二月後半のお話し
TVを消す。買い物のメモを持つ。戸締まりを確認。車で二十分、物資供給の拠点。協力者たちの商店街へやってくる。アーケードで仕切られた。昔ながらの商店街。百メートル四方にわたり、色んなお店が建ち並ぶ。わたし達のプライベートを、極限定ではあるけれど。知り得る人たちのお店の中、大将と話し、会計を済ます
「あ、いらっしゃ~い」
「今日は、心響ちゃん」
店の看板娘、心響(ここね)ちゃんとも話す。今日もかわいい。再びアーケードに出ると、有線放送の楽曲。今、季節は夏なのに。誰かがリクエストしたのだろう。冬をテーマにした楽曲が耳に這入る。記憶の部屋今度は、自ら扉を開け放つ。誘(いざな)われ、わたしは記憶の間へと入っていく―
「「おわんないよ~」」
GW、大型連休。お盆に祭りに年末年始。そんな時は、どうしてもイベント盛りだくさん。休んでいる暇が無い。紫の彼が来て、ルカ姉が戻ってきて。PROJECTの忙しさが倍になった。喧噪が収まった、二月後半。雪が降る、冷え込みがひどい、二月の終わり。わたし達歌い手には一週間『冬休み』が与えられる。夏には、九月後半に『夏休み』通学組は、学業優先だけれど、大人達はそうもいかない。そんな、年長組への『冬休み』という意味もある
「これが本職、ありがたいじゃない」
彼は言う。学生だって、場合によっては、『公欠』扱いで歌うときもある。ありがたいことに、一週間の『冬休み』も公欠扱い。もちろん、宿題は出るのだけれど
「「う~」」
タワーマンションの和室。一つだけある和室。こたつに入りながら、9歳のわたし、レンと一緒に、難敵である宿題に立ち向かう。紫の彼は、朝ご飯の後からキッチンで、なにやらごそごそやっていた
「はは、ボスは手強そうだね、二人、いや、ミクもか~」
見れば、同じ部屋、ミク姉も同様にうなっている
「「「手伝ってよ~カイ兄~」」」
「だ~め。自分でやって、いろんな事、身につけなきゃ。歌ってるだけじゃ一流の歌い手にはなれないよ」
「そ、アタシもカイトも。中学出て、高校選んで。それから、音大受けて。ようやく今がある。色々、経験することが人生の、そして歌い手としての糧なのよ~」
対面で、ミカンの皮を剥くめー姉
「「「休めない~」」」
「二人の意見、俺も賛成。その代わり、学校(ガッコ)にコレはないんじゃない。飲む、おチビさ~ん」
泣いてしまいそうになった時、キッチンから、紫の彼と甘い香りがやってくる。喫茶店の店員のように、右手にトレイ。コップ、片手なべを載せて
「俺作の甘酒。米と糀だけで作った本物。温めてきた」
「やった~がっくんちょうだい」
「みくも~。うっわ~いいにおいっ」
「あんがとがく兄、ぼくも、ぼくも」
「多めに作ったから。カイト、ルカ、メイコもどう」
甘い香りと、紫様の心遣い。一瞬で引っ込む涙、現金だ
「すご~い。飲みたい飲みたい、ちょうだい、殿」
「ワタシもいただきますわ。みなさん、おかきもありますよ」
甘党のカイ兄も歓喜。ルカ姉、紫の彼が仕入れてくる、おかきを取り出す
「頂くわ~。でもアタシは、お米のお酒のが~」
「コイツの事かな、メイコ様」
甘酒をこたつに置き、今度は左手にもった一升瓶を見せる。良くある、黒い瓶ではなく、透明な瓶に白ラベル、銀の文字
「アラ神威君。それ、い~いお酒じゃない」
「そ。俺、とっておきの純米。休みくらい、休もうじゃない」
いたずらっ子な笑みを浮かべる紫様
「がっくん」
「がくさん」
「がく兄」
一瞬呆けるチビ組
「俺等、年末、正月。休み無いも同然だったじゃない。おせち作っといた。じきに、チキンも焼けるから。騒がな~いみんな」
「「「「「やった~ありがとう」」」」」
一同歓喜。しゃがんで、チビ組に目線を合わせ
「だから、あと、三十分。課題がんばろうじゃな~い」
「「「やった~」」」
わたしとレンを撫でてくれる。現金なモノで、その後、三割増しのスピードと集中力で課題にかかる。三十分がたった頃、課題が半分以上おわったほどに
「はいっ終わっていいわよ~。ってゆ~か、我慢できない、この香り」
「がくさ~んごはん~」
「みんなすごいよ~」
キッチンから、漂ってくるいい香り。途中から、彼を手伝う、カイ兄の声。いそいそ入るキッチンに、並ぶご馳走。中央には、おせち料理、伊勢エビ。揚げたてのからあげ。個々に付けられたのは、切り分けられた、ローストチキンと精進寿司
「わ~おいしそ~」
「まず、乾杯しようじゃない、ミク」
一升瓶の蓋をあけながら促す紫様。さっそくめー姉のぐい飲みを満たしてあげる
「ありがとね、神威君。初めてよ、こんな、幸せな冬休み。じゃ~発声はカイト~」
「ありがと、愛するめ~ちゃん。え~殿、手伝わなくてごめんね」
シャンパンを手に、カイ兄
「俺がしかけた不意打ち。成功じゃな~い。手伝ってくれてるじゃないの。助かった」
「初めてだね、こんな豪勢な冬休み。とにかく、楽しくいこう。じゃ、
みんな~」
「「「「「「「せ~のっありがと~う」」」」」」」
飲み物で喉の滑りを良くし、さっそく料理に掛かろうとする子供組
「おせちの中身は、ワカサギの佃煮、ゆで玉子。松前漬け、かまぼこ、ニシンの入った昆布巻き。チビには、別に数の子。金時豆に伊達巻き、牡蠣フライとかぼちゃのコロッケ。冷凍の枝豆使った寄せ寒天。タルタルソースも用意した」
料理の説明をしてくれる紫様
「がく兄、チキンお~いしい~」
「神威さんも、本当に料理、お上手ですね。エビ、最高ですぅ」
「だよね、ルカ。ん、それなりに揚がったかな」
お手伝いしていたカイ兄。自作料理の感想を言う、と
「いやいや、旨いよ、カイト。からあげ絶品じゃない」
お褒めの言葉、紫様
「がっくん、お豆もおいなりさんも、甘くっておいしいよ」
「黒豆じゃなくて、金時さんなのね、神威君。ってか、昆布巻き、かずのこ、松前漬け。お酒のアテになるわ~」
「俺の故郷の味なんだ、メイコ。しかけて、よかったじゃな~いこの不意打ち」
彼が来てくれて、はじめての冬のエピソード。今まで通りの『冬休み』今までなかった、『冬休み』のエピソード。この日から、恒例になった『冬休み』のエピソード。手作りじゃないけれど、甘酒も買って帰ろうかな
今へ戻って、考える。夏に飲むのが、体に良いらしいし、甘酒―
小雪舞う寒い日のお休みは、ゆる~くこたつで過ごしましょう
あまりこたつは出てきませんが