智也と秀一が出会ってから数週間が経過
二人はよく一緒にいるようになっていた
周囲からの智也の評価も変わっていた
以前は『かっこいいけど無愛想でちょっと怖い』と思われていたが、『最近明るくなってちょっといいかも♪』という女子が増えてきたのだ
そんな変化に気付いていたのは学校の生徒だけではなかった
「へぇ・・・智也君ってば最近明るくなったと思ったらお友達が出来ていたのね」
友達と野球をする姿を眺める一人の女性
彼女の名は木田桜
智也の住んでいる施設の管理人である
智也の施設では智也を含めた6人子供と管理人の彼女が同じ家で生活している
ちなみに彼女はまだ27歳
大学卒業と同時にこの施設に就職
それから5年間ずっとたった一人で智也たちの面倒を見ているのだ
通常なら新卒の彼女がいきなり一人と言うのはありえないのだが、学生時代にすでに教育実習という形で仕事を覚えていたという点、彼女が優秀な人材だったという点、そして感情の無い智也の扱いにくさが重なり、このような扱いになった
言ってしまえば上の人間は扱いにくい智也を新人の彼女に押し付けたのだ
しかし、彼女は智也を扱いにくいと思ったことは一度もなかった
智也を含めた施設の子供たちを本当の家族のように愛していた
この施設もブラック企業と言うわけではない
休みが欲しいなら希望を出せば代わりの人材を送り、休暇を取ることが可能だ
しかし彼女自身も施設の子供たち同様、両親がいない孤児だった
故に休暇を取る理由も特になく、子供たちとの毎日が楽しいので休暇無しで5年間働き続けているのだ(上には休暇として申請した日も施設にて就業)
(智也君ってば、そう言うことなら言ってくれればいいのに・・・)
心の中でそんなことを考えつつ、彼女はその場を離れた
※その日の夕方※
「ただいま」
「おかえりなさい智也君。はいコレ」
「?」
桜は智也に紙袋を手渡す
中に入っていた物は・・・グローブだった
「え?」
「もう、お友達と野球をしてるなら言ってくれればいいのに。智也君、グローブ持ってないでしょ?」
「で、でもこんな高価なもの・・・」
「いいのよ。智也君ってば毎年誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントも『特に欲しいものはないのでいりません』って言うんだもの。だからこれは私からの初めてのプレゼントよ」
「あ、ありがとうございます。大切にします」
智也が嬉しそうにそう言うと桜も微笑んだ
『桜お姉ちゃんお腹空いた~』
「ああ、ごめんね。すぐにご飯作るわね」
智也より少し幼い子供が空腹を訴え、桜は慌てて台所に戻る
(でもこれ、みんなが持ってるのと少し違うな・・・明日シュウに聞いてみよう)
※翌日※
「これはキャッチャーミットだな」
「キャッチャーミット?」
「ほら、テレビの試合なんかじゃピッチャーの投げた球をバッターの後ろで捕ってる奴がいるだろ?あれがキャッチャーってポジションでこれはそのポジション専用のグローブだ」
どうやら桜はあまり野球に詳しくないようで、普通のグローブではなくキャッチャーミットを買って来てしまったようだ
いくら詳しくなくても普通は気付きそうなものだが・・・
「っていうかキャッチャーミットって普通のグローブより高いはずなんだが・・・」
「・・・多分あの人の事だから、『高い物の方がきっと丈夫でいいわよね』って考えたんだと思う」
彼女なりの智也への気遣いだったのだが完全に裏目に出た
「これで守備に入るのはダメなのか?」
「別にルール違反じゃねえけどやりにくいと思うぞ」
とはいえわざわざ買って来てくれた物を叩き返すわけにはいかない
「そうだ!トモ!この際だからキャッチャー目指してみないか?」
「え?俺がか?」
「ほら、五年生になったらウチの学校の野球チームに入れるじゃん?そこでキャッチャー目指すんだよ!俺はピッチャー志望だし、トモが受けてくれるならすっげー心強いよ!ダメかな?」
「・・・ちょっと考えさせてもらっていいか?キャッチャー目指すのは全然かまわないんだが、俺、施設の育ちだからチームに入るなら桜さんにも許可を取らないと・・・」
(でもまぁあの人の性格を考えると・・・)
※その日の夕方※
「野球チームに?もちろんいいわよ。やりたいことがあるのなら遠慮せずにどんどん言ってね」
(やっぱりそう言うと思った)
「試合があるときは教えてね♪応援に行くから。目標はハットトリックね」
「・・・桜さん。それはサッカーです」
「あれ?そうだっけ?」
「野球だったら・・・ホームランとか」
「ホーム・・・ラン?家が走るの?」
(・・・なんでハットトリックを知っててホームランを知らないんだろう?)
桜の天然っぷりに驚く智也だった
野球チームに入ることを決めた智也はそれから毎日のように秀一と投球練習をしていた
そんなある日・・・事件は起こった
「助けてトモえも~ん!!」
「・・・シュウ、変なあだ名をつけるな」
授業を終えた放課後、智也の教室に秀一が飛び込んできた
(智也と秀一は別のクラス)
「で?今度はなんだ?」
「学期末のテストで50点以下だと小遣いを減らされるんだ!」
「・・・さよなら」
「見捨てないで!」
想像以上にくだらない内容に呆れて帰ろうとする智也だったが秀一は必死に智也を引き留める
「あ、あのさ、北条君。新藤君に勉強を教えてあげてくれないかな?私も手伝うから」
智也の隣の席に座る少女がそう言う
ちなみに彼女は秀一に好意を抱いており、智也が頭が良いという情報を漏らしたのも彼女だ
「はぁ・・・仕方ないな。シュウ、今日返してもらったテストがあるだろ?ちょっと見せてみろ」
「あ、ああ。これだ」
テストを取り出すシュウ
その中身は・・・
2点(国語)
5点(算数)
9点(理科)
8点(社会)
(クラっ)
「ほ、北条君!気をたしかに!」
眩暈を起こした智也を少女が支える
(なんだこれ?どうやったらこうなる?意味が分からない)
北条智也、人生初の動揺だった
「・・・あぁ、そうか。10点満点か」
「北条君、現実から目を背けないで」
その後、二人の指導によって秀一はなんとか全科目50点以上を達成したのだったが・・・
「二人ともありがとう!おかげで助かったよ」
55点(国語)
60点(算数)
62点(理科)
51点(社会)
(あれだけ教えたのにこの点数かよ・・・)
智也の不満は募るのだった
あまり先に進まず申し訳ない
次回で小学生編は終了予定
中学生編ではいよいよ『あの子』が登場
次回も頑張ります