頑なに守った紫の青年
何時も傍らにいた
一番の『仲良し』で
あの約束を交わしてからの四年間。彼とずっと一緒に歌った。一緒に生きた。初めの二年間は、ほとんどそれまでと変わりなく接してくれた
「がっくん、聞いてよっ、今日学校でさあっ」
「あはは、何かあったな、リン、不機嫌モードじゃない」
機嫌を治すため、膝に乗せてくれた
「がっくん、今日ね、褒められた~。家庭科でね、一番料理上手って~。料理出来ない子、結構いるんだよ~。わたし、がっくんと作ってて良かった~」
「偉いじゃな~い。ふふふ、いっつも俺とお料理してる成果、二人の愛の結晶じゃな~い」
「そだね~っ、ふふ、嬉し~い」
褒めてくれて、撫でてくれた
「わ~、二度目の外国公演だねぇ、NY以来~」
「オリバーの地元じゃない。人多いから~」
そう言って、手を繋いでくれた
「おめでとう、リン。また、大人に近付いたじゃない」
「ありがとう~がっく~ん」
誕生日になれば、贈り物をくれた
ただ、変化したこともある。それは、わたしの身体の変化。約40日に一度、腹痛と吐き気に襲われ、微熱と気怠さに苛まれる、あの現象。わたし、かなり遅い方だった。彼に告白した、あの一月後から始まった。しかもわたしのは、相当に重い方だったらしい、腰痛まで併発したし。今は痛み止めや『温めて』軽減させる事が出来る。その『症状』を軽くする方法を知ったから。でも、それこそ初めの頃は大変で、姉達も、何が合うか『試し』ながらしか対処できない。自分も含めて悪戦苦闘。半年間は、完全に『難病』状態
「リン、ムリするんじゃない。何でも言って」
「ぅ、がっくん。ぇぅ、気持ち悪ぅ、お腹痛い~」
『その日』は、プロデューサーも仕事を外してくれた、何があっても。学校も『病欠』体調不良ということにしてくれて。まあ、事実体調は最悪だったわけだし。初めの3日くらいは腰の痛みで、歩くことさえ避けたいくらいだった『ソレ』が始まってから思い知る。お嬢組、みんな『その日』が有るはずだけど、休みにしてくれるのは、わたしだけ。それくらい、初めの頃はキツかった。歩くのさえ気だるいわたしを
「さて、今日も茶の間で良いかな、横になる場所。俺ん家のさ。一応布団、敷いたじゃない」
「ん、おねが~い、がっくん。畳だとまだ少し楽だからぁ。ぅっつぅ、腰痛ぁ」
脚を怪我したあの日よろしく運んでくれる彼。畳寝、効果あるのでは、と教えてくれたのは、カイ兄。以前、撮影で『腰』を痛めた。その時、客間の畳に布団を敷いて寝た。すると、ベッドより楽だったということを教えてくれた『その日』は腰痛まで併発するわたし。本物の畳、板敷きの神威家、効果抜群なの
「熱もあるな、額に貼ろうじゃない、冷却シート」
「ありがとう、がっくん。ぅ~」
薄く汗ばみ、張り付く前髪を指で分けて、オデコに貼ってくれる。それまで本当に子供の身体だったわたし。彼への想いに気付いた事が、わたしの変化を呼び覚ましたようだった
「何かして欲しいことあるかな。出来ることはしてあげようじゃない。邪魔なら言って、消えるから」
「消えちゃやぁだ~。膝枕ぁ~、がっくん、撫でて~」
必ず、彼を看護に当ててくれた。もちろん、姉の誰かが居るときは姉にもお世話になった。でも、姉達が残ることが出来ないときは必ず彼。彼自身は『俺が看護師役っておかしくない』って言ってたけど。でも、際限なく甘えさせてくれた彼。初めは『周期』さえ読めなくて。何時なのか、予測不能
「今回は『急』っだったからさ。しょうがないじゃない」
そう言って『必需品』まで買いに行ってくれて。それがどれだけ勇気の要ることか、知ったのは一年後。食欲のない、わたしのため
「でも食べなくちゃ。体が悲鳴上げちゃうじゃない」
そう言って、工夫を重ねて作ってくれて。ある時は、わたしが好きな、クリームたっぷりのコーンスープ
「ありがと、がっくん、食べさせて~」
またある日は、トマトの酸味を利かせ、本当の鶏肉から煮だした、栄養たっぷりコンソメスープ
「少~しずつ、栄養ある物食べようじゃない。リン、今日のおやつはこれ」
「ありがとう、がっくん。ぅぇ、食欲出ない~。でも、これなら食べられそう」
おやつにくれた、かぼちゃプリンや濃厚メープルミルク。その日が来るのは憂鬱以外の何物でも無かったけれど、彼が優しくしてくれるのは嬉しくて。彼が作ってくれた恵みも相まってか、よくよく手入れの行き届いた『滑走路』みたいだった身体、ささやかながら凹凸ができ始めて。少しずつ、身体が変化して。告白の日から伸ばし始めた髪の毛、徐々に『雰囲気が大人っぽくなるじゃない』紫様、褒めてくれて
「がっくん、膝~。頭撫でて~、よ~やく具合良くなった~ぁ」
「甘えんぼさんモードの日、治ってよかったじゃな~い」
それでも、変わらずに接してくれた、優しい彼。彼自身は接し方を変えてくれていたんだろう。抱っこの仕方が、変化した。触れ方が変わった。でも、わたしの望むように接してくれた。けれど、後の二年は、変化した。それは、わたしがより『大人に近い、まだ子供』に成ったから。わたしの『求めるもの』が、変わってしまったから。だからきっと、彼のつらさは相当なものだっただろう。きっと彼を傷つけ続けただろう、わたしは。それでも、側にいてくれて、傍らにいさせてくれて。少しは伸びた身長、彼との差は、30㎝以上あったけれど
「まあ『ごっこ遊び』くらいならイイんじゃない」
「あ、ひっど~いっ『ごっこ』じゃないも~ん」
そう言って、腕組みで歩いてくれて。今までと違う『恋人繋ぎ』で手を繋いでくれて
「目印ってトコロかな。キミは俺の、俺はキミのって。意味が有るか無いかは解らんじゃない」
「ぅふふふふっ、でも、嬉し~な~『エンゲージリング』み・た・い。わたしは貴男の、貴男はわたしの、っだよ」
たまに同級生と交わす『恋バナ』思い人は『年上の、とても優しくて素敵な人』言うと結構、冷やかされたっけ。ネダルわたし、彼、マセてきたわたしと会話しながら、ペアリングを買いに行って
「お休み、リン。明日また、幸せに会えるように」
「ありがとうがっくん。良い夢みてね」
お休みの魔法は変わらずにかけてくれて。ただ、マセが出はじめたその辺りから、オデコ併せは無くなってしまった。過度の『スキンシップ』を警戒していたという彼
「まだ早い、我が儘言わな~い」
「ケチ~、イイじゃな~い」
だけど決して『恋人』ではなくて。だからこそ、無理矢理に『スキンシップ』を取ろうとするわたしを
「こ~ら、リン、はしたない」
「いいじゃ~ん、このくらい~」
窘めて。少し身に余る『背伸び』の服を着たわたしに
「それ、まだ早い。似合ってない」
「あ~ひっど~いっ、がっくんなんか嫌いだ」
幾度かあった、小さな衝突。拗ねるわたし、だいたいフテクサレテ部屋に籠もる。でも結局、わたしの方が心細くなって
「がっくん、ごめん」
半泣きで謝りに行く
「俺もごめん、言葉が足りなかった。でも、やっぱりあの服は似合ってない、いただけない。ねぇ、リン、今度買いにいこうじゃない。大人っぽくて、今のリンに似合う服」
たちまちに、涙を笑顔に変えてくれた彼。彼から部屋を訪れないのは、わたしの気を落ち着かせてくれるため。とことん、考えて貰うため。そして、確認のため。そんな些細な衝突で壊れてしまう関係なら、きっと『壁』を越えられない。彼が後から言ったこと
「俺も恐いんだぞ~、キミに『嫌いって』言われるの。本当に嫌われて、捨てられそうじゃない」
「ん~、なぁに~がっくん、そんなにわたしが好き~。う~ん『おこモ~ド』のがっくんは嫌いかな~ぁ。ふっふ~ぅ、本当に嫌いになったらどうする~」
意地悪く言うわたし、浅知恵の意趣返し。彼にオミマイしてみた、ら
「どうしよっかな」
彼の手が、わたしの頬を包む。肩と心臓が跳ね上がる
「今の俺、嫌いかな、リン。俺はキミのこと大好きなんだけどな」
少し悲しそうな目をする彼。その表情さえ『色っぽく』て、早まる鼓動は収まらない
「ごめんね、きっと俺のせい。リンに、こんなに無理矢理背伸びさせてさ、ごめんね」
両頬を包まれた状態で、顔が近づいて
「可愛いと思っちゃう、その『背伸び』は。俺の『気』をひいてくれようって、必死になってるその姿。あ~あ、カワイイ、俺のリン」
『ぎりぎり』のところまで、彼の顔が近づけられて
「でも、合わせようとか、近づこうとか。前言ってたっけ『見合う』ようにとか。そんなの気にしないで」
眼前に彼の顔。感じる吐息、甘い。恐ろしく綺麗な瞳の光り
「無理な背伸び、して欲しくない。ヤメさせる権利なんて無い。でも、言っちゃう。あんな格好して、他の『変なの』に盗られたくナイじゃない、大好きなキミを」
ああ、彼のお小言が幸せで、中華の街で感じた痺れに襲われて。思わず彼のシャツ、お腹の辺りを掴む
「もう少し、任せようじゃない、流れにさ。時間はイヤでも過ぎるから。リン、キミが大好き」
彼の両手が放されて
「大好きなキミに、西洋式、かな。親愛の情をあらわす」
両頬、わたしの両頬、彼の両頬があわされる。初めて、こんなことをされる。ただ『頬』を合わせただけなのに、照れくささがもの凄い
「ごめんね、リン。大好き」
彼の顔が離れ、いつもの距離感。さらなる『照れ』が、足の先からこみあげる
「もぅ~ぅ、もお~っずるいっ、こんなコトしてぇっ」
彼のシャツを掴んだまま、照れたまま、気持ちを隠すため猛抗議。豪快に笑われて
「そ~う、大人はずる~い」
「なにそれぇ~、ワケワカンナイ~」
シャツを離し、平手で彼の鳩尾辺りを叩く。さらに紫様
「ほ~ら、可愛い、そのリアクション。ま~だまだ子供じゃない、まだ早~い」
軽々抱き上げて、高いたかい。脚を痛めた、あの日よろしく
「も~ちょっとじゃない、超えていこ、二人で」
三回目で止めて、わたしの腰辺りで抱き留める。肩の上のわたし
「ぅっう、許してあげるぅ」
彼の想いさえ理解しなかったあの頃、きっと彼を苦しめた。でも、そんなふうに『大事に』してくれるのが嬉しくて、だから益々調子に乗って
「いいじゃな~ぃ、がっくんっ。そろそろさぁっ。恋人にしてくれてもさ」
「も~うちょっと待とうじゃない、イイコだから~」
「あ~、ま~た子供扱いして~」
誕生日の度に我が儘を言って『恋人』にしろとせがんで。告白のその年、鏡音の誕生会から始まった。彼とわたし『二人だけ』の時間。メンバーが気遣いで作ってくれた、二人っきりの『時』必ず、ワガママを言うわたしに、たった一度
「リン『あめ玉~』って大きな声で言ってみて」
「あ―」
大口を開けた瞬間、入れられたキャンディー。三十分、時間をつぶせるというキャンディー。わたしの口に入れられるその直前、彼が『口づけ』していた棒付きキャンディー
「今、キミが口に入れてるソレ『俺』の味じゃな~い。甘~いあま~いCandy」
口いっぱいに拡がる、カカオの甘み。少しだけ苦い、でも甘い甘い、棒付き飴。この味は『彼』の味だという、他ならぬ『彼』甘みと僅かな苦み。あまりにも『彼』の味に似合いすぎる。耳元で囁かれ、頬が灼熱化した覚えがある
「三十分、保つらしいじゃない、その棒付き飴。あと三十分、キミの口の中、俺ま・み・れ」
とんでもないことを言う彼。耳元に吐息が振りかけられて、もう全身が灼熱化
「恋人じゃなくたってさ、知ってるのはキミだけ。今『俺』の味を知ってるのは」
その炎のようになった頬を、彼の両手が包んでくれて、不意に顔が近づいて。わたしの心臓は、よく耐えたと思うほど早鐘を打って
「キミだけ」
そう言ってほんの一瞬だけ、わたしのおでこに押し当てられた、彼の唇
「おやすみ、大好きなお姫様。俺だけの姫君様」
「―っ~」
その夜はもう、眠るどころのはなしじゃなかった。家族の顔さえ見ることが出来ず、自分の部屋に逃げ帰ったわたし。みんなが寝静まった後、歯を磨いても、口をゆすいでも。舌に残ったのは『彼の味』実は、今も忘れられない。額に残る『彼』の熱。この世に『彼』以上の感触があるのか解らない、至上の『唇』柔らかさ。ベッドの上で、枕を抱いて
「っっっ~~~~~っ」
なんて、声に出さない悲鳴をあげて。何度脚をバタバタとさせたことか。だからわたし、あの棒付きキャンディー、今でもまともに食べられない。あの二年間は、大人じゃない自分がもどかしくて。時の流れが焦れったくて。胸の奥が苦しくて。たまにみる、彼の表情。私と居るとき、ふと見せる表情。それをみる度、切なくて。でも、矛盾しているけれど。過ごす日々が、彼と過ごす日々が楽しくて。いつの間にか、わたしは『その歳』に成った。風鈴の涼やかな音。そういえば、マンションには無かったな『風鈴』何故だろう。いつの間にか、夏、定番になった音で、我に返る。記憶の轍からそれる。今に帰ってくる。天井を見上げる
「そう、此所は、わたしの家」
独り言ポツリ。見慣れた天井の木目、初めてまじまじと眺めた時は、模様のように思えた。わたしはここに居る。わたしは今、台所にいる。『彼ら』が建てた家の中『彼』の家の台所。そして『わたしの家』の台所。宴の準備を執り行う。TVの音、自分が発てる調理の音を聞きながら。わたしは今『神威の家』に『自分の家』の台所にいる―
決して『恋人』ではなかった
仲良しだから辛かった
きっと彼は辛かった
黄色以上に紫は
四年間、切なかった