「向山高校から転入してきました。一年Cクラス、椎名真琴です。よろしくお願いします」
野球部員全員の前であいさつをする転入生
「しっかし、この時期に新入部員が入ってくるとは思わへんかったなぁ~」
「まぁな。だが、ウチの部の最大の弱点は人数不足だ。少数精鋭と言えば聞こえはいいが、これじゃあ紅白戦すら出来ん」
「智也は素直やないからこんな言い方やけど、歓迎してるってことやで」
「はい。よろしくお願いします」
補足説明する英雄に元気よく返事をする真琴
「ポジションは?」
「経験があるのはショートとセカンド、あとピッチャーです」
「そうか。じゃあ今日はとりあえずショートに入ってくれ」
「わかりました」
「それじゃあ。ノックを始めるぞ」
智也の言葉に従い、ポジションにつく選手たち
「あ、あの・・・」
「ん?どうした?」
「その・・・エースの島田先輩の姿が見えないようですが・・・」
「ああ、今日は海人は発熱で欠席だ」
「あれ?せやけど、昼休みにお姉ちゃんは見たで?」
「話によると、母親が休暇でこっちに帰国しているらしい」
「なるほどな~あのブラコンお姉ちゃんが海人を置いて登校するなんておかしいと思うたわ。それで木下さんはお見舞いかいな?」
「いや、それがアイツも風邪で欠席だ」
「あらら、二人揃って病欠とは仲の良いことや」
「そういうわけだ。もういいか?」
「あ、はい。御時間を取らせてすいませんでした」
そう言ってポジションにつく真琴
(島田先輩いないのか・・・ついてないなぁ・・・)
内心がっかりする真琴
真琴が転入先を文月学園に決めたのは海人に憧れてのものだった
雑誌の取材で利き腕を失い、左投げに転向してでも野球を辞めない熱意に感動し、海人に会いたいという芽生え、両親を必死に説得したのだ
(まぁ仕方ないか・・・それより集中集中っと)
気持ちを切り替えて練習に集中する真琴
「よし、まずサード!」
「よっしゃ!どっからでもかかってこいや!」
そう言ってグローブを構える英雄
直後、智也がノックして英雄はそれを難なく捌く
(上手い。中島先輩は打撃で有名だけど、守備もかなり上手だ)
英雄の守備を見て感心する真琴
「次、ショート!」
「はい!」
そう言って真琴は守備位置につき、打球を捌く
(・・・悪くない。むしろかなり上手い)
智也の視点から見ても、真琴はかなりの上級者と判断
そしてノックを一通り終え、次は打撃練習
「次、椎名」
「はい!」
元気よく返事をして打席に入る真琴
キンッと、綺麗な音を立てて打ち返す
(上手いな。小柄だから長打はないが、守備の穴を上手くついている。それに・・・後半は割とキツイところを攻めたつもりだったんだがな・・・)
(さすが北条先輩だ。こっちの読みをことごとく外す攻め方をしてくる。今回はなんとか打ち返せたけど、次は確実に打ち返す自信は無いや)
内心で互いを認め合う二人
そして練習は終わりを迎える
「椎名っち、なかなかやるやん。智也が素直に人を褒めるなんてなかなか無いで」
「英雄、俺を何だと思ってやがる」
「あはは。ありがとうございます」
照れくさそうに笑う真琴
「この調子ならレギュラーも狙えるで」
「え、あ、は、はい。そ、そうですね」
「?」
何故か歯切れの悪い返答をする真琴
「そういや前の高校でも野球部だったんだろ?にしてはお前の名前は聞いたことはなかったが・・・」
「あ、えっと、自分はレギュラーではなかったので・・・」
「ほぅ、あの実力でか?」
「その・・・前の高校は三年生しか試合に出てなかったので・・・」
「はー。もったいないな~」
「部活に力を入れてない高校じゃそんなもんだ」
「あ、えっと。自分、ちょっと用事があるのでお先に失礼します」
「おう、気をつけて帰るんやで~」
「・・・」
手早く着替えて去って行く真琴
「さて、俺らも帰るか。ん?智也、どないしたん?」
「・・・いや」
何かを考え込む智也に英雄は声をかけるが智也は軽く首を横に振り、二人は歩き出した
※一方その頃※
「ふぅ、危なかった」
慌てて部室を離れた真琴は安堵の溜息をつく
(バレたかな・・・?中島先輩はともかく、北条先輩は鋭そうだし・・・)
真琴は今日一日の出来事を振り返る
「・・・あともう一日・・・ううん。ほんの数分だけでいいから。ばれませんように・・・」
誰もいない路上で小さく呟くのだった
※翌日の放課後※
「それでな。そいつがまた上手いんや」
「へぇ~」
「それは楽しみね」
部室に向かう海人、優子、英雄の三人(優子は女子更衣室で着替え済)
話題は新入部員の真琴の事だ
「島田先輩!」
「ん?」
部室の前に着いた三人
その直後、海人の名を呼ぶ声が聞こえる
「新入部員の椎名真琴です!お会いできて光栄です!」
「むっ」
海人の手を握り頭を下げる真琴
その光景を見た優子は若干、不機嫌そうな表情を浮かべる
・・・が、直後
「「・・・?」」
海人と優子は首を傾げた
「コイツがさっき言っとった新入りやで。って、どないしたん?」
「あ、いや・・・」
「えっと・・・いいのかな?」
「?なにがや?」
「だって・・・・・・君、女の子だよね?」
「はい!?」
海人は真琴の方を見てそう言い放つ
驚きを隠せない英雄
「え、あ、いや・・その・・・」
あからさまに動揺する真琴
「・・す・・・」
「「「?」」」
「すいませんでした!!!」
勢いよく土下座し、地面に頭を擦り付ける真琴
「騙すつもりはなかったんです!!ただ一回だけでいいからどうしても憧れの島田先輩と一緒にプレイしたくて・・・それが叶ったら全て話して出て行くつもりだったんですけど、誰にも気づかれなかったものだからつい・・・」
「魔が差したのね?」
「・・・はい」
ポロポロ涙を流しながら謝罪する真琴
「本当に申し訳ございませんでした。もう二度とみなさんの前に顔を出さないと約束します。短い間でしたがお世話になりました」
「ちょ!何もそこまで責任を感じなくても・・・」
「ちょっと待て椎名」
「智也君!」
遅れてきた智也が真琴を引き留める
「北条先輩。騙すような真似をしてすいませんでした」
「椎名。お前を部員として入部させるわけにはいかない」
「ちょっと智也君!そんな言い方・・・」
「そうよ、反省してるのにそんな追い打ちをかけるような・・・」
「落ち着け二人とも。『部員として』って言ってるだろ?」
「「?」」
「この部のマネージャー兼コーチとして参加する気はないか?」
智也の提案に真琴は目を見開く
「自分は・・ここにいてもいいんですか?」
「ウチの部の戦力不足は深刻だからな。お前のような熟練者が指導に回ってくれると助かる」
「あ、ありがとうございます!喜んで入部させてもらいます!」
嬉しそうに頭を下げる真琴
「よかったね」
「はい。改めて、マネージャーの椎名真琴です。よろしくお願いします」
「よろしくね」
「よろしく。しかし、北条君、昨日のうちに気付かなかったの?」
「情けないが、練習後の会話で違和感を感じるまで全く気付かなかった」
真琴が女だと一目で見抜いたのは海人と優子だけ・・・と、思われたが、実はもう一人いた
「おう!昨日の小娘じゃねえか!目が赤いがなんかあったか?」
「あ、毒島君、おはよ・・・って、ちょっと待った。今、小娘って・・・」
「?それがどうかしたか?」
「筋ちゃん、椎名っちが女やって気付いとったんか!?」
「??そんなの見りゃわかるだろ?男と女じゃ筋肉の付き方がまるで違うからな」
「「「「言えよ!」」」」
「??」
野球部員の癖に野球にあまり詳しくない毒島は、女子が試合に参加できないことを知らなかったのだった
「ま、まぁいい。それより練習開始だ」
そう言って着替えるために海人、英雄、智也、毒島、真琴は部室に・・・
「って、ちょっと待ちなさい!!」
「?どうしたんですか?」
「どうしたんですかじゃないわよ!アンタは何してんのよ!」
「何って、着替えようと・・・」
「アンタは女の子でしょうが!」
「?はい、そうですけど・・・」
不思議そうに首を傾げる真琴
「だ・か・ら・男の子と一緒に着替えるのはおかしいでしょ!」
「いや、別に見られたからって減るもんでもないですし・・・昨日も部室で着替えたから今更と言いますか・・・」
「もしもし友香。中島君が・・・」
「なんで俺だけ!?」
数分後、英雄は友香に連れて行かれた
「とにかく、女子は女子更衣室で着替えるの!わかった!?」
「は、はい」
優子のお仕事が増えた瞬間だった
※おまけ・女子更衣室にて※
「・・・」(ペタペタ)
「あ、あの、木下先輩?なぜ自分の胸を触るので?」
「深い理由は無いわ」(勝った♪)
自分より胸の小さい後輩を見て優越感に浸る優子だった
※新キャラ紹介
椎名真琴(女)
海人に憧れて転入してきた一年生
女子プロ野球選手を目指しており、実力は智也も認めるほど
元々は一度でいいから海人と同じグラウンドに立ちたいと言う想いだったが、欲が出てしまい、性別を偽って入部しようとするも海人にあっさり看破されてしまう
その後はマネージャーとして入部、熟練者としての経験を生かしてコーチも務めている
海人が憧れと公言しているが、それは恋愛感情ではなく、あくまで野球選手としてである
男らしい性格で、男子と着替えることに全く抵抗が無く、恥じらいも無い
あまりにも無防備過ぎるので優子は頭を悩ませている
男装していたため女子の制服を持っていないので性別がバレた後も男子の制服を着ている
と、まぁこんな感じですかね
後々、このキャラが必要なので若干強引に登場させましたw
新キャラはもう一人追加予定
次回も頑張ります