そして海人の異変に気付いた人物が・・・
それは、ある日の放課後の事・・・
「すっかり遅くなっちまったな・・・」
図書室で読書をしていた智也
集中し過ぎてかなり遅い時間になってしまった
「ん?」
智也はパコンパコンという物音を聞き、音がする方に歩みを進める
するとそこには・・・
(野球部か・・・?)
ジャージ姿の男の子が壁に向かって投球練習をしていた
(一年生か・・?壁あてなんかして何が楽しいんだか・・・)
智也は踵を返し、その場を離れる
(ま、俺には関係ない事だ。でも・・・アイツ、綺麗なフォームで投げていたな・・・)
それから数日が経過
(・・またやってるよ・・・)
智也は度々海人の姿を見かけるようになった
(やる気があって結構なことだ)
そしていつも通り帰っていくのだった
・・・しかし一時間後
「・・・まさか家の鍵を教室に忘れるとはな・・・」
珍しく忘れ物をした智也は学校へと戻ってきた
そして今度こそ帰ろうとした・・・が、
「この音・・・」
智也は聞き覚えのある音の方へ歩く
すると・・・
「・・・嘘だろ・・・」
あれから一時間は経っているにも関わらず、海人はまだ壁あてをしていたのだ
冷静沈着な智也もこれには驚きを隠せなかった
(いくらなんでもやり過ぎだ。フォームは完全に乱れてるし、こんなやり方を続けていたら身体を壊す)
智也は海人に声を掛けることにした
「おい」
「ひゃわ!!」
突然声を掛けられ、海人は驚いて変な声をあげる
「ご、ごめんなさい!すぐ片付けマス」
「落ち着け、俺は部員じゃない」
海人は無断で備品を使用したことを怒られると思ったのか慌てて謝る
「驚かせるつもりはなかったんだ。ただ・・・」
「?」
「肩が下がってきている。フォームも少し乱れてきているし、そろそろやめた方がいいんじゃないかと思って声をかけたんだ」
「あ、はい。えっと・・・」
「ああ、自己紹介がまだだったな。北条智也だ」
「シマダカイトです」
(なんか片言だな。そういえば同級生に帰国子女がいるって噂だが、こいつか?)
「島田か、お前、毎日ここで残って練習してるよな?部活動だけじゃ物足りないのか?」
「・・・その・・・僕は、練習には参加してマセン」
「?なぜ?」
「えっと、最近入部シタばかりだし、僕はまだ下手だし」
(下手?たしかに球速はないが、フォームは綺麗だし、持ち球次第では高校でも十分通用しそうなもんだが・・・)
海人の発言に首を傾げる智也
「ま、とにかく、練習はそのへんにしておけ、やり過ぎると身体を壊すぞ」
「わかりまシタ」
そう言って智也は去って行く
・・・が、数分後
(パコン!パコン!)
「やめろと言ってるのがわからんのか!?」
「ひぃ!ご、ごめんなさい!!」
帰ったフリをして智也隠れる
↓
海人、練習再開
↓
智也、キレる ←今ココ
その後、海人は智也に強制的に帰らされた
そして翌日
「・・・またやってんのか」
(ビクッ!)
智也の登場に海人がビビる
「あー昨日は悪かった。部外者が余計な口出ししたな」
「い、いえ。僕が悪いノデ」
謝ってきた智也に海人は慌てて首を振る
すると智也は備品の中から予備のキャッチャーミットを出し・・・
「お詫びだ。少しだけ付き合ってやる」
構えて座った
さやかを失って、野球を辞めた智也
道具は押入れにしまい、テレビでも野球中継もスポーツニュースも見ずに野球からは完全に縁を切った・・・つもりだった
しかし智也も本当はわかっていた
智也は・・・今でも野球が好きだった
『さやかの事を思いだして辛い』
そう言ったのは決して嘘ではない
そして数日前に居残りで練習する海人を見た
その綺麗なフォームを見て、『捕ってみたい』と思ったのだ
「さぁ、来い」
智也がそう言うと海人は投球モーションに入る
そして、海人の投げた球は智也のミットに収まり、いい音が響く
(久しぶりだな、この感触)
(この人、部員じゃないって言ってたけど、素人じゃない)
海人は智也のキャッチングを見て素人じゃないことを確信した
安心して今度はさっきより力を加えて投げた
(コイツの球、球速の割にノビがある。となるとますますわからないな。なんで練習に参加させてもらえないんだ?球種が直球しかないのか?)
「おい島田。お前、変化球は投げられるか?」
「あ、はい。スローカーブとカットボール、あと未完成だケドSFFとスロースクリュー」
そして智也は一通り受けてみる
(・・・十分すぎる。コントロールもかなり良いしキレもある。これなら十分高校、いや、全国でも通用するはずだが・・・)
首を傾げる智也
その様子を見た海人は・・・
(ど、どうしたんだろう?何かおかしかったのかな?)
不安になるのだった
その後も智也と海人の居残り練習は続いた
そして迎えた夏の高校野球
文月学園は・・・一回戦負け
(やっぱりおかしい。島田をハブれるほどレベルが高いわけじゃない。それに・・・あの坊主の投手も悪くはないが、おそらく本職は野手だ)
野球応援で来ていた智也は首を傾げる
試合を見ても海人が練習に参加していない理由が分からなかったのだ
(・・・部内でのいじめか?だがそれだと部外者の俺にできることはないな)
そんなことを考えつつ智也は球場を後にした
勘違いで生まれたすれ違い
海人を救える者はいない・・・と、思われた
しかし、海人の異変に気付いた人物が一人いた
「・・・だ・・ん、島田君ってば」
「ふぇ?な、何?」
「何?じゃないわよ。さっきからずっと呼んでるのに」
「え?あ、ごめん」
月日は流れ、だいぶ流暢に日本語を喋れるようになった海人
しかしどこか元気が無い
「元気が無いわね。部活、うまくいってないの?」
「そ、そんなことないよ。順調だよ」
「ふーん・・・」
(・・・嘘ね)
反応が素直すぎる海人の嘘は傍から見ればバレバレだった
そして放課後
「じゃあね木下さん」
「うん。部活頑張ってね」
そう言って海人を送り出す優子
図書室で少し時間を潰して・・・
「そろそろ練習が始まった頃ね」
野球部のグラウンドに向かった
そこで見たものは・・・
「な、何よ・・これ・・・」
海人一人に雑用を押し付け、他の部員は練習に励んでいた
しかも海人以外は練習用のユニフォームを着ているのに、海人だけはジャージ
「・・・酷い」
優子は今すぐに飛び出して行こうかと考えた
だが、そんなことをすれば海人は野球部に居づらくなってしまう
(とりあえず島田君と話をしてみよう)
そう考え、優子は再び図書室で時間を潰す
「そろそろかな」
優子は校門の前で待ち伏せをする
・・・が
「・・・遅いわね・・・」
いつまでたっても海人は出てこない
もしかしてもう帰ってしまったのか?
できれば二人で話したいから部室に向かわなかったのが裏目に出たのか?
そんなことを考えつつ優子はコソコソと野球部のグラウンドの方に向かう
するとそこには・・・海人と智也が居残りで練習する姿があった
二人しかいないのでやっていることは投球練習のみ
それなのに海人はとても楽しそうに練習している
(・・・)
優子は静かにその場を去った
「・・・ただいま」
「おかえりなのじゃ。随分遅かったのう?」
「うん。ちょっとね。ねぇ秀吉」
「なんじゃ?」
「部活に入ったのに練習に参加させてもらえず、雑用ばっかりってどんな気分なのかな?」
「それは辛いじゃろうな」
「・・・そうよね」
「?姉上?」
(やっぱりこのままじゃダメだ)
優子は教室での海人の寂しそうな表情と練習している時の楽しそうな表情を思い浮かべながらそう思うのだった
読者が気になったであろう質問コーナー
Q、美波や葉月は海人の異変に気付かなかったのですか?
海人「姉さんにだけは心配掛けたくなかったからね」
美波「全くお姉ちゃんに隠し事なんて・・・罰として今日は一緒に寝てもらうわよ♪」
葉月「ずるいです!葉月も一緒に寝るです!」
次回は優子が頑張る!
次回も頑張ります