忘れられた龍の秘跡 〜MonsterHunter Legend 〜 作:妄猛総督
ザアアーーーー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
雨が降る。
いや、これは世界を覆い尽くしていた白の世界の残骸だ。それが世界に帰っていく。
大海嘯は、世界を再び沈める災害は人の手により食い止められた。
変化は空だけではない。
激戦地であったタンジアとその周辺、すなわち海王龍との戦いの地だ。
【滅龍槍トリアイナ】が海王龍を貫いた時、時が止まっていた。
白い世界が元の青に戻る時、止まった時が動き出した。
凍てついた海面は海の概念ごと凍りついていたが元の海水へと戻っていく。
ズズズズズズズズズズ‥‥‥‥‥‥‥
地響きもかくやという音を立ててゆっくりと溶けていく海水へ沈んでいく海王龍。
もはやその目は何も写しておらずただ、自重によりただ深みへと落ちていった。
海中へ沈んでいく海王龍は何故か身体から尋常ではない量の泡が出ていく。それと同時に体は泡に変えながら確実にその身を砕いていった。
ーー昔々、人間に恋した海の姫君がおりました。
海の姫君は、上は人で腰から下は魚でした。いわゆる人魚でした。恋した人間は、人間の国の王子様でした。恋しくて恋しくて、我慢が出来なかった姫君は海の国一番の魔女に人間になりたいと願いました。
魔女は姫君に言います。人間になることはできる。けれど二度と海の住人には戻れない。それに其方は口もきけぬ、その王子に華を開く言葉を紡げぬ。
そして、王子が其方を選ばぬならば、其方はその心の臓を砕かれ海の泡となって永遠に消えるのだ。それでも其方は考えを改めぬのか?と。
姫君は初めての恋心に決心したのだと魔女に訴えます。
それに決意が硬いと知った魔女は姫君に魔法をかけました。
願い通り人間になれたのです。そして魔女に言われた通り、喋ることも出来ず、そして初めて大地を歩いたことでもう立つこともままなりませんでした。
それでも姫君は這ってでも進もうとします。
するとなんということでしょう、なんの因果でしょう。白馬にのった姫君が恋い焦がれた王子が近くを通りかかったではありませんか。
大丈夫か、美しき人よ。
その声に姫君の頬が赤くなるのを感じます。
大丈夫です、と答えたいのに口が動きません。パクパクと口が開くだけで声が出ません。
口がきけぬ人だと知った王子はすまないと謝りながら姫君の頭を撫でます。
頭を撫でられるだけで心が満たされます。やはりこの気持ちは本物だったと知ったのです。
王子に抱き抱えられた姫君は王城で束の間の幸せを手にしました。けれど約束された運命は来てしまったのです。
王子に婚約者が出来たのです。
本当は声をあげて泣きたいのにそれでも口はパクパクと動くだけで声は出ることはなく、ただ静かに頬を涙で濡らしたのです。静かにその場を去った姫君は初めて王子に出会った港を歩いていました。
締め付ける気持ちが残酷に真実を突きつけます。
姫君は覚悟を決めました。一度、王城に戻ると王子を服を引っ張ることで呼び出します。姫君は王子にあるものを渡しました。それは瓶に詰められた星のかけらです。
それを渡すと、姫君は涙を流しながら、部屋を飛び出しました。そしてもう一度あの港に立つと、少しずつ心の臓が静かになっていくのがわかります。
すると白馬にのった王子が姫君に追いつきます。姫君は神様に祈りました。どうか実らぬ恋にただ一度だけでいい、声をくださいと。
天の神様は、覆すことはできぬ理にそれでも想いを変えなかった姫君に共感して魔法をかけました。たった一度だけの言葉を紡ぐ魔法を。
「愛していました」
その身を海へと投げ出します。王子は即座に海に飛び込みます。けれど姫君の身体は今までで一番の笑みを浮かべて泡になりました。王子が拾うことが出来たのは彼女がつけていた髪飾り。
泣かないで、愛しい人。貴方にふさわしい人と幸せにーーー
泡になって、消えていく海王龍。その身に突き刺さった滅龍槍トリアイナに備え付けたヴァルキュリア号も同じように沈んでいく。
オルトは指1つ動かすことも出来ず、流されるままそのままヴァルキュリア号と運命を共にすると思われていた。
滅龍槍トリアイナを起動後、海王龍が沈む衝撃で、崩れた残骸がオルトの体を再び拘束する。
「ははっ、道連れってやつか?いいぜ、もはやこの怪我だ。付き合ってやるよクソ野郎!」
沈む最後に見れば撃ち落とされた飛行船には別の飛行船が救助している。
そうだ、それでいい。
ゴボゴボ、ゴボボ‥‥‥‥‥‥‥
意識が遠のく。
ーー!!
何か聞こえる
ーーーーーーんなっ!!
もう、休ませてくれ
ーーーーーーーめんな!
ザバァァン!!
何かが飛び込んで来たのか?
ーーー諦めんな!!
それはトリヴィスだった。ロープをくくりつけて剥ぎ取りナイフでオルトを縛り付ける残骸を取り除いていく。
やがてとり除けたのかトリヴィスはオルトを抱えると、ロープを引っ張り、やがて浮上する。
トリヴィスは最後に見た。
完全に泡となって消えた海王龍が、最後に残った頭部がブレスを吐くのを。攻撃ではなかった。それは推進力。そして、完全に消え去った海王龍を見届けた精霊アマノヌボコヌシが見えた。
精霊は確かにこういっていたのかもしれない。
ーーー生きろ
ああーーー、任せろ!
指を立てて生きると精霊に誓うトリヴィス。オルトを抱えて生の世界へ帰還する。
「トリヴィス!!どうだったい?!」
心配げに浮上して来たトリヴィスに問いをかけるレガリア。それに対してトリヴィスは親指をぐっと立てると歓声が上がる。
甲板に上がるとまずレガリアの抱擁だ。女性の感触に若干青い気持ちになるがそこは割り切ろう。
オルトはそのまま救助されたギルドの衛生隊に引き取られ治療を受けるそうだ。
海は、青く澄んでいた。
あれほど荒れていたのが嘘のように。
静寂に微睡む母なる海に
光届かぬ岩底に
砂の蓋を閉じて
今は眠れよ、眠れ。
煌めく王冠は群青に輝き
ホウズキの瞳は深淵を知る。
貴方は目覚めの時は訪れない。
静かに眠れよ海王龍
「うん、いい話だったねトール。これがハッピーエンドっていうやつだよ。」
「取り敢えず言いたいことは山ほどあるが‥‥‥‥今はもう帰って休もう。これで三界はあと1つだな。」
「そうだね、そろそろ戻ろうか私たちの世界へ。これ以上いると精霊王の干渉を受けて再起不能になるのは嫌だからね。」
「いや、精霊は我々の世界にもいるからな?何のための抑止力だと思っている。」
「そこは気にしなーーい!」
海王龍編 完