悪魔の力を持った男が冒険者してたのは間違っているだろうか   作:Rings

1 / 4
第一話

 度重なり轟く咆哮に地響きを伴う足音が続き、荒涼とした地面を踏み荒らす。

 馬面とも言うべき醜悪な顔面に、山羊のようにねじれ曲がった二本の大角。

 怪物と称するに相応しい巨躯を進撃させ、夥しい数のそれらは、丸太のような腕を鈍器とともに頭上高く振りかぶった。

 

 「盾ェ、構えぇッーー!!」

 

 号令とともに打ちあがる、数多の衝突音。

 その突撃の威力を物語るように、盾を構えた者達の踵が地に埋まった。

 

 「前衛、密集陣形(たいけい)を崩すな!後衛組は攻撃を続行!」

 

 凶悪獰猛な怪物―――――モンスターを迎え撃つのは、複数の種族からなるヒューマンと亜人(デミ・ヒューマン)の一団だった。

 二枚の巨盾を構える者、矢と魔法を間断なく打ち込む者。褐色の肌のアマゾネスの姉妹は戦場を駆け巡る。

 前衛後衛に二分される部隊の中、陣の中心ばさばさと風にあおられるのは、滑稽な笑みを浮かべている道化師(トリックスター)のエンブレムが刻まれている一本の旗だ。。

 一柱の『神』と契りを結んだ、『眷属(ファミリア)』の証。

 

 「ティオナ、ティオネ! 左翼支援急げッ!」

 

 「ベート、中央を頼む!」

 

 戦いの趨勢を見極め的確かつ矢継ぎ早に指示を飛ばす、この戦場において誰よりも小柄な統率者————小人族(パルゥム)の声は高く鋭い。

 目まぐるしい移ろい傾きかける戦況を、彼の指揮が幾度となく立て直す。

 

 「あ~んっ、もういくつ体があっても足りなーい」

 

 「ちぃっ、めんどくせぇ」

  

 「ごちゃごちゃ言ってないで団長の言う通りに働きなさい」

 

 命を受けたアマゾネスの姉妹と狼人(ウェアウルフ)は疾走し、五体のモンスターを一瞬で斬り伏せる。

 どこからともなく現れるモンスターの大群。屠れども屠れども途切れることのなく押し寄せ、その数をもって呑み込もうと襲いかかってくる悪魔のような光景。

 

 一匹一匹が大の大人を易々と超すその巨体は、棍棒型の鈍器を振り回し、最前線で盾を構える者達の顔を苦悶の色に染める。肩を並べ密集し合った彼等の防衛線はじりじりと後退していく。

 

 前線組が庇うその背後、魔法と矢を連発する魔導士やアーチャーに囲まれた中心から、その美しい声は絶やさず紡がていた。

 

 「【————間もなく、焔は放たれる】」

 

 翡翠色の長髪に白を基調とした魔術装束。浅く水平に構えられるのは白銀の杖。

 細く尖った耳を生やした、絶世の美貌を持つエルフ。

 

 「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱がすべてを包み込む】」

 

 この戦場の中でさえも気高く美しく在る彼女は、その玲瓏な声で呪文を紡ぐ。

 力強く、流麗な韻律を持つ『詠唱』

 足もとに展開された魔法円(マジックサークル)は光を放ち、無数の光粒を舞い上がらせる。

 

 「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

 前衛の者は己の歯を食い縛り必死にその美しい声を守らんと怪物からの攻撃を耐える。

 

 「————————————————オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!」

 

 一方で、モンスター——————『フォモール』が吠える。

 群れの中で一際巨体を誇る一体が、仲間さえも蹴散らしながら驀進し、自らが持つ獲物を大上段に構えた。

 尋常ならざる膂力から放たれた一撃は、前線の一角を吹き飛ばす。

 

 「————ベート、穴を埋めろ!」

 

 「ちッ、何やってやがる!?」

 

 こじ開けられた防衛線。遊撃を務めていた狼人(ウェアウルフ)が急行するも、数匹のモンスターの侵入を許してしまう。

 それまで前衛に守られていた魔導士達が青ざめ瞼を閉じるのと、フォモールの攻撃が炸裂するのは、同時だった。

 

 「レフィーヤ!?」

 

 直撃こそ避けたものの、地面を粉砕した鈍器の一撃は、その衝撃波で一人の少女の細身の体を殴り飛ばした。

 

 「————ぁ」

 

 「フゥーッ……!」

 

 地面に転がった少女へ、黒い影が被さる。

 自身を見下ろす赤い目玉に射竦められ、少女は時を止める。

 直後。

 斬撃。

 

 「えっ?」

 

 彼女の視界に、金と、銀の光が走り抜ける。

 それと同時に、フォモールの体が血飛沫を噴出させ、魔石と呼ばれるものだけを残し、その存在をこの世界から消す。

 

 「・・・」

 

 呆然とする少女の視線の先。

 長い金の髪を流す女剣士が、ヒュンッと、無言で銀の剣を振り下ろす。

 女剣士は、倒れこんでいる少女の無事を確認すると、すぐにその場を動いた。

 風の音とともに、金と銀の閃光が瞬く。

 後方に侵入していた残りのモンスターへと肉薄し、一撃必殺。後衛の眼前まで迫っていた怪物達を全滅させた。

 

 「ちょ、アイズ、待って!?」

 

 更に前進。

 静止の声を振り切り、未だ大挙して攻めかかってくるフォモールの大軍へと単身で突っ込む。

 

 「・・・すげぇ」

 

 ぽつり、と。

 その呟きが、とある者の唇からこぼれ落ちた。

 斬撃に次ぐ斬撃。モンスター全てを断絶する剣劇の嵐。

 華麗であると同時に残酷な一挙手一投足が、向かってくる攻撃をすり抜け、胴を、首を次々と斬り飛ばしていく。

 多くの者達が畏怖とともに、その【剣姫】の姿に見惚れた。

 

 「【汝は業火の化身なり】」

 

 そして後方。莫大な魔力の高まり。

 ついに、紡いでいた長大な詠唱が完成へ至ろうとする。

 

 「アイズ!」

 

 己の名を呼ぶ声に、少女———アイズは後ろを一瞥し、跳躍し、空中で大きな弧を描き自陣中央へと着地、帰還する。

 

 「【焼きつくせ、スルトの剣―————我が名はアールヴ】!」

 

 次の瞬間、弾ける音響とともに魔法円(マジックサークル)が拡大する。

 全戦域が効果範囲内。

 白銀の杖を振り上げ、エルフの魔導士、リヴェリアは己の『魔法』を発動させた。

 

 「【レア・ラーヴァティン】!!」

 

 大炎。

 地面————魔法円(マジックサークル)から突き出す無数の炎柱。

 耳を弄するほどの轟音とともに、大空間の天井にまで届こうかという炎の極柱は太く、フォモール達を串刺しにするどころか、その巨体を丸呑みにし、絶叫とともに姿を消す。

 広範囲殲滅魔法。五十をも超すモンスターの大群はこの僅か数瞬で一掃され、世界が灼熱に包まれる。

 彼女達、『冒険者』の顔も緋の色染め上げられていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。