の寝台車。そうか、とわたし申し出る
「じゃあ、わたし、がっくんの隣がイイ~」
「お、リン。みんなと一緒が良くない。レンと一緒に寝るとか」
「がっくんがいい~」
「どう、メイコ、カイト」
「いいじゃない。神威君なら安心だわ」
「リン、殿に懐いてるからさ。面倒お願いね」
「おし、わかった。リンと一緒しようじゃな~い」
「やった~がっくん、お話ししようね~」
起きている間は、雑談をしたり。彼がお菓子を買ってくれたり。あきて眠ってみたり。暗くなる頃駅弁を食べる。子供コドモだったわたし。レンもミク姉さえも。自由気ままにすごしていた。彼の横のベッド、眠りにつく
「おやすみがっくん。明日は北海道だね」
「おやすみリン。目が覚めたら雪景色じゃない」
睡眠途中、お手洗いに目を覚ます。寝ぼけ気味だったわたし。戻ってきてベッドへ潜り込む。暖かい。それは当然だった。目的地のすぐ近く。車内アナウンスと良い香りで目を覚ます。彼と始めて一緒に眠った日。香りの正体は彼。わたしが昨晩、潜り込んだのは彼のベッドだった。それでも、わたしを起こさなかったやさしい彼。眠たさと肌寒さ、少しの照れ。もぞもぞ動いていると、わたしの背中を撫でてくれた優しい彼
「おはようリン、寒かったか。昨日入ってきたじゃない。風邪引かないよう、暖かくしよう」
「おはようがっくん。ごめんね、寝ぼけた~。でも、がっくんと一緒で暖かかった~」
「良かったじゃない。さて、お、見てリン」
「わ~雪景色だ」
覚醒し、窓の外を見る。曇ったガラスを拭いてくれた彼。促され、見た景色。家族にも声を掛け、身支度をする。寒さへ、完全防備で駅に降り立つわたし達。構内のおそば屋さん、暖かそうな湯気が立つ。香りにひかれる
「みんな、ここで朝ご飯すませちゃおう」
「時間もねえしな」
プロデューサーに促される。おなかもすいているし、断る理由もない。銘々選ぼうとすると
「みんな、山菜そばとおにぎりにしない。食物繊維大事じゃない。おにぎりの炭水化物で体温上げよう」
メンバーの体を気遣う彼に従って、簡単な朝食を済ます。駅の外へ。移動のために市電に乗るうとするわたし達。そのラッピングに感動した
「ミクだ~。ミクの電車が走ってくる」
目を潤ませ、ミク姉がつぶやく。そう、歌うミク姉の姿が、列車の全面にプリントされている。運転手さん、お帰りなさいと声を掛けてくれる。泣きそうなミク姉。懸命にこらえ、笑顔をみせる。乗り合わせた人が、ミク姉を激励してくれる。わたし達にも声を掛けてくれる。幸せな声に囲まれながら、雪祭りの会場へ入る
「おい、すごいじゃない。ミクの雪像だ」
「すっげぇ、ミク姉だらけ」
彼が驚く。弟も驚く。みんな驚く。大きなおおきな、ミク姉の雪像。会場にいた全ての人が声をあげる。おかえり、わたし達の歌娘と。さすがにこらえきれず、泣き出す姉。何度もありがとう、と頭をさげる。始まりのプロデューサーまでも泣き出す。PROJECTが認められたと感じた瞬間だった
ステージの上。喝采とともに迎えられる。初めこそ勢いよく歌い出したものの、暖かな声に、歌が詰まる姉。メンバーのコンセプトユニフォーム、纏ってくれている人まで居る。氷点下の中なのに。わたし、兄も姉も弟も。さすがにもらい泣く。感動で歌が途絶える。あがる歓声の中、紫の彼が叫んだ
「泣いてんじゃねぇぞミク。みんなお前の歌を聴きに来てんだ。歌え、それが恩返しだろうが。気合い見せてみろ、全てに捧ぐ歌娘っ。声を張れぇ、お・ま・え・達~」
わたし達の頭をぐりぐり撫でながら。彼の一言で、さらに盛り上がった会場。わたし達は歌った。感謝の念を込めて、精一杯踊った。雪像を溶かさんばかりの熱い声援を頂きながら
「頑張ったじゃない、ミク。お前達。すごかった」
「うん。がくさん、ありがとう」
「神威君の一言、助かった。ほんと」
「がっくん、ミク姉、かっこよかった~」
ライブ終了後、アンコールの前。舞台袖で交わした会話。再演を望む声、再びわたし達は歌った。大歓声を頂きながら
イベントが終わり、主催者さんが取ってくれた宿へ入る。佇まいの良い旅館。プロデューサー達は別の部屋。わたし達は畳敷き、全員一緒の部屋。その部屋で、始まる会食。要するに打ち上げだ。地酒を片手に、めー姉が発声を命じたのは
「ミク~」
当然、主役はミク姉だった。こどものわたし達の手にはジュース
「えっと~。ありがとう、みんな。ミク、今日すっごく嬉しかった。歌ってきて良かった。みっみんなと、歌えて、よかった。こんなにうれしいの、っは、はじ―」
うれし泣き。抱きしめるめー姉。カイ兄。ルカ姉も。みんなの目に涙が浮かぶ。紫の彼、今度は
「泣け、ミク。好きなだけ泣け。お前が歌ってきた、歩んできた証のあの声。会場の人たちの声。ありがたいじゃない」
言いながら姉を撫でる。わたしもレンも、姉達の元、抱きついて。六人団子、しばらくそのまま。むせび泣く声と、コトコト、音を発てるのは、会食の鍋。その音だけが、部屋を支配したあと
「さ、はじめましょ。打ち上げ打ち上げ」
めー姉の一言で、始まった宴会。笑顔に戻ったミク姉。楽しかった打ち上げ。温泉に入って、その日はみんなでぐっすり寝た。翌朝、ホテルでの朝食を済ませ、やって来たのは
「すっげぇ~ジャンプ台でっか~」
「ここから飛ぶんじゃない、レン。すごいな、ジャンプ選手って」
「たかいね~がっくん」
脚を滑らせないようにわたし、レンと両手つなぎの優しい彼。めー姉にしがみついているルカ姉
「ルカ、お前まさか」
「神威君、ルカね、高所恐怖症なの」
「ひ、飛行機や乗り物の中は、もっモンダイナイのですがっ」
「何で登った」
嘆息する彼、苦笑いのカイ兄。三泊四日の滞在。ライブ翌日に、ミク姉の案内でジャンプ台を見学したときの一コマ。ジャンプ台そばの施設、体感マシーンでジャンプを体験。わたしとレンが大はしゃぎした。彼と手をつなぎ時計台や夜景も観た。昼食は名物の塩バターラーメン。寒い季節もあいまって、とても美味しかった。三日目に、ルカ姉の故郷へ移動。朝のお蕎麦、とても盛りが良くておなかいっぱい。バターが有名な教会を見学。おいしいビスケットを買い込む。昼、たまにはと贅沢にすき焼き。晩、ルカ姉お待ちかねの大間産、海鮮づくし。とても美味しかった。北海道での滞在は、わたし達と紫の彼。親しさを深めた期間だったな。TVの音、意識が今に、舞い戻る。北海道からかえるとき、両手はお土産でいっぱいだったな―
今はもうない寝台特急に乗って
一族ではない神威と共に、歌った日
迎えられたあの日